医学書院の70年
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を発症した母親をケアし,看取った著者の12年間の記録である。体中の筋力を失い,呼吸ができなくなり,言葉も失いながらも脳は生きている「ロックトインシンドローム」状態の母の介護を通して,著者の「生きること」に対する想いが劇的に変化していく様子が丁寧に描かれている。選考委員の柳田邦男氏に「この時代へのメッセージ性に満ちた作品」,立花隆氏には「他の候補作がすべて色あせて見えた」と言わしめた。 また,同年同シリーズの『リハビリの夜』(熊谷晋一郎 著)が,「第9回新潮ドキュメント賞」を受賞。同書は,現役の小児科医にして脳性まひ当事者である著者が,幼少のころから受けてきたリハビリや研修医時代の体験などを通して,どのようにして自らの運動を立ち上げてきたかを鮮烈な文体で綴った。特に「敗北の官能」という独自の用語で表現されるその世界は,かつてない身体論として思想界でも大きな話題を呼んだ。 最近では2014年,泉孝英編『日本近現代医学人名事典【1868-2011】』が第26回矢数医史学賞を受賞している。同賞は故・矢数道明氏寄贈の基金により設けられ,医学の歴史研究上で優れた業績に対し授与されている。第41回大宅壮一ノンフィクション賞授賞式で挨拶する川口有美子氏(2010年)Ms. Yumiko Kawaguchi, author of Ikanai-karada, greeting the audi-ence at the presentation ceremony of the 41st Soichi Ooya’s Non- ction Award (2010). 197

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