感染症入門レクチャーノーツ

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「バルクホルデリア・セパチア!」「ステノトロフォモナス・マルトフィリア!」…これから貴方の日常となる医療現場で意味をもつ、魔法の呪文群。臨床感染症学・抗菌薬学の、ほんの一部です。本書を読んで、大きな声で唱えるべし! “いち研修医なりに、どのようにすれば系統立ててまた面白く感染症の基礎知識を学べるかをずっと追求してきた”若き著者が贈る、感染症入門『はじめの1冊』堂々の刊行。
大野 博司
発行 2006年09月判型:A5変頁:328
ISBN 978-4-260-00258-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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  • 目次
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この本の使い方-序にかえて
1章 感染症診断・治療の考え方
2章 臨床微生物学
3章 臨床抗菌薬学-総論
4章 臨床抗菌薬学-各論
5章 臨床感染症のプラクティス
【付録】抗菌薬サークル図
レクチャーノーツを終わるにあたって
 索引

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「出すぎた杭は打たれない」大野 博司君を紹介します
書評者: 松村 理司 (洛和会音羽病院長)
 卒後2年目の研修医の大野博司君が,私の前任地の市立舞鶴市民病院を訪ねてきたのは,2002年の夏であった。“大リーガー医”の見学のためである。医学生時代に,来日中であったカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の一般内科の泰斗であるローレンス・ティアニー先生の鑑別診断力に接し,痺れてしまったとの由であった。「心臓外科医の道は辞めました。ともかくティアニー先生に追いつき,追い越したい」との青雲の志も耳にした。

 そのときに大野君は,ティアニー先生共著の『Essentials of Diagnosis & Treatment』を持ち合わせていたが,それへの実にびっしりとした書き込みを覗いた私は,彼の「医学書読破力」を確信した。「書く力」は未知数だったが,2003年春に舞鶴に異動してきた彼は,書く機会も欲しいという。私たちの共著『診察エッセンシャルズ』(日経メディカル開発)の骨子は,その後の約半年に及ぶ大野君の不眠不休の持続力に負うところが大きいが,「医学書執筆力」もかなりは実証されたといえる。「スーパーレジデント」の呼び声は,偽りではなかったようだ。

 私たちの縁は続き,2004年春に他の数人の研修医とともに洛和会音羽病院に異動してくることになった。「出る杭は打たれる」というが,「出すぎた杭は打たれない」ともいう。入職当時にいささか感じられた大野君に対する前者の雰囲気は,2年半後の今日,ほぼ雲散霧消したように感じられる。最大の理由は,臨床現場で彼がとことん働いてきたからである。総合診療医として,感染症医として,トラベルクリニックで,透析室で,そしてICU/CCUで。私が慣れない院長業にもたもたしている深夜に,よく大野君に襲われたものである。「先生,ICUナースの○○さんや透析室クリニカル・エンジニアの△△君が辞めるなんて,大きな損失ですよ。何とか手を打たないとだめじゃないんですか」。

 感染症学は,大野君の最も得意とするところである。舞鶴でも音羽でも,サマーセミナーやらウインターセミナーやらが開かれ,各地の研修医や若手医師が混じり合う様に接してきた。手ごろな開催場所や多少の資金を提供させられてきたが,互いに切磋琢磨する青年の客気ほど私のような熟年を鼓舞するものも少ない。

 本書を散読させてもらったが,「です・ます調」の平易な説明は新鮮だった。コラムでの私語の表白にも驚いたが,若き大野ファンには魅力的なのだろう。肝腎の中身については,読者諸氏の今後の交流に委ねたい。

 実用的な医学書が,現場で汗する卒後6年目の若手医師によって書かれる時代を迎えた。隔世の感を禁じ得ない。

微生物と抗菌薬の特性を網羅 知識を整理し治療に生かす
書評者: 田中 和豊 (済生会福岡総合病院・臨床教育部長)
 現在日本の医療界の「感染症ブーム」は,ばい菌の無法地帯とも言える日本で,病める人々をばい菌の魔の手から解放すべく立ち上がった正義感あふれる英雄たちによって作られた。そのきら星のごとく現れた英雄たちの一人が,今回『感染症入門レクチャーノーツ』を執筆された大野博司先生である。大野博司先生は,自主的に学生向けにセミナーを開催するなど精力的な活動をされることで有名な若手医師期待のホープである。彼の初の単独執筆となるこの本はまさに彼の努力の「結晶」である。

 あまたある感染症関係の書籍の中で,本書の最大の特徴は,「微生物―抗菌薬・薬理学―臨床感染症」のトライアングルを意識しながら,それを視覚化したことである。著者考案の「微生物ガイド(臨床で重要な微生物を6つに分類したダイアグラム)」と「抗菌薬マップ(その6つの分類の,それぞれどこにどういった抗菌薬が効くかを示した図)」は非常に有用である。「微生物ガイド」は例えてみれば敵の布陣である。また,「抗菌薬マップ」はわれわれの持っている個々の武器の特性を示している。このように敵の布陣と武器の特性を視覚化することによって,感染症との闘いをまるで将棋や囲碁のように理詰めで行うことが可能になる。まさに孫子が言ったように“敵を知り,己を知れば百戦危うからず”なのである。この視覚化以外に,ともすれば羅列に終わってしまう百科事典的な感染症の知識も簡潔にポイントをついてよくまとまっていて,見たい図表や調べたい知識がすぐ探せるのも本書の魅力である。Chlamydia→chlamidophila,pnuemocystis carinii→pneumocystis jiroveciなど微生物の名称の変更などの最新の知識も網羅されている。このため,人をあざ笑うかのようにお笑い芸人並みにコロコロと名称を変更する微生物にもついていける。また,本書では随所にColumnがあり,そこには仕事や人生に対する筆者の真摯な態度が見受けられる。医療者はばい菌や傷病を退治することに専念する余りに,ともすると知らないうちに自分自身が病院・家庭や社会の「ばい菌」扱いされがちである。著者はこのような愚を犯してしまわないことを十分に心がけている「人間的な」医師なのである。

 この本の出現で,いままでやりたい放題やってきたばい菌たちも,身の危険を感じ恐れおののいて悲鳴をあげている姿が目に浮かぶ。ばい菌さん,ご愁傷さま。ただひとつ,この本は講義ノートであるので,何も知らない初学者が通読しても理解するのは難しいかもしれない。その意味で1冊目の本というよりは,ある程度勉強したものが知識を整理するのに用いる2冊目以降の本かもしれない。その欠点を補うにはやはり評判の高い著者自身の講義を聴くのがいいだろう。私もこの本を持って著者の講義を早く聴いてみたいと思っている。

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