A12A137公衆衛生看護技術について理念から実践まで詳述活動の基盤となる理論やモデルを詳細に解説Standard textbook標準保健師講座3435A.公衆衛生看護における機能と技術とはなにか A.保健行動理論と保健指導で活用できる理論個人要因個人間要因人間関係:家族,友人,同僚など知識,態度,信念,性格など政策要因地方自治体・国の行動組織的要因会社の規則・方針などコミュニティ要因ソーシャルネットワーク,社会規範,施設の有無など公衆衛生看護は,地域で生活する人々の健康の維持・増進と,疾病や障害をもちながら療養する人々への支援活動を,保健師を中心に展開している。その活動は,子どもから高齢者までライフステージと健康状態にかかわらず,地域で生活する人々すべて(個人・家族・集団)および地域を対象にして,予防の概念を柱に行われている。しかし,公衆衛生看護は対象者の生活や価値観に深くかかわる健康問題(課題)への支援であり,一方的な知識の提供や対象者の危機感をあおるような従来の指導スタイルは受け入れられなくなってきた。保健師に求められているのは,対象者や住民がみずからの問題に気づき解決に取り組むことで活動の意味や楽しさを感じ,自己効力感を高め,その結果として保健行動が生活のなかへと定着し継続されていくような一連のプロセスを生み出す,確かな対人支援技術を身につけることである。地域社会のなかで問題をとらえ解決する現代人の生活は,社会や環境と密接な関係をもち,直接的・間接的に大きな影響を受けている。そこで,健康問題を単に個人の責任とするのしかし,結果がすぐには出にくい慢性疾患対策としての行動変容はむずかしい。食事習慣ひとつとってみても,巷■■■にはつかのまの幸福感を与えてくれる多くの誘惑がある。そして多くの人はそちらに流れやすい。「わかってはいるけど,やめられない」,そういう人々とどう接していけばよいのか。保健師になにができるのであろうか。b 公衆衛生看護を取り巻く状況の変化b 公衆衛生看護を取り巻く状況の変化近年,公衆衛生看護を取り巻く状況は大きく変化してきている。ポイントとしては,①国民の健康問題の変化,②予防施策の変化,③医療制度における地域医療・在宅療養への転換の3つがあげられる。b 保健行動を取り巻く要因保健行動に影響を及ぼす要因は図3─1に示すように多彩である。先述の厚生労働省の対策は「政策要因」の1つで,大きな効果がある。以下,慢性疾患の1つであるがん予防対策を例に,その全体像をながめてみる。智子さんはある地方都市のスーパーに勤めている。今年45歳。夫,子ども2人,それにときどき介護が必要な夫の母(要支援2)と暮らしている。つい最近,2年に1回の乳がん検診(マンモグラフィー)を受けるようにとの通知が市役所から届いた(政策要因)。昨年,3歳年上の姉が乳がんで手術を受けたばかりであった(個人間要因)。手術は成功し乳がんで手術を受けたばかりであった(個人間要因)。手術は成功し,いまでは元気になっている。自分はといえば,とくにしこりなどの自覚いまでは元気になっている症状もない。しかし気にはなるしかし気にはなる。姉のこともあるし,恐怖心のほうが強なかなか行く気になれない(個人要因)。幸い日曜日に検診をやっい。なかなか行く気になれないてくれる医療機関はある。ところが,そこは午前中しかやっていない(コてくれる医療機関はあるミュニティ要因)。日曜の午前中は,スーパーが忙しくて,時間がとれミュニティ要因組織要因)。自分の健康のことで上司をわずらわせたくはない(個ない(組織要因人間要因)。そのうえそのうえ,ときどきは姑の世話もしないといけない(個人間要因)。こうしたさまざまな要因によってこうしたさまざまな要因によって,智子さんはこの2年に1回の機会をのがしてしまいそうである。健康によい行動としてのがん検回の機会をのがしてしまいそうである予防行動」にかえるには,大きく分けて2つの支援が必要で診という「予防行動ある。1つは智子さんへの教育的支援は智子さんへの教育的支援,もう1つは環境的支援である。本章Aではおもに,個人や個人間の関係を取り扱う代表的な保健行本章Aではおもに動理論・モデルを学ぶモデルを学ぶ。本章Cでは,社会環境に注目したコミュニティレベルでの活動に使える理論・モデルを紹介する。人々の生活習慣の変化により生活習慣病の罹■患■■者が増大している。