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上部消化管内視鏡スタンダードテキスト

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今日の消化管内視鏡検査・治療は、著者らにより始まったといっても過言ではない。豊富な経験と知識、また緻密な文献的考察から裏付けられた上部消化管内視鏡検査・診断・治療の詳細な解説は、明快な根拠をもとに展開されている。本書は、1994年刊行の『パンエンドスコピー』を全面リニューアル。内視鏡学の教科書の決定版ともいえる、著者ら渾身の1冊である。
多賀須 幸男 / 櫻井 幸弘
発行 2010年03月判型:B5頁:344
ISBN 978-4-260-00369-8
定価 15,400円 (本体14,000円+税)

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  • 序文
  • 目次
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 本書は,内視鏡医のための上部消化管内視鏡検査の手技・診断・治療に関する総合的なテキストである。
 著者ら2人は,1971年以降,一緒に消化器内科の診療にあたり,ともに内視鏡検査に従事してきた。特に上部消化管については,1978年に細径前方視鏡によるパンエンドスコピーを提唱してから30年余にわたり,それを実践してきた。本書はその経験を基に執筆したものである。
 医学の細分化とともに多数の専門家の手による分担執筆の書籍が多い昨今であるが,関東逓信病院消化器内科・NTT東日本関東病院内視鏡センター・多賀須消化器科・内科クリニックで,同じ理想を目ざして働くうちに身に付いたすべての事柄を,過不足なく記述するように努めた。シェーマを多用し,文章を吟味して,わかりやすい記述を目論んだ。
 掲載してある341葉の内視鏡写真はNTT東日本関東病院内視鏡センターの症例から精選されたものであり,40個の図で示した症例の集計は,電電公社関東逓信病院時代の1972年から2006年にわたってデータベース化した163,648件に及ぶ資料を解析したものである。御協力頂いた多数の先生方のお名前は一覧表に掲げてある。心から御礼申し上げる。またデータベースの集計方法については末尾(注)に記した。
 われわれのグループは早い時期から偶発症に正面から向き合い,被検者の苦痛を最小にすべく,医師も内視鏡技師諸兄姉ともども努力してきた。リスクマネジメントの実際について,彼ら,彼女らの意見も加えて,多くの紙数をさいた。
 本書は前著『パンエンドスコピー(医学書院,1994)』同様に基礎的な事項について詳細に述べているが,その内容は大幅に改訂した。内視鏡に上達するための捷径と考えるからである。
 内視鏡診断に関しては,われわれの経験に加えて,学会誌や専門誌を渉猟し検討して,納得ができた内容を取り入れた。早期胃癌診断の成功を支え,発展してきた 『胃と腸』 誌上で論じられた事柄は,もれなく採用したつもりである。
 H2ブロッカー・プロトンポンプ阻害薬の登場,US・CT・MRなどの画像診断の進歩,H. pyloriの発見は消化管疾患の診療に革命的な変貌をもたらした。慢性胃炎や消化性潰瘍など,近年ややないがしろにされて事項を簡略化してはどうかという意見も出たが,それらの理解は今後の発展に必要と考えて,敢えて遺してある。
 ESDを中心とする悪性腫瘍の内視鏡治療については,原理を述べるに止めた。拡大観察,NBI観察,超音波内視鏡についてのわれわれの経験は乏しいので,ごく概略を記述するのにとどめた。原稿が完成してから出版まで諸事情で時間がかかったので,2005年以降の文献は,参照はしているが掲載していない。
 最近,日本消化器内視鏡学会前理事長・丹羽寛文先生著『消化管内視鏡の発展を辿る(考古堂,2009)』を御恵与いただいた。それを拝見すると,よくも遙かな道を歩んできたものかなと感慨を新たにする。本書の内容は紛れもなく多くの先達と仲間の努力の成果であり,それが正しく後継の諸兄姉に伝達されることを祈って止まない。

(注)【データベースの集計方法】
 1972年4月から2000年12月までは,院内医療情報室の協力を得て上部消化管内視鏡検査の所見をEDPS(electronic data processing system)用の用紙に転記してデータベース化し,汎用大型コンピューターを使用して集計した。2000年12月4日に全病院に電子ファイリング・システムが導入されたことに伴い,それ以降2006年3月までの症例は,電子ファイリングを利用した。
 2000年12月以前の29年間の132,154件,ファイリング以降の6年4か月間の検査31,484件,合計163,648件の上部消化管内視鏡検査のデータを集計の母数とした。
 この間に電電公社の職域病院であった関東逓信病院から,一般開放されて地域拠点病院であるNTT東日本関東病院に移行し,利用者の層も数も大幅に変化し増加した。時代とともに疾病の考えかたや分類に変化があって,電子ファイリング以降のデータの利用は一部に止めざるを得なかった。したがって総計の数字に齟齬があることを諒とされたい。
 当然複数回受検している事例は多数にのぼるが,同一患者については同一年内に行った検査のうちでその患者の診療上で最も主要と考えられる検査時のデータを採用してある(特殊な病変の年齢分布は,初回診断時の年齢によった)。

