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精神疾患をもつ人を,病院でない所で支援するときにまず読む本
“横綱級”困難ケースにしないための技と型

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病院以外の場所で支援する人が、対人関係的な困難さを乗り越えて、利用者を自立、卒業へ導くための具体的ノウハウ。在宅時代に必須のテキスト。
小瀬古 伸幸
発行 2019年09月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-03952-9
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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まえがき

 本書は、精神疾患をもつ人を病院以外の場所で支援する、初心者からベテランまでを含むすべての人に向けて書きました。
 中身に入っていく前に、この本のサブタイトルにある「“横綱級”困難ケース」、この言葉について触れておきたいと思います。
 皆さんは「横綱級」と聞いて何を思ったでしょうか。支援者の方や家族の方であれば、自分たちが苦労をしながら実際に支援している人を思い浮かべたかもしれません。当事者の方であれば、「自分たちをバカにしたようなこのネーミングはなんとかならないの?」と思われたかもしれません。同じ言葉でも捉え方は立ち位置によって変わると思います。
 じつはそのように不快に感じるかもしれない人がいるかもしれないと思うと、「“横綱級”困難ケース」という言葉をタイトルに据えるかどうか、私もかなり悩みました。編集者と共に考えて、考えて、考えた末に、やっぱりこの言葉をサブタイトルに入れることにしました。その理由について、誤解がないように説明しておきたいと思います。

 私は精神科訪問看護の管理職をしていることもあり、訪問看護につながるか否かがわからない段階でも、支援者や家族から相談を受けることがあります。その際に「ちょっと問題が入り組んでいて、横綱級の方なんですけどね……」「うちの子は他の人と違って超ド級なんですけど……」といった前置きが付いていることがあります。
 それらの前置きからは、当該のケースたちを「手を焼かせる」「話が通じない感がある」「圧迫感を与えてくる」「要求が強い」「要求がわかりにくい」「手に負えない」と捉えていることがわかります。そして支援する側が「恐怖や怒り、嫌悪感」を抱いたり、「何を支援しているのかわからなく」なったり、「達成感が得られなく」なったりと、収拾をつけられない状態になっていることも伝わってきます。
 しかし一方の当事者たちに実際に話を聞いてみると、周りの人に対して大変な思いをさせたいなどと思っている人はいないのです。どちらかというと、どうにもならない状況を打破しようと試行錯誤を繰り返している人のほうが多いのです。ではなぜ、周りの人はその人を「難しい人」「超ド級」と感じるのでしょう。
 それは、この本の中でいろんなケースを挙げながら種明かししていきたいと思うのですが、私の経験上1つ言えることは、横綱級と言われる人たちはエネルギー水準が高いことが多いのです。「病気をもちながら地域で生活するのがしんどい。どうにかしたい」と、すごく高いエネルギーをもって試行錯誤を繰り返している人たちなのです。彼らの言動をそのように理解せず、本当の意味でちゃんと捉えないでいると、本人はそのエネルギーの使いどころがわからなくて、「お前らが悪いんやあっ!」となる。
 ですから、最初に出会う場面から、私たち支援者が何をする者なのかという説明をするのが重要です。「私たちがあなたをよくするんじゃありません。私たちを活用するのはあなたなんですよ」という説明をしておく必要があります。
 どうにかしたいというエネルギーの高さを、「自分がどうにかする」という方向に向けられれば、すごくいい利用者さんになり、卒業も早くなります。

 かくいう私も、かつてはどうしていいかわからず悩んだ経験があります。「私がなんとかしなければならない」という考えにとらわれて、本人の訴えに振り回された経験もあります。だから、支援する人たちが「横綱級」「超ド級」と感じるケースのことがわかるのです。
 そう考えると、みんなが横綱級困難ケースだと感じているものは、そのまま「横綱級ケース」と呼ばせてもらうことにして、その代わり、私自身はもうどんなケースも横綱級だと感じることはなくなりましたので、それがなぜなのかという理由と、相手を横綱級にしないための技と型を伝授する1冊にしたいと考えました。
 読者の皆さんが本書を読み終わり、行動に移した時から、横綱級ケースは横綱級ケースではなくなります。技と型を使いこなす支援者が増えていけば、横綱級ケースという言葉が世の中から消え、本書も役目を終えるのではないかと思っております。

