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学生のための医療概論 第4版

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医療について学ぶ学生が初めて接する医療概論の準教科書が7年ぶりに改訂。これまでの編者2名に新編者2名を加えて、執筆陣も一新し、狭義の「医療」に関する知識はもちろん、現代の医療を取り巻く多くの社会問題にも言及している。読者に、医療職として生きるとはどういうことかを考え、将来患者中心のチーム医療を実践してほしいという願いを込めた本書は、それぞれの専門に進む前に「考える頭」を育て備えるのに最適である。

編集 小橋 元 / 近藤 克則 / 黒田 研二 / 千代 豪昭
発行 2020年02月判型:B5頁:296
ISBN 978-4-260-04125-6
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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  • 編著者による本書の紹介
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第4版 序に代えて

 本書の初版が出た1999年から約20年が経ちました.その間の医学の進歩はめざましく,新しい技術が次々と開発されています.当時は早期発見できなかった病気が見つかるようになり,なかなか治らなかった病気やケガもずいぶん治るようになってきました.しかし,医療は医学知識や技術など医学だけで成り立っているものではありません.その進んだ技術をもってしても,いまだに完治の見込めない病気やケガを抱える患者は数多く存在します.また,少子高齢化に伴い,40歳以上の要介護者は700万人を超え,2040年には年間約170万人の「看取り」が必要になると見込まれています.
 このように完治の見込めない疾患や終末期の医療においては,医療職だけでなく,福祉・介護等の他職種との連携や,地域社会の一員としての患者本人とその家族,時には地域住民の参加も不可欠です.患者はそもそも社会の中で生きているのであり,医療が関わるのはその一部の側面にすぎません.社会全体を見たとき,医学あるいは医療職のみで解決できることはごくわずかなのです.
 一方,医療はその国や地域社会の文化,考え方,宗教,経済,政治等の影響を大きく受け,時代や社会とともに変化します.たとえば,かつてはがんの告知はしないことが主流でしたが,今ではがん告知は当たり前のようになされています.なぜでしょうか.それは,医学のめざましい進歩により早期発見が可能になり,多くのがんが絶望的な病気というわけではなくなってきたからです.そして,インターネットの発達などもあって患者自身が病気に関する情報を比較的容易に得られるようになり,患者の自己決定権が尊重される社会になってきたこと,また,医療においては疾患を治療するだけではなく,患者の生活や心にも寄り添うべきであるという価値観が支持されるようになってきたことなどにもよると考えられます.医療技術の進歩,時代や社会の変化とともに,医療に携わる者や国民の意識や考え方も変化し進歩するのです.
 1999年の初版の編集会議では,「医療職を目指す学生の皆さんはもちろん,一般の人も視野に入れ」「寝転がって読めるような平易な文章で」「現代医療の構造と特徴がはっきり理解できる本を」「データブックではなく思想書を目指そう」という基本方針が打ち立てられました.また,本書全般にわたる医療の方向性に関する基本思想は,「患者中心の医療を目指して」が掲げられました.これらの方針は,版を重ねることで,読者の皆さんに支持されてきたと考えます.
 第4版となる本書においては,新しい時代に合わせて新しい編者と執筆者を加え,変化し進歩し続ける医学・医療の現状と方向性を示し,患者を支える社会の今後の在り方について,読者の皆さんが考える材料をできる限り提示することを心がけました.
 これから10年後の医療はどのようになるのかと考えると,「患者中心医療」「チーム医療」「福祉や教育などとの多分野連携」「医療に関わるさまざまな生命倫理の問題」「医療における個人情報管理」「病気の予防と健康づくり」「ヘルスリテラシーの向上」「男女共同参画と少子高齢化時代の成育医療」「貧困や虐待の連鎖をどう断ち切るか」「健康における心理社会的要因の影響と健康格差」「誰もが安心して受けられる医療サービスの提供体制」「災害医療」「分子遺伝学や先端生命科学を応用した個別化医療,先制医療そして精密医療」等々,その課題は枚挙に暇がありません.しかし一方で,どんなに時代が変わろうとも,「医療職の本来あるべき姿」「人間中心の医療」を考える本書の方針は初版から一貫して変わりません.
 現代の医療職には学ぶべき知識と技術が膨大にあります.しかし,医療職にとって最も重要なのは「知識や技術を超えた人間力」と「患者を思いやる心」です.本書で学ぶことで,画一的な正解を求めるのではなく,いろいろな職種,いろいろな立場の人たちと意見交換ができて,たくさんある答えのなかから,より良い答えを見つけられる医療職が育つことを,編者一同,心から願っています.
 最後に旧版,新版を通じて,お忙しいなかご協力をいただいた執筆者の皆様と,企画から編集作業に至るまで親身にお世話をいただいた医学書院の大野学さんに,心から感謝を申し上げます.

