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抗精神病薬の「身体副作用」がわかる
The Third Disease

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多剤併用時はもちろん、第2世代抗精神病薬単剤であっても肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなど重症の内科疾患が発生することが指摘されている。精神科医療は、「身体」にも関心を向けなければならない時代になったのだ。「もしかして副作用?」と感じたら、「観察・判断・対処」法が具体的に書かれた本書を開いてほしい。
長嶺 敬彦
発行 2006年07月判型:B5頁:198
ISBN 978-4-260-00279-0
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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  • 目次
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はじめに--Third Diseaseとは
I ウサギの治療からカメの治療へ
II 臨床に潜む「身体副作用」20
 Lecture 抗精神病薬とは何か
[a…循環器系]
 1 不整脈
 2 肺動脈血栓塞栓症(隔離室症候群)
[b…呼吸器系]
 3 誤嚥性肺炎
 4 肺結核
[c…消化器系]
 5 麻痺性イレウス
 6 バクテリアル・トランスロケーション
 7 急性胃拡張
[d…内分泌・代謝系]
 8 メタボリックシンドローム
 9 肥満
 Lecture 副作用としての痩せ
 10 高脂血症
 11 糖尿病
 12 肥満を介さない代謝障害(ビヨンド・メタボリックシンドローム)
 13 水中毒
 14 悪性症候群
 15 横紋筋融解症
 16 高プロラクチン血症
[e…神経・運動器系]
 Lecture 錐体外路症状の種類とその区別
 17 錐体外路症状
 Lecture 「副作用止めとしての抗パ薬」の危険性
 18 骨折
[f…免疫・アレルギー系]
 19 皮膚疾患とアレルギー
 20 顆粒球減少症
III 副作用を考えるときに知っておきたいこと
 Lecture 多剤併用を避けるために
 1 主観的副作用にも配慮しよう
 2 「みずから飲む」薬になるために
 3 ドーパミン仮説とサリエンス
 Lecture 統合失調症と糖尿病
おわりに--過鎮静の鎖を断ち切るために

文献表
索引
付録(別冊)

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「身体的な訴え」の意味がわかる本
書評者: 宮子 あずさ (厚生年金病院看護師長・神経科/緩和ケア病棟)
◆精神科は「身体的な科」!

 内科で9年働いたあと,精神科に異動して10年。すでに身体的な科よりも,精神科領域のほうが長くなっています。精神科というと,「臓器ではなく心を見る科」というイメージが一般的ですが,実際は非常に身体的な科だな,と感じています。

 これには2つの意味があって,ひとつは精神疾患そのものが,脳という臓器になんらかの問題が生じている可能性。これは患者さんの理解を浅くする懸念はあるものの,一面では「生い立ち」や「人格」の名の下に人間性を値踏みすることを避けられる利点もあります。医療者自身が患者さんに立ち入りすぎないようにするためにも,こうした身体疾患としてのとらえ方は,大事だと思います。

 そしてもうひとつは,精神疾患の患者さんの多くが,身体症状を抱えているという事実です。めまいや咽頭の違和感,微熱などなど。自己の存在が不確かになっている状況を象徴するかのように,身体的な不快感も増しているのです。ときには,治療のために使用する薬剤によって,身体的な不調が増す場合もあります。この本にはその多くの事例が出ています。

◆からだの不快が薬剤中止につながることも

 長く飲み続けなければならない精神科薬は,他の薬に比べて,特に副作用が強いとは言い切れないでしょう。しかし,持ちこたえる力が弱まっている患者さんにとって,少しの不快症状も薬剤中止の引き金になり得ます。私自身,そうした懸念をしばしば抱きつつ,「口が渇く」「眠くて仕事にならない」といった患者さんの訴えを聞いています。

 実際私にできることと言えば,症状を聞くたびに,「状態が良くなれば,少しずつ減らせる場合も多いですし……。今はもう少しがんばって,飲み続けましょう」と返すことくらい。自分自身がつらいときには飲んでいる薬でも,好調と感じ始めたら,いつ中止してしまうことか。薬を飲み続けてもらうためにも,患者さんの苦痛をきちんと聞いていく必要があると感じています。

