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『標準皮膚科学 第7版』 追補

このたびは『標準皮膚科学』(第7版第1刷 2004年3月15日発行)をご購入いただきまして誠にありがとうございます。本書に以下の部分の抜け落ちがございましたので,ここに追補させていただきますとともに深くお詫び申し上げます。
2004年8月現在

PDF版
【追補】 第40章:遺伝学と皮膚疾患 C.色素性乾皮症

 

C. 色素性乾皮症
  xeroderma pigmentosum (XP)

学習のポイント
1) 常染色体劣性遺伝性の光線過敏性皮膚疾患である。短時間の日光照射を受けることにより強い日焼けsunburnを起こし,その後同部は病名が示すように紅斑,色素沈着,ついで乾燥,萎縮,毛細血管の拡張がみられ,ついには悪性腫瘍,主として基底細胞癌basal cell carcinoma,有棘細胞癌squamous cell carcinomaを生じる。
2) 患者の皮膚培養細胞(線維芽細胞)は,紫外線(UV)照射に対し高感受性を示し,正常の皮膚培養細胞に比べ,容易に死ぬ。 光照射に対して,耐えうる防御機構が欠損しているといえる。UV 照射によってDNA に生じるシクロブタン型のピリミジン二量体pyrimidine dimerや(6-4)光産物を除去し,DNA を修復する除去修復excision repairが欠損しているA からG の7群と,除去修復能は正常であるが,損傷乗り越え機構に障害があるvariant がある。
3) したがって本症は,遺伝的には1つの遺伝子欠損による疾患ではない(heterogeneity)。わが国では欧米に比べ発生頻度は高く,重症のA 群とvariant が多い。
4) 皮膚症状のほかに眼病変があり,知能障害を伴うこともある。de Sanctis-Cacchione症候群は重症で,発育障害,神経系の種々の異常を合併する。
〔註〕 (6-4)光産物とは… 2本鎖DNA の隣接するピリミジン塩基が,お互いの6と4の位置で結合したもの。


同義語
de Sanctis-Cacchione症候群は本症の重症型。


病因
光線過敏症,悪性腫瘍の発生ならびにde Sanctis-Cacchione症候群にみられる神経系の異常すべてを説明しうる病因は,いまだ知られていない。しかし,患者から採取した皮膚の培養細胞(線維芽細胞)に紫外線(実験的にはUVC,殺菌灯:254nm に最大エネルギーを有する)を照射すると,正常の培養細胞に比べて容易に死ぬ。すなわち,光照射に耐えうる機構が欠損していることがわかる。1968年,Cleaverが本症患者の細胞には,UV 照射によりDNA に生じた損傷(ピリミジン二量体)を除去し,新たにDNA 欠損部を埋めて修復する除去修復excision repair機構に障害のあることを示した。しかしその後,臨床的に本症と診断された患者の皮膚培養細胞が,正常細胞と同様の修復能を示すもの(variant)が発見され,variant は複製後修復異常と考えられている。最近variant 群の原因遺伝子もクローニングされ,複製の際に損傷があっても,それを乗り越えて複製を行う損傷乗り越え機構に働くDNA ポリメラーゼ(イータ)であることが判明した。

除去修復能を測定する指標としてはUV 照射により生じたDNA 損傷部位を穴埋めするための修復DNA 合成,すなわち不定期DNA 合成(UDSunscheduled DNA synthesis)が用いられる。UDS の低い細胞を系統の異なるUDS の低い細胞と融合させるとUDS が正常になることがあり,これを遺伝的に相補性があるという。現在,本症は7つの相補性群(A,B,C,D,E,F,G)とvariant を加えた8群に分けられる。

相補性群と除去修復能を示すUDS 量との関係は,表40-2のとおりである。


参考1 ヌクレオチドの除去修復(図40-1)
 
UV 照射により生じたDNA のシクロブタン型ピリミジン二量体,(6-4)光産物は主鎖から切断除去され,そこに新しいヌクレオチドェ埋められてDNA が修復される。ヒトにおける紫外線照射後の除去修復にはXP の原因遺伝子を含む多くの遺伝子産物が関与している。XPA 蛋白はDNAの傷を認識し,DNA 二重らせん構造を巻きもどすヘリカーゼ活性をもつ。XPB とXPD 蛋白もDNA 損傷部位に結合し,構造的ゆがみを生じる。この構造変化が起こると,ヌクレアーゼ活性をもつXPG 蛋白とXPF 蛋白が働き,DNA 損傷部位から3'側の5番目と5'側の24番目に切れ目が入り,損傷部位を含む29ヌクレオチドのオリゴマーがDNA から切り出される。欠損部位はDNAポリメラーゼとDNA リガーゼによりヌクレオチドが埋められて修復される。


参考2 不定期DNA合成
除去修復のときに細胞は,cell cycleのS 期(DNA synthesis phase)以外にDNA を合成するので,不定期DNA 合成という。これは培養細胞の培地中に,アイソトープ標識チミジンを加え,オートラジオグラフィーを行って,核内に取り込まれた粒子数により測定する。


参考3 色素性乾皮症遺伝子
1990年,A 群の遺伝子がわが国でクローニングされ,現在ではすべての遺伝子がクローニングされている。同じ相補性群でも,遺伝子変異のある部位により臨床症状が異なることが知られている。A 群はXPA 遺伝子と名づけられ,第9番染色体に座位し,6つのエクソンより構成されていて273個のアミノ酸からなる31kDaの蛋白質をコードしている。日本人のA 群はイントロン3のG → C の突然変異によるスプライス異常が多く,これは制限酵素,Alw NI を用いた制限酵素断片長多型(RFLP:restriction fragment lengthpolymorphism)で検出できる。


