看護師長として成長しつづける!
経験学習ガイドブック
現場での「経験」を生きた教材とし、看護管理者としてのより一層の成長を支援する1冊
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達成感を得た経験や、うまく対処できずもやもや感が残っている経験、本書では、これらの「経験」を生きた教材とし、学ぶためのツールとして「経験学習ノート」を紹介。ノートに言葉にして紡ぐことで深い内省が得られ、経験を確実に学びへとつなげます。さらに学びを深めるために、ノートを他者と共有してフィードバックを得る方法、効果的なフィードバックについても解説。看護師長、看護師長をサポートする方におすすめの1冊。
著 | 倉岡 有美子 |
---|---|
発行 | 2019年08月判型:B5頁:104 |
ISBN | 978-4-260-03919-2 |
定価 | 2,750円 (本体2,500円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
- 付録・特典
序文
開く
はじめに
本書は,看護師長が日常の仕事経験から学ぶため,そして,看護師長の上司や同僚などの他者が,看護師長が経験から学ぶことを支援するための手引書です。
本書の出発点は,「看護師長にとって,集合研修は意味があるのか? 臨床現場での実践に役だっているのか?」「看護師長は,日々,頭を抱えるような出来事にぶつかって,なんとか乗りこえているのに,過ぎてしまえば何も残らない。それでいいのか?」という,数年前に私が抱いた問いでした。
当時の私は,大学や学会活動で,看護管理者向けの研修3種類に携わっていました。現任の看護管理者は学ぶことへの強い意欲と覚悟をもって研修に参加されます。そのため,教える側も毎回真剣勝負で臨み,乾いた土が水を吸収するように学習を進めていく参加者を見ることは大きな喜びでもありました。しかし,いったん,研修の場から離れて臨床現場に戻ったあと,研修で学んだことは参加者の役にたっているのだろうか,という疑問をもつようになりました。例えて言うなら,職場外の研修で学んだことを,参加者は教室に置き忘れていて,臨床現場までもち帰っていないのではないかと思うようになったのです。現任の看護管理者にとって研修での学びは,職場での自分のパフォーマンスを向上させるための資源であり,研修で学ぶこと自体は目的にはなりません。学ぶこと自体が目的となる学生とは異なるのです。ですので,私は,看護管理者にとって職場での実践力向上につながるように,研修のやり方を工夫しなければならないと考えるようになりました。
企業の管理者の成長は,経験7割,研修1割
看護管理者向けの研修のあり方について悩んでいた同時期に,私は,松尾 睦先生が書かれた『成長する管理職―優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』(東洋経済新報社,2013年刊)に出会います。著書のなかで,松尾先生は,企業の管理者の成長の7割は「仕事経験」がもたらし,「研修」の影響は1割という海外の研究結果を紹介され,企業の管理者がどのような経験から何を学んでいるのか,という先生の研究結果を示していました。
研修について悩んでいた私にとっては,まさに目から鱗で,看護管理者も企業の管理者と同様に経験から学んでいるに違いないと考えはじめました。そこで,私は,研修について悩むのはいったんおいて,看護師長の能力開発の手法として経験学習に関心を向けるようになりました。
看護師長に着任――教科書に載っていないことがおきる臨床現場
このように考えるに至ったのは,私自身の看護師長としての経験が影響しています。私は,大学院に進むまでは総合病院でスタッフナースとして働き,管理者としての経験はありませんでした。経験はないものの看護管理学に強い関心があったため,大学院修士課程で看護管理学を専攻しました。そして,大学院進学後,私は多くのマネジメントに関する理論を学習し,看護師長のリーダーシップに関する質的研究を行い,学位を取得しました。
修士課程修了後,ご縁があって,公立病院の病棟師長に着任しました。管理者経験もないままに,文字通り突然,看護師長になった私は,はじめのころは,毎日おきる大小様々な出来事に対処するので精一杯でした。
