医学書院の70年
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1963.03.16英文出版への想い金原一郎・元が抱いたロマン金原元は1954年8月の米国出張時に,現地の図書館で分類されずに放置されている日本語の医書を見て,この貴重な業績を国際的に認知してもらう術はないかと考えた。また,金原一郎はElsevier社のBergmans社長来日時に,同社がすべての出版を自国語のオランダ語ではなく英語で行っていると聞き,『まむしのたわごと』第1巻の中で自らの英文出版への志を吐露している(1961年4月20日)。 社には1958年発行の英文書物があるが,これら創業者の志を具体化した英文出版としては1963年3月16日発売のNakai(中井準之助)をもって嚆矢としてよいと思われる。社の英文出版で世界的にも注目を浴びた最初の本は,1966年発行のShirakabe(白壁彦夫)であった。早期胃癌発見のためのX線二重造影法は画期的で,英文版からドイツ語,イタリア語,スペイン語にも翻訳された。また,1969年発行のYokochi(横地千仭)は,「人体―写真でみる解剖学,第2版(1965)」の英訳で,後のベストセラー「Rohen/Yokochi」の原点となった。 社の英文出版の方針は,世界的レベルにある日本医学の業績をアトラス風に編集し,優れた日本の印刷技術をもって世界に紹介することにあった。販売方法は欧米の出版社との提携出版あるいは販売委託することを念頭に置いていた。しかし,アトラスよりむしろ高度な研究書が増えるにつけ,提携が不調に終わることが多くなった。そこで,独自の販売会社設立を念頭に置いて,1973年10月1日 ニューヨーク駐在員事務所を開設した。 その開設を機に,在米日本人著者の発掘が積極的に行われた。1975年発行のAkutsu(阿久津哲造)は,在米日本人著者による最初の英文書籍である。また,1978年発行のMatsui/Hirano(松井孝嘉/平野朝雄)は, Albert Einstein医科大学に留学していた松井先生と同大学神経病理学の平野教授の共著である。脳疾患のCT検査に関する本格的アトラスで,第8回国際出版文化賞大賞〔外務大臣賞〕(1980年)を受賞した(「書籍の受賞」196頁参照)。また,上:ISNY企画制作の最初の英文版,Kaufman: Nuclear Magnetic Resonance Imaging in Medicineの表紙The cover of the rst ISNY book en-titled Nuclear Magnetic Resonance Imaging in Medicine by Dr. Leon Kaufman et al.右ページ:東京企画制作の英文タイトルの一部(1984年以前)Opposite page: Some of the books in English produced by the Tokyo head of ce before 1984.70 years of igaku-shoin072

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