頻度
わが国の報告例では,A 群とvariantが多く,欧米で最も多いC 群が少ない。発生頻度では,わが国では出産14,600に対して1,欧米では250,000に対して1という報告がある。男女差はない。

本症患者同士の結婚でも,相補性群が異なれば,理論上患児は生まれない。


病理
皮膚の組織像には特異的な変化はない。年齢の割には老人のような組織像で,病期が進むにつれて,この変化は強くなる。すなわち,完成されたものでは表皮は萎縮・扁平化し,基底層のメラニン色素が増加,真皮は膠原線維の好塩基性変性を示す。各種の悪性腫瘍の組織像も,本症に特異的な変化ではない。


症状
(1)皮膚症状:生まれたときは正常である。光線過敏症があり,日光にあたると容易に日焼けする(図40-2)。臨床像から紅斑,色素沈着期,萎縮,毛細血管拡張期(図40-3),腫瘍期に分けることもできる。症状が出るのは,6か月~3歳の間が最も多く(約75%),もっと早いもの,遅く大人になってからのもの(variant)もある。発症の早いものほど重症のA 群が疑われる。

A,D 群および一部のE,F 群での光線過敏症の特徴は最少紅斑量(MED:minimal erythemadose)の低下が,健常者では反応しない長波長紫外線領域(UVA)でもみられること,紅斑反応の経過が延長し,光照射72時間後にピークをもつことである。variant ではMED の低下はあっても軽度で,反応ピークの遅延はみられない。

日焼けが長くつづいたあとに色素斑が生じ,皮膚が乾燥する。色素斑は顔・手に初発し,頸部,下肢,口唇,眼球結膜にも生じる。色調は淡~黒褐色で径は数ミリ~買Zンチメータ大で,融合して不整形となる。進行すると毛細血管の拡張がみられ,小さな血管腫を生じることもある。皮膚が萎縮性となり水疱・痂皮を形成,その後に萎縮性の白斑を生じる。潰瘍を生じ瘢痕治癒する。眼瞼に生じると治ったあと眼瞼外反となる。

悪性腫瘍は,重症(主にA 群)では3~4歳からすでに生じる。基底細胞癌basal cell carcinoma,有棘細胞癌squamous cell carcinomaが多い。悪性黒色腫malignant melanomaもまれではない。このほかに脈管肉腫angiosarcoma,線維肉腫fibrosarcomaの報告がまれにある。

(2)眼病変:まぶしがり症(羞<しゅう>明)が初期症状で,約80%にみられる。涙の分泌が低下し,結膜や角膜が乾燥,これに眼瞼の外反などが加わって,眼球結膜炎や角膜潰瘍を作る。

(3)神経症状:A,B,D,G 群でみられ,de Sanctis-Cacchione症候群は小頭症,低身長症,性機能の発育停止,知能低下,無反射症,舞踏病アテトーゼ,運動失調などの種々の神経系の異常を合併する。A 群では上記症状のいくつかを示すものがある。

(4)その他:患者は一般に背が低く,身体の発育が悪い。


検査所見
培養細胞のUV 照射による生残曲線とDNA 損傷の修復をみる。A 群では約80%に制限酵素Alw NI を用いたRFLP で検出可能な変異が見つかる。光線照射テストでは,UVBの最少紅斑量の低値と紅斑経過の延長(72時間目にピーク),長波長紫外線照射による紅斑の発生などがある。


診断
病像が完成した典型例では診断は容易。軽症では雀卵斑と鑑別の要がある。


経過・予後
光線過敏がまずみられ,ついで色素斑を生じる。ほぼ同時に眼症状がみられる。重症例では,腫瘍が小児期より生じる。

早期に適切な腫瘍の切除をしないと,有棘細胞癌や悪性黒色腫が転移を起こす。また感染症を起こしやすく,予後が悪い。A 群では,約2/3は20歳までに死亡する。


治療
診断がついたら直ちに日光を避ける。長波長紫外線領域も皮膚に損傷を与えるため,窓ガラス越しの光も避けたほうがよい。そのため,サンスクリーンを外用する。眼の保護のために,長波長紫外線までカットする眼鏡を使用する。サングラスは散瞳を起こすので注意が必要。

腫瘍が生じたら,できるだけ早期に十分に切除する。神経症状に対して,今のところ予防法および治療法はない。


参考文献
1) Cleaver J E : Defective repair replication of DNA in xeroderma pigmentosum. Nature 218: 652-656, 1968
2) Tanaka K, et al: Analysis of human DNA excision repair gene involved in group A xeroderma pigmentosum and containing a zincfinger domain. Nature 348: 73-76, 1990
3) Sancar A : Mechanism of DNA excision repair. Science 266: 1954-1956, 1994
4) 佐藤吉昭:色素性乾皮症の研究の現況. 皮膚臨床28: 1223-1231, 1986
5) 錦織千佳子:色素性乾皮症. M B Derma 21: 9-18, 1999
6) Scriver CR,Beaudet AL,Sly WS,Valle D : The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, Vol 1-3, 7th ed. New York, McGraw-Hill, 1995
7) 清水宏:皮膚の遺伝病-診断と出生前診断. 皮膚臨床39 : 1169-1174, 1997