●A5 ●240頁 ● 定価2,530円 (本体2,300円+税10%)[ISBN 978―4―260―05377―8] 第2章 「睡眠薬」と「抗不安薬」がわかる2備で 第2章 「睡眠薬」と「抗不安薬」がわかる029030031「睡眠薬」がわかるすぐに薬物療法を行うということを意味するのではありません。 睡眠障害を専門とする医師の多くは、最初に行う治療は、生活習慣病に対する保健指導のように、睡眠衛生を指導することだと指摘しています。前項で述べた思春期から20歳代前半の睡眠障害の多くは、睡眠衛生の悪さがリズム障害を起こしていることがほとんどで、生活リズムを改善させることで、睡眠障害は改善し、薬物療法を必要としないケースが圧倒的に多いのです。睡眠医療の専門家は、“睡眠問題”発現の低年齢化から、学童期から睡眠衛生教育を行うことが望ましいと啓発しています。 若年齢からの「健康な睡眠習慣」の確立は、将来の精神疾患の発症リスクの低減にも寄与すると考えられます。生活習慣や睡眠習慣が乱れたままにしている人は、そもそも“その場しのぎ”という思考の癖があるため、“満足に寝た気がしない”という生活への不利益がもたらされた場合、自己努力を要する改善よりも、他力本願的に“薬さえ服用すればよい”という安易な選択をする傾向にあります。つまりそのような集団は、同様に「処方薬依存」に移行するリスクが高いのです。 睡眠衛生に全く問題がない不眠症は、経験上まれですから、まず生活習慣の見直しを指示し、それを実行してもなおかつ不眠症状が改善しないとき、初めて薬物療法を選択するというガイドラインを独自に設定しておくことを推奨します。薬物療法の対象となる不眠症か否かの鑑別 先に述べたように生活習慣、とくに睡眠衛生に留意して、生活リズムに対する改善行為を少なくとも2週間以上行ったことが確認できても、全く改善がみられない段階になってから、薬物療法を行うか否かを再度精査します。 まず、最低2週間は毎日表2−1の項目をチェックしてもらいます。 表2−1に示したような環境調整努力を行っても不眠症状に変化が全くない場合にのみ、初めて薬物療法を考慮します。ここでもすぐに睡眠薬を処方するのでなく、不眠症状の始まりにおける詳細を再度丁寧に聴取し、精神疾患の有無を精査します。とくに潜在的な双極性障害の躁状態に移行する前駆状態や、統合失調症発症の直前に生じる不眠の可能性がないかを鑑別します。 また、この生活習慣やリズムの改善の努力を怠ったケースでは、先に述べたように思考様式ないし社会性から処方薬依存へと移行するリスクが高いため、ベンゾジアゼピン系薬剤・非ベンゾジアゼピン系薬剤にかかわらず、薬物療法は行わない判断をし、その旨を説明します。その説明を行った場合、多くのケースで不満や苦言を呈されますが、医師として論理的に適切な判断に従ったに過ぎませんし、また処方薬依存の発生を未然に防いだと考えるべきです。 もし依存性が少ないとされる薬物で薬物療法を始めたとしても、社会問題化する睡眠障害 近年の睡眠障害研究の結果から、一般成人の30~40%が不眠症状を有しており、加齢とともにその率は増え、60歳以上の半数が不眠であるという統計報告があります。不眠と感じることなく、眠れていないケースもあり、現代日本は「睡眠負債」を抱え続け、後々の破綻がメンタル不調という結果を招くリスクが非常に高い国といわれています。 そのなかで、慢性的に「不眠」を経験している人は、日本の成人人口の20%にも及ぶといわれ、とくに近年では思春期から20歳代前半と高齢者の慢性睡眠障害が増加していると指摘されています。ただ、この2つの年齢帯の「睡眠の問題」はその成因が全く違います。それにもかかわらず、非薬物療法を含めた提案も行わずに、即ベンゾジアゼピン系薬剤での薬物療法が行われることが多いという臨床実態が、睡眠障害を社会問題化させているのです。不眠症に対する最初の対応 よく眠れなかったことにより日中に眠気があり、それが原因で学業や仕事に支障が生じる、交通事故を起こすという明確な問題が生じていることが確認された場合に、初めて「不眠症」と診断され、治療対象となります。治療を必要とするといっても、それは表2−1 睡眠に関する環境調整のチェック項目□ 睡眠環境:音、室温・湿度、照度、寝具など眠りを得やすい環境の整□ リズム:土曜・日曜も含め、毎日の起床時間は同じ時刻に設定して起床□ リズム:土曜・日曜も含め、毎日の就眠予定時間は同じ時刻に設定し、 入眠できそうでなくとも臥床□ 食事の摂取:就眠予定時刻より2時間以上前までに□ 刺激物(カフェイン、ニコチン)の摂取:就眠予定時刻より3時間以上前ま□ アルコール:摂取しない□ PC作業やスマートフォンの使用:就眠予定時刻より2時間以上前まで□ 朝覚醒後、午前中の早い時間帯に、最低半時間は明るい場所で過ごす□ 日中に眠気があっても昼寝はしない(臥位を避ける)□ 日中に軽く汗をかく程度の適度な運動を行う(夜間の激しい運動の禁止)これらを毎日チェックし、さらに眠れなかったと感じたとき、それはどのような状態であったかを記録する。精神科全領域の薬がこの1冊で丸わかり! ざっと広くのことを知りたい方へ。幅広い診療科で扱う機会のある薬剤について、わかりやすくまとめた本をご紹介。苦手意識をもつ方が特に多い抗菌薬についても、自信をもって処方できるよう、本棚からサポートします。 | 28 著 姫井 昭男sample精神科全領域の薬に関する最新かつ正確な情報を、第一線で診療を行う著者が厳選して紹介。精神科を専門とする医師、研修医、精神科看護師はもちろん、精神科以外の科の医療者で「精神科の薬」を使用する機会のある方にとっても有益な1冊。第5版では、なぜその薬が効くのかを知ることで、「精神科の薬」の誤用と乱用を防ぐことに注力しています。 目次や立ち読みはこちら>>精神科の薬がわかる本 第5版くすりの本
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