とくに糖尿病の有病率が高くなり,糖尿病対策は,今後の国民の健康維持および医療費の抑制にとって重要な対策の柱となっている。自殺者が年間2万人以上にのぼり,その多くは中高年であることから,働き盛りの人々の精神面の健康管理,うつ病患者への支援,病気や介護を苦にした高齢者の自殺に対する介護体制の整備,高齢介護者への支援などが求められている。高齢者においては,認知症高齢者の増加が見込まれることから,認知症の予防と介護体制の整備が急務になっている。また,グローバル化の影響を受け,新型コロナウイルス感染症など致死率の高い急性感染症に対して防疫や総合的な対策を講ずる必要性が高まっている。さらに,育児不安や児童虐待の増加が子育て支援における問題となっている。2008(平成20)年4月より生活習慣病対策として,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のために特定健康診査・特定保健指導の制度が始まった。医療保険者(国民健康保険・各種保険組合)は,とくに健診と生活習慣の改善のための保健指導を重点的に行うことになった。これにより国民健康保険担当や産業保健分野の保健師には保健指導技術の充実が求められることになった。高齢者施策においては,2006(平成18)年より介護予防制度が始まり,介護予防サービスが日常生活の自立のための支援を目的として提供され,地域包括支援センターが中心となってケアマネジメントを担うように位置づけられた。また,地域における介護予防を推進するために市町村で地域支援事業が実施されている。Sample Pages 1国民の健康問題の変化 1 2予防施策の変化 2社会関係のなかで問題をとらえてその解決方法を検討するこではなく,とが人々への支援の基本的な原則になっている。つまり,支援者には対とが人々への支援の基本的な原則になっている象者本人や家族のQOLの維持・向上を目ざすうえで,その背景として象者本人や家族のQOLの維持の地域社会を理解し,個人や家族のニーズに対して問題解決していく能の地域社会を理解し力が求められる。さらに,地域の条件に合わせた新たな支援方法をつく力が求められるりだしていく能力や,地域や社会に対して問題解決や問題を引きおこさりだしていく能力やないためのはたらきかけを行う能力もまた必要である。ないためのはたらきかけを行う能力もまた必要である公衆衛生看護に求められる機能と技術の背景公衆衛生看護に求められる機能と技術の背景a 公衆衛生看護に求められるもの近年の公衆衛生看護は,多岐にわたる課題に直面している。これらの課題に対し,公衆衛生を担う行政(都道府県・市町村)およびその機関(保健所・市町村保健センター)は組織的に対策に取り組んでいる。そのなかで,住民の健康をまもるための対策を具体化する支援活動が保健師による公衆衛生看護である。行動を行動を取り巻くさまざまな要因a 健康によい行動健康によい行動とはどんな行動か? よくとりあげられるのは以下のような行動である。運動習慣,食事習慣(飲酒を含む),禁煙,十分な睡眠,予防行動(交通外傷の回避や健診の受診)などである。このような「健康のためになる行動」のことを保健行動という(畑,土井,2009)。そして「健康のためにならない行動」を「ためになる行動」にかえることを「行動変容」という。まだ身についてない「健康のためになる行動」を新たに獲得することもまた「行動変容」といってよい。こうして健康のためのよき習慣を身につけることで,多くの慢性疾患を予防できる。2019(令和元)年末から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は多くの人々に悲劇をもたらした。とりわけ最前線にたった保健師は過労に苦しんだ。ストレス,睡眠不足……自分自身の健康のための保健行動をとりがたい日が続いた。片や市民の間では,「行動変容」は日常用語となっていった。COVID-19対策として,厚生労働省が早々から市民の「行動変容」を3つの対策のうちの1つの柱としてとりあげたからである。その結果,日本のすみずみまで,手洗い,マスク着用,ワクチン接種といった予防行動が広がった。このタイプの行動変容はわかりやすいし,効果も出やすい。糖尿病の患者推計2016(平成28)年の国民健康・栄養調査(厚生労働省)では,「糖尿病が強く疑われる人」は,日本に約1000万人いると推計され,「糖尿病の可能性が否定できない人」1000万人を合わせた糖尿病の患者数は約2000万人と推計されている。