たしかに,大学院で学んだマネジメント理論は,私が看護管理実践をするうえで助けになりました。しかし,教科書に載っていないことがおきるのが臨床現場です。
私が忘れられない出来事として,管理していた病棟で,大きな医療事故が発生し,患者の家族への対応や当事者となった看護師のサポートに悪戦苦闘したこと,新型インフルエンザの発生に伴って,患者の受け入れ体制や看護提供体制の大幅な変更をしたことなどが挙げられます。小さなことでは,病棟のベッドコントロールがうまくできなかったり,医師との交渉に失敗したりと,挙げればきりがありません。その都度,相談役である副看護部長に相談しながら,切り抜けてきましたが,いずれも実際に経験してみないとわからない貴重な経験でした。貴重な経験であったにもかかわらず,病棟で次々とおこる事件の対処に追われ,私は,1つひとつの出来事について立ち止まって振り返り,教訓を導き出すという,いわゆる経験学習サイクルを回すことはできませんでした。
このような私自身の苦い経験からも,生きた教材ともいえる臨床現場での出来事から看護師長が学ぶためのツールを作り出したいと考えました。
臨床現場での出来事から学ぶためのツール――「経験学習ノート」
そこで,私は,その当時,思案していた博士論文のテーマを「就任初期の看護師長を対象とする経験学習を基盤とした看護管理能力開発プログラムの開発と評価」と定め,研究に取り組みました。プログラムの中心となるのは,看護師長が,困難な出来事に直面し,乗りこえたあとや,学びを得たと感じる出来事があったあとに,「経験学習ノート」に記述することと,看護部長や副看護部長といった上司とノートの内容を共有しフィードバックを得ることです。
先行研究を調べた結果,経験学習を促進する方法は,ノートに記述する以外にもグループでディスカッションする方法や他者との1対1の対話などいろいろとありました。ノートに記述する方法の特徴として,他の方法と比べてより内省を促進すること,他者と共有すれば自己への認識をいっそう深められることが挙げられていたため,私はこの方法を採用しました。看護師長が経験から学んだことを記録として残せることも,この方法を採用した大きな理由です。
プログラムの評価として,プログラムに参加する前と後に,参加者である看護師長に質問紙に回答してもらいました。その結果,参加者の経験学習の頻度と看護管理能力に有意な向上が認められました。プログラムへの意見として,「経験の振り返りに有効だった」や「学びを言語化することで新たな気づきを得た」「上司とのやりとりで新たな気づきや安心を得た」などがありました。さらに,フィードバック役としてプログラムに参加した上司の方からは,「看護師長の学習ツールとして効果的だった」「看護師長がおかれている状況や課題,思考内容の理解に有用であった」などがあり,「経験学習ノートを使用したやりとりを今後も継続する」という意見を得ました。これらの結果から,私は,看護師長の能力開発の手法として経験学習が効果的であるという手応えを得て,プログラムを多くの方に紹介すべく,本書の執筆を決意しました。
本書が,看護師長の皆さんの職場での経験学習をガイドし,喜びだけでなく苦難をもたらすこともある多くの貴重な仕事経験から糧を得て,看護管理者として成長されることを支援できるよう願っています。
2019年6月
倉岡有美子
本書は,看護師長が日常の仕事経験から学ぶため,そして,看護師長の上司や同僚などの他者が,看護師長が経験から学ぶことを支援するための手引書です。
本書の出発点は,「看護師長にとって,集合研修は意味があるのか? 臨床現場での実践に役だっているのか?」「看護師長は,日々,頭を抱えるような出来事にぶつかって,なんとか乗りこえているのに,過ぎてしまえば何も残らない。それでいいのか?」という,数年前に私が抱いた問いでした。
当時の私は,大学や学会活動で,看護管理者向けの研修3種類に携わっていました。現任の看護管理者は学ぶことへの強い意欲と覚悟をもって研修に参加されます。そのため,教える側も毎回真剣勝負で臨み,乾いた土が水を吸収するように学習を進めていく参加者を見ることは大きな喜びでもありました。しかし,いったん,研修の場から離れて臨床現場に戻ったあと,研修で学んだことは参加者の役にたっているのだろうか,という疑問をもつようになりました。例えて言うなら,職場外の研修で学んだことを,参加者は教室に置き忘れていて,臨床現場までもち帰っていないのではないかと思うようになったのです。現任の看護管理者にとって研修での学びは,職場での自分のパフォーマンスを向上させるための資源であり,研修で学ぶこと自体は目的にはなりません。学ぶこと自体が目的となる学生とは異なるのです。ですので,私は,看護管理者にとって職場での実践力向上につながるように,研修のやり方を工夫しなければならないと考えるようになりました。