 2020年1月
 編者一同

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第1章 医療は誰のものか
 1 医療の基本「人道主義・人権」について考える
 2 患者の権利を尊重する
 3 医療現場の倫理
 4 2つのケースから学ぶ臨床倫理
 5 「人の気持ちを慮ること」の大切さ
 6 情報共有とチーム医療
 7 カウンセリングによる自己決定支援
 8 医療職のプロフェッショナリズム

第2章 健康とは何だろうか
 1 多様な健康観と医療観
 2 健康の決定要因とヘルスプロモーション
 3 Well-being(幸福・健康)のとらえ方と支援
     ──国際生活機能分類(ICF)とリハビリテーション
 4 こころの病とwell-being
 5 Well-being(幸福・健康)を高める支援
 6 保健医療が追求する価値と医療職の役割

第3章 医療がたどってきた道と未来への展望
 1 近代医学の誕生と感染症対策
 2 非感染性疾患の増加──生活習慣病の予防に求められる姿勢
 3 ゲノム医学の登場からゲノム編集へ
 4 医療・情報テクノロジーの活用に伴う課題
 5 健康影響をもたらす環境問題と医療職のあり方
 6 薬害にみる利害関係の医療への影響と医療の質
 7 補完代替療法と全人的統合医療
 8 臓器移植から再生医療へ
 9 健康を次世代へつなぐこと──本当に守らねばならないものは何か?
 10 科学的根拠とこれからの医療

第4章 医療システムを理解しよう
 1 事例をもとに考えてみよう
 2 医療の機能分化と地域医療連携
 3 地域包括ケアシステムと多職種連携
 4 医療保険制度と介護保険制度
 5 医療経済と資源の適正な配分
 6 防災・減災・地域の力と災害医療
 7 健康課題の国際化と持続可能な開発目標(SDGs)
 8 医療安全と医療職に求められる態度

索引

コラム目次
 「ヒポクラテスの誓い」と現在の医療
 同和問題
 ハンセン病
 ケーシー白衣
 WHO国際分類ファミリー(FIC)
 精神病床への入院形態
 老化と喪失体験,その受け止め方
 西洋医学の誕生まで
 日本への西洋医学の導入
 病院の衛生対策と看護師
 明治の脚気論争
 2000年の札幌市におけるホームレスの健康問題と生活習慣の実態
 iPS細胞とその応用
 水俣病からの学び
 終末期医療と死に関わる概念
 臓器移植と倫理
 移植医療を進めた医療技術と課題
 出生前診断の光と影──ゲノム医療時代を迎えて
 患者を対象とした「臨床疫学研究」
 地域連携クリニカルパス
 地域医療連携推進法人
 人口問題に医療職はどうかかわるか
 供給誘発需要
 レジリエンス・エンジニアリング
 重大な医療事故を招く「ヒトやモノの誤認」と「伝達ミス」
 ヒューマンエラーと医療事故
 模擬患者を用いた医療安全教育システム

