標準保健師講座2024年版パンフレット
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Aさんは,38歳の主婦で,筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者である。Aさんは40歳の夫と小学生の子どもの3人家族で,保健所管内に転入してきた。AさんのADLは,移動動作が車椅子(室内はつたい歩き)など,日常生活に介助が必要とされる状態で,呼吸不全の徴候として朝の頭痛があるなど呼吸障害も進行していた。転入してきた理由はエレベーターがある集合住宅をさがした結果であった。夫は仕事からの帰宅が遅いため,る集合住宅をさがした結果であった。夫は仕事からの帰宅が遅いため,さんの介護に加え,子どもの生活への支援も必要と保健師は判断した。Aさんの介護に加え,子どもの生活への支援も必要と保健師は判断した。 保健師は往診できる開業医と訪問看護ステーションをさがし,介護保 保健師は往診できる開業医と訪問看護ステーションをさがし,介護保険の対象でないため,市の障害者福祉ワーカーと同行訪問してホームヘ険の対象でないため,市の障害者福祉ワーカーと同行訪問してホームヘルプの導入,手すりの設置,段差の解消,シャワーチェアの手配などをルプの導入,手すりの設置,段差の解消,シャワーチェアの手配などを行った。その後も継続的に家庭訪問をしてAさんの訴えや気持ちを聴行った。その後も継続的に家庭訪問をしてき,転居後の子どもの様子を観察した。病状の進行による立位困難や呼き,転居後の子どもの様子を観察した。病状の進行による立位困難や呼吸障害の悪化がみられたため,保健師は専門医への受診に同行し,現状吸障害の悪化がみられたため,保健師は専門医への受診に同行し,現状を専門医へ伝えるとともに,往診医の対面診察を受けられる事業(訪問を専門医へ伝えるとともに,往診医の対面診察を受けられる事業(訪問診療事業)を提案し了解された。診療事業)を提案し了解された。 療養支援チームを構築し,訪問診療時には,夫・専門医・往診医・訪 療養支援チームを構築し,訪問診療時には,夫・専門医・往診医・訪問看護師・ホームヘルパーなどが同席して,Aさんの状況について情報問看護師・ホームヘルパーなどが同席して,を共有したり,病状進行時には緊急時の対応を具体的に確認した。また,を共有したり,病状進行時には緊急時の対応を具体的に確認した。また,専門医から病気についての説明を受けたりAさんの情報を共有し専門医から病気についての説明を受けたり図6⊖5 難病患者を取り巻く地域サポートシステム5ab合cfde9公衆衛生看護活動を理解するための図表を多数掲載事例「実践場面から学ぶ」で具体的な活動を学習できるStandard textbook標準保健師講座協力病院医療機器メーカー専門病院かかりつけ医その他の診療科かかりつけ薬局患者家族訪問看護ステーション介護保険関連事業所ケアマネジャー,保健所・保健センター(保健師)ヘルパー,福祉機器,通所サービス,など地域包括支援センター自治体の障害者福祉課39181②家族や育児環境に問題がある場合③母親や家族の育児態度に問題がある場合④母親の訴えが強く,問題意識がなく,指導を拒否する場合⑤秘密を要する場合1章 母子保健(親子保健)活動1999(平成11)年度より11月を乳幼児突然死症候群対策強化月間と定め,乳幼児突然死症候群に対する社会的関心の喚起をはかるとともに,重点的な普及啓発活動を実施している。育てにくさを感じる親に寄り添う支援家庭訪問・健康診査・健康教育・健康相談など保健師の支援活動において,親の育てにくさに「気づく」ための問診項目や問いかけは重要である。親の子育ての悩みや困難さを「よくあること」と片づけず,親が発信するさまざまな育てにくさのサインをていねいに受けとめる必要がある。「気づき」を支援につなげるためには,育てにくさの背景にある要因が①子どもの個性,②親の個性,③親子の関係,④親子を取り巻く環境のいずれなのか見きわめる必要がある。子どもの個性が要因の場合は,発達障害などの障害や疾病の早期発見と早期支援につなげる。相談できる家族や友人がいないため,家庭や地域で孤立しているなど親子を取り巻く環境が要因の場合は,子育て支援センターなどを紹介し,地域の子育て支援者と連携・協働しながら支援する。育てにくさが虐待につながる可能性もあるので,「離乳食を食べない」「夜泣きする」「言葉が遅い」「指さしをしない」などの悩みや課題を共有し,親に寄り添い支援していくことが大切である。個別指導が必要な対象個別指導が必要な対象として,次のようなものがあげられる。