内科系書評者: 米川 修 | 45book review簡便に実施できる基本13項目で完結したRCPC 現在、購入者が極めて限られているはずの医学書が数多く出版されている。検査関係の書籍もしかり。同年卒業の本田孝行先生と私の頃とは隔世の感がある。 数多の書籍から読むに値する検査の本を探し出す検査法が必要なほどである。多くは似たような内容、構成であり実際の選択に迷う。一冊手に取ってみよう。その書籍を読了した後に見える景色はいかがなものであろうか? 果たしてもう検査で悩むことはない自分を具体的にイメージできるだろうか? 検査医学を学ぶのなら検査の原理はもちろんのこと、ピットフォールの知識も押さえておきたい。しかし、より重要なのは検査データを系統立てて解析できることであり、少しでも病態に近づけることである。その技術を自分のものとするには何をすべきなのか? そもそも、一部の専門家だけができる高等技術なのでは、と多少心配にもなってくる。 それを効率よく簡便に誰にでも可能にする方法こそがRCPCである。RCPCを通じて系統立てた解析法を学んでいく。だが、「言うはやすし」である。親切に教えてくれる人間が身近にいるだろうか? 適切な師匠を選ばないと偏った見方に染まり、矯正困難となる恐れもあり得る。向学心はあるが、どう対応していいかわからぬ医師、医学生、検査技師への最強の道具であり、武器ともなるプレゼントこそが、今回紹介する信州大の本田先生が満を持して単独執筆した書籍である。数年前から、日本臨床検査医学会学術集会では定期的にRCPCを取り上げるようになり、その中でも抜群の解析力で参加者を魅了してきたのが本田先生のグループである。本田先生を中心とする信州大の検査室の方々は、本書I章「栄養状態はどうか」から始まり、XIII章「動脈血ガス」に至る基本13項目で、あたかも実際に患者を診察したかのように病態解析をしてみせたのである。この基本13項目を用いた解析方法は、つとに「信州大学方式」として浸透してきた。その有用性は、信州大関係者以外が駆使・活用し、その効力を遺憾なく発揮したことで証明されたと言っても過言ではない。 検査で忘れてならないのは「対価」の概念である。「対価」とは「価値」/「代償」のことである。患者に加える精神的・肉体的・経済的侵襲という代償に対して得られる情報が価値である。当然、「代償」が小さく「価値」が高いほどよい。本書の方式が有用なのは、診療科、施設を問わず簡便に依頼・実施できる基本検査項目で完結していることにある。特殊で高額な検査でかろうじて病態を把握しているのではない。ぜひ、基本的検査の解釈・活用を自家薬籠中の物として患者に還元してほしい。さらに「守」「破」「離」の精神で各自が新たな境地を開いていくことが、現在でも学生に合気道を指導している著者の願いでもあると感じる。 蛇足となるが、この書籍は、初心者はもちろんのこと、自分は中堅・ベテランだと感じている臨床医にこそ読み解いてもらいたい。 (了)
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