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「SDH」の視点を重視したポストコロナ時代の必読書
書評者: 武田 裕子 (順大教授・医学教育学)
 新型コロナウイルスの出現により,私たちの社会はさまざまな影響を受けました。医学的には,感染症(COVID-19)の診断と治療,予防のためのワクチン開発など多くの議論がなされています。一方,今回のパンデミックは,感染症が医療・医学の専門的な閉じた世界にとどまらず,人の行動や暮らし,経済活動など社会と密接につながっていることをまざまざと映し出しました。さらに,こうした社会的な要因が,健康を大きく左右することも示されました。例えば,COVID-19の死亡率には所得や人種などにより差があることが欧米各国の統計で明らかになっています。

 こうした構造的な問題を「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)」といいます。「SDH」が医学教育で取り上げられるようになったのはこの数年ですが,本書は1999年に初版が出版された時から,その序に「医療を理解するためには,先端科学の進歩にのみ目を奪われてはなりません。思想や政治経済など,社会的背景を理解することが特に大切です」と述べられ,SDHの視点が一貫して取り入れられてきたことがわかります。

 本書の第1章は,医療の基本に「人権」を据え,国際人権から書き起こされています。「患者の権利」はどの教科書にも当たり前に書かれていますが,自由と平等が平和の礎であり,健康は一人ひとりの権利であることを明確に述べている医学書はほとんどありません。第2章には,医療が医学知識や技術だけで成り立っているのではないこと,最先端の医療が健康を約束するものではないことを,「SDH」の具体例と共に明快に示しています。第3章では医療の歴史から最新テクノロジー,統合医療まで未来への展望が語られています。そして第4章には,医療保険や介護保険,地域包括ケアなど,学生が無味乾燥に感じやすい制度について,当事者感覚で読み進められるように解説されています。さらに医療資源の適正な再分配や,災害医療,SDGs(持続可能な開発目標)から医療安全まで,医療者として知っておきたい内容がわかりやすく取り上げられています。

 今回刊行された第4版の序には,「10年後の医療はどのようになるのかと考え」「患者を支える社会の今後の在り方について,読者の皆さんが考える材料をできる限り提示することを心がけました」とあります。ポストコロナには,これまでの当たり前が大きく変わり,健康格差も拡がるといわれています。医療をめぐる厳しい現実と今後の展開を,希望が感じられる筆致で解説する本書は,突然訪れた変化に対応する新しい視座を医療者に与えることでしょう。

 もともとは看護学生を読者の中心として出版された教科書ですが,あらゆる領域の医療系学生,さらには現役の医療者にも必読の書です。それだけでなく,一般書としても非常に刺激的で,医療に関心のある高校生には的確な入門書になっています。多くの方に手に取っていただきたい一冊です。
「医療職になるとはどういうことか」を考える道標最新版
書評者: 杉森 裕樹 (大東文化大教授・看護学)
 本書は,初版発行(1999年)から,医療職をめざす学生に向け,一貫して「医療職になるということはどういうことか,どのような考えのもとに成長していけばいいのか」ということへの道標として編集されてきた。最新の第4版においてもそれは変わっていない。

 第1章では,医療の基本に人道主義・人権があるとし,その歴史を交えながらわかりやすく説明している。患者権利の尊重,インフォームド・コンセントを強調し,ロールプレイなどにより,医療現場で人の気持ちに配慮(想像力)することの大切さが学べる。また,電子カルテやクリニカルパスなどのチーム医療(多職種連携)の実践を紹介し,対話やシェアード・デシジョン・メイキング(SDM)を説明する内容となっている。第2章では,well-being(幸福・健康)の定義を紹介し,今日的課題である健康格差,国際生活機能分類(ICF),こころの病(精神疾患),エンパワメントを説明し,人々にとって健康や幸せであることの幅広さ・奥深さを学ぶ組み立てである。

 第3章は,医療の歴史と将来展望であり,感染症対策・非感染症(生活習慣病)対策を取り上げ,ゲノム医療,公害などの環境問題,薬害,統合医療,臓器移植・再生医療と医療において関心が高い新旧のテーマを扱っており,第4章では,地域包括ケアシステム,医療保険制度・介護保険制度,医療経済,災害医療,SDGsと,今日の医療システムが社会との接点なくしては成り立たないことが学べる。また,随所に配置されたコラムも,ヒポクラテスの誓い,脚気論争,ホームレス問題,iPS細胞,出生前診断,模擬患者と興味深い内容が満載だ。

