USスクリーニング

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「超音波検査」を日常診療、検診において行っている医療者に向けて、超音波検査の入門者からベテランまで使えるテキスト。本書は超音波像とマクロ像との対比の意義を打ち出し、病理についての詳細な解説に加え、各臓器別に主要な疾患の「疾患概念」も詳述。「所見の書き方」についても解説した。検査士のレベルアップに、またエコーをより理解したい研修医にとっても有用な書。
監修・編集 竹原 靖明
編集 熊田 卓 / 桑島 章 / 竹内 和男 / 田中 幸子 / 遠田 栄一 / 安田 秀光
発行 2008年03月判型:B5頁:472
ISBN 978-4-260-00433-6
定価 7,700円 (本体7,000円+税)
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 今,最終校正を終えて,序文をしたためていると,重荷を背負ってようやく目的地に辿り着いたような安堵感と,よく成し遂げたという充実感が湧いてくる.

 本書の出版を思いついたのは,約10年前の消化器集検懇話会(大阪)であった.1985年に発足したこの懇話会も,かつての活気と進展に陰りがみえ,活動に虚しさが漂い始めていた.超音波検診に深い理解と認識をもつ仲間と英知を絞り,各地方会に軸足を移してきめ細かい草の根運動を起こすことを考えた.本来,技師教育は机上の理論ではなく広汎な実地運動であり,反復して技師が技師を育成する域にまで進めてこそ,全体の底上げと持続力のある体制ができ,最大の課題である精度の向上が実現できると信じたからである.1999年,関東甲信越地方会を皮切りに,近畿,東海・北陸と続き,2003年には全国各地方会に超音波部会が実現した.関東甲信越ではさらに進んで県単位にこの運動の「輪」が広がりつつある.
 この運動と同時に超音波スクリーニングの指針となる冊子の出版を考えていたが,内容に確信が得られず,この分野に無意な混乱を招くことが懸念されて時期尚早と断念した.以来,検診現場に密着し,セミナーに参加し,アンケート調査を行い,超音波検診担当者には「何が必要か」,また彼らに「欠けるものは何か」などを丹念に調査してきた.その中で次の事項が重要と考えられた.
・超音波検診担当者の最も重要な任務は,検出された所見を正確に判定医に伝達することである.このためには所見の表現法(用語やシェーマの書き方も含めて)や所見から疾患を想定する「思考過程」を修得することが大切であり,(1)対象疾患の概要,(2)対象となる限局性疾患,とくに腫瘤性病変の肉眼的割面(被膜の有無,内部構造,出血・壊死の状態などマクロ的変化)の呈示とその解説,(3)悪性腫瘍の罹患率,死亡率,手術成績などの動向,(4)判定基準,カテゴリー分類,などについて要説する.
・超音波スクリーニング担当者の集中力保持や教育上必要な事項として,(1)1件あたりの検査時間と1日の検査件数などの適正化,(2)担当者教育に不可欠である最終診断(とくに病理組織診断)の教示を判定医に強く要望する.

 2005年12月暮れ,編集会議を起こし基本的な編集方針として,上記の他に次の事項を確認した.
(1)本書は主として,既に超音波スクリーニングに従事している技師,看護師など,また近い将来これに従事するであろう初学の医師,技師,看護師などを対象にする.
(2)用語は原則として,日本超音波医学会(JSUM),日本消化器がん検診学会(JSGCS),日本乳腺甲状腺超音波診断会議(JABTS)で認知されたものを使用する.紛らわしいもの,誤解を招く可能性のある用語は「コラム」として解説する.
(3)本書では超音波スクリーニングの分類,適応範囲などをできるだけ明解にする.また健(検)診は「けんしん」と平仮名で表記する.したがって,「けんしん」スクリーニングは健(検)診スクリーニングを意味する.
(4)使用装置の性能,探触子(プローブ),記録方式,体位,検査時間などの実施条件について,具体的に見解を示す.
(5)参考資料として,対象疾患の「性・年次別死亡数と死亡率」の数値表,リンパ節の番号と名称(腹腔,骨盤腔,乳房),各種早期癌の定義を巻末に掲載する.
(6)「けんしん」担当者の責任と誇りなど,医療人としての姿勢についても言及する.