 私からのお願いになりますが、この本を単なる読み物として終わらせず、「この技は使えそうだ」と少しでも感じたら必ず実践してみてください。かつての私がそうであったように、そこで勇気を出して踏み込むことによって、自分なりのやり方(パターンの組み合わせ)が見え、利用者のリカバリーはもとより、支援者として日々楽しく仕事ができる助けになるはずです。

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まえがき

I章 地域というのは、病院とココが違います

II章 “横綱級”困難ケースごとに見る技
 横綱1 リストカットがやめられない人への対応技
       〈解離性障害、境界性パーソナリティ障害〉
 横綱2 連続飲酒のループから抜け出せない人への対応技〈アルコール依存症〉
 横綱3 発話が少なく、思いや言葉を出しにくい人への対応技〈統合失調症〉
 横綱4 子どもを虐待してしまうが、その自覚がない人への対応技〈解離性障害〉
 横綱5 気をつけていても過活動になり、その後のうつが避けられない人への対応技
       〈双極性障害〉
 横綱6 母への要求が強く、イライラし、引きこもりと暴力がある人への対応技
       〈広汎性発達障害〉
 横綱7 食事と飢餓感に思い込みとこだわりが強く、横になってばかりいる人への
       対応技〈強迫性障害〉
 横綱8 要求をエスカレートさせていく人への対応技〈双極性障害〉
 横綱9 「訪問看護やめます」と電話で伝えてくる人への対応技〈適応障害〉
 横綱10 家庭で孤軍奮闘し、怒りと死にたい思いを抱いている人への対応技
       〈双極性障害〉
 横綱11 精神的ストレスからくる腰痛で、生活が成り立たない人への対応技〈うつ病〉

III章 精神科訪問看護 必須の型
 1 新規面接
 2 重要事項説明書
 3 看護計画
 4 緊急電話および緊急訪問
     【土俵際コラム】事務員の電話対応
 5 救命時および死亡時
     【土俵際コラム】その他の質問に答える

“対応技”一覧
ちょっと長いあとがき

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地域での支援をする中で迷った時に読みたい本 (雑誌『作業療法ジャーナル』54巻4号(2020年4月号)p376より)
書評者: 生田 真衣 (訪問看護ステーション和来・作業療法士)
 本書を通して読むと,浮かび上がってくるキーワードがありました。それは,「利用者の主体性」です。主体性とは,暮らしの中で自らの「権利」と,それに伴う「責任」の両方を持つという在り方です。

 病院では病の治療が優先されるため,社会人として当然持つべき「権利」や「責任」はいったん保留にされます。しかしいざ退院して地域で生活するとなれば,それらは再び本人に返されなければなりません。

 本書には,さまざまな横綱級ケースが出てきますが,地域に住む彼らに対して小瀬古伸幸氏がどのような技と型を用いて本人に「権利」や「責任」を返していき,「主体性」を獲得させていったかが,ハラハラするようなストーリー展開で解説されています。