企業の管理者の成長は,経験7割,研修1割
看護管理者向けの研修のあり方について悩んでいた同時期に,私は,松尾 睦先生が書かれた『成長する管理職―優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』(東洋経済新報社,2013年刊)に出会います。著書のなかで,松尾先生は,企業の管理者の成長の7割は「仕事経験」がもたらし,「研修」の影響は1割という海外の研究結果を紹介され,企業の管理者がどのような経験から何を学んでいるのか,という先生の研究結果を示していました。
研修について悩んでいた私にとっては,まさに目から鱗で,看護管理者も企業の管理者と同様に経験から学んでいるに違いないと考えはじめました。そこで,私は,研修について悩むのはいったんおいて,看護師長の能力開発の手法として経験学習に関心を向けるようになりました。
看護師長に着任――教科書に載っていないことがおきる臨床現場
このように考えるに至ったのは,私自身の看護師長としての経験が影響しています。私は,大学院に進むまでは総合病院でスタッフナースとして働き,管理者としての経験はありませんでした。経験はないものの看護管理学に強い関心があったため,大学院修士課程で看護管理学を専攻しました。そして,大学院進学後,私は多くのマネジメントに関する理論を学習し,看護師長のリーダーシップに関する質的研究を行い,学位を取得しました。
修士課程修了後,ご縁があって,公立病院の病棟師長に着任しました。管理者経験もないままに,文字通り突然,看護師長になった私は,はじめのころは,毎日おきる大小様々な出来事に対処するので精一杯でした。
たしかに,大学院で学んだマネジメント理論は,私が看護管理実践をするうえで助けになりました。しかし,教科書に載っていないことがおきるのが臨床現場です。
私が忘れられない出来事として,管理していた病棟で,大きな医療事故が発生し,患者の家族への対応や当事者となった看護師のサポートに悪戦苦闘したこと,新型インフルエンザの発生に伴って,患者の受け入れ体制や看護提供体制の大幅な変更をしたことなどが挙げられます。小さなことでは,病棟のベッドコントロールがうまくできなかったり,医師との交渉に失敗したりと,挙げればきりがありません。その都度,相談役である副看護部長に相談しながら,切り抜けてきましたが,いずれも実際に経験してみないとわからない貴重な経験でした。貴重な経験であったにもかかわらず,病棟で次々とおこる事件の対処に追われ,私は,1つひとつの出来事について立ち止まって振り返り,教訓を導き出すという,いわゆる経験学習サイクルを回すことはできませんでした。
このような私自身の苦い経験からも,生きた教材ともいえる臨床現場での出来事から看護師長が学ぶためのツールを作り出したいと考えました。
臨床現場での出来事から学ぶためのツール――「経験学習ノート」
そこで,私は,その当時,思案していた博士論文のテーマを「就任初期の看護師長を対象とする経験学習を基盤とした看護管理能力開発プログラムの開発と評価」と定め,研究に取り組みました。プログラムの中心となるのは,看護師長が,困難な出来事に直面し,乗りこえたあとや,学びを得たと感じる出来事があったあとに,「経験学習ノート」に記述することと,看護部長や副看護部長といった上司とノートの内容を共有しフィードバックを得ることです。
先行研究を調べた結果,経験学習を促進する方法は,ノートに記述する以外にもグループでディスカッションする方法や他者との1対1の対話などいろいろとありました。ノートに記述する方法の特徴として,他の方法と比べてより内省を促進すること,他者と共有すれば自己への認識をいっそう深められることが挙げられていたため,私はこの方法を採用しました。看護師長が経験から学んだことを記録として残せることも,この方法を採用した大きな理由です。