◆「薬をめぐるジレンマ」に落ち込んだら,この本を手に取ってほしい

 この本には,精神科薬を飲むことで起こりうる症状が事細かに出ています。医療者のちょっとした注意で改善が期待できるものもあれば,正直言って,どうにもならないと感じるものもあります。

 それでもやっぱり,これらの知識は持っておきたい。副作用があるからといって,それをやめられないとしても。私たちが起こりうることを予期し,心づもりしておくことが,患者さんの安心感に必ずやつながることでしょう。

 この本は,抗精神病薬の「身体副作用」を「わかる」ための本で,その予防が「できる」ための本ではありません。でも,仮にそれができないとしても,わかることは大事。「そんなこと言われても,処方しないわけにはいかないんだよなあ」「あの患者さんには,薬の減量はまだ無理だなあ」といった,ぼやきが口をつく場合でも。そんなときこそ,是非この本を手に取りましょう。

精神科は「身体」に着目する時代に
書評者: 中村 純 (産業医大教授・精神医学)
◆第2世代抗精神病薬のインパクト

 統合失調症に対する薬物療法が始まって50年余り経ったが,その発展は副作用克服の戦いの歴史ともいえる。

 1996年にわが国にも第2世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)の導入がなされて,現在までに5剤(リスペリドン,オランザピン,クエチアピン,ペロスピロン,アリピプラゾール)の新しい抗精神病薬の使用が可能となった。

 これらは錐体外路症状の出現が比較的少なく,陽性症状のみならず陰性症状にも効果を示す薬剤として注目を浴びている。しかも統合失調症の治療戦略として,治療初期からリハビリテーション期を見据えた生活指導と薬物療法の併用によって良好な予後を期待できるようになった。これらの新しい抗精神病薬は「患者中心の精神医療」へと医師や家族の意識を向けたのである。

◆新しい副作用=内科疾患への着目

 従来からの抗精神病薬は,パーキンソン症候群,水中毒など抗ドーパミン作用と関連した副作用や,抗ヒスタミン作用による過鎮静,抗α作用による起立性低血圧などを起こしていたが,第2世代抗精神病薬の導入によってこれらの副作用発症は激減し,患者のQOLは改善され,服薬のコンプライアンスは上がり,再燃が減少するなどのよい循環もみられるようになった。

 とはいえ,新しい抗精神病薬も万能ではない。人によっては,循環器系,呼吸器系,消化器系,特に内分泌系の副作用である肥満,糖尿病,メタボリック症候群など,最悪の場合には死に至る可能性を有する重症の内科疾患が発症することが指摘されている。精神科医は精神症状の変化だけでなく,以前に増して身体合併症へも関心を向けなければならなくなったのである。

◆精神科病棟をいちばん歩いている内科医

 このような統合失調症に対する薬物療法の変革のなかで,精神科病院の患者と向き合い,精神科医,看護師などとの連携ができる内科医がいたらどんなに素晴しいことだろうか。

 精神科病院に勤務されている内科医も多いが,私が知っている内科医のなかで最も統合失調症の患者さんを診て,精神科薬物療法に精通している内科医は本書の著者である長嶺敬彦先生ではないだろうか。

 自称,「精神科病棟をいちばん歩いている内科医」である長嶺先生が実際に発見し,治療した抗精神病薬による副作用を呈した患者さんからの経験が,本書には豊富にまとめられている。したがって,第2世代抗精神病薬に関連した副作用だけでなく,従来からの抗精神病薬による副作用も含めて,実践的な対応が随所に書かれている。

◆医局に一冊あれば多くの副作用に対応できる

 本書は,非常にわかりやすい。さらに内科医が書いた抗精神病薬を理解する本としてユニークである。糖尿病との比較など,内科医としての統合失調症に対する理解は,精神科医にとっても新鮮な意識を与えてくれ,興味深いものがある。

 これからの精神科医は薬物療法の変化に加えて,内科や外科など精神科以外の場所でも統合失調症を診る機会も増えることが予想されるため,身体合併症に対する理解も必要である。

 精神科病院の医局に本書があれば,抗精神病薬による副作用の多くは対処できるのではないかと思われ,ぜひご一読を薦める。

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