これでわかる!
抗菌薬選択トレーニング
感受性検査を読み解けば処方が変わる

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薬剤感受性検査結果の見かた、教えます! 抗菌薬を処方する際には、感染症と抗菌薬の知識はもちろんですが、薬剤感受性検査結果を読み解く力も大変重要です。ところが、今までこの部分にスポットをあてた書籍はほぼ皆無でした。本書では、約60問の精選問題に取り組んでいただくことで、実践で役立つ基礎力が身につくようにしました。抗菌薬適正処方とAMR対策に、医師のほか、ASTにかかわる薬剤師・臨床検査技師にもおすすめです。

編集 藤田 直久
発行 2019年10月判型:B5頁:194
ISBN 978-4-260-03891-1
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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はじめに

 みなさんは,実際の診療で抗菌薬の処方を行う際,その選択をどのように行っていますか? おそらく,まず患者さんの背景や起炎菌,そのほか薬剤感受性試験結果などを確認されると思います.しかし,その薬剤感受性結果については,みなさんどこまで読み解かれているでしょうか? いろいろな先生方から感染症のコンサルトを受けていると,「実は感受性結果の“感性(S)/中間(I)/耐性(R)”の判定しか見ていない」あるいは「培養検査を実施せずに,漫然と抗菌薬を処方してしまっている」という事例も散見されます.また,もう1つ重要なのは,実は薬剤感受性が(S)だからといって,必ずしも適正な抗菌薬であるとはいえないという点です.(S)の抗菌薬を処方しても,場合によっては臓器移行性の問題や耐性遺伝子の発現の問題などから適切な治療に結びつかないこともあり,さらに耐性菌を生み出す懸念もあります.
 耐性菌は今,世界的に深刻な問題となっています.このまま耐性菌が増え続けると,30年後の2050年には,多剤耐性菌による死者数ががんの死者数を上回るともいわれています.そこで2015年,WHOはAMR(antimicrobial resistance:薬剤耐性)に関する世界計画を発表しました.それを受け,わが国でもAMR対策アクションプランが決定されました.そこでは抗微生物薬の使用量の削減や微生物の薬剤耐性率などについて,細かく,具体的な目標数値が示されています.これらを進めていくうえでも,日々の抗菌薬の適正使用は非常に重要な課題といえます.
 適正な抗菌薬の処方には,起炎菌に対し効果があり,かつスペクトラムの狭い抗菌薬を選ぶことが基本ですが,そのためには,薬剤感受性試験結果を正しく読み解くことが重要となります.では,どのようにそのトレーニングをすればよいでしょうか? 大切な問題でありながら,今までこの部分にスポットが当てられることはあまりありませんでした.感染症診療や抗菌薬に関する書籍はたくさんありますが,一方で薬剤感受性試験結果のみかたをテーマにした書籍や教材は皆無に等しい状態でした.であれば,私たち自身で書籍を新たに作ればよいのではないか,という結論に至りました.
 私たちの施設では,医師,薬剤師,臨床検査技師,看護師の4職種による抗菌薬適正使用推進チーム(AMT:antimicrobial management team,のちのAST:antimicrobial stewardship team)を2003年に結成し,多職種による抗菌薬適正使用支援プログラム(ASP:antimicrobial stewardship program)を通じて抗菌薬適正使用を推進してきました.また2010年からは,感染症専門の医師がいない施設において,抗菌薬適正使用を支援し,どのようにすれば推進することができるのかについて,いくつかの基幹病院でトライアルを重ねてきました.そのなかで明らかになってきたことは,感染症診療の基本である,① 適切な検体採取,② 適切な細菌検査(特に薬剤感受性試験),③ 検査結果の解釈,④ 抗菌薬の選択(投与経路,投与量,投与期間を含む),⑤ 感染症の治療経過の理解,のいずれか,または複数の点に問題があり,そのために抗菌薬適正使用がうまく進んでいなかったということです.なかでも,検査室から情報提供された検査結果の解釈に問題があり,その後の抗菌薬選択がうまくできていない症例が少なからずあることがわかってきました.以上の点も含め,本書にはこれまでに経験したコンサルト症例を参考に,「この知識だけは必ず知っておいていただきたい」という内容を厳選して収めました.本書第II章の実践編を読み解いていただくことにより,薬剤感受性試験結果のみかた,微生物検査の基本的なプロセス,さらに追加検査の必要性などについての理解が深まり,先に挙げた問題を克服できるよう工夫しています.
 本書は3部構成となっています.第I章には感染症診療での基本を記しました.ここでは第II章を読み進めていただくうえで必須となるトピックのみ簡潔にまとめています.第II章は本書のメイン部分で「処方問題」となっています.各問題の解説には感染症専門薬剤師による「抗菌薬一口メモ」を付し,問題を解きながら,臨床に役立つ抗菌薬の特徴が理解できるようになっています.第III章では医師も知っておきたい検査の最低限の基本も紹介しました.一見,実診療にはつながらないと思われるかもしれませんが,どのように検査が行われているかをおおまかに把握しておくことで,検査のどこに落とし穴がありそうか,などの勘が働くようになります.また付録として抗菌薬のスペクトラム表と,主な抗菌薬の特徴一覧を掲載しました.
 本書は,抗菌薬処方を行う医師はもちろん,ASTやASPにかかわる薬剤師・臨床検査技師の皆さんにも役立てていただけるものと思います.この本を読み進めていくと,これまで漠然と見ていた細菌検査結果についての理解が一層深まり,今後の感染症診療あるいはASP活動に必ず役立つと確信しています.この本が出版される令和元年が,皆様の感染症診療あるいはAST活動の新たな出発の年になることを祈念しています.