①乳幼児や親に疾患や障害がある場386章 難病保健活動難病相談支援センター患者会ハローワーク職場地域•社会福祉協議会•ボランティアセンター•民生委員•近隣住民•学校/教育関係 180方法すべての子どもが健やかに育ち,すべての親子が安心・安全に子育てができる地域づくり健康診査家庭訪問時期出生●新生児訪問指導(低出生体重児の届出)●未熟児の訪問指導  (養育医療の給付)(医療機関)乳児期●乳児の訪問指導(集団)(医療機関)幼児期●幼児の訪問指導査(集団) ※保育園・幼稚園への園訪問診査団)訪問指導の対象訪問指導の効果が顕著に発揮される対象として次のような例があげられる。①未熟児・多胎児などのハイリスク集団指導が適した対象集団指導が適した対象として,次のようなものがあげられる。①子どもの発達段階や健康状態が同①子どもの発達段階や健康状態が同コミュニケーション手段透明文字盤や,障害者総合支援法の携帯用会話補助装置(日常生活用具)や重度障害者用意思伝達装置(補装具)などがある。ICT(information and communication technology)の発達によりさまざまな装置が開発されるが,日常的に普及しているパソコンやスマートフォンなども活用する。■事例紹介C.乳幼児期の成長・発達と健康課題への支援健康相談(電話相談)○母乳相談地域組織活動(母子保健推進員)健康教育 ○こんにちは  赤ちゃん訪問○育児相談(随時)○地区子育て教室○離乳食教室(5か月)○離乳食教室(7か月) ○1歳児健康相談 ○  (歯科相談)  (歯科相談) ○赤ちゃん ○赤ちゃん  抱っこ体験  抱っこ体験  (小学生との  (交流事業)○幼児食教室(食育講座)事後教室 ●言葉の教室●発達相談会教室B.難病患者への支援・保健活動● 1歳6か月児健康診査● 3歳児健康診査事後Sample Pages 乳幼児期の成長・発達は著しく,発達段階によって子どもの健康課題と保護者への保健指導内容が変化する。そのため,母子のニーズに対応して継続した支援が必要である。保健師は乳幼児の発達段階に応じて,家庭訪問・健康診査・健康教育・健康相談など適切な活動方法を用いて保健指導を実施する。保健指導のなかで,子どもの成長・発達の確認するとともに成長・発達を促すような支援,母親の育児不安の軽減や子育てに必要な知識や方法の提供などを行い,親や家族の子育てをする力を高める。 乳幼児期の支援は地域で生活しているすべての乳幼児が健やかに育ち,すべての親子が安心・安全に子育てができる地域づくりが目標となる。そのため,健康診査の未受診者,健康教育に参加しない親子,あるいは育児不安,心配や困りごとがあるにもかかわらずみずから相談の場に来られない親子を早期に把握し,支援につなげるための「地域の子育て支援力」を高めるような地域づくりの活動も重要である(表1⊖9)。 個別指導の活動方法には,家庭訪問,健康診査における問診・指導,健康相談などがある。育児に関する相談ごとや課題は,子どもの健康や不健康,障害の有無にかかわらず,育児を取り巻く母親と環境との相互作用を強く受けて発生する。しかもその問題の内容は,子どもや家族ごとに個別性に富んでいる。保健師は母親と問題を共有するとともに問題の発生のしくみを解明し,母親自身が実践できるように,個々の家族に合った対策を考えることが大切である。 いかなる年月齢,発育・発達,健康状態,養育状況の乳幼児であっても訪問指導の対象になりうる。とくに,家庭訪問は,対象者が支援をになりうる。とくに,家庭訪問は,対象者が支援を求めているいないにかかわらず,支援の必要性があると判断した場合求めているいないにかかわらず,支援の必要性があると判断した場合は,対象者の生活の場に出向いて家族全体に保健指導ができる保健師固は,対象者の生活の場に出向いて家族全体に保健指導ができる保健師固有の支援方法である。 母子を対象とする家庭訪問による保健指導には,①子どもの成長・発 母子を対象とする家庭訪問による保健指導には,①子どもの成長・発達,健康状態を母親とともに観察し確認する,②母親や家族の育児態度達,健康状態を母親とともに観察し確認する,②母親や家族の育児態度員による障害者総合支援法のサービス等利用計画の枠をこえた制度の利用や調整が必要である(図6⊖5)。とくに専門病院と往診医との連携(病診連携)や,訪問看護ステーションなどの看護との連携には,保健師の看護職としての調整機能が発揮される。 難病患者・家族が望むような療養を実現するには,支援者間で必要な情報を共有し,支援方針を一致させていくことが必要である。