 2010年1月
 多賀須幸男
 櫻井 幸弘

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第1章 パンエンドスコピーの歴史と影響
第2章 パンエンドスコピーに使用される内視鏡
第3章 内視鏡センター
第4章 リスクマネジメント,インフォームド・コンセント,偶発症
第5章 形をよむ・色を作る
第6章 内視鏡検査と関連する解剖学・生理学的な事項
第7章 検査の実際
第8章 補助診断法;色素内視鏡検査・マーキング・生検
第9章 治療手技
第10章 下咽頭・喉頭の病気
第11章 食道の病気
第12章 胃の病気
第13章 十二指腸の病気

索引

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内視鏡スタッフの教育・指導にも最適
書評者: 深井 学 (医療法人財団 放友クリニック/一般社団法人 日本消化器内視鏡技師会 理事)
 消化器内視鏡検査・治療の進歩は,機器の開発や手技の高度化により著しいものがある。それに伴い,検査・治療の質が向上し,成果も飛躍的に現れている。これは内視鏡医の優れた技術と研鑽,そしてメーカーの開発努力によるところが大きいと思うが,質の向上では内視鏡のスタッフとしての内視鏡技師の役割も少なからずあると思われる。内視鏡スタッフの教育では医療現場における内視鏡専門医の熱心な指導が形に現れ,消化器内視鏡学会認定の消化器内視鏡技師資格の取得者も増えている。

 内視鏡スタッフの教育,指導に欠かせないのが教科書となるテキストである。ちなみに筆者が消化器内視鏡にかかわったのは昭和40年代の胃カメラの時代で,スタッフの教育・指導方法がまだ確立していなかった頃であった。そのため,多くの症例写真を見てそれをスケッチすることや解剖学,生理学の書物を読むこととその当時指導していただいた先生方から言われたことが,本書を読み進めるうちに思い出された。本書には正常写真とともに多くの症例が掲載され,さらに挿入過程や観察順序および,疾患,臓器などを図式化して説明が加えられており,間近で講義を受けているような錯覚に陥った。

 序文には,「本書は,内視鏡医のための上部消化管内視鏡検査の手技・診断・治療に関する総合的なテキスト」とされている。また患者への配慮,検査・治療の介助,内視鏡機器の管理などは内視鏡技師の役割が重要と記載されている。多賀須先生と櫻井先生は内視鏡スタッフの教育にも熱心にされてこられ,多くの内視鏡スタッフが指導を受け,内視鏡技師として育っている。本書はその経験を基に内視鏡医のためだけではなく,内視鏡スタッフの教育・指導にも生かせるものとして編集されているような気がする。最近は内視鏡スタッフを対象とした専門書も数多く出版されているが,本書はこれまでの専門書を補完するような,詳しく実践的な内容となっている。

 本書の構成は,前編は内視鏡検査全般に共通する項目からなり,内視鏡機器の原理・構造および機器の取り扱いなどの基礎的なことや検査に際しての注意事項,内視鏡センターの運営,リスクマネージメントなど安全な検査を行うための心得も記述されている。また,検査の実際,治療手技などは動画的なイラストも採り入れ,観察・撮影・手技のコツを丁寧に説明している。後編は疾患の解説になり,咽頭や食道などの解剖および生理学なども詳細なシェーマが添えられわかりやすく示されている。疾患も多数の写真とシェーマを載せ,さらに症例ごとに具体的な経験を加えて解説されており,内視鏡技師にも理解しやすい構成になっている。

 本書は医師のみならずコメディカル・スタッフにとっても日常診療のテキストとして,また内視鏡技師試験受験の教科書,参考書として必携である。

内視鏡を知り尽くした著者が織り成す内視鏡学の歴史的名著
書評者: 藤城 光弘 (東大附属病院光学医療診療部部長/准教授)
 ある日,医学書院から厚手の書籍郵便が届いた。以前の執筆原稿が書籍として上梓されたのかと思い,何気なく封を開けて唖然とした。恐れ多くも内視鏡の世界ではいわゆる“雲上人”である,多賀須幸男,櫻井幸弘両先生の手による大作に書評をとの依頼であった。書評は,その道の第一人者が後進や同僚に宛てて大所高所から真剣勝負で書き記すものと相場は決まっている。なぜ私のような若輩者にその御鉢が回ってきたのか,しばし熟考した。後進の指導に人一倍熱心な先生方のこと,東大,国立がんセンターと多賀須先生の後を追った頼りない後輩に対する,これも一種の教育の一環,東大の光学医療診療部長就任祝いとしての粋なはなむけと理解し,謹んでお受けすることとした。よって駄文をご容赦いただきたい。

