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はじめての訪問リハビリテーション

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訪問リハビリテーションを「やってみよう」と思っている療法士、実際にはじめてみたけれど、「なぜか、しっくりきていない」と感じている訪問療法士。本書は、そんなつまづきを抱えているPT・OT・STに贈る、現場が生み出した“知恵本”です。執筆陣はほとんどが現場で活躍する現役の療法士たち。具体的な事例や演習などを通して、訪問時に陥りやすい落とし穴や訪問のポイントをわかりやすく伝授します。
編集 吉良 健司
発行 2007年03月判型:B5頁:248
ISBN 978-4-260-00358-2
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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はじめに
執筆者/吉良健司

はじめて訪問に出かけるあなたへ
 ようこそ,訪問リハビリテーションの世界へ。
 まず,訪問リハビリの扉を開けたあなたの情熱と勇気に敬意を表します。訪問リハビリという仕事を,主体的に選んで実践しようとしている人には多くのドラマがあります。自分の祖母や祖父が脳卒中になり,自宅で母親が介護している姿をみて療法士の養成校に入学した人や,ボランティア活動で高齢者や障害者と触れ,自分も専門的な立場で役に立てるようになりたいと思い志した人,急性期や回復期病院で担当した患者が自宅に帰ってどんな生活をしているのか知りたくなり志した人など,いろいろなきっかけからこの訪問リハビリの世界に興味をもち,今この本を読もうとしていると思います。
 こんなことを知人や上司から言われたことはないですか。
 「訪問リハはあなたの経験では難しいから,もう少し病院で急性期や回復期を経験してからのほうがいいよ」,「訪問リハビリは機能改善が得られない慢性期だからおもしろくないよ」。
 このようなコメントをもらった人の多くが訪問リハビリテーションを志すことに少し不安をもったり,転職の二の足を踏んだりしたことと思います。「ほんとうに自分の知識や経験で在宅の高齢者や障害者への専門的なリハビリテーションサービスが提供できるのだろうか」と。「訪問は病院と違って1人で訪問し,1人でさまざまな場面に対応しないといけないから,もっと病院で経験を積んだほうがいいのかしら?」。訪問リハビリを志す多くの人には,必ず自分の適性に葛藤する時期があります。
 本書は訪問リハビリをこれから始めようとしている人や,少し始めたけれどいろいろな壁にぶつかり始め,どのように今後考えていけばよいか,進めていけばよいか迷っている人が,自分なりの目標をきちんと見据え,日々の業務に積極的にかかわっていけるようになることを最大のテーマとしてまとめたテキストです。

昨今の訪問リハビリテーションを取り巻く環境の変化
 昨今の訪問リハビリを取り巻く社会情勢は激変しています。戦後のベビーブームに生まれたいわゆる“団塊の世代”が高齢期に到達する2015年頃まで,人口の急速な高齢化が進むとされています。そしてそのような社会を支えるシステムの再構築として,持続可能な医療保険や介護保険制度の見直しが矢継ぎ早に行われています。特に医療保険においては引き締めが進んでおり,在院日数の短縮や在宅移行が推し進められています。このような社会の流れのなかで,リハビリテーション医療の提供体制も変化してきています。
 私が,理学療法士になった14年前は,病気やけがで障害を負ってから病院で可能な限り機能を回復させ自宅へ退院するか,もしくは引き続きどこかのリハビリテーション病院へ転院する人もあり,自宅に戻っていくのは2年前後という人が多かったのを憶えています。しかし,最近においては発症後6か月程度で自宅に帰ってくる人が増えてきています。まだ身体機能が回復段階であっても,自宅復帰してくる場合も少なくないのが現状です。このような,医療の流れの変革によって,最近では発症から間もない回復期や急性期の人も訪問リハビリの対象として増えてきています。

