看護のためのポジティブ心理学_立読
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Positive Emotionポジティブ感情45ンであっても,患者のポジティブ感情に働きかけることを意図した関わりであれば,それはもう十分にケアである。筆者にも,患者のポジティブ感情を喚起できたことで,患者の生きがいを引き出せた経験がある。「私なんて何もできない」と,うつ病により自尊感情が低くなった患者に,ぬり絵をしてみませんかと提案してみたところ,「私なんか」と言って最初は断られた。しかし,「私がやりたいので一緒にしてくださいませんか」とさらにお願いをし,仕方なくぬり絵に付き合っていただいた。ぬり絵を進めるなかで,ポジティブ感情に働きかけるように「お上手ですね」「素敵な色ですね」と声をかけていくと,「そう?」「そうかしら……」とだんだんその患者もまんざらでもない表情になった。その後,「看護師さんが上手だと言ってくれたから……」とぬり絵をすることはその患者の楽しみになった。この働きかけの結果,「明日も看護師さんとぬり絵ができる」が「明日もよいことがある」というポジティブ感情を喚起させ,希望をもつことにつながった。そして,それが闘病意欲となり,その患者にとって生きがいの1つとなった。このような働きかけやコミュニケーションをこれまで患者と行ってきたという看護職は多いと思われる。それをケアとして認識して,患者のポジティブ感情を喚起するために意識して行うことが重要なのである。■集団への働きかけによる効果また,集団への働きかけも有効であるという研究結果が出ている。介護施設や地域において,高齢者を対象とした「健康フラ・介護フラ」による介入を行ったところ,介入後にウェルビーイングとポジティブ感情が有意に上昇し,ネガティブ感情が有意に低下した(栗原,秋山,前野,指田,2017)。「健康フラ・介護フラ」とは,伝統的なハワイのフラダンスの振付に込められた意味づけを大切にしながらも,日本の高齢者が親しみをもって楽しめるように日本の歌謡曲に合わせて創作したフラダンスのことである。主な動作は,①腕を高く上に挙げる動作,②手を横や前に動かす動作で,基本的に肩のインナーマッスルを含めた頸椎周辺から肩まわり・上腕・前腕の筋力の維持,動作の習得,肩・肩甲骨のストレッチ効果が得られる(横

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