 「主体性」というテーマに触れた時,私には思い出されたクライアントが1人いました。うつ病があり引きこもっていた女性です。

 「同世代は仕事をしていたり,結婚して家庭を持っていたり,皆自分の生き方をしている。それなのに自分は……」と他人と比較して彼女は焦りと葛藤を抱えていました。私が訪問している間は,「話をし,作業するのが楽しい」と言いますが,その言葉には空疎さが漂います。「好きに使えるお金もなく,友だちと呼べる人もいない」と嘆くこともあり,たまに「仕事をしたほうがいいんでしょうね」と話すこともありました。そこで彼女が動き出すきっかけになればと,近隣のB型事業所への見学を手配し体験に同行したりしましたが,「障害がある人の中で私が仕事をするのは違うと思う」と言い,中断してしまいました。何回か同じようなことが繰り返され,私もついに通所を促すのをやめてしまいました。ただ,私が訪問すると,「何のために生きているのかなって」「死ぬ方法をネットで探してました」と話すことも増え,これからどうしたらよいのかと私自身も自問する日々でした。ご家族は,仕事をするまでに至らなくてもいいから,穏やかに生活してもらいたいと話していました。

 ある日,彼女が家族の知人と話す機会がありました。その人は医療者ではありませんでしたが,彼女の生い立ちや状況を丁寧に聞き,一般的な視点からのアドバイスをしてくれたといいます。

 するとその日以来,彼女自身の思考が少しずつ前向きに変容し,どう生きたいのかを考えるようになっていきました。長期的な目標を自分で立て,以前は拒否していたB型事業所についても「今の自分はここから始めて体力をつけないと普通に仕事はできない」と話し,自ら施設とやりとりをして通所を開始しました。「数年後には一般就労をめざしたい」と希望を持つようになり,訪問する私に「自立して生活できるようになったら,友だちとして会いたいです」と笑顔で言ってくれるまでになりました。

 彼女が変容するきっかけを作ってくれたその家族の知人は,いったいどのように彼女の気持ちに寄り添い,本人がどうしたいのかをうまく導き出せたのでしょう。それは想像するしかありませんが,私も含めた支援者が,ともすると「症状再燃や再入院を防ぐ」ことを優先し,落ち着いた生活を送ることを良しとしがちな時に,「主体性」を持つことが人として当たり前というスタンスで接したことが彼女の背中を押して,自分の人生を自分で決める権利と,それに伴う責任を理解した上で,自己決定していけたのかもしれません。

 今後も私は訪問支援を続ける中で,展開に迷った時は,きっとこの本を開くと思います。そのたびに,「主体性」が地域の基本であることを思い出し,それに向けて一緒に踏み出す勇気を持てるように思うからです。
「自分も相手も楽になる」これが専門職の技術
書評者: 福山 敦子 (NPO法人ハートフル,訪問看護ステーション聲,看護師)
 私も本書の著者と同じく,精神特化型の訪問看護ステーションで長く実践をしており,多くの「横綱級ケース」と呼ばれる人たちに出会ってきました。

 精神疾患をお持ちの方の中にはエネルギー水準が高い人も多いです。そしてエネルギーの使いどころがわからず空回りしていたり,あまりにも一点集中していたり,あるいは多岐に広がりすぎて収集がつかなくなっていたり,ということが起きます。

 地域では関係者が点在していますので,関係者側の意思疎通が図れていないと,利用者に対する理解がバラバラになってしまいます。それがかかわりをさらに難航させ,利用者を「横綱」化させる要因にもなると感じます。

 本書が伝えているのは,「横綱」化させるのはかかわる者のまなざしと対応だ,ということです。本書が示しているさまざまな技と型を使いながら,常に利用者主体に立ち返ることで,もう「横綱」ではなくなるのです。

 さて,本書において特に役に立った,と私が感じるのは第3章です。これは「精神科訪問看護 必須の型」という章で,新規面接時にやるべきこと,重要事項説明書で説明すべきこと,看護計画の立て方,立ち戻り方,緊急電話や緊急訪問の判断と説明について書かれています。

 訪問看護は,新規面接時にご本人と契約することで,初めて導入がなされます。ですから新規面接時に,ご本人の動機や望む生活についてしっかりと話を聴き,訪問看護の役割――ご本人の自立を支援すること――を説明し,理解してもらうことが必要です。このタイミングを逃してしまうと,私たちの役割が誤解されたまま訪問看護が始まり,「横綱」化の要因を訪問看護がつくってしまうこととなるように思います。