とうきょう訪問リハビリテーション研究会の活動
 とうきょう訪問リハビリテーション研究会は,1999~2006年まで,東京を中心とした関東地区で訪問リハビリテーションに興味をもつ療法士などによって活動していた任意団体です。会員約170名で,訪問リハビリに関する研究大会や研修会,講演会などを実施し,体系化や普及促進の役割を担ってきました。
 介護保険が2000年にスタートし,一気に訪問リハビリが普及するかと思いきや,その増加は微々たるもので,むしろ要介護者数の増加の勢いが激しく,普及率が一向に増加しない状況が数年で明らかとなりました。個人的に,雑誌の訪問リハビリの原稿にそのことを書いてはみたものの,大きなうねりになることはなく,時間だけが過ぎていきました。そのころには,「訪問リハ,メニューあっても,サービスなし」といった状況が,全国各地で広がっていました。東京都福祉局保険部介護保険課もその現状を把握しており,訪問リハビリ普及促進のための調査事業を行っておりました。
 そこで,2004年6月に研究会の世話人と東京都福祉局保険部介護保険課をはじめとする行政担当者に声掛けをし,合同で訪問リハビリテーション人材育成カリキュラム検討委員会を発足させました。月1回のペースで都庁の会議室に集まり,どのような内容がカリキュラムとして適正か,専門家の立場や行政の立場,一般の立場など,さまざまな角度で積極的にディスカッションを繰り返しました。途中,行政側の組織再編のために,多くの行政担当者が委員会に参加できなくなるというアクシデントがありましたが,第10章を執筆された我妻弘さんが個人的に継続して参加していただけることとなり,引き続き委員会を進めていきました。
 カリキュラムの項目案をそれぞれの委員に割り振り,担当者がたたき台になるプレゼンを作成してきてみんなでディスカッションする。このような作業を10か月間行い,2005年3月に第1回目の,6月に第2回目の試行的訪問リハビリテーション初級者研修会を実施しました。そして参加者のアンケート結果も加味して内容をさらに吟味し,11月に第1回訪問リハビリテーション初級者研修会の開催にこぎつけました。そして,この研修会で各講師がつくったプレゼン資料とその内容を少しでも多くの療法士に伝えるために,医学書院へ出版企画を持ち込み,この度出版する運びとなりました。
 本書は,訪問リハビリの細かな手技や技術を説いた解説本ではありません。あくまでも,訪問リハビリをどのようにとらえ,どのように考え,どのように実践していくかといった点を中心に内容を構成しています。特に,最近問題視されている単なる機能訓練の出前でなく,生活を支援していく訪問リハビリテーションの実践を行うための発想の転換の仕方に留意し論述しています。各種療法に直結しない記述もありますが,われわれが今まで経験してきた訪問リハビリの実践や委員会でのディスカッションのなかで重要と思われるところを中心に盛り込んでいます。初級者には,読んでもピンとこない記述もあると思いますが,実践を繰り返すなかで次第にわかってくることもあります。
 本書が,あなたの訪問リハビリテーションをより良いものにするためのきっかけになることを期待します。

 2007年 1月

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第1章 訪問リハビリテーションって何だろう?
第2章 対人関係の落とし穴
第3章 訪問リハビリテーションの流れと留意点を知ろう
第4章 「あせらない」,「見逃さない」ためのリスク管理
第5-1章 「訪問理学療法」を知ろう
第5-2章 「訪問作業療法」を知ろう
第5-3章 「訪問言語聴覚療法」を知ろう
第6章 訪問リハビリテーション成功のカギ(1)-生活資源の活用
第7章 訪問リハビリテーション成功のカギ(2)-サービスの連携
第8章 訪問リハビリテーション成功のカギ(3)-要介護者とその歴史,背景,生活を知る
第9章 事例からみた「訪問リハビリテーション」
第10章 訪問リハビリテーションが支えるもの
第11章 療法士も知っておきたい制度概要
巻末付録
索引

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「その人らしく」いい顔をして過ごしていただくために
書評者: 後藤 裕美 (新誠会在宅総合ケアセンター元浅草・たいとう診療所)
 私は九州にある急性期病院に勤務していました。そこでは在院日数短縮の中,身体機能面に着目した治療的アプローチが中心であり,「疾患に対するリハビリテーション」を行っていました。病前の生活背景を含め,患者である「その人」自身を考える機会は少なかったと思います。

 一方,同居していた祖母の認知症発症を機に祖母の介護を通じて医療者の立場ではなく,家族の立場で「介護とは?」「認知症でも人間の尊厳とは?」という疑問を抱くようになりました。

 本書の中ではよく「その人らしさ」という言葉が出てきます。急性期病院にいた私は今まで「その人らしさ」を考えていたでしょうか? 「その人」に必要な生活再建,「その人」を取り巻く環境に目を向けていたでしょうか? 3年前,本書の編集をされた吉良健司氏と出会い,初めて自分自身を振り返った気がします。その時から私は個々人の心身機能・活動能力を日常生活へつなげられるよう,生活を支援していくリハビリテーションに関わりたいと思い,急性期病院を退職して心機一転,吉良氏と同じ「在宅」の道へ進むことになりました。

