看護のためのポジティブ心理学_立読
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第2章 看護実践に活かす概念44の「元通り効果」は,長期のストレスで心臓・血管に負担をかけることによって心疾患を発症しないように,心疾患予防に大きな役割を果たすことが期待されるであろう。また,好きな異性の芸能人の映像を見せてポジティブ感情を体験させたところ,鑑賞前に比べて,鑑賞後では,血中を循環するリンパ球中におけるNK細胞の比率が増加していた(Matsunaga, Yamauchi, Nogimori, Konagaya, Ohira, 2008)。このことからも免疫系へのよい影響が示唆される。つまり,患者のポジティブ感情を高めるケアは,患者の健康状態や寿命に影響を与える重要なものとして取り組む意味があるということになる。超高齢社会となったわが国では,健康寿命の延伸が求められている。そこで問われる「特に現在病気を抱えているわけではない人がより健康になり,より充実した人生を送るためには,どんなケアを行えばよいのか」という問いにも,ポジティブ感情の活用は1つの答えを提示できるのではないかと考えられる。2ケアの対象となる人への活用■患者のポジティブ感情を引き出す働きかけ看護計画において,「患者と楽しい時間を過ごす」という具体策が書かれているのを見てどう思うであろうか。「ただ楽しい時間を過ごして何になるのか」「それは看護なのか」と思う人が多いのではなかろうか。しかし,「楽しい時間を過ごす」ことは立派なケアであると説明できる。なぜなら,楽しい時間を過ごしたことによって喚起されるポジティブ感情は,心身によい影響を与えることがわかっているからである。そのため,「看護においては,情報収集を目的とした意図的なコミュニケーションでなければ意味がない」と思っているとしたら,もう少し広い目で見ていただきたいと思う。例えば,「空がきれいですね」と言って患者と共に空を眺めて,患者が楽しくなったらそれも立派なケアである。なぜなら,「きれい」「楽しい」という患者のポジティブ感情を喚起させたからである。つまり,これまでは雑談ととらえられるようなコミュニケーショ

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