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『CT造影理論』 追補

このたびは『CT造影理論』をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
本書第1刷(2004年4月刊)の30~32頁「d.造影剤をめぐる裁判例」(地裁判決を掲載)については,その後,控訴審である東京高等裁判所の判決で原判決が取り消されて遺族の請求が棄却され,さらに最高裁において上告棄却となったため,以下の情報を追加して補います。

2004年11月現在

PDF版
【追補】 30~32頁「d.造影剤をめぐる裁判例」

32頁14行目に以下の情報を追加します。

■「d.造影剤をめぐる裁判例」のその後 -高等裁判所における控訴審判決

 「d.造影剤をめぐる裁判例」の項(30~32頁)で紹介した東京地裁平成15年4月25日判決(裁判所のホームページに掲載された)の控訴審判決である東京高裁平成15年12月17日判決(平成16年9月現在,判例集には未登載のようである)の判決文が得られたので以下にその要点を追記する。
 控訴審判決では,医師に問診の懈怠はなく,造影剤の投与およびショック発現後の対処にも過失はないとして,原判決が取り消され請求棄却となり,さらに最高裁で上告棄却となって控訴審判決が確定した。

 (問診に関する争点について)
 高裁は,「本件造影剤により重篤な副作用が生じることがあることに鑑み,医師は,使用に当たり,患者につき使用を回避すべき危険要因の有無を確認すべき注意義務を負う」としたうえ,本件においては,検査の際の問診結果は記録されていないが,「控訴人病院の放射線科の医師が,同病院の診療科及び他の病院の依頼により,日々,CT,MRI等の造影剤を使用する検査を数多く実施し,控訴人病院において,造影剤による副作用が週に4,5件発生することを前提とし,かつ,造影剤の副作用が時に重篤な結果となることは,一般人の常識に属する(公知の事実と言って良い。)ことをも考慮すると」,本件において,本患者に対して問診を実施した旨の放射線科医の供述を疑うべき事実はなく,「供述の内容を否定する判断は,経験則上,到底導くことができない」として,問診の実施について担当放射線科医に注意義務違反はなかったと判示した。この問診をめぐる事実認定に関しては,高裁は,「本件において,担当医師が被検査者に対して副作用の危険要因についての問診自体を実施しなかったとした原審の判断は」,「経験則の裏付けを欠き,根拠もないもので,裁判所としては自戒を要する事例と考える」と付け加えている。

 (患者に対して本件造影剤の投与を避けるべき事情について)
 高裁は,本患者が花粉症であったことを認定するに足りる証拠はなく,また,花粉症またはアレルギー性鼻炎の者に対して本件造影剤の投与を避けるべきであると認めることはできず,本患者の親が造影剤の副作用によって死亡したと認めるに足りる証拠もないとして,本患者に対し本件造影剤の投与を避けるべき事情は見当たらないと判示した。

 (本件造影剤の投与方法などについて)
 高裁は,「本件造影剤の使用につき,医師が常に予備テストを行うべき法的義務を負うと認めることはできない」とし,本患者に対する造影剤の注入の量および速度についても過失はないと判示した。

 (ショック発現後の対処方法などの過失について)
 高裁は,本件において重篤なショックに備えた管理および準備態勢に格別の不備はなく,ショック発現後の措置も相当であったとして,原判決を取り消し遺族の請求を棄却した。

 以上のとおり,一審判決では問診義務違反ありとして損害賠償請求が認容されたが,上訴審で取り消され,検査前の問診,造影剤の投与とその投与方法,ショック発現後の措置のいずれについても注意義務違反はなかったという最終結論となった。
 検査実施前には造影剤の使用に伴う危険要因が存するかどうかについて必要な問診が行われていたにもかかわらず,当時は問診結果を記録していなかったために,医療機関側としてもその立証に苦労があった事案と考えられる。問診自体が実施されなかったとした一審判決の事実認定に対し,「経験則の裏付けを欠き,根拠もないもので,裁判所として自戒を要する事例と考える」との異例のコメントを高裁判決が判決文中に付している点でも注目される。
 問診義務や患者への説明義務が争点となった裁判例は少なくないが,その要点を診療記録中に記載しておくことが紛争の予防と防御に有用と考えられよう。