プログラムの評価として,プログラムに参加する前と後に,参加者である看護師長に質問紙に回答してもらいました。その結果,参加者の経験学習の頻度と看護管理能力に有意な向上が認められました。プログラムへの意見として,「経験の振り返りに有効だった」や「学びを言語化することで新たな気づきを得た」「上司とのやりとりで新たな気づきや安心を得た」などがありました。さらに,フィードバック役としてプログラムに参加した上司の方からは,「看護師長の学習ツールとして効果的だった」「看護師長がおかれている状況や課題,思考内容の理解に有用であった」などがあり,「経験学習ノートを使用したやりとりを今後も継続する」という意見を得ました。これらの結果から,私は,看護師長の能力開発の手法として経験学習が効果的であるという手応えを得て,プログラムを多くの方に紹介すべく,本書の執筆を決意しました。
本書が,看護師長の皆さんの職場での経験学習をガイドし,喜びだけでなく苦難をもたらすこともある多くの貴重な仕事経験から糧を得て,看護管理者として成長されることを支援できるよう願っています。
2019年6月
倉岡有美子
目次
開く
はじめに
読者対象と本書の構成
第1章 おとなに適した学び方「経験学習」
1 なぜ経験学習がおとなに適しているのか
Knowlesによる成人の学習者の特徴
子どもとおとなの学びの違い
2 企業の管理者の成長の7割は仕事経験がもたらす
3 経験学習とは何を指すのか
Kolbの経験学習モデル
筆者の研究から導き出した経験学習の定義
4 経験学習の実践方法
1段階目:状況(経験した出来事・事柄を描き出す)
2段階目:内省
3段階目:私が得た知識・スキル
4段階目:異なる状況での試行
5 経験学習を成功させるために
6 企業の管理者を成長させた経験
リーダーシップと経験学習
企業の管理者としての成長に影響を与えた出来事
企業の経営幹部の一皮むけた経験
第2章 看護師長も「経験」から学ぶ─看護師長の4つのストーリー
1 変革を成し遂げた経験
[事例]手術に関して患者への情報提供のしくみを構築したA氏
2 部下を育成した経験
[事例]部下に真摯に向き合い,異動を納得してもらえたB氏
3 管理部署の変化の経験
[事例]経験したことのない手術室の看護師長に就任し,
自分の限界を認めることで部下の信頼と協力を得ることのできたC氏
4 窮地に立った経験
[事例]医療事故の発生後,再発防止策の立案と実施へつなげたD氏
第3章 あなたも経験から学んでみよう─経験学習ノートの使い方
1 ノートに記述することのメリット
2 「経験学習ノート」の使い方
記述するタイミング
各段階での書き方
[1]状況
[2]内省
[3]私が得た知識・スキル
[4]異なる状況での試行
3 他者との共有の仕方
第4章 看護師長として成長するための「経験学習」
─うまくいった経験・失敗した経験からの学び
I 看護師長の経験学習内容の分類
1 状況
1 複雑な課題をもつ患者・家族への介入
2 部下育成
3 新しい部署での部下との関係構築
4 新たな取り組みの導入
5 患者受け入れのための他部署との調整
6 安全管理の問題への対応
7 看護師長自身の能力開発のための計画
2 内省
1 自分自身の感情
2 自己の傾向
3 成功に結びついた自身の判断・行動
4 失敗に至った自身の判断・行動
5 問題自体の原因
6 成功に導くための代替案
3 私が得た知識・スキル
1 患者中心の看護を行う体制づくり
2 部下の力を引き出す支援
3 部下を知り認めることによる信頼の獲得
4 問題の本質的理解と解決方針の提示
5 患者にとっての最適を目指した段取り
6 分析に基づいた再発防止策の実施
7 問題の当事者となった部下の支援
8 目的を明確にした自発的な取り組み
4 異なる状況での試行
1 類似した事例での学びを活かした実践
2 当該事例への継続したアプローチ
II 看護師長の経験学習の事例
1 上司からのフィードバックによって,看護師長として着眼すべきポイントに気づく
[事例]認知症患者の入院をめぐって病棟との連携に悩んだ
外来看護師長A氏の経験学習
2 うまくいった経験から,成功に結びついた自身の判断・行動に気づく
[事例]NICU長期入院児の家族に小児科病棟(一般病棟)への転棟を
工夫して説明し,受け入れられた病棟看護師長E氏の経験学習
3 上司からのフィードバックによって,自分の思い込みに気づく
[事例]部署内のベッドの配置転換を部下にうまく任せられなかった
外来化学療法室の看護師長G氏の経験学習
4 上司からのフィードバックによって,業務遂行に困難を抱える部下への
