レジデントBOOKカタログ 2025
28/86

①23  第1章カルテ記載の大原則―書くべきこと・書くべきではないこと1.カルテに書くべきではないことことになります。 カルテなどの診療記録は,原則的に,請求されたら開示する義務があります。読まれて困ることは最初から書かないか,書き方を配慮するようにしましょう(表1—1—1)。表1—1—1 患者が読む前提でのカルテの書き方⃝ 患者が見たときに偏見・人格攻撃と感じる書き方は避ける。  例)「理解が悪く」⇒「繰り返し説明したが,療養上の注意を遵守されず」⃝ ネガティブな感情を避けて,淡々と事実を中立的に書く。⃝ 医療に関係ない患者のプライバシーや下世話な話は避けて医療に必要なことを単純明快に記載する。 医療者は,生真面目すぎてか不備のない医療を提供した場合でも,よくない結果に終わったときには,自分が失敗したのではないかとの反省をカルテに記載していることを目にします。これは患者・家族の立場で読むと,「医療ミスの自白」以外の何者でもありません。ほかの職員や前医の非難を書くことも,「書かれた人の医療ミスが公的文書たるカルテに記載され,証拠となった」ということになりかねません。 カルテは訴訟での証拠としての重みが大きいです。裁判所では,「本来,医療者は自分たちに不利なことは記録しないはず」(一般的に,事実でもないのに自分に不利なことを書くはずがないと考えられます)という認識から,あえて患者・家族も見るカルテに「反省」を書いているのだから医療者が有責なのだと受けとるリスクが高くなります。記載が問題になったあとで,医療者が「そんなつもり(ミスがあったというつもり)で書いたのではない。医療安全のために,自分の成長のために,振り返って反省を行っただけで,当時やれるだけのことはやったつもりだった」「前医の医療については,後方視的な検討を書いただけだ」などと記載の趣旨を説明しても,とても患者・家族や裁判所には理解されないでしょう。 また,厚生局などによる保険診療に関する個別指導では,カルテの記載内容に保険診療のルールに適合しないものがないか点検されることも知っておいてください(表1—1—2)。 「自白」・他者への攻撃 「カルテ開示請求権」はあるのか(診療記録は原則開示が必要) 患者が読む前提で書く1.さまざまな開示請求―カルテ開示・証拠保全・文書提出命令1.カルテに書くべきではないこと対象者幹部医師 類型法的視点 重要度より深い知識を求める読者向け この項目では,診療記録(カルテ)についてのさまざまな開示請求について説明します。原則として,診療記録(カルテ)は本人から開示請求を受ければ開示しなければなりませんが,本人以外で請求できる者や開示対象となる資料の範囲は基本的に自施設のカルテ開示規程次第です。医療機関での内部資料は,きちんと定めておけば一定の保護が受けられることを認識し,自施設での規程整備をしておきましょう。 また,トラブルの類型としては,親族に開示をすることで,本人やほかの親族からクレームが出る場合や,第三者に開示することで本人らからクレームが出る場合,開示義務の有無について本人らとの紛争が生じる場合などがあります。①患者本人が,医療訴訟の準備のためといって病院のカルテ開示規程に基づいて開示請②患者が死亡したが,入院中は一度も来院したことのない遺族から,死亡した患者に関求をしてきた。するカルテ開示請求があった。メモも開示するように求めている。③本人が,個人情報保護法に基づく個人データ開示請求をしてきた。看護師の手控えの④遺族が,診療記録について証拠保全を申し立ててきた。そのなかで,医療安全委員会の議事録についてもリストに上がっている。⑤警察署から,ある患者が強盗殺人事件の被疑者であるとして,手の切創についての診療情報の提供を求められた。⑥交通事故の加害者の代理人弁護士から,弁護士会を通じて,「照会」という文書で,被害者である患者の基礎疾患について問い合わせがあった。 本人が,医療訴訟の準備のためといって病院のカルテ開示規程に基づいて開示請求をしてきた。 診療契約の中身として,カルテの開示を求める権利があるのでしょうか(訴訟を提起して「カルテを開示せよ」という判決をもらうことができるか)。実は,この点については,過去の裁判172対象者全職員 類型法的視点 重要度必読 研修医のA君は,受け持ち患者Bさんの転院の日のカルテを書いていました。そこへ指導医のH先生がやってきて,肩越しに以下のA君のカルテを覗き込みました。【P】 本日,Z病院へリハビリ継続のため転院された。【考察】#上行結腸癌 pStage Ⅲb 結腸右半切除術後#右大腿骨頸部骨折 本症例は,3年前にCクリニックで貧血を初めて指摘されるも年齢的なものと言われ,経過をみられていた。当時の検査結果ではMCVも低下し明らかな鉄欠乏性貧血であり,この時点で消化管の精査をしていれば,早期に発見できていたと考える。 本年7月,Cクリニックから当院内科に紹介され,外来で貧血精査中に内視鏡で上行結腸癌を指摘され外科に入院した。 手術は成功し術後経過も順調であったが,本人の理解が悪く,療養についての指示が守れず,勝手に動き回ることが多かった。 また,不眠を訴えて夜勤のスタッフに眠剤を要求し,拒否されると大声で騒ぐことが重なり,自分もついCクリニックでずっと処方されていたジアゼパムを出してしまった。転倒で大腿骨頸部骨折を起こし退院できなくなり内科転科,経過観察後にリハ目的転院に至ったのはジアゼパムの筋弛緩作用が原因と思われ,重大な反省点である。 事故後に部長からは厳しく注意されたが,前日の回診のときにジアゼパムを出したことは明言しているのに,そのときに注意してくれていたらこんな事故も起きなかったと思う。経過の詳細はインシデントレポート提出済み(○月×日カルテに写しあり)。 そしてA君は,H先生から厳しい指導を受けることになります。みなさん,このA君のカルテはどこが問題でしょうか? 考えてみてください。 みなさんはカルテを書くとき,読み手の顔を思い浮かべていますか? 自分だけのメモのつもりの方や,せいぜい同科の医師・医療チームぐらいしか想定していない方も多いかもしれません。実は,「カルテの読み手としての患者・家族」は常に意識しなければなりません。さらに紛争になった場合,カルテは,患者側弁護士や裁判所,行政機関なども読み手に加わっていくカルテの思わぬ落とし穴とは?ポイントを押さえた先読みの記載があなたの身を守る!  |  日常診療に役立つ本26 編集 𠮷村 長久 / 山崎 祥光カルテ記載の思わぬ落とし穴とは? 医療紛争・トラブルにおいてはカルテ記載が重要となるが、時間の制限もあり、書くべき場面、書くべき内容の絞りこみが必要となる。本書では紛争・トラブルになり得るケースを多数紹介し、無用なトラブルを避けるためのポイントを押さえたカルテ記載の方法を伝授。臨床(医師)と紛争対応(弁護士)の双方の視点を押さえた先読みの記載があなたの身を守る! 目次や立ち読みはこちら>>●B5 ●216頁 ● 定価3,960円 (本体3,600円+税10%)[ISBN 978―4―260―04806―4] sampleトラブルを未然に防ぐカルテの書き方

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る