 令和元年8月
 藤田直久

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第I章 診療の原則編
 ①感染症診療の基本的なプロセス
 ②薬剤感受性検査とは
 ③感染臓器・部位からみる処方抗菌薬のポイント

第II章 実践編
 症例1 MSSA(1)
 症例2 MSSA(2)
 症例3 MSSA(3)
 症例4 MSSA(4)
 症例5 MRSA(1)
 症例6 MRSA(2)
 症例7 MRSA(3)
 症例8 MRSA(4)
 症例9 MRSA(5)
 症例10 MRSA(6)
 症例11 S. lugdunensis
 症例12 MRSE(1)
 症例13 MRSE(2)
 症例14 S. saprophyticus
 症例15 S. pneumoniae(1)
 症例16 S. pneumoniae(2)
 症例17 S. pyogenes(1)
 症例18 S. pyogenes(2)
 症例19 S. mitis(1)
 症例20 S. mitis(2)
 症例21 E. faecalis(1)
 症例22 E. faecalis(2)
 症例23 E. faecalis(3)
 症例24 E. coli(1)
 症例25 E. coli(2)
 症例26 E. coli(3)ESBL①
 症例27 E. coli(4)ESBL②
 症例28 K. pneumoniae(1)
 症例29 K. pneumoniae(2)
 症例30 S. marcescens(1)
 症例31 S. marcescens(2)
 症例32 E. cloacae(1)
 症例33 E. cloacae(2)
 症例34 E. cloacae(3)CRE
 症例35 E. coli(5)CPE①
 症例36 E. coli(6)CPE②
 症例37 P. aeruginosa(1)
 症例38 P. aeruginosa(2)
 症例39 A. baumannii(1)
 症例40 A. baumannii(2)MDRA
 症例41 S. maltophilia
 症例42 B. cereus(1)
 症例43 B. cereus(2)
 症例44 C. difficile(1)
 症例45 C. difficile(2)
 症例46 M. tuberculosis(1)
 症例47 M. tuberculosis(2)
 症例48 M. avium
 症例49 M. abscessus
 症例50 市中肺炎
 症例51 誤嚥性肺炎(1)
 症例52 誤嚥性肺炎(2)
 症例53 誤嚥性肺炎(3)
 症例54 M. pneumoniae
 症例55 Legionella
 症例56 B. pertussis
 カラー図譜 グラム染色・培養