 実を言うと私自身,訪問看護ステーションを立ち上げたばかりの頃は,利用者を確保したいという思いから,つい「何でもしますよ」「いつでも行きますよ」「何でも電話してください」といったNGワードを頻発していました。これらの言葉が,利用者の主体性や自己決定力を奪い,セルフケアから遠ざけ,「横綱」化させているということに,後から気付いたのでした。

 この本には,新規面接でしっかりと利用者の動機付けを確認していく方法が書かれています。何に着目し,ご本人の言葉で何を語ってもらうのか,が丁寧に示されています。

 実際,本書に書かれている通りに丁寧に項目を聴いていったところ,ご本人の考えや苦労の経験から,さまざまな困難を自分で乗り越えてきた力のある方なのだということの理解が深まりました。初回面接時に確認を入れたり,込み入った内容を聞くと,利用者にうんざりされてしまうのではないか,妄想的になったり拒否が始まるのではないか,とびくびくしていたのです。でもその不安は杞憂でした。あいまいさをなくすことで,それまでの契約時より,信頼を持ってくれる利用者が増えたように思います。

 また,どういうときを緊急時と言うのか,緊急電話をかけてきたらこちらは何をするのか,という説明をあらかじめしておくため,イライラ,孤独感,寂しさなど感情的な理由で利用者が緊急電話をかけてくることが減り,かけてきたとしても対応に困ることが少なくなりました。

 事務員の電話対応についてのコラムもあり,これを読んで,スタッフだけでなく事務員へ何を伝え,教育しておくべきかがわかりました。この第3章には,知っておくと自分も利用者もスタッフも助かる,具体的な「技」が書かれています。地域の関係者にも,この章をまず読んでもらいたいと薦めています。ケースの相談をしてきてくださるのはありがたいのですが,私たち訪問看護が何を目的として訪問するのか,チームとしてどの役割を担う事業所なのかという,精神科訪問看護の構造を理解してもらいたいからです。

 帯には「自分も相手も楽になる」とあります。これが専門職の技術だと思います。精神科訪問看護技術書の1つとして,まず読んでいただいて間違いのない本です。
困難事例を困難と思わなくなる本(雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 吉岡 幸子 (帝京科学大学医療科学部看護学科教授)
 人生100歳時代を迎えんばかりの日本は世界に類を見ない長寿先進国である。しかし一方で経済格差と健康との関連は明らかであり,人々の価値観も多様化する中で“生きづらさ”を抱えて生活している人も多くいると言われている。このような中で,精神疾患を抱え地域で生活している人々に対し,訪問看護は大きな役割を担っている。

 本書は,精神科訪問看護ステーションの管理者の視点で,地域で精神疾患を持つ人を支える支援者のために分かりやすく書かれた実用書である。

 第1章では,「地域というのは,病院とココが違います」のタイトルで,病院内の看護と切り口の異なる視点で具体的にその実際を解説している。ここでは“患者”と言わず,“利用者”として,医療者主体の場合と当事者主体の場合を比較し,支援方法の考え方をも示している。

 著者は,地域で生活している当事者から,「三大困りごとは,お金のやりくり,毎日の食事,人間関係である」と聞いている。医療者側の視点では,精神症状との付き合い方が困りごとであろうと推測しがちであるが,訪問看護の利用者をその地域で生活する住民として捉え,思いを受け止めている様子が本書の随所に書かれている。

 第2章では,11人の“横綱級”の困難事例を紹介している。病名ではなく,その困難性が各項目のタイトルとなっており,それが本著の意図するところであろう。

 11人の事例には,リストカット,連続飲酒,虐待,引きこもり,暴力などがあり,支援者にとって対応が困難だった事例として紹介されているが,どれも疾患や複雑な環境などによるご本人の苦しさが伝わる事例である。とは言え,その方々を支える支援者にとっては,「技」と経験が必要となる事例である。

