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誰も教えてくれなかった診断学
患者の言葉から診断仮説をどう作るか

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ベテラン医師は、そもそもどのように診断をつけているか? それは初期研修医とどのように違うのか? 本書はまだ十分な臨床経験を積んでいない医師を対象として、「カード」を想定した鑑別診断法を切り口に、「頻度・確率」、「時間」、「アウトカム」の3つの軸を意識しながら下す、これまで"誰も教えてくれなかった"診断法を伝授する。
野口 善令 / 福原 俊一
発行 2008年04月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-00407-7
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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はじめに

なぜ研修医のヤブ君は,有効なProblem Solvingができないのか?

「名医」はどのように診断をつけているのか?
研修医とどのように違うのか?
 この疑問は古くて新しい問題であり,まだ誰も完全に答えを出してはいない.そもそも「名医とは?」という議論を始めると,きりがない話になってしまいかねない.逆に「藪医者とは?」という議論のほうはまだやりやすそうだ.
 診療は,病歴,診察,検査・画像診断,診断,治療という流れでなされるのが一般的であり,医学部や卒後教育でもそのように教えられてきた.しかし,このような型どおりの診断の流れを教わるだけでは不十分ではないか,と筆者らは考える.
 また,「医学知識を一生懸命勉強すればいい」「検査と画像診断をもれなくやっていれば,診断を間違うことはない」「なぜこんなことも知らないんだ!」「なぜCTをとらなかったんだ!」というような言葉が,これまで医学部や教育病院で指導医の口から学生や研修医に対して投げかけられてきた.また,特にわが国では検査や治療の技術に医師の評価基準が偏りがちである.これでは,医師は単なる職人でいいことになってしまう.
 病態生理をはじめとした知識があるのは大前提だが,日々新しい知見が発表される現代においては,知識はすぐに古くなる.幸いわれわれはインターネットの時代にいるのだから,これを最大限利用しない手はない.いかに最新の情報にアクセスできるか,そしてその情報の質を評価できるかのほうが,知識の量よりはるかに重要であり,これはEBMの重要な要素でもある.しかしこのことは,本書のスコープではない.
 筆者らは,上に挙げたようなアプローチだけでは,患者の臨床的な問題の解決(この本では以下,clinical problem solvingと呼ぶ)に際して有効な働きをする臨床医を育てるためには,十分ではないと考えている.

有効なProblem Solvingとは?
「3つの軸」で問題解決能力を磨く

 筆者らは,臨床医に最も重要な素養は思考力・判断力であると考える.そこで,この思考力・判断力の座標軸を構成する「3つの軸」を提唱する.

1)「頻度・確率の軸」
(1) 患者から得られた限られた情報(主に見る,聴く,触る,感じるなどの五感)から,患者の問題は何か,について絞り込まれた仮説を考える.
(2) 一人の患者の背後にある集団を想像し,病気を有している確率を推定する.
(3) 検査の選択や結果の解釈に臨床疫学を活用する.
 以上は現代の臨床医に求められる最も基本的な「軸」である.

2)「時間の軸」
 患者は生きものであり,刻々と変化していく.前日の検査値のみに頼るのではなく,今,目の前にいる患者をよく観察し,次に何が起こるかを予測しなければならない.また検査や治療には「適時」があり,そのタイミングを逃せば価値は半減し,時に有害でさえある.

3)「アウトカムの軸」
 「頻度・確率の軸」だけでは不十分である.非常に稀でも診断を見逃したり,治療のタイミングを逃すと重大かつ非可逆的なアウトカムをきたす疾患や,逆に治療によってよりよいアウトカムをもたらす疾患を常に頭の片隅に置いておくことも重要である.

 上記の3つの軸について全く考えず,意識することもなしに診療する医師をわれわれは「藪医者」と定義することにした.このことを読者の皆さんに理解していただくためにできるだけわかりやすく解説した.

「患者の言葉」から「カード」へ

 筆者らは,「なぜ研修医は鑑別診断を考えられないのか?」ということを,この本の基本課題とした.この課題の解決には本書の目玉である「3つの軸」だけでは不十分であるとも感じていた.何度にもわたる筆者らの話し合いの中で,患者さんの訴えを聞いたあと,鑑別診断を開始するまでの間に存在する思考プロセスがあり,今まで誰も明示的に説明しておらず,また当然医学部でも教育されてこなかったことに気づいた.そしてそれが「患者の言葉を医学的に翻訳する」(1章).「コンパクトな,役に立つカードを引く」(2章)というステップであると確信するに至ったのである.はからずも1,2章は本書のもう1つの目玉となった.