かかわり方の方向性を見出す
[事例]働き方に問題を抱える部下へのかかわり方に関して悩んだ
病棟看護師長J氏の経験学習
5 同僚看護師長からのフィードバックによって,自分の傾向に気づく
[事例]看護補助者業務の改善に関する内視鏡室の看護師長M氏の経験学習
第5章 看護師長の経験学習を促進するフィードバック
1 「状況」の記述に対するフィードバック
情報の整理と明確化
肯定的な評価
2 「内省」の記述に対するフィードバック
他者の視点での現象の読み解き
看護師長の思考を深めるための質問
3 「私が得た知識・スキル」の記述に対するフィードバック
学びの明確化
今後とるべき行動の具体的な提示
4 「異なる状況での試行」の記述に対するフィードバック
5 フィードバックに関する留意点
経験学習ノートの記載とフィードバック Q&A
あとがき
索引
読者対象と本書の構成
第1章 おとなに適した学び方「経験学習」
1 なぜ経験学習がおとなに適しているのか
Knowlesによる成人の学習者の特徴
子どもとおとなの学びの違い
2 企業の管理者の成長の7割は仕事経験がもたらす
3 経験学習とは何を指すのか
Kolbの経験学習モデル
筆者の研究から導き出した経験学習の定義
4 経験学習の実践方法
1段階目:状況(経験した出来事・事柄を描き出す)
2段階目:内省
3段階目:私が得た知識・スキル
4段階目:異なる状況での試行
5 経験学習を成功させるために
6 企業の管理者を成長させた経験
リーダーシップと経験学習
企業の管理者としての成長に影響を与えた出来事
企業の経営幹部の一皮むけた経験
第2章 看護師長も「経験」から学ぶ─看護師長の4つのストーリー
1 変革を成し遂げた経験
[事例]手術に関して患者への情報提供のしくみを構築したA氏
2 部下を育成した経験
[事例]部下に真摯に向き合い,異動を納得してもらえたB氏
3 管理部署の変化の経験
[事例]経験したことのない手術室の看護師長に就任し,
自分の限界を認めることで部下の信頼と協力を得ることのできたC氏
4 窮地に立った経験
[事例]医療事故の発生後,再発防止策の立案と実施へつなげたD氏
第3章 あなたも経験から学んでみよう─経験学習ノートの使い方
1 ノートに記述することのメリット
2 「経験学習ノート」の使い方
記述するタイミング
各段階での書き方
[1]状況
[2]内省
[3]私が得た知識・スキル
[4]異なる状況での試行
3 他者との共有の仕方
第4章 看護師長として成長するための「経験学習」
─うまくいった経験・失敗した経験からの学び
I 看護師長の経験学習内容の分類
1 状況
1 複雑な課題をもつ患者・家族への介入
2 部下育成
3 新しい部署での部下との関係構築
4 新たな取り組みの導入
5 患者受け入れのための他部署との調整
6 安全管理の問題への対応
7 看護師長自身の能力開発のための計画
2 内省
1 自分自身の感情
2 自己の傾向
3 成功に結びついた自身の判断・行動
4 失敗に至った自身の判断・行動
5 問題自体の原因
6 成功に導くための代替案
3 私が得た知識・スキル
1 患者中心の看護を行う体制づくり
2 部下の力を引き出す支援
3 部下を知り認めることによる信頼の獲得
4 問題の本質的理解と解決方針の提示
5 患者にとっての最適を目指した段取り
6 分析に基づいた再発防止策の実施
7 問題の当事者となった部下の支援
8 目的を明確にした自発的な取り組み
4 異なる状況での試行
1 類似した事例での学びを活かした実践
2 当該事例への継続したアプローチ
II 看護師長の経験学習の事例
1 上司からのフィードバックによって,看護師長として着眼すべきポイントに気づく
[事例]認知症患者の入院をめぐって病棟との連携に悩んだ
外来看護師長A氏の経験学習
2 うまくいった経験から,成功に結びついた自身の判断・行動に気づく
[事例]NICU長期入院児の家族に小児科病棟(一般病棟)への転棟を
工夫して説明し,受け入れられた病棟看護師長E氏の経験学習
3 上司からのフィードバックによって,自分の思い込みに気づく
[事例]部署内のベッドの配置転換を部下にうまく任せられなかった
外来化学療法室の看護師長G氏の経験学習
4 上司からのフィードバックによって,業務遂行に困難を抱える部下への
かかわり方の方向性を見出す
[事例]働き方に問題を抱える部下へのかかわり方に関して悩んだ