 ここでは,事例との関わりや何気ない会話を分析し,その意図や狙い,やるべきこと,やってはいけないことを「対応の技」として解説している。1事例ごとに複数の技が分かりやすく書かれており,保健師にとっても“困難事例”への対応に役立つ章である。

 第3章では,「精神科訪問看護必須の型」として,新規面接,重要事項説明書,看護計画,緊急電話,緊急訪問,救命時・死亡時対応などの“型”について解説されている。訪問看護ステーションでは,利用者との合意(契約)に基づく看護が展開されており,保健師の介入とは大きく異なる部分である。ここでは訪問看護の仕組みや回数,24時間対応体制加算,キャンセル時の対応など,現場の保健師にも理解してほしい事項が盛り込まれている。さらに救命時および死亡時のフローチャートは秀逸であり,保健師のスキル向上のためにも活用してほしい。

 本書のように,困難事例に丁寧に関わり,住民に寄り添うことができる保健師になるために,新人保健師,精神担当になったばかりの保健師,いわゆる“精神”が苦手だと思っている保健師,そしてベテラン保健師にも,ぜひ,参考にしていただきたい一冊である。

(『保健師ジャーナル』2019年12月号掲載)
人に関心があり,対人援助職としてのスキルを上げたいと思う人にお勧めの1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 平野 和恵 (横浜掖済会病院地域連携部・看護部/緩和ケア認定看護師)
 まず,表紙の「横綱」のイラストと,「“横綱級”困難ケースにしないための技と型」という副題が気に入った。地域連携の勉強会でよく登場していたテーマの「困難ケース」。ややもすると,当事者に直接会っていなくても,「困った人」と“洗脳”される言葉の魔力がある。しかし,実際の当事者はいたって普通で,困難なのは,そう命名した支援者自身では?と思うこともあった。そんな訪問看護師時代も思い出しながら,本書を読み始めた。

 I章は,作者が精神科訪問看護の専門家になるまでの経験から始まる。「振り返りノートは1か月に大学ノート1冊を超えました」(p.10)の通り,作者の人柄と真摯さが文章から伝わってくる。また,「当事者にとっての三大困り事」(p.11)は,「お金のやり取り」「毎日の食事」「人間関係」とあり,(そうそう)とうなずきながら読み進めた。さらに「私たちのあるべき姿勢」(p.16-19)では,「本人の主体性を取り戻す」ために利用者の今を(専門職として)共有することの大切さと,そのための4つのポイントが明確に記述されている。ちなみにこの4つのポイントは,高齢者の関わりにも適用できるので,高齢患者の多い私の現場でも,早速紹介している。

 II章は,精神科訪問看護で活用できる技が疾患別に丁寧に解説されている,いわば精神科訪問看護のクリニカル・パール集である。細かく触れないが,巻末に「対応技一覧」(p.176-177)がまとめられている。項目名に疾患名は明記されておらず,「○○な人」というように,診断名に依らない対象の特徴を捉えている。支援者の経験値が達人レベルでなくても,生活の場で看護を提供する者の「心得」が簡潔に明記されている。ここに書かれていることを,対人援助職が地域包括ケアシステムの一環としてチームで提供できれば,当事者の重篤化を未然に防ぎ,みんなが安心して生活できる地域になるのではないか。

 最後のIII章は,「精神科訪問看護必須の型」として,精神科訪問看護を行うに当たり踏まえておきたい内容が網羅されている。さらには,訪問看護から訪問看護への転職をした方,訪問看護実務経験が少なく異動で訪問看護に従事する方,開業を考えているベテラン訪問看護師の方にぜひ読んでいただきたい内容である(おそらくこの部分は,著者が新任所長の指導時や,診療報酬改定ごとにバージョンアップしているのではないか)。また,通常なら,このIII章は,総論としてテキストの最初に書かれることが多いだろう。しかし,これが最初だと,最後まで読まれない可能性がある。よって,この構成も本書のお勧めのポイントである。

