レジデントBOOKカタログ 2025
7/86

レジデントマニュアル★ の拮抗作用を発揮することも想定される.小規模なプラセボ対照のRCTにおいてメトクロプラミド群で有効例が有意に多いことが報告されている7).メトクロプラミド(プリンペラン®) 1回5~10 mg 1日3回 内服または点滴静注または皮下注2)クロルプロマジン 中枢におけるドパミン受容体拮抗作用が主な作用機序と考えられる.クロルプロマジンは,日本において,吃逆に対して保険適用がある唯一の薬剤である.しかしながら,吃逆に対する臨床的な効果を検討した報告は少数のケースシリーズのみである1,8).さらに,クロルプロマジンは比較的強い抗コリン作用を有するため,眠気,排尿困難,せん妄などの副作用を(特に高齢者や脆弱な患者では)合併することがある.また循環抑制作用による血圧低下やふらつきなどにも注意が必要など,副作用の懸念が無視できない薬剤であり,注意深い使用が求められる.クロルプロマジン(コントミン®) 1回12.5~25 mg 1日2~3回 内服または点滴静注または皮下注*注射の際は循環抑制作用を回避するため,緩徐点滴(1時間以上かけて)で投与すること.3)バクロフェン GABAB受容体の作動薬であり,中枢でのドパミン神経の抑制や脊髄レベルで吃逆反射経路の一部であるシナプス前運動神経を抑制すること,などが機序として想定されている.バクロフェンは,2件の小規模なプラセボ対照のRCTが報告され,いずれも有意な有効性が報告されている9,10).バクロフェンの副作用としては,眠気や筋弛緩作用に伴う転倒リスクの上昇が懸念される.また,バクロフェンは腎排泄の薬剤なので,腎機能障害例では蓄積や効果が遷延することがあり,投与は注意を要する.  165★★13 吃逆  167★★13吃逆13吃逆166  第2章 症状の緩和 ― 身体症状の緩和表1 持続性/難治性吃逆の主な原因具体的な原因例中枢性中枢神経の異常脳卒中,脳腫瘍,脳動静脈奇形,脳動脈瘤,多発性硬化症,視神経脊髄炎,脳炎,髄膜炎,パーキンソン病,てんかん,片頭痛など末梢性頸部の異常頸部悪性腫瘍,甲状腺腫瘍,頸部囊胞など胸腔の異常肺炎,膿胸,肺悪性腫瘍,縦隔腫瘍,縦隔炎など横隔膜周囲の異常外傷性横隔膜ヘルニア,食道裂孔ヘルニア,横隔膜周囲膿瘍など腹部の異常胃食道逆流症,食道がん,消化性潰瘍,胃拡張,肝腫大,腹水,妊娠など代謝性代謝異常尿毒症,糖尿病,低ナトリウム血症,低カルシウム血症,低二酸化炭素血症など薬剤ステロイド,ベンゾジアゼピン,化学療法薬(シスプラチン,エトポシド),αメチルドパなどその他心因性(ストレス,興奮),感染症(結核,HIV感染症など),アルコールなど行うことが重要である.そのため,既往歴や薬剤歴,その他の関連する症状に関する病歴,神経所見を含む身体所見を十分に評価したうえで,血液検査や画像検査(頭部,頸部,胸腹部)などの評価を加える.治療 持続性/難治性吃逆の場合,まずは原因の同定とその除去が治療の基本である.原因が同定できない場合もしくは原因への対応が困難な状況では,対症療法として様々な薬物療法・非薬物療法が行われている.しかしながら,現在までのところ,質の高い臨床研究で検討され効果が確立された治療法はない6).薬物療法1)メトクロプラミド 主に消化管のドパミンD3受容体の拮抗作用と5HT4受容体の刺激作用を有する薬剤であり,吃逆への効果は消化管蠕動運動促進作用によるものが想定されている.したがって,末梢性の機序,特に胃膨満(gastric distention)や胃食道逆流が原因の場合に効果が期待される.また,高用量で使用した場合は中枢神経のドパミン受容体診療のコツ❶持続性/難治性吃逆は十分に原因を評価することが重要である.❷吃逆に対する対症療法は,いずれも十分なエビデンスがなく,安全性の懸念もあるため安易な薬剤使用は控えるべきである.定義・疫学 吃逆(しゃっくり)とは,「繰り返す不随意な横隔膜の反射性の収縮と,それに続く突然の声門閉鎖」であり1),急激な吸気の後に突然の声門閉鎖が起こるため,特徴的な音(ヒック音:“hic”sound)を伴う.持続的な吃逆の合併頻度は,病院受診患者10万人当たり50人程度と一般患者ではそれほど頻度の高い症状ではないが,進行がん患者では1~9%と比較的頻度が高い2~4).分類 通常,持続時間は数秒から数日程度のself-limitingな症状であるが,持続する場合は48時間以上持続する「持続性吃逆(persistent hiccups)」,1か月以上持続する「難治性吃逆(intractable hiccups)」と分類される.持続性/難治性吃逆は,胃食道逆流,嘔吐,経口摂取量低下,痛み,倦怠感,睡眠障害,うつ,不安など,様々な身体・精神症状の原因となり,生活の質(QOL)低下につながりうる1,5).病態生理・評価 吃逆は本質的に反射運動であり,その反射弓は,求心路(鼻咽頭背側~舌咽神経咽頭枝)‒中枢(延髄孤束核・疑核近傍網様体)‒遠心路(横隔神経・反回神経)で形成されている.この経路のいずれかの部位への刺激が吃逆発生の原因となる(表1).持続性/難治性吃逆では器質的な異常が関連している可能性があり,十分な原因検索を最期まで患者の望む時間を提供するために。緩和医療スタッフ必携の書、改訂!監修 森田 達也 / 木澤 義之編集 西 智弘 / 松本 禎久 / 森 雅紀 / 山口 崇次々に起こる症状への対応、予後予測、ACP、家族のケア、リハビリテーション……、最期まで患者の望む時間を提供するために、何をするのか。エビデンスをアップデートしつつ、経験も重視して、より実践的に改訂。病棟でも外来でも在宅でも、がんでも非がん疾患でも、すべての患者の苦痛緩和をめざす医療スタッフに必携! 目次や立ち読みはこちら>>●B6変 ●536頁 ● 定価3,960円 (本体3,600円+税10%)[ISBN 978―4―260―04907―8]  | 513【身体症状の緩和】吃逆sample緩和ケアレジデントマニュアル 第2版

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る