第III章 検査知識編
 ①要チェック! 正しい検体採取と搬送のしかた
 ②実は難しい細菌同定
 ③薬剤感受性検査の落とし穴
 ④あなたの施設は大丈夫!? 適切なアンチバイオグラムの作成法
 ⑤薬剤耐性菌に強くなるための5つの基本
 ⑥抗酸菌検査の概略をおさえよう
 症例57 selective reporting
 症例58 プラスミド性AmpC型 β ラクタマーゼ
 症例59 ESBL確認試験
 症例60 FOMの薬剤感受性結果
 症例61 基準となる抗菌薬投与方法

付録
 付録1 本書で取り上げた主な抗菌薬のスペクトラム
 付録2 覚えておきたい代表的な抗菌薬

あとがき
索引

抗菌薬一口メモ
 注射剤から経口剤へのスイッチ療法(CEX)
 β ラクタム系抗菌薬の薬物動態/薬力学(PK/PD)
 抗菌薬の移行性が悪い臓器と組織
 細菌性髄膜炎とセファロスポリン系抗菌薬の投与量
 CTRXのピットフォール
 VCMの治療薬物モニタリング(TDM)①:検体採取のポイント
 VCMの治療薬物モニタリング(TDM)②:目標血中濃度の設定
 VCMの点滴時間
 LZDの特徴と注意点
 DAPの特徴と注意点
 腎不全時の抗菌薬投与量の注意点
 ペニシリン系抗菌薬との交差アレルギー
 CRBSIに対する抗菌薬ロック療法
 VCMは経口投与しても腸管から吸収されない?
 PCG投与時は,血中カリウム値と溶解液量に注意
 細菌性髄膜炎に対する抗菌薬投与量
 毒素産生抑制効果を有する抗菌薬
 ピボキシル(PI)基を有する経口抗菌薬の腸管吸収と副作用
 安全に抗菌薬のde-escalation(狭域化)を進めるために
 感染性心内膜炎でのアミノグリコシド系抗菌薬の用法
 ペニシリン系抗菌薬の歴史
 アミノグリコシド系抗菌薬の併用療法
 ダブル β ラクタム療法
 経口抗菌薬と薬物動態
 ST合剤の特徴と注意点
 セファマイシン系抗菌薬の代替薬
 ESBL産生菌と発熱性好中球減少症
 内因性耐性
 inoculum effect
 CTXとCTRXの違い
 セファロスポリン系抗菌薬(CAZ)に関する世代分類の落とし穴
 β ラクタム系抗菌薬の長時間点滴
 主なAmpC型 β ラクタマーゼ産生菌
 カルバペネマーゼ産生菌に対する治療薬
 CLの併用療法
 カルバペネマーゼ産生菌に対する新しい治療薬
 抗菌薬投与時の電解質負荷
 アミノグリコシド系抗菌薬の単剤治療は行わない?
 β ラクタマーゼ阻害薬の作用機序
 TGC使用時の注意点
 カルバペネム系抗菌薬の違い
 芽胞形成菌に対する抗菌薬療法
 B. cereusに対する抗菌薬療法
 C. difficile感染症に対する治療薬
 FDX使用時の注意点
 抗結核薬について
 抗結核薬としてのLVFXの位置づけ
 CAM投与時の注意点
 RFPとRBT
 CVAと抗菌薬関連下痢症
 TAZ/PIPCの注意点
 MRSA肺炎に対する抗菌薬療法
 抗菌薬の組織移行性
 マクロライド系抗菌薬の特徴
 キノロン系抗菌薬の使い分け
 マクロライド系抗菌薬の適応外使用について

コラム
 コラム1 ASTとは
 コラム2 CLSIとは
 コラム3 血液培養とコンタミネーション
 コラム4 ASTにおける微生物検査の重要性
 コラム5 長期培養の依頼が必要な場合
 コラム6 抗菌薬のPK/PD理論とは

