傷の声
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15拘束が人から奪うもの法第三三条)」。措置入院の対象は、「入院させなければ自傷他害のおそれがある精神障害者(精神保健福祉法第二九条)」だ。ただし措置入院の判断は、精神保健指定医二名の判断が一致することが条件だ。となると、医療保護入院となった私は、入院をするために自分の意思で病院を訪れていたにもかかわらず、「任意入院を行う状態にない」と判断されたことになる。これはいったいどういうことだ。いくら考えても、「拘束をする」という方針が先にあって、法をねじまげたとしか思えない。無法地帯。それが精神科病院には実在する。そう、私の意思なんて、はじめから尊重されるものではなかったのだ。私の意思なんて、あると想定しただけ邪魔なノイズでしかない。あまりにも意に反する方向に物事がどんどん進んでいくなか、ひとり無力に取り残されるのは、そう宣告されているのと同じだった。無力化。それは、拘束の最たる効果の一つであり、医療者が無意識に使っている手段である。無力化の第一歩は、拘束具を付ける瞬間に始まっている。病室に到着してすぐ、体操のマットと同じ固くごわごわした生地でできた頑丈な拘束具を、看護師が手慣れた様子で体に巻く。恐怖で固まっている私をよそに、彼ら彼女らは、にべもなく拘束具のロックを手早くかけた。このカチッという音は、〈対話が可能な対等な人間としての私〉が力任せにズタズタに破壊された瞬間の象徴として、耳に残っている。

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