誤りやすい異常脳波 第3版

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脳波の初学者が最低限判読できなくてはならない波形の解説はもちろん、定型的な異常脳波の陰にある、解釈困難な、紛らわしい、わかりにくい脳波に光をあて、誤りやすい側面を浮き彫りにした。第3版では「第4章 誤りやすい特殊脳波」を新設。国際臨床神経生理学会用語集の改訂に伴い解釈が変更になった波形についても解説。
市川 忠彦
発行 2005年04月判型:B5頁:296
ISBN 978-4-260-11899-6
定価 6,050円 (本体5,500円+税)
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1 誤りやすい「異常脳波の臨床的意義」
2 誤りやすい異常脳波
 1. 広汎アルファパターン
 2. 低電圧脳波
 3. 後頭部α波の左右差
 4. α帯域波の広汎性群発
 5. 異常速波
 6. 広汎性の徐波異常脳波
 7. 広汎性徐波群発
 8. 広汎性棘・徐波複合
 9. 局在性棘(鋭)波
 10. 見かけの陽性鋭波と矩形波
 11. 局在性律動性棘(鋭)波
 12. 高振幅律動性徐波
 13. Recruiting rhythm
 14. Hypsarrhythmia
 15. ローランド放電
 16. 多形デルタ活動
 17. 前頭部間欠律動性デルタ活動
 18. Lazy activity
 19. 入眠時レム期
 20. 三相波
 21. 周期性同期発射
 22. Burst suppression
 23. 平坦脳波
 24. 閉眼で誘発される突発波
 25. 過呼吸賦活でみられる異常脳波
 26. 光刺激賦活でみられる異常脳波
 27. 小児の覚醒期における徐波異常脳波
 28. 老年者の徐波異常脳波
3 誤りやすい正常脳波
 1. 徐アルファ異型律動
 2. 高振幅で尖鋭なα波
 3. 後頭部三角波
 4. 入眠時過同期
 5. 小児の尖鋭な頭蓋頂鋭一過波
 6. K複合
 7. Fm θ
4 誤りやすい特殊脳波
 1. Small sharp spikes(SSS)
 2. 6Hz棘・徐波
 3. 14&6Hz陽性群発
 4. Mitten pattern
 5. Extreme spindles
 6. ウィケット棘波
 7. Anterior bradyrhythmia
 8. SREDA
 9. Psychomotor variant
5 誤りやすい臨床脳波像
 1. Spike‐wave stupor
 2. 紡錘波昏睡、アルファ昏睡とベータ昏睡
引用文献
索引

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脳波の日常的な疑問に答える深みのあるガイドブック
書評者: 山内 俊雄 (埼玉医大学長・精神医学)
 脳の検査法は格段に進歩している。特に画像診断はCTからMRIへ,そして3次元画像からさまざまな機能画像へと,その進歩はとどまるところを知らない。そんな中にあって,いわゆる臨床脳波は,脳から導出された電流を波形としてみるという方法をかたくなに守っている。もちろん,脳波のコンピュータ解析やマッピングも行われてはいるが,脳波波形を通して,脳の働きを読み取ることができるという臨床脳波の意義は,今でも変わらない。

 それにしても,脳波波形を通して脳機能を読み取る姿勢が,教育現場から少しずつ薄れていっていることは残念なことである。それはおそらく,現代では,アナログ的姿勢よりデジタル的姿勢がより好まれ,数字化されたものに,より安心を求める風潮とも関係しているように思われる。

 とはいえ,脳波のもつ情報量の多さと,機能診断として優れた検査法であることに変わりはない。したがって,脳機能に関わりを持つ者すべてにとって,脳波を駆使して,脳についての理解を深めることが必須の要件となる。