そのために支援者が顔を合わせてカンファレンスをすることが,チーム形成におけるカギとなる。難病患者のケアで直面する問題はすぐに解決できないけるカギとなる。難病患者のケアで直面する問題はすぐに解決できないものが多いかもしれない。しかしその問題についてチームで共有するこものが多いかもしれない。しかしその問題についてチームで共有することで,自分1人だけが悩んでいる問題ではないことに支援者自身が気づ人だけが悩んでいる問題ではないことに支援者自身が気づいたり,支援の方向性を理解したうえで日々のケアを行える意義は大きいたり,支援の方向性を理解したうえで日々のケアを行える意義は大きい。緊急時の対応についてもカンファレンスなどで確認し,支援者間でい。緊急時の対応についてもカンファレンスなどで確認し,支援者間で共有しておく。 難病患者の支援者の多くは,患者の医療やケアの提供が目的であり, 難病患者の支援者の多くは,患者の医療やケアの提供が目的であり,家族への支援まではいきわたらない。患者の家族全体に目を向けて支援家族への支援まではいきわたらない。患者の家族全体に目を向けて支援していくことが保健師の役割である。たとえば引きこもりの子どもがいしていくことが保健師の役割である。たとえば引きこもりの子どもがいる母親が難病の夫の介護をしている事例では,母親は子どもが気がかりる母親が難病の夫の介護をしている事例では,母親は子どもが気がかりや能力を把握し,育児上の不安や悩み,困りごとに対する解決策を一緒に考えて,母親が自信をもって育児ができるように支援する,③母親自身が子どもに対するケアと解決方法を決定し,実践できるように支援する,④地域の社会資源やサービスの活用方法を紹介する,④母親の健康状態を把握し,母親と家族の健康を高める,⑤近隣や地域の母親と接点がもてるようにその糸口となる組織やキーパーソンを紹介し,地域社会への母親の関心を広げるなどがある。 集団指導の活動方法には,健康教室や健康診査の集団指導場面,地域組織活動がある。子育てに関する不安や悩みは個別性が強い反面,すべての親や家族に共通する体験と課題であることが多い。したがって,育児態度や健康生活の改善に向け,行動変容や環境を積極的にかえていくためには,共通の問題を有する人の相互作用で,楽しみながら励まし合い,自分たちの力で改善するためのグループ活動は効果的である。であっても,夫の介護で手がまわらず,イライラする。この家族には,子どもの問題への対応は難病患者への支援と同様に必要なものである。 ほかにも,介護が必要となった夫に対し,抑うつ状態の妻が「介護ができない。不安だ」と訴えることができないまま,夫が退院となった事例があった。このとき妻は不安・不眠が続き,精神状態が悪化したため,保健師はレスパイト入院を手配し,妻の受診支援を行った。患者だけでなく,家族1人ひとりの健康を気にかけて支援していく役割が保健師にはある。QOLの向上を目ざすこと 難病の患者・家族への支援は,医療や介護,生活上の困難さへの対応だけではない。患者がその人らしく主体的に生活することを支援していくことである。そのためには患者・家族が本来もっている力のエンパワメントをはかり,QOLの向上を目ざすことをつねに念頭においてかかわる。コミュニケーション障害がある場合は,患者の主体性の尊重のためにも患者がみずから言葉や意思を発信できるようなコミュニケーション手段を確保することがとても重要である。乳幼児期における保健指導乳幼児期における保健指導個別の保健指導が必要な対象家庭訪問が必要な対象ケア会議・カンファレンスなどの開催家族への支援集団の保健指導が必要な対象実践場面から学ぶ:ALS患者への支援表1‒9 乳幼児期の保健指導の時期と方法(A市)○ 1か月児健康診査○ 4か月児健康診査○ 10か月児健康診査○ 1歳6か月児健康診○2歳児歯科健康診査 歳児歯科健康診査 ○ 2歳6か月児歯科健康○ 3歳児健康診査(集○5歳児健康診査(集団)黒字:ポピュレーションアプローチ,茶色字:ハイリスクアプローチ母子と家族②健康診査後も,継続した支援が必要と判断された母子③虐待のおそれのある家庭④家族関係,養育に欠ける環境⑤母親の育児能力の不足⑥乳幼児健康診査の未受診者じような場合親の育児上のニーズに共通性があ②親の育児上のニーズに共通性がある場合同じような生活環境・育児環境に③同じような生活環境・育児環境にある場合グループ活動に参加することを希④グループ活動に参加することを希望する場合※サンプルページは制作中のものです。実際の書籍と異なる場合があります。

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