 そして,「長いあとがき」の冒頭の「スキルがなければ事業所は閉鎖に追い込まれる」には,全く同感である。スキルがない看護師は,スタッフにも同僚にも地域にも信頼されない。それを「訪問看護は私に向いていない」などと,1年足らずで管理者が交代するステーションが後を絶たず,とても残念である。

 現在私は,病院看護師だが,本書を読み終えて,改めて,「病院でない所で看護師として支援する」試みを組織と相談したいと思うに至っている。

 精神科訪問看護に限定せず,人に関心があり,対人援助職としての専門職スキルを上げたいと思っているあなたに,ぜひ読んでいただきたい。あなたが訪問看護師なら,休憩時にパラパラめくっていただくもよし,病院看護師なら,最近増えている「困難ケース」の参考書としてお勧めしたい。看護学生さんなら,これを読んで,精神科訪問看護の楽しさを想像して実習に臨まれると,私もうれしい。

(『看護管理』2019年12月号掲載)
卓越した看護師の「技」と思考を学ぶ教材にも(雑誌『看護教育』より)
書評者: 片山 陽子 (香川県立保健医療大学教授)
 本書は、地域で実践している支援者、特に「難しい人」と感じる対象者を支援している人には、まず手にとってほしい本です。日々の実践で感じている「誰かに相談したい」「明日から実践できる具体的な対応方法が知りたい」そんな思いに応えてくれる道標となる本です。多くの人が一歩引いてしまうようなケースの考え方と対応方法について、[精神科認定看護師であり訪問看護師]である小瀬古さんが、地域で生活している利用者に向き合い思考錯誤しながら協働する支援者らとともに見出してきた「技」と「型」が余すところなく書かれています。その提示は精神疾患の症状別ではなく、生活や行動という目に見える特性ごとにケースを解説しています。

 サブタイトルにある“横綱級”は疾患の重症度ではなく、対人関係的な意味です。『精神疾患をもつ人を……』と題されていますが、本書で紹介された「技」は、精神疾患の有無にかかわらず使えるものが多く、幅広い領域で参考になるでしょう。

 第I章では、「当事者である本人の主体性なくして地域生活は組み立てられない」ことを念頭に、地域と病院の違い、地域における対象のとらえ方や支援者である私たちのあるべき姿勢について示しています。それは、本人が主体性をもち、自身のセルフケア能力が上がり「希望を意識し、いい感じの自分」を保てる支援のあり方です。

 第II章では、“横綱級”困難ケースごとに見る技として、「リストカットがやめられない人」「発語が少なく、思いや言葉を出しにくい人」などの困難ケース11事例について、ケースごとに複数の対応技を紹介しています。まるで動画を見ているかのように、具体的な場面と対応が時間の経過をたどる形で描写され、ケースと小瀬古さんたち訪問看護師の言葉のやりとりまで詳細に記述されているため、読者はその「型」と「技」が明日から活用できることを実感するはずです。たとえば、要求をエスカレートさせていく人に対する「折り合いがつけられそうな落とし所の見通しをつける」対応技など、訪問看護師がどう考え、どのように対応したのか、その結果対象者はどう変化したのか、そのときの訪問看護師自身の思いも振り返りながら提示しており、看護学生が看護師の思考を学ぶ教材としても秀逸です。

 第III章では、精神科訪問看護必須の型として、精神科訪問看護の特徴をふまえた初回訪問から死亡に至るまでのさまざまな場面ごとの技を紹介しており、本書が、精神科訪問看護の実践の知識やスキルを凝縮した良書であることを実感させてくれます。

 利用者の自宅に訪問し支援するとき、相手を難しい人と思いながら支援することは支援者にとってつらいものです。出会えたことに感謝する1冊です。

(『看護教育』2019年12月号掲載)

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