医学書院の70年
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1952.04.01医学書総目録『MEDICINE』創刊金原一郎のこだわり1952年4月1日,社は季刊の出版カタログ『MEDICINE』を創刊した。わが国で唯一の医歯薬書の総目録であった。第二次世界大戦中と戦後しばらくは用紙不足の事情で医書出版社が共同で目録を発行していたが,それが中断し,当時社長であった金原一郎の提唱により再現したものである。『MEDICINE』には,総目録がいかに学問の進歩に必要かを熟知していた一郎の,いわば医書出版人としての諸々の思いが詰まっていた。 発行に当たり,まずこだわったのは“すべてその領域の図書が網羅され”,“無料”であること。自社本ばかりでなく他社本も掲載し,カタログ自体無料,掲載料も無料とした。一郎は,掲載料を取って収録したのでは完全な編集などできようがないと考えた。例えば貴重な文献でも掲載料を払わないから収録しない,逆に料金さえ払えば多少不適当なものでも収録するということでは,総目録の看板に偽りがあるのではないか,と考えた。こうして一郎は「編集者が取捨選択権を堅持する」というこだわりを貫いた。当時,社内では無料であることに不満の声も聞かれたが,結果としてこの考え方は読者の信頼を得て,社の売上伸長につながった。 『MEDICINE』はその編集方法が独特であった。医学書は他の領域と関係の多い学問だけに,NDC(日本十進分類法)の区分だけで欲しい本を探すことは困難であり不親切であると考え,ドイツのGeorg ieme Verlagや米国のW.B. Saunders社が使用していたSubject Index(事項索引)を採用した。 また,学術のPRにうたい文句(賛辞)を入れないこともこだわりの一つであった。美文的自己宣伝は全廃し,専ら著者名・肩書・内容目次・判型・図版数・頁数・発行年などを事務的かつ詳細に記載した。学術書は詳細正確な目録によってアナウンスすればよいのであって,自己宣伝やうたい文句はかえって有害無益であると一郎は考えた。『MEDICINE』は40年以上にわたって発行されたが,その役割を日本医書出版協会の『医学書総目録』に譲り,1995年5月30日の第195巻をもって休刊した。上:『MEDICINE』最終号Above: The last issue of MEDICINE右ページ:『MEDICINE』創刊号Opposite page: The rst issue of MEDICINE70 years of igaku-shoin044

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