病棟看護師長J氏の経験学習
5 同僚看護師長からのフィードバックによって,自分の傾向に気づく
[事例]看護補助者業務の改善に関する内視鏡室の看護師長M氏の経験学習
第5章 看護師長の経験学習を促進するフィードバック
1 「状況」の記述に対するフィードバック
情報の整理と明確化
肯定的な評価
2 「内省」の記述に対するフィードバック
他者の視点での現象の読み解き
看護師長の思考を深めるための質問
3 「私が得た知識・スキル」の記述に対するフィードバック
学びの明確化
今後とるべき行動の具体的な提示
4 「異なる状況での試行」の記述に対するフィードバック
5 フィードバックに関する留意点
経験学習ノートの記載とフィードバック Q&A
あとがき
索引
書評
開く
看護師長の日々の経験は貴重な学習の機会
書評者: 浅田 美和 (聖路加国際病院看護部ナースマネジャー)
臨床現場の看護師長は,日々,患者さんや部下のスタッフ,多職種との間で発生するさまざまな課題に必死で対応し,もがきながらも自分の役割を精一杯,遂行していることだと思う。私自身も,一般病棟の看護師長としての経験の中で,もやもやした気持ちを残した出来事は数えきれない。看護師長であれば誰しも思い当たるであろう困難な出来事の経験から,看護師長が学び,成長することを支援するのが,この『看護師長として成長しつづける! 経験学習ガイドブック』である。
著者は,自身の看護師長としての経験から,どれほどマネジメント理論を学んでも,経験してみないとわからないことがたくさん起こるのが臨床現場であるという実感や,優れたマネジャーは経験から学ぶという一般企業での事例から,「経験学習」に着目した。著者の博士論文をもとに構成された本書は,臨床現場の看護師長にとって,すぐに活用可能で,実践的な内容となっている。「達成感や学びを得た出来事があったとき」「おこった出来事にうまく対処できなくてもやもや感が残っているとき」などに,その出来事を「経験学習ノート」に記述し,上司からのフィードバックを得て,次の実践に生かすというのがプログラムの一連の流れである。
本書では,Kolbの経験学習モデルを基盤にし,看護師長の経験学習を「個人が,挑戦的な課題に取り組み,その後に内省することで,知識やスキルを獲得し,いったん獲得した知識やスキルを異なる状況で適用し試行することで,新たな挑戦的な課題への取り組みをするという循環型のプロセス」と定義している。ただ経験しさえすれば,おのずと学習できるというわけではなく,経験から知識を生み出すことが鍵となる。本書では,経験から知識を生み出すために効果的な「経験学習ノート」の記述方法をはじめ,他者との共有の仕方,上司からのフィードバック方法,さらには一人で経験学習を行う場合について丁寧にガイドしている(経験学習ノートは,医学書院ウェブサイトからダウンロード可能)。
また本書には,著者の研究で得られた看護師長の経験と,上司からのフィードバックの記述の実例も多く紹介されている。本書で紹介される看護師長たちの経験学習のプロセスに触れることで,「経験」という貴重な学習の機会を生かさないことがいかにもったいないことかと気付かされる。看護師長のしごとの面白さは,苦しさも楽しさも全て,患者さんや他のスタッフとのかかわり,つまり日々の「経験」の中にあるということだと思う。本書を読み終えたときには,「経験」から豊かな学びを得ることのできる看護師長というしごとの面白さを再認識し,苦しかった出来事を前向きな学びに変える「経験学習」に自分も取り組んでみたいと,勇気づけられることだろう。看護師長の成長の過程に寄り添い,ガイドしてくれる本書は,看護師長はもちろん,看護師長を支援する立場の方々にぜひお読みいただきたい一冊である。
「私の経験」を次につながる「知識・スキル」に変える1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 中村 綾子 (昭和大学病院看護部 次長/昭和大学保健医療学部 講師)
◆私を形づくるのは日々の出来事
「習うより慣れよ」。この慣用句にうなずく人も多いだろう。私自身もそうだ。先日初めてウクレレに触れたときのこと,ひとまず,いくつかのコードの押さえ方を教えてもらったが,ピンとこない。結局,自分で試行錯誤しながら弾いてみたことが,簡単なコード進行の曲を弾けるようになる近道だったように思う。