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「菌トレ」本で,今こそ感受性結果の見かたを鍛えよう
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
 2016年5月に開催された先進国首脳会議,通称「伊勢志摩サミット」で薬剤耐性(AMR)の問題が取り上げられ,当時の塩崎恭久厚生労働大臣のイニシアチブの下さまざまな企画が立ち上げられた。国立国際医療研究センターにある国際感染症センターの活動も周知のとおりである。

 にもかかわらず,広域抗菌薬の代表とも言えるカルバペネム系抗菌薬の消費が,日本だけで世界の7割を占めるという状況から,(一部の意識の高い施設を除いて)大きく変わった印象が現場に少ない。もちろん,最大の原因は「感染症診療の原則とその文化」の広がりが均一でないことによる。しかし,さらにつきつめると,実は「抗菌薬感受性検査の読み方」が十分に教育できていないことも大きな理由の一つである。感受性検査の結果をS,I,Rに分類して単純に「Sを選ぶ」ことに疑問を抱かない問題と言ってもよい。一つひとつの症例で,ある抗菌薬が選ばれる背景には,感受性が「S」であること以外にも,微生物学的・臨床的・疫学的など多くの理由がある。その理解なしに,適切な抗菌薬の選択は不可能あるいは危険なのである。評者も,群馬大におられた佐竹幸子先生らとともにNPO法人EBICセミナーの一環として「抗菌薬感受性検査の読み方」シリーズを10年以上にわたり講義してきた。その講義は現在,日本感染症教育研究会(通称IDATEN)に引き継がれている。しかし,そのエッセンスを伝える書物は本書の発行まで皆無であった。

 以下に,本書よりポイントの一部を紹介しよう。

 (1)経口薬での狭域化の際には,腸管吸収率を勘案した上で,抗菌スペクトラムの狭い抗菌薬を選択する(主な経口セファロスポリン系,ペニシリン系抗菌薬の薬物動態の表なども有用)。〔pp.57-58〕

 (2)同じグラム陰性桿菌(Klebsiella pneumoniae)による感染症で,かつ同じ感受性検査結果であっても,「尿路感染症」「肝膿瘍」などのように病態が異なれば,選択すべき抗菌薬も変わる(本書は一見,単なる症例集に見えるが,かなり丁寧に作り込まれている。例えば,ある「ツボ」の部分の設定のみを変更した全く同一の2症例を意図的に並べ,その「ツボ」の理解の重要性を際立たせる工夫もされている)。〔pp.65-68〕

 (3)感受性検査結果で全ての抗菌薬が「S」であっても,菌種によっては耐性化が予想されるため,選択すべき抗菌薬が決まっていることもある(特に染色体性にAmpC型βラクタマーゼ産生遺伝子を有する細菌Enterobacter spp., Serratia spp., Citrobacter spp.の場合)。〔pp.75-76〕

 (4)患者の状態は改善傾向だが,培養で現在使用中の抗菌薬に耐性の菌が検出された症例(抗菌薬使用中に培養で検出された菌が原因微生物とは限らない。非常によくある臨床の風景)。〔pp.91-92〕

 本書の愛称は「菌トレ」だそうだ。「ベテランの自分に,今さら“キントレ”など必要ない」と思われる方も,ぜひお手に取って症例問題に挑戦いただきたい。思いのほか正解できず慌てるに違いない。「菌トレ」本が,多くの読者を得ることを願うばかりである。

 評者が,藤田直久先生のおられる京都府立医大に年数回伺い,感染症の勉強をさせていただくようになって早いもので15年ほどになる。抗菌薬適正使用の文化を育てることが困難な「大学」という施設で,忍耐強く教育・啓蒙活動を行い,耐性菌対策を続けてこられた本書執筆陣の藤田先生,中西雅樹先生,小阪直史先生らのご尽力に,あらためて敬意を表する次第である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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