本書の構成

 この本では,筆者らが自らの経験や長時間にわたるディスカッションからたどりついた今のところベストだと考えられる解決策について述べる.もちろん考え方が正しいだけでは万能の名医になれるわけではない.“Best strategy, worst outcome”という言葉どおり,正しい診断の考え方に従って診療を行っても不幸な結末になることはあるかもしれない.それでも,手技だけでなく診断の考え方をマスターすれば問題解決能力は増し,自信もつき楽になるはずである.
 具体的には「『この疾患』に対してどうすればよいか」ではなく,「『この患者』をよくするにはどうすればよいか」がわかる医師になることを目指したい.この本は,病歴や診察の仕方などに関する診断学の本ではなく,「診断をつけるためのマニュアル」でもないことをあらかじめお断りしておく.
 図に本書の構成を図解する.
 以上,本書の目的,特徴,構成について述べた.本書が読者の皆さんのclinical problem solvingに少しでもお役に立てば,望外の喜びである.
 2008年3月
 野口善令・福原俊一

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はじめに
プロローグ

第1章 患者の言葉を問題解決に活用できる「生きた情報」に変換する
第2章 Clinical Problemからカードを引く
第3章 診断の3つの軸―カードの中身の作り方
第4章 カードから診断へ
第5章 異なる診断推論アプローチ

エピローグ
索引

付録
 01 カードの在処
 02 検査前確率や検査特性についての参考資料
 03 臨床疫学の基礎知識

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すべての臨床医に「考える診断学」の科学的論証
書評者: 上野 文昭 (大船中央病院特別顧問・消化器内科)
 「臨床疫学」という言葉の響きから,いまだに何やら伝染病などを扱う学問と思い込んでいる読者はおられないだろうか。もしそうであれば,すべての臨床医がいつでも,どこでも,誰にでも必要な知識であることに早く気付いていただきたい。

 このたび医学書院より上梓された『誰も教えてくれなかった診断学――患者の言葉から診断仮説をどう作るか』に目を通し,この認識が誤りでないことを再確認した。共著者の野口・福原両氏は評者の最も信頼する内科医である。二人とも北米での内科研修で得た優れた臨床技能を,さらに臨床疫学を学ぶことにより科学的に磨きをかけ,現在わが国の臨床・教育・研究の各分野で活躍中である。過剰検査が当たり前のわが国で,これまでほとんど学ぶ機会のなかった正統派診断学を,今ここで二人が教えてくれている。

 一読すると理詰めの表現に少し堅苦しい印象を覚えるかもしれない。しかしこれこそが過去,現在,そして未来に共通する診断学の王道にほかならない。早い話,評者が30年以上前に米国で研修中に,優れた指導医たちから学んだ手法がこの中にある。当時は臨床疫学も知らず,またEBMという概念すらなかった。彼らから教わった「考える診断学」が単なる経験的技能ではなく科学的に正当であったことを,本書は見事なまでに論理的に証明してくれている。

 医療のグローバル化が急速に進行する中,ようやくEBMの普及により科学性を有しないドメスティックな治療が衰退しつつある。けれども診断学を振り返ると,何も考えずにともかく検査しておこうという旧態依然たる手法が主体の鎖国状態が続いている。幸い初期研修義務化の恩恵で,優れた臨床医の下で若い医師が患者をよく診て考える習慣が身につき始めているように思える。一歩進んで,効率よく手際よく科学的な診断を進めるために役立つのが本書である。

 分かりやすい構成,図表やイラストを多用した表現などから,本書は比較的若い医師層を読者対象として想定しているように思える。その意図どおり,臨床経験の浅い研修医や臨床実習中の医学生には必読の書である。さらに研修医や医学生を指導する立場にある医師にも必ずお読みいただき理解していただきたい。そして経験深い臨床医諸氏は,ご自分が身に付けた診断学に誤りはなかったか,例え正しかったとしてもそれはなぜか,という観点でお読みいただければ幸いである。

 逆に本書があまり役立たない読者対象を想定してみた。よい指導医の下で正しい診断学を身につけ,さらにSackett著“Clinical Epidemiology”などを通読し臨床疫学を熟知している臨床医,すでに診療現場に出る意欲のなくなった臨床医。医療は生活の糧と考え,よい診療を通じて社会に貢献しようという気概を全く持たない臨床医などが該当しよう。このような臨床医は極めて少ないはずである。

 その豊富な内容と得られる知識の大きさを考えれば,価格設定はまさにバーゲンである。少しだけ贅沢な外食を1回我慢するだけでよい。200頁の本を読む時間がないという理由は当てはまらない。週末の旅行やゴルフを1回我慢すればよい。いくら多忙な臨床医といえども,これぐらいの経済的・時間的余裕がないはずはない。本書を通読することは,すべての臨床医の患者に対する責務と考えたい。

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