医学書院の70年
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 CD-ROMという最先端の媒体を用いた製品の開発は,社はもちろん,製造を受託した会社にとってもほぼ初めての経験であり,すべてが手さぐりで進められた。当時のパソコンやCD-ROMは画像の再生が技術的に不可能なため,今では考えられないが,すべての写真,図を割愛し,文字だけで表現できるように各々の文章を改変した。また,瞬時に検索が可能となるように,数万項目に大量のキーワードを付した。そうした地道で気の遠くなるような作業を重ねた末,『今日の診療CD-ROM』の初版を完成させた。 同製品のパンフレットに躍るキャッチフレーズは「7冊が1枚になって,検索自在」であった。診療に求められる7冊の書籍から該当項目が瞬時に検索でき,さらに『今日の治療指針』の文中の薬品名から『治療薬マニュアル』の当該ページに移動するリンク機能は画期的で,ほかに類のない完成度であった。発売直後から学会デモなどを精力的に行い周知に努めた結果,その利便性が理解されるようになり,ちょうど1年で発行した部数が完売となった。その後23年間,更なるコンテンツの充実と,機能の改良を行いながら毎年発行され,現在では医療におけるデータベースの定番として,多くの大学や病院,そして個人に,DVD-ROMやインターネットを介して,幅広く活用されている。パソコンの黎明期から現在に至る電子出版のベストセラーであり,ロングセラーである。1987年当時のパソコン─開発用に社が購入したNEC PC-9800シリーズのVX4。定価693,000円。メインメモリはわずかに640KBで,今日の一般的パソコンのおよそ1/10,000であった。ほかにCD-ROMドライブ,ディスプレー,プリンターを入れると一式100万円を軽く超えた。NEC personal computer purchased for the development of Today’s Diagnosis and Treatment on CD-ROM.147メインメニュー ─ここで書籍を選択することから検索が始まる。複数書籍の選択が可能。四半世紀前に製作されたものであるが,発想は現代のeBookの書棚機能と同じ。The main menu of Today’s Diagno-sis and Treatment on CD-ROM.

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