傷の声
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形だけの切り札本当に孤立無援で、周りの人は皆、敵だった。スマホも持ち込めず、誰とも連絡を取ってはいけないといういわゆる「通信制限」という措置のせいで、親しい人との連絡はもうずっと絶えていた。私の周りにいたのは、私の状態にレッテルを貼っては拘束を指示する医師。そして「ごめんね、先生の指示の下に動いているから」と眉尻を下げて言う師長を筆頭に、指示という名の下に拘束を実行する看護師。それだけしか存在しない世界だった。敵の世界にひとり封じ込められていると、外の世界に対する信頼も薄れていく。今までどれほど長い年月身近にいて優しくしてくれた人に対してさえも、だ。もう私のことを忘れてしまったのではないか。なんで助けに来てくれないのか。当時の私にとって、私を拷問から救い出してくれない時点で、彼ら彼女らも敵の側にいる者として感じられた。最後の最後の切り札は、患者の権利として渡されていた、退院や処遇改善を要求することのできる「精神医療審査会」の連絡先だった。私はナースステーションの電話の子機を借りて連絡し、届いた白紙の依頼書を記入した。先の尖ったボールペンは危険だから手にしてはいけないとされ、先の丸い蛍光ペンでごちゃごちゃと拙い字を連ねた。19

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