 原稿内容の調整,用語,表示法などの統一には予想以上に時間を消費し,約半年発刊が遅れた.これはより充実したもの,より有益なものを作りたいと願う編集者一同の責任感と熱意の表れと善意に解釈していただければ幸いである.
 通読して感じたことは,「今さら何を」と叱責されるかもしれないが,「超音波検査はやはりBモードによるスクリーニングが原点である」ということである.そして,厚顔を顧みず言わしていただくならば,本書は必ず優秀なスクリーナーの育成に寄与し,わが国の超音波検査の進歩に少なからず貢献するだろうと秘かに期待しているところである.さらに,本書が近年,超音波離れの傾向が目立つ若い医師たちの超音波回帰につながれば,望外の喜びである.

謝辞:本書の刊行にあたり,下記の方々に深甚なる謝意を表したい.
・退職前のご多忙の中,対象臓器の腫瘤性病変の肉眼所見を網羅し,明快に解説して下さった須田耕一順天堂大学名誉教授
・難解な数式を用いないで超音波の基礎を平易に解説するという無理な注文を快諾して下さった国際医療福祉大学の飯沼一浩,佐々木博両教授
・繁忙を顧みず短期間に脱稿し,さらに寛大に修正・削減に応じて下さった執筆者各位
・長期にわたり適切にして温情あふれるご支援,ご助言を賜った超音波「けんしん」関係者各位
・企画当初より親身な相談相手を務めて下さった医学書院の阪本稔氏,荻原足穂氏
 全般にわたりご苦労をお掛けし辛抱強くお世話して下さった土田一慧氏,阿野慎吾氏

2007年12月吉日
監修・編集 竹原靖明
編集    熊田 卓・桑島 章・竹内和男・田中幸子・遠田栄一・安田秀光

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病理マクロ像

第1章 けんしん(健診・検診)の現状
第2章 USスクリーニングに必要な超音波の基礎
第3章 USスクリーニングの実施条件
第4章 USスクリーニングの方法
第5章 対象となる疾患の病態(疾患概念)と超音波画像
 A. 肝
 B. 胆道
 C. 膵
 D. 脾
 E. 腎・膀胱・副腎
 F. 骨盤腔
 G. 消化管
 H. 体腔液貯留・リンパ節腫大
 I. 乳腺
 J. 頸部
 K. 血管
第6章 各種疾患の事後指導基準

参考資料
索引

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「けんしん」の全領域を網羅した1冊
書評者: 南里 和秀 (静岡がんセンター生理検査)
 監修・編集者である竹原靖明先生は,本書の作成まで10年以上にわたる年月を費やして構想を練り,長年の集検に対しての想いを本書で成就させた感じがする。この思い入れのひとつである,けんしん(検診・健診)には「何が必要か」「欠けるものは何か」の調査をご自身の経験上からも妥協を許さずに追及したものである。そのために予定よりも発刊が遅れたことからもその意気込みが伝わってくるし,検診領域の超音波検査士資格導入に対しても並々ならぬ貢献をしてきたことがうかがえる。

 本書は,総勢66名という豊富な執筆者たちが自分の得意とする専門分野を活かした分担執筆をしており,広範囲な領域を444ページで完結している。全領域を網羅しているため個々の症例の細部の説明は言及できない点と,画像の表示方法で一部に統一されていない点が見受けられるが,それでも現場でエコーをしている方々にとって内容的には十分すぎるほどの情報が含まれており,ベテランの執筆者の力によるところが大きいといえる。

 巻頭にある主な疾患の病理のマクロ像は,病理アトラスではないかと錯覚を覚えるほど,日常ルーチンで遭遇する頻度の高い疾患からまれな疾患まで多数の症例をカラーで見ることができる。以下に,構成の一部を紹介する。

 第1章の,けんしん(健診・検診)の現状では,各種の癌の罹患率,死亡率などの動向を統計的に知ることができる。

 続く第2章,超音波の基礎では装置の構成から分解能,原理,各種のアーチファクトが工学的に確認できる。たとえば,距離計測をする場合に画素(ピクセル)からの微妙な誤差範囲があることが記載されている。また,臨床面ではスクリーニングでのピットフォールで注意しなければならない点とその対策があり,検査者は知っておく必要がある。

 第3章においては,超音波検査施行者の法的根拠がわかりやすく解説され,興味深いポイントである。

 第4章のスクリーニングの方法では,レポートの記載方法がわかりやすく事例で紹介してある。

 本書の検査領域は,腹部,乳腺,甲状腺,頸部リンパ節,頸動脈,腹部動脈,下肢血管,消化管,骨盤腔(男女)と多岐にわたっているが,症例にはそれぞれシェーマが描かれており,実際の写真と対比しながら学ぶことができるため,初心者にとってもわかりやすい。