 本書は,脳波の持つ,とっつきにくさ,分かりにくさを払拭するために,著者自らが経験した200例に及ぶ脳波を呈示し,具体的に説明しており,その意味では,単なる解説書とは異なるものである。しかも,「このα波の出方は異常か」「この程度の左右差は正常か」「高振幅で先のとがったα波をどう考えるか」などなど,いずれも日常的に遭遇することの多い疑問に答えるような項目が満載されている。それもレベルによって,必ず修得しなくてはならないビギナーコース,もっと経験を積んでから学べばよいアドバンスコースとひとつひとつの項目にレベル設定がしてあるのも,メリハリが利いて,学ぶ者にとっては大いに助けとなる。

 本書は,第3版とあるように,1989年に初版が出て以降,好評裡に,16年の間に版を重ねて,今回の大幅改訂となったものである。今回の改訂は,国際臨床神経生理学会が用語を改訂し,いくつかの波形の解釈に新しい指針を打ち出したのに合わせて,項目の追加や解説を付け加えたものである。その結果,図も159枚から200枚へと大幅に増え,内容の充実もはかられた。

 著者は,国内で臨床脳波の研鑽を積んだ後,フランスの臨床脳波学の泰斗であったGastaut教授の下で学んだ,この道の第一人者である。そのこともあって,脳波の解説の随所に,例えばこの波は一次性両側同期か,二次性の同期化によるものかといった,病態に関わる解説のあるのも,単に現象を読み解くだけではない,深みのある解説となっている。

 これまでの経験からすると,脳波に親しむのは,研修初期の,まだ若いうちである。医師になって何年かすると,多くの者が脳波を記録したり,読んだりするのが億劫になり,この有益な脳機能判定の武器になじめず,自らの能力を放棄することになる。したがって,医学生や研修医,あるいは検査に携わる者や医療関係者はなるべく早い時期にこの本をもとに勉強すべきである。さもないと能力を高める時期を逸することになる。

 その意味では,先輩を囲んで本書をネタに,臨床と脳波の結びつきも含めて,お互いに議論しながら勉強するのが,脳波を自家薬籠中のものにする最良の方法ではないだろうか。そのことがとりもなおさず,巻頭にあげられたGastaut教授の言葉,脳波学を学ぶことも大切であるが,もっと大切なことは,『患者と2人で,一種のシンポジウムを行うことである』という趣旨に添うことになろう。

臨床脳波判読における座右の書
書評者: 井上 令一 ((財)順天堂精神医学研究所所長)
 昨年(2004年),11月17―19日の3日間,第34回日本臨床神経生理学会学術大会が,杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授を会長として東京の台場で開かれた。

 古賀学会会長は,学会のテーマを“Back to Clinical Neurophysiology”とされ,そのご挨拶の中で「…むしろ若い先生方に神経生理学の楽しさ,醍醐味といったものを知っていただき,よかったら一緒に勉強しませんか,という気持ちの現れとご理解いただきたい。“脳波なんて3日でわかる”というシンポジウムはそのきっかけ作りというつもりで設けたものである。もちろん,ベテランの先生方にももう一度楽しさを味わっていただくことを期待している…」と述べられたが,この学会は1300人余の人達が集まるという盛況であった。シンポジウム“脳波なんて3日でわかる”は,基礎編,臨床編,応用編と3日に分けられて開催された。評者も松浦雅人教授と臨床編の座長を務めさせていただいたが,熱気溢れる会場であった。古賀会長も憂えておられたように,近年,臨床医は中枢神経系の検査もCT,MRI,PET,SPECTなどの目覚ましい発展に目を奪われ,残念なことに臨床脳波はともすれば片隅に追いやられている観がある。

 非侵襲的で脳機能の状態をリアルタイムで伝えてくれる臨床脳波は,他の検査と比べても勝るとも劣らぬ情報を提供してくれるのである。

 著者である市川忠彦先生は,若き日にレンノックス・ガストー症候群に名を残された,てんかん学の泰斗であるフランスのガストー教授の許に学ばれ,l’Attestation d’Études d’EEG Cliniqueを取得されている。本書は1989年6月15日に初版が出され今回は第3版であるが,さらに「誤りやすい特殊脳波」が書き加えられて,国際臨床神経生理学会用語集の改訂に伴う解説が行われている,まさに臨床脳波を判読する際の座右の書である。