 しかし,病院勤務の長かった私にとって「在宅」の場は未知の領域そのものでした。病院のように急性期への対応を求められる場面もありましたが,在宅にはそれだけでは通用しない別の問題がたくさんあります。対応に迷い,悩むこともしばしばです。しかしそんな時は,私は迷い・葛藤を克服できるアドバイスがたくさん書いてあるこの本を手に取ります。その人の障害に捉われることなく,その人がその人らしく生きていくために,私たち自身何ができるか,何をするべきか,本書はそのヒントを与えてくれます。

 「考えが変われば,行動が変わる。行動が変われば,人生が変わる」と言う言葉がありますが,この言葉と同様に吉良氏や吉良氏とかかわる多くの方との出会いを通じ,私は九州から「在宅修行」のような気持ちで東京に来ました。

 「人生」は過去に戻ることもできず,本当に一度きりのものです。そんな誰にでも一度きりの人生を,「最後まで『その人らしく』,いい顔をして過ごしていきたい』,私もそう思います。そして本書でも掲げられているノーマライゼーション社会の実現,訪問リハビリテーションの発展へ1人でも多くの方が賛同していただければと思います。

 私の「訪問療法士」もまだスタートしたばかりです。『はじめての訪問リハビリテーション』には,私がこのスタート地点に立つため,吉良氏や吉良氏を通じて出会った多くの方々からいただいた「在宅の知恵」がたくさん詰まっています。これからこの訪問の世界に,一歩を踏み出そうという療法士にぜひ読んでいただきたい一冊です。
訪問リハビリテーションの歴史と現状
書評者: 牧田 光代 (豊橋創造大教授・理学療法学)
 日本における訪問リハビリテーションの歴史は1982年に老人保健法が施行されたのに伴い,機能訓練事業および訪問指導事業に理学療法士がかかわったことから,制度的にはじまっている。医療としても診療報酬としての訪問理学療法が同時期に認められている。しかし,これらは数量的にも少なかった。本書の筆者たちが訪問リハビリテーションの研究会を立ち上げ,かかわったのは1999年から2006年。当時は2000年の介護保険制度施行に向かう途上であり,かつその創世記であった。筆者らは,研究会を立ち上げる前から実際には訪問リハビリを実践していたのだろうから,まさにこの道の草分け的存在であろう。本書の中で筆者らは「介護保険制度により訪問リハビリテーションが一気に普及するかと思ったがそうではなかった」と述べている。

 その原因の1つが本書に一貫して流れている訪問リハビリの理念であろう。訪問(在宅)リハビリには医療施設におけるリハビリとは場所が変わるだけではない本質的な違いがある。もちろん,そもそもの問題として訪問リハビリに携わる専門職種の数が少ないということもあるが,病院など医療施設に勤務する理学療法士などのリハビリ関連職種はおぼろげにその違いに気づいており,病院勤務から在宅への不安も持っていたのではないだろうか。

 本書でも述べられているように,医療施設で行われる医療は医療モデルとして疾患や障害などの問題状況を医学的な原因に還元して解決策を講じるが,訪問リハビリのようにいわゆる地域においては「生活モデル」で問題解決を図ることが基本になる。生活モデルでは対象者を生活者としてとらえ,目的はQOL向上である。そのアプローチは生活そのものに対して行われ,主体は利用者であり,ゴールは生活の自立である。これをそのまま聞くと当然のように思えるが,医療モデルでは目的は疾病の治癒,延命であり,対象者は患者で,その方法は治療であるから,主体者は提供者すなわち医療従事者となる。このように対比してみると大差があるのがわかる。

 従来は医学モデルをそのままあてはめ,「すでに治療はおわりました。障害は残りますが私たちのすべきことはもうありません。あとは貴方次第です」と自宅に戻していた人たちを,訪問して生活支援を行うのであるから,医療モデルだけで学んできた人たちにはどうしてよいかわからないのが実情であった。

 しかし,施設から在宅への社会の流れで訪問リハビリテーションは今後需要が高まっていくものと思われる。このような中で,本書はこれから訪問リハビリテーションを始めようとする人々にとっては大変有益なものと考えられる。それは本書が現場で実践してきたことを裏づけにして書かれているからである。特に医療施設内でのリハビリテーションと在宅でのリハビリテーションの違いがその理念だけでなく,実例を交え懇切丁寧に書かれている。事例編に示される正解の多様性は正に生活の場においてこそのものである。

 本書はこれから訪問リハビリテーションをはじめようとする専門職のみならず,訪問リハビリテーションとは何かを知りたい人たちの一般的な読み物としても有意義である。

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