◆教科書とはかくあるべき―客観的データに裏打ちされた著者の膨大な知識と経験の背後に内視鏡学を介した著者の思想をみる

 本書のはじめに「資料提供協力者一覧」が掲載されている。そこには,「本書を作成するにあたり,旧日本電信電話公社関東逓信病院から現NTT東日本関東病院における内視鏡データと画像を利用した。…本来ならここにすべての先生方のお名前を記載すべきであるが,…500件以上の検査をなされた先生方のお名前を掲げることとした。…」のくだりが付記されており,いきなり強い衝撃を受けた。なぜなら,本書は著者のみのものではなく,著者とともに日々の診療,研究,教育に従事した,数多くの医療関係者(医師のみでない)の集大成であるという著者の強い意志がこの数行に簡潔に示されていたからだ。

 さらにその衝撃は序文を読み進めると期待感に変わった。この教科書を読むことで私が長年探し求めてきた回答が得られるかもしれない。多賀須先生,櫻井先生がめざしていた“同じ理想”とは何だったのであろうか。無性に知りたくなった。

◆序論の記載が充実

 類書の多くが,簡単な消化管の解剖・生理に引き続き,検査,治療の総論と臓器別各論という構成になっているが,本書の特徴はいわゆる,序論と考えられる,パンエンドスコピーの歴史的背景や機器への理解を深める記載,内視鏡センターのあり方,内視鏡医療を取り巻く諸問題,特にリスクマネージメントに関する記載が充実している点にある。これは,1994年上梓の前書『パンエンドスコピー』からの一貫した著者の方針のように思われる。著者が最良の内視鏡診療を行う上で,いかに心・技・体,もとい,機器・環境・医療関係者の三位一体を重要視しているかが伺える。昨今,ともすれば最新の診断・治療技術がもてはやされる風潮があるが,一歩立ち返って日常診療を見直すべきであろう。そのヒントがそこかしこに散りばめられている。

 第5章の「形をよむ・色を作る」は圧巻である。いかに人の認知の仕組みがアナログで行われているかがよくわかる。ファイバースコープの時代から電子スコープの時代となり,モニターの色を自在に作ることができるようになった。内視鏡医は何を信じていいかわからない。いわゆる,診断における匠の技が,客観的データとしていまだにパターン認識化できないのは,認知の仕組みが極めてアナログかつ複雑であり,内視鏡診断学がそのアナログな認知という人間の脳の中にだけ再現できる機能の上に成り立っているからかもしれない。著者は本章を“写真ごころ”という言葉で締めくくっている。“内視鏡医は良き写真芸術家たれ”,まさにそうありたいものである。

◆各所に著者の“虎の巻”が出没

 本書を読み進めて,非常に快感を覚えた。すらすら読める。なぜか? これだけの先生方の著書にもかかわらず,背伸びがない。ここまでは自分たちの経験,ここからは文献による,これは自分たちのデータだが,これは他施設のデータ等々,極めて明快に区別し,記載されている。

 内視鏡学の教科書として必須の,選りすぐりの内視鏡写真や著者自身によるきめ細かなシェーマが,惜しみもなくふんだんに掲載されていることもその一因であろう。1972~2006年のデータベース化した163,648件に及ぶ内視鏡検査・治療による,まさに自身のEvidenceが満載である。引用記載部分,他施設データには必ず引用文献を当て,読者が原著をたどれるような配慮に余念がない。

 パンエンドスコピーの教科書として,「下咽頭・喉頭の病気」を前書『パンエンドスコピー』より取り上げていた著者の先見性にただただ敬服するのみであるが,本書ではさらに詳しく書き下ろしている点も画期的であろう。特に共感を覚えたのが,第7章~第9章の検査,治療の総論で出現する,「suggestions」という重要事項をまとめた,著者自らのワンポイントアドバイスである。同章部分は「suggestions」を拾い読みし,関心を持ったその関連項目に目を通すだけでも大変勉強になるであろう。

◆同じ理想をめざして働くうちに…

 振り返って,両巨頭がめざした同じ理想とは何だったのであろうか。五反田の地に繰り広げられたPatient-orientedな医療の実践がExperience based Medicineとして積み重ねられ,その集計が客観的データとしてEvidence based Medicineに発展し,それが次世代に脈々と引き継がれている。その現状をみれば自明であろう。これは,1人のカリスマ医師によってでは決して成し得るものではなく,同じ志を持った,他の医療職を含めた医療チームにおいてのみ成しえるものであることを本書はわれわれに語りかけてくれている。

 本書は一部の内視鏡専門医を対象にして書かれたものではない。初めて内視鏡を志す研修医から,すでに内視鏡室を任されている部長クラスの内視鏡指導医,もっといえば,内視鏡医療を理解しようとするあらゆる医療職や一般初学者まで,包み込む包容力がある。あらゆる職種のあらゆる世代の人たちを内視鏡を介して結び付ける思想を感じる。全国の内視鏡室,いや翻訳され,世界中の内視鏡室に必携の書と心から推薦申し上げたい。

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