 また,用語やシェーマの書き方も含めた所見の表現法から疾患の想定,修得を目指している。検査担当者が的確に判断医に所見を伝達する必要性を訴えており,検査者への期待が込められている。そして,検出された所見を事後指導区分としてガイドラインに沿って解説してある。通常は何冊も調べないとわからないようなことが,この1冊で網羅されており,内容の豊富さにおいてすばらしい出来である。「けんしん」を行っている施設ばかりではなく,通常の病院で検査をしている方々にとっても貴重な1冊に値する。
マクロ病理から診断まで必要な要素を網羅した名著
書評者: 木村 邦夫 (千葉社会保険病院健康管理センター)
 US(超音波法)によるスクリーニング検査に携わる者に求められるのは,診療のニーズに十分に応える診断と情報を提供できる技術と知識である。知識には,USで診断可能な個々の疾患の概念と,画像の成り立ちをもたらすマクロ病理や局所解剖,さらには疾患の診断基準などの要素が含まれよう。しかも,USで診断可能な疾患は多岐にわたり,多彩であり,疾患に付随する所見まで含めるとあまりにも広範である。それゆえ,1冊でそれらの全要素を満たすスクリーニング書の出版が待たれた。

 今回,出版された『USスクリーニング』はまさにそれらの要素を満たす本と言えよう。今後は,この書と同じ竹原靖明氏が監修されマニュアル本として広く読まれている『腹部エコーのABC』とともに,この検査に携わる人々はもとより,診療に関与する多くの人々に読まれるに違いない。

 この本を監修された竹原靖明氏は広く知られているとおり,今日のリアルタイム装置による超音波の開発に貢献されたのみならず,ご研究の傍ら超音波検診の普及に邁進され,技師(看護師)や医師の教育・訓練に率先して取り組んで来られ,USを「第二の聴診器」と言われるまでに普及させた方である。その妥協を許さない真摯な歩みの過程で,「スクリーニング」に求められる諸要素を深く追求してこられたことが,この本の出版を可能にしたことは言うまでもない。さらに,各分野で第一人者であられる編集者と執筆陣が,監修者と同じ考えで各項を意味深く,しかも簡潔にまとめ上げている。

 まず,冒頭のカラー刷り病理マクロ像はこの本の特徴の1つである。明瞭なマクロ像は超音波像の成り立ちの理解に大きく寄与する。これまでのスクリーニング本に見られない配慮である。さらに,第一章の「けんしんの現状」は読者にスクリーニングとしてのUSに対する認識と熱意を刺激する資料となっている。とりわけ,USスクリーニングの対象臓器に関する諸統計はこの本のめざす「がんの早期発見・診断」への道標である。次に基礎的な項の中で目を引くのは「超音波所見の書き方」である。実際の症例をサンプルとし,「けんしん」の結果が診療側に正確に伝達され,かつ還元されることに重きを置いた得難い内容となっている。

 さて,本論の位置にあるのは「対象となる疾患の病態(概念)と超音波画像」である。まずスクリーニング対象となるすべての領域を網羅してあることは読者にとってとてもありがたい。消化器実質臓器のほか,泌尿器,骨盤臓器(男性,女性),消化管,体腔液,腹部リンパ節,体表臓器(乳腺,頸部),血管系(頸部,腹部)が見事にB5判400頁のこの本に収められている。そして,各論は疾患概念からスタートして超音波所見に連なるスタイルを貫いている。疾患概念は極めて簡明な記述であり,コメディカルや研修医の読者には大きな助けとなるに違いない。超音波所見は同じ写真を再掲して解説するスタイルのため容易に理解が得られる。

 最後の章には疾患別の事後指導基準が扱われている。「けんしん」や人間ドックの関係者にとって,各種の診断や所見をどのように事後指導するのかは極めて重要である。なお,忘れてならない特徴のもう1つは,巻末の参考資料の中に対象臓器範囲のリンパ節解剖が付されていることである。検査の現場で頻繁に問題となるその局所解剖がスクリーナーにとってかゆいところに手が届く感を与える資料となり,報告を受ける診療側にとっては治療に直結する貴重な資料となる。

 こうして,病理マクロから始まり,けんしんから診療に至る徹底したコンセプトによって成されたこの名著が,ともすると超音波を離れてしまいそうな多忙な若い研修医・臨床医たちはもとより,診療所や健診施設の医師,またスクリーナーである技師や看護師たちの必携の書となることを予感するとともに,確信を込めてそうお勧めしたい。

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