 本書の基本思想は,初版から「患者中心の医療」と「多職種連携」で,第4版においても,全般にわたって通奏低音のように流れている。これは,「医療は科学に基づくアートであり,よい医療者になるためには,医学の実地教育だけではなく,人文教育の修得も必要である」と,故日野原重明先生が指摘した医学教育におけるリベラルアーツ(人間教育)の重要性にも通じるものであろう。

 今回の第4版から編者に医学教育のエキスパートである小橋元,近藤克則両氏も参加しており,これまでは看護学生を中心に読まれてきた本書だが,若き医学生や研修医,そしてさまざまな医療教育分野で『医療概論』を担当する医師教員,その医師に講義を依頼する専門学校や大学の看護教員にもぜひ読んでいただきたい。

 さらに,本書はその平易な文体によるわかりやすさも初版から一貫している。一般の人々にも,健康・医療に関する知識(ヘルスリテラシー)を養うためにも役立つことは言をまたない。今までの読者,新たな読者含め全ての読者が,日常生活の道標や将来への羅針盤として本書を大いに活用してもらえたらと願う。
ヘルスケアにかかわるすべての人にお勧めしたい(雑誌『看護教育』より)
書評者: 金井 Pak 雅子 (関東学院大学看護学部 教授)
 本書を開いて最初に目を引くのは、第1章として「医療は誰のものか」で始まることである。“まずヒポクラテスから始まる”というイメージがある一般的な医学・医療概論とは違うという印象をもった。そこでは、人道主義、患者の権利、倫理などに続いて、「人の気持ちを慮ることの大切さ」について著者らのユニークかつ重みのある体験が語られている。たとえば、産婦人科医である著者の1人(男性)が、若いときに患者の気持ちになってみようと、分娩台に上がってみた(下着をつけずに!)という記述がある。このように、医療職にとって最も大事なものはなにかを理解するための哲学的な問いが、頭でだけ考えたものではない描写で随所にあらわれている。同様に、第2章は「健康とは何だろうか」をテーマに、well-beingについて身体的・社会的・精神的な視点から、地に足の着いた解説がされている。

 第3章は、医療の誕生から現在そして未来への展望が、最先端の医療技術の課題などについて「全人的医療」をキーワードに解説されている。環境汚染による健康被害(水俣病、四日市喘息など)の歴史は、医療者としてしっかりと認識しておくべき課題であるが、その記述も充実している。さらに近代社会における人類最大の健康課題とされてきた感染症対策として、ペストやコレラそして天然痘、結核についてその発生から終息に至る経緯がわかりやすくまとめられ、エイズ(薬害エイズ問題を含む)や重症急性呼吸器症候群(SARS)に関しては、グローバル感染症として国際協調体制の構築が強調されている。この書評を書いている今、新型コロナウイルスによる感染がパンデミックとなり、日本でも感染者が出てさまざまなイベントが中止となっている。「見えない敵」との闘いは、人々を不安に陥れるのみならず、生活の基盤である経済に大打撃を与える。感染症対策の国際的強化のみならず、社会や経済への影響を最小限にする努力が求められていることを、学んでおく必要がある。

 第4章は、医療システムの理解として、地域包括ケアシステム、医療保険制度、介護保険制度や、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」などについて、大変わかりやすく解説されている。ここでも、医療職にとってグローバルな視点をもつことの意味とその重要性は強調されている。

 本書は、学生のみならずヘルスケア(保健医療福祉全般)にかかわる教育者、実践者、研究者などすべての人にお勧めしたい。特に患者が直接長い時間接する看護職、そしてその看護職を教育する立場にある者にとっては必読書といえる。

(『看護教育』2020年5月号掲載)

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