自殺死亡2021(令和3)年における日本の自殺死亡の総数は2万1007人であり,前年に比べて0.4%減少した。性別では男性が66.4%を占めている。年齢区分では,50歳代が全体の17.2%を占め,ついで40歳代(17.0%),70歳代(14.3%)の順であった。自殺の原因・動機は,「健康問題」が最も多く,ついで「経済・生活問題」「家庭問題」「勤務問題」の順であった。(厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課:令和3年中における自殺の状況.2022による)保健行動か健康行動かWHOの定義によれば,「健康とは,身体的にも,精神的にも,社会的にもよく調和のとれた状態にあることをいう。単に疾病がないとか病弱でないということではない」(金永安弘訳)。一方,保健とは「健康をまもり保つ」ということである。健康か保健か,その差は歴然である,かのようにみえる。ところがこれが形容詞になると混乱が生じる。たとえばhealth behaviorには,保健行動,健康行動,衛生行動という訳が共存している。どれがベストとはいえないものの,このなかで最もよく使われているのは保健行動である。本書では,これまでの用語の使われ方を踏襲し,統一して「保健行動」「保健行動理論」という用語を用いる。保健政策,医療法など図3─1 行動に影響を及ぼすさまざまな要因1章 公衆衛生看護における機能と技術 公衆衛生看護における機能と技術3章 公衆衛生看護の基盤となる理論 公衆衛生看護の基盤となる理論・いま公衆衛生看護は,健康問題の変化,医療の在宅シフトなどに直面している。・公衆衛生看護に求められている機能・技術には,実態把握,計画策定,評価機能がある。・公衆衛生看護を担う保健師には,看護・医療・介護・福祉などの幅広い知識と技術,生活を多面的に理解する能力,倫理的配慮ができる能力などが求められている。・公衆衛生看護における保健指導は,自己決定や行動変容を支援することを重視する。予防の概念予防の概念は予防医学に基づいている。予防にはそれぞれの段階により一次予防,二次予防,三次予防がある。一次予防は,生活習慣の見直しや環境の改善などにより,健康を増進し病気の発生を予防することである。二次予防は,健康診査などにより病気を早期発見・早期治療することにより病気が進行しないうちに治すことを意味する。三次予防は,適切な医療やリハビリテーションにより,病気や障害の進行や重症化を防止することである。公衆衛生看護が直面する課題高齢者の介護予防,生活習慣病予防対策とその患者支援,子育て支援,難病患者・精神障害者への支援,感染症対策と患者管理,災害対策と被災した人・地域への支援など。・行動変容を促すためには,保健行動の基本をまず理解する必要がある。・概念,理論,モデルの関係を知ることにより,保健行動の理解が容易になる。・・今日の保健行動理論の基盤の1つとなっているのは,レヴィンの理論である。・保健行動理論の歴史的発展過程を知ることにより,各種理論の理解が容易になる。行動と行動科学行動を科学的に研究するための行動科学は,1946年,ミラー(Miller, J. G.)を中心とするシカゴ大学のグループによって始められた。人間の行動解明のためには,生物科学と社会科学を統合する必要があるという問題意識がそこにはあった。行動科学は,今日,「人間の行動を総合的に理解し,予測・制御しようとする実証的経験に基づく科学」と定義されている。保健医療,企業戦略,危機管理など,多岐の分野に応用されている。医学領域では行動医学という用語もある。定義は,「健康と疾病に関する心理社会学的,行動科学的,医学生物科学的知見と技術を集積統合し,これらの知識と技術を病因の解明と疾病の予防,診断,治療,およびリハビリテーションに応用していくことを目的とする学際的学術」とされている。(畑栄一・土井由利子編:行動科学,第2版.p.4,南江堂,2009による)公衆衛生看護における公衆衛生看護における機能と技術とはなにか機能と技術とはなにか保健行動理論と保健行動理論と保健指導で活用できる理論保健指導で活用できる理論
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