では,看護師長の仕事はどうだろう。看護師長になって,新任看護師長研修を受けたり,上司から個別に指導を受けたり,さまざまな方法で学ぼうとする。でもやはり,患者さんとのやりとり,スタッフとの話し合い,他職種との交渉といった,現場での日々の出来事こそが私を看護師長にしてくれたと思う。
そう思う一方で,いざ思い出そうとしても,よほど印象的な出来事ならいざ知らず,毎日の出来事となるとそのときは対処に苦労したはずなのにほとんど思い出せないというのが現実だ。
しかし,私たちは忘れてしまう毎日の出来事とそれへの対処からこそ学ぶべきなのだろう。なぜなら,大きな事件なんてそんなにはなく(あっても困る),過ぎ去れば忘れてしまうような出来事の対処で毎日は過ぎていくからだ。
大事件への対処は私を一回り成長させてくれるけれど,本当に大事なのは,殻を破るまでに自分自身を育てるのは,普段の出来事とその対処なのだと思う。私たちの体のほとんどを作っているのが記念日のディナーではなく,毎日の食事であることと同じように。
◆4つのステップで経験学習のサイクルを回すことができる
さて,本書『経験学習ガイドブック』は,語り口はライトで読みやすいが,博士論文をもとに書かれており,研究に裏打ちされた看護師長の経験学習の手引書である。
本書に示された「経験学習ノート」を記載することにより,内省を深めたり,記述内容を他者と共有したりできる。また,提示された4つのステップを踏みながらノートを記載することで,経験学習のサイクルを回すことができるという。さらに,幾人かの看護師長の記述から構成された経験学習ノートが例示されており,解説を含め読み進めることで,私たちは追体験による学習もできるのだ。
もっとも,自分の経験を書き残すなら自分流の日記やメモで十分という人もいるかもしれない。確かに書かないよりはよいだろう。しかし,本書の示す4つのステップという作法を会得できたなら,「私の経験」を次につながる「知識・スキル」に変えることができるのだ。
◆新たな役割を前にもがく看護師長に
新任看護師長の1年は,期待に胸を膨らませた自分が世間知らずに思えるくらい,毎日の出来事に追われ,ノックアウト寸前のボクサーのようだったと記憶している。そして,かつての私と同じように,新たな役割を前にもがいている看護師長がそこかしこにいると確信している。そんな看護師長に本書を手に取ってもらいたい。
きっと迷いながら経験学習ノートを書き進めることで,あるいは経験学習ノートを通じて上司とやりとりをすることで,自身の成長に気づかされるはずだ。
(『看護管理』2019年12月号掲載)
書評者: 浅田 美和 (聖路加国際病院看護部ナースマネジャー)
臨床現場の看護師長は,日々,患者さんや部下のスタッフ,多職種との間で発生するさまざまな課題に必死で対応し,もがきながらも自分の役割を精一杯,遂行していることだと思う。私自身も,一般病棟の看護師長としての経験の中で,もやもやした気持ちを残した出来事は数えきれない。看護師長であれば誰しも思い当たるであろう困難な出来事の経験から,看護師長が学び,成長することを支援するのが,この『看護師長として成長しつづける! 経験学習ガイドブック』である。
著者は,自身の看護師長としての経験から,どれほどマネジメント理論を学んでも,経験してみないとわからないことがたくさん起こるのが臨床現場であるという実感や,優れたマネジャーは経験から学ぶという一般企業での事例から,「経験学習」に着目した。著者の博士論文をもとに構成された本書は,臨床現場の看護師長にとって,すぐに活用可能で,実践的な内容となっている。「達成感や学びを得た出来事があったとき」「おこった出来事にうまく対処できなくてもやもや感が残っているとき」などに,その出来事を「経験学習ノート」に記述し,上司からのフィードバックを得て,次の実践に生かすというのがプログラムの一連の流れである。
本書では,Kolbの経験学習モデルを基盤にし,看護師長の経験学習を「個人が,挑戦的な課題に取り組み,その後に内省することで,知識やスキルを獲得し,いったん獲得した知識やスキルを異なる状況で適用し試行することで,新たな挑戦的な課題への取り組みをするという循環型のプロセス」と定義している。ただ経験しさえすれば,おのずと学習できるというわけではなく,経験から知識を生み出すことが鍵となる。本書では,経験から知識を生み出すために効果的な「経験学習ノート」の記述方法をはじめ,他者との共有の仕方,上司からのフィードバック方法,さらには一人で経験学習を行う場合について丁寧にガイドしている(経験学習ノートは,医学書院ウェブサイトからダウンロード可能)。