 本書は疾患中心ではなく波形を中心とした教科書であるが,提示されている脳波は,実に綺麗で説得力がある。波形の示す性状と示唆される病変を綴りながら,著者の「…定型的な異常波形の陰で,これまでともすればかえりみられなかった紛らわしい波形に光をあてながら,それぞれの異常波形がもつ誤られやすい側面を浮き彫りにしてみた…」(初版・序)という脈絡が生き生きと読者に伝わり,推理小説を読むような楽しさがある。これは類書に例を見ない本書の特徴である。脳波はてんかんや外傷性その他の脳器質性疾患の診断や経過に有用な情報を提供するが,情動障害や発達障害などにみられる特殊な波形もある。ぜひ,本書を一読され,臨床脳波がいかに面白く,示唆に富むものであるかを,本書を改めて通読しつつ読者にも検証して頂きたいと心から願うものである。

脳波を自在に読みこなすために
書評者: 飛松 省三 (九州大大学院脳研教授・神経生理学)
 コンピュータ断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像(MRI)の発達により,脳の形態異常を画像として捉えるのは容易になってきた。このため,脳波の有用性を理解している神経内科医,精神科医,脳外科医ですら,近年は脳波よりも画像所見を重視するようになってきている。しかし,画像として捉えられることの少ない機能的神経疾患群,特にてんかんの診断と治療には脳波は欠かせない補助診断法であり,代謝性脳症,脳死の診断にも有用な検査法である。脳波を自在に読みこなすには,脳波に対する経験と臨床的知識が不可欠である。しかも,脳波はデジタル情報ではなくてアナログ情報である分,記録用紙に書かれた膨大な量の波形に対して,どこが正常でどこが異常なのか見当をつけなければならない。その意味で初学者にとって脳波は厄介な存在である。本書ではそういった脳波波形のどこに目を向けて判読すればよいのかが簡潔にまとめられている。

 第3版は第2版に比べ,図が41枚増え,頁数も47頁増加した。これは,新しく取り入れた脳波所見(ウィケット棘波,SREDAなど),国際臨床神経生理学会の定義に基づき波形の解釈が見直された項目(前頭部間欠律動性デルタ活動,psychomotor variantなど),異常と誤りやすい特殊脳波(small sharp spikes,14 & 6Hz陽性群発など)を独立した章としたためである。そのうえ,すべての図と表にビギナーコースとアドバンスコース名が標示されている。初級者はビギナーコースを読破すれば,臨床脳波学の基礎を学ぶことができる。一定の経験を積んだ中級者には,修得して欲しい波形がアドバンスコースとして用意されている。上級者や脳波を教える者には,基礎知識の確認あるいは疑問な所見を見たとき直ちに参照するのに便利である。脳波に関する教科書,解説書は多数あるが,この『誤りやすい異常脳波』は従来の発想にない入門書であり,解説書である。そうした点が評価され,1989年に初版が出版されてから年を重ね,2005年の春に第3版が出版されるに至ったのであろう。著者のこの本に対する情熱と深い造詣に敬意を表したい。

 脳波所見報告書を書くに当たって,評者自身が肝に銘じていることは,できるだけ客観的に脳波を順序立てて判読することである。また,理想とする報告書は,第三者が脳波所見を頭の中にすぐに思い描けるものでなくてはならない。本書は,評者が考えるような手順を踏んで,特徴ある脳波所見を明解に解読してあり,自然と脳波判読が身に付くように配慮されている。本書により,多くの医師が脳波に興味をもってくださるものと確信する。なお,本書では視察的な波形分析に力点がおかれており,脳波の最も基本的な正常脳波や定型的な異常脳波の発生機序についての記載はほとんどないので,初心者には本書と脳波入門書をあわせて手許においておくことを勧めたい。

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