癒しのための家族看護モデル
病いと苦悩,スピリチュアリティ

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カルガリー家族看護モデルを作ってわが国にも名をよく知られた、ロレイン・ライトの最新作。前作『ビリーフ』で提示したモデルを発展させ、スピリチュアリティと苦悩、ビリーフの三位一体モデルを展開している。自身の体験と事例を示しながら、病いや苦しみについて患者や家族と話し合う場をもってかかわることの重要性を説く。
ロレイン M. ライト
監訳 森山 美知子
長谷 美智子
発行 2005年09月判型:A5頁:184
ISBN 978-4-260-00094-9
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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  • 目次
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はじめに
1 日常における苦悩とスピリチュアリティ,病い
2 苦悩についての考察と学び
3 文献にみるスピリチュアリティと病い
4 トリニティ(三位一体)・モデル
  -ビリーフ,苦悩,スピリチュアリティ
5 癒しを最大にする臨床実践-病いの会話に苦悩と
  スピリチュアリティの場を作り,受け入れる
6 苦悩とスピリチュアリティ,病いの個人領域と
  職業領域をつなぐ
エピローグ
索引

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患者と家族の苦悩の軽減と癒しに役立つ価値ある1冊
書評者: 大沼 小雪 (日本ダンスセラピー協会理事・東邦大学医学部看護学科非常勤講師(看護師))
 本書は、カルガリー家族看護モデルを開発したロレインM.ライトの最新作で、これまでの実践、理論、研究結果に基づく「スピリチュアリティ」「苦悩」「ビリーフ」のトリニティ(三位一体)・モデルを構築したものであり、彼女の活動の集大成と言われている。

 著者のライトは、自分の考えの基礎となった理論と世界観は、ポストモダニズム、システム理論、認知生物学であると述べており、幅広い分野の研究と考えから理論構築が成り立っているのがわかる。

◆人のもつ力を信じる治療的会話の醍醐味

 少しばかり看護教育を離れて、病で苦しむ人、苦悩を抱えている人々への統合的・多面的アプローチを実践している評者にとって、本書には多くの共通点も見出したが、苦悩を表出させ、癒しへと導くその治療的会話は青天の霹靂とも呼べるものであった。非常に熟練した者にしかできない、深い洞察と相手の持つ力を引き出す能力に感服した。

 このようなケア提供者、セラピストに出会えた人は幸せだろうと思う。短期間で変化させるところは認知療法を主としたブリーフセラピー的であるし、語らせるところはナラティヴセラピー的でもあり、積極的傾聴はロジャーズ的であるし、意味を見出す過程はロゴセラピー的である。

 良い関わりには多くの共通点があり、さまざまな要素が含まれていてもおかしくないが、最終的には「人は本質的に生きる勇気と強さを持っている」(監訳者まえがきより)という人間観を持つその人自身の存在が癒しの原点であろう。

◆事例の丹念な考察を通して示される介入の過程

 本書の優れた点は、苦悩とスピリチュアリティを結びつけた点である。苦悩からスピリチュアルな次元に導くことがどれほど大変か、臨床にいる看護師ならば皆体験していることであろう。「苦悩の軽減は看護実践の中核・本質・真髄であり、実際、医療従事者の仕事の主な部分を占めている」(p.26)、しかしながら、「現実には必ずしもそうみなされていない」(同)と述べられているが、実際、非常に難しい。

 本書は、実に難しい家族の苦悩への介入について、どのようにしてスピリチュアルな次元に導いていくのか、癒しとは何か、その過程を事例を通し、丹念な考察を加えて説明している。

 苦悩とスピリチュアリティを語るとき、評者は、“希望”と“創造”という言葉をどうしても用いたくなるが、本書においては“希望”について「私たちは、患者が自分にとって意味のある、希望といえるものを見つける手助けをする必要がある」(p.146)と述べられている。苦悩の中にあっては、1人では希望は見つけられない。しかし、日常の業務に追われている看護師は、希望を見つける手助けができない。本書は患者や家族の苦悩を軽減し癒しに導きたいと考える看護師にとって、価値ある1冊だと思われる。

(看護学雑誌2005年12月号より)

スピリチュアリティに目を開かせてくれる1冊
書評者: 江本 愛子 (三育学院短期大学名誉教授)
 本書の監訳者である森山美知子先生と筆者のつながりは,山口県看護協会の研修会に筆者が招かれたことに始まる。その後先生から1冊の著書を贈呈していただいた。それは日本に初めて「カルガリー家族看護モデル」を紹介するために森山先生が執筆された本であったが,その基になった家族看護モデルの著者の一人が,実は本書の著者であるロレインM.ライト博士であった。

 本書は,スピリチュアリティについての調査研究報告ではない。著者と研究者らは,重い病いをもつ患者と家族をひとつのシステムととらえた家族看護モデルを実践し,その中でユニークなチームを組んで配慮された深い面接を続けた。

 本書には,「病いに対するビリーフ(とらえ方),苦悩,スピリチュアリティ」という人生の重い課題の概念が三位一体で論じられている。看護における癒しの実践を見出すことに焦点が絞られたため,宗教や他の関連用語の詳細な解説は控えられている。

 著者のひたむきな看護実践の追求は,ご自身の母親の苦悩と死に深く関わった体験と家族愛,その上に研究に裏打ちされている。筆者は,フランクルが第二次世界大戦末期のアウシュビッツで,極限の悲惨体験を通して得られる偉大なスピリチュアリティを描写した事実と重ねてみた。

 本書では,人間には苦悩を通して生きる意味を希求する―スピリチュアルな傾向―があることと,その人がビリーフを変更して,信じ,望み,愛のうちに生きる力を育むために,実践の中で会話の術が必要であることが強調されている。この2つが本書にちりばめられたストーリーを通して読者に真に迫ってくるであろう。一方,看護師が実行できそうなガイドも提案されていることで救われた気持ちになれるかもしれない。

 現在一般社会においてもスピリチュアルなことに対する関心が高まっている。しかし,NANDA看護診断の「霊的(スピリチュアル)苦悩」や「結合性」などの用語は理解しにくいし日本文化にそぐわない,などの声が聞かれるかもしれない。また,用語だけが一人歩きしたり,放置されたりしては,看護の実践能力は育たないだろう。人間性の真髄ともいわれるスピリチュアリティについて,私たち看護師はさらに目を開いていく必要性が高まっている。

 最後に一言,本書と同様のテーマを扱ったもうひとつの近刊図書を紹介したい。それはエリザベスJ.テーラー著「スピリチュアルケア―看護理論,研究,実践」という題名(仮題,医学書院より発行予定)のテキストで,現在筆者が監訳中である。この本は,異文化の観点,宗教,倫理などとの関連も含め,スピリチュアルケアの包括的なテキストである。各章にクライエントのストーリー,看護師のストーリーが含まれている。

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