傷の声
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懲罰の終わりこの手紙は結局出されることがなかったから手元に残っている。順番待ちのため審査に二~三ヶ月かかると電話口で言われて、ふざけた話だと思って諦めたのだ。しかも、退院後に知り合いの精神科医に聞いてみたら、審査で病院側の判断が覆るケースはほぼない、ということだった。手紙を出しても意味がなかったのだ。拘束されている患者の一秒一秒は生き地獄でありながら、医療者の権力の下に封じ込められ、顧みられることはない。こうして私は完全にモノに成り果てた。拘束生活をやり過ごすためには、意思、感情なるものは大きな邪魔だった。自分はそれらを持つに値しない存在であることも思い知らされていた。そして現に、縛られて天井を眺める時間は、それらの芽を一つ一つ丁寧に摘み取った。毎日律儀にも「今自分を傷つけたいとか、死にたいとか、そういう気持ちはありますか」とすっかり形骸化した質問をしてくる看護師に、「ないです」と答えるだけの日々になっていた。この質問に正直に答えて、生き地獄を自ら引き延ばす人がいるとは思えなかった。モノになってからは、私は自発的に言葉を発することをやめ、周囲に期待し助けを求めることを一切やめた。いつもよりきつく縛られようと、私はゴミなのだから、とぐっとのみ込んだ。胸のあたりは常に空虚で、あらゆる悪意やひずみを吸い尽くすブラックホールと化していた。21

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