また本書には,著者の研究で得られた看護師長の経験と,上司からのフィードバックの記述の実例も多く紹介されている。本書で紹介される看護師長たちの経験学習のプロセスに触れることで,「経験」という貴重な学習の機会を生かさないことがいかにもったいないことかと気付かされる。看護師長のしごとの面白さは,苦しさも楽しさも全て,患者さんや他のスタッフとのかかわり,つまり日々の「経験」の中にあるということだと思う。本書を読み終えたときには,「経験」から豊かな学びを得ることのできる看護師長というしごとの面白さを再認識し,苦しかった出来事を前向きな学びに変える「経験学習」に自分も取り組んでみたいと,勇気づけられることだろう。看護師長の成長の過程に寄り添い,ガイドしてくれる本書は,看護師長はもちろん,看護師長を支援する立場の方々にぜひお読みいただきたい一冊である。
「私の経験」を次につながる「知識・スキル」に変える1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 中村 綾子 (昭和大学病院看護部 次長/昭和大学保健医療学部 講師)
◆私を形づくるのは日々の出来事
「習うより慣れよ」。この慣用句にうなずく人も多いだろう。私自身もそうだ。先日初めてウクレレに触れたときのこと,ひとまず,いくつかのコードの押さえ方を教えてもらったが,ピンとこない。結局,自分で試行錯誤しながら弾いてみたことが,簡単なコード進行の曲を弾けるようになる近道だったように思う。
では,看護師長の仕事はどうだろう。看護師長になって,新任看護師長研修を受けたり,上司から個別に指導を受けたり,さまざまな方法で学ぼうとする。でもやはり,患者さんとのやりとり,スタッフとの話し合い,他職種との交渉といった,現場での日々の出来事こそが私を看護師長にしてくれたと思う。
そう思う一方で,いざ思い出そうとしても,よほど印象的な出来事ならいざ知らず,毎日の出来事となるとそのときは対処に苦労したはずなのにほとんど思い出せないというのが現実だ。
しかし,私たちは忘れてしまう毎日の出来事とそれへの対処からこそ学ぶべきなのだろう。なぜなら,大きな事件なんてそんなにはなく(あっても困る),過ぎ去れば忘れてしまうような出来事の対処で毎日は過ぎていくからだ。
大事件への対処は私を一回り成長させてくれるけれど,本当に大事なのは,殻を破るまでに自分自身を育てるのは,普段の出来事とその対処なのだと思う。私たちの体のほとんどを作っているのが記念日のディナーではなく,毎日の食事であることと同じように。
◆4つのステップで経験学習のサイクルを回すことができる
さて,本書『経験学習ガイドブック』は,語り口はライトで読みやすいが,博士論文をもとに書かれており,研究に裏打ちされた看護師長の経験学習の手引書である。
本書に示された「経験学習ノート」を記載することにより,内省を深めたり,記述内容を他者と共有したりできる。また,提示された4つのステップを踏みながらノートを記載することで,経験学習のサイクルを回すことができるという。さらに,幾人かの看護師長の記述から構成された経験学習ノートが例示されており,解説を含め読み進めることで,私たちは追体験による学習もできるのだ。
もっとも,自分の経験を書き残すなら自分流の日記やメモで十分という人もいるかもしれない。確かに書かないよりはよいだろう。しかし,本書の示す4つのステップという作法を会得できたなら,「私の経験」を次につながる「知識・スキル」に変えることができるのだ。
◆新たな役割を前にもがく看護師長に
新任看護師長の1年は,期待に胸を膨らませた自分が世間知らずに思えるくらい,毎日の出来事に追われ,ノックアウト寸前のボクサーのようだったと記憶している。そして,かつての私と同じように,新たな役割を前にもがいている看護師長がそこかしこにいると確信している。そんな看護師長に本書を手に取ってもらいたい。
きっと迷いながら経験学習ノートを書き進めることで,あるいは経験学習ノートを通じて上司とやりとりをすることで,自身の成長に気づかされるはずだ。
(『看護管理』2019年12月号掲載)
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