↓↓↓↓↓↓ b 既存の情報収集とデータの分析D演習:保健事業の 演習:保健事業の 立案プロセスを学ぶ立案プロセスを学ぶ図6-1 ニーズのとらえ方●地域の健康課題を解決するための保健事業の企画を立案するプロセスを学ぶ。●保健事業の立案に必要な情報の収集・分析,優先順位の検討などの方法を理解する。現場の匂いが感じられる具体的な記述と図表を掲載誌上演習で保健事業の企画・立案のプロセスを学習Standard textbook標準保健師講座別巻2072296章 保健医療福祉の計画と評価仕事と育児を両立させたい健やかで心豊かな子どもに育ってほしい(次世代育成支援地域行動計画の例)めざす姿地域づくり型保健活動岩永俊博が提唱した保健活動の展開方法 2)。当事者や一般住民を含む関係者が,地域で実現すべき理想の健康な暮らしや生活の姿の具体的なイメージとして到達目標を共有し,健康な地域の実現に向けて,そのための条件やその条件を満たすためのそれぞれの役割を検討する。現状めざす姿と現状とのギャップこそがニーズである!206228めざす姿ギャップギャップ現状各種の保健活動や保健福祉サービスはこのギャップを縮めるためにある!目的設定型アプローチ目的の共有プリシード-プロシードモデルプリシード-プロシードモデル(PRECEDE-PROCEED model)は,グリーン(Green, L.W.)らによって提唱されたヘルスプロモーションの展開モデル 3)。さまざまな健康教育理論を戦略的に配置し,保健活動を計画し,実践し,かつ評価していく総合モデルである。日本名「MIDORIモデル」として,地域アセスメント(地域診断)に基づく個々の事業の企画から評価にいたるプロセスへの適用が報告されている 4)。保健計画策定においては,生活習慣病対策に最適であり,健康増進計画の策定においても広く活用されている。目的の共有がしやすい図6-2 目的設定型アプローチと課題解決型アプローチPCM手法PCM手法は主として海外における保健活動の支援に用いられている。国内の保健計画策定においては,母子保健計画や障害者プランの策定に適用されている。その詳細については本講座2巻を参照されたい。課題解決型アプローチたとえば周産期死亡率が高いという現状に対しての「めざす姿」は,みんなで考えるまでもなく,「周産期死亡率の低下」ということになろう。この場合には,課題解決型アプローチが有効である。人口動態統計人口動態統計は,出生・死亡・婚姻・離婚・死産の5種類の「人口動態事象」を把握し,人口および厚生労働行政施策の基礎資料を得ることを目的としている。出生・死亡・婚姻・離婚については「戸籍法」により,死産については「死産の届出に関する規程」により,市区町村長へ届けられた各種届出をもとに「人口動態調査票」が市区町村で作成される。調査票は,保健所長および都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に提出され,厚生労働省ではこれらの調査票を集計して人口動態統計を作成している。特定健診・保健指導と保険者2008(平成20)年の医療制度改革によって導入された「特定健診・保健指導」は,保険者の責務として実施されている。このため,自治体によるメタボ対策は自治体が運営する国保加入者に限って実施されることが多い。国保担当課であれば,当然のことであるが,健康増進課が対象とするのはすべての住民である。疾患によって保健活動の対象が変わることについては,熟慮が必要であろう。演 習 2 対策のターゲットとする集団を選定しよう 対策のターゲットとする集団を選定しようB.保健計画の策定プロセス課題解決型アプローチみんなで考える理想の姿専門家が考えた理想の姿専門家まかせになりやすい現状把握現状把握課題の明確化課題の明確化目的の共有計画の策定計画の策定D.演習:保健事業の立案プロセスを学ぶSample Pages確にしようとすることも多い。このときにとりたてて問題となるような分析結果が出ないということも少なくない。こうした場合,現状の課題がはっきりしないということになる。住民を対象としたアンケート調査で,保健福祉サービスの利用意向をたずねてニーズを把握することも多い。とくに「介護保険事業計画」「次たずねてニーズを把握することも多い。とくに世代育成支援地域行動計画」などの法定の保健福祉計画の策定において世代育成支援地域行動計画は,国がニーズ把握のための調査票を示し,全国一律のニーズの把握がは,国がニーズ把握のための調査票を示し,全国一律のニーズの把握が行われてきた。介護保険や保育などのサービスの提供量を推計するため行われてきた。介護保険や保育などのサービスの提供量を推計するために,利用意向をたずねることは必要な作業であろう。しかし,保健福祉に,利用意向をたずねることは必要な作業であろう。しかし,保健福祉サービスの利用希望=住民のニーズであろうか。そこで保健計画の策定サービスの利用希望=住民のニーズであろうか。そこで保健計画の策定における課題やニーズとはなにかをあらためて整理する必要がある。における課題やニーズとはなにかをあらためて整理する必要がある。演習Ⓐでは,メタボリックシンドローム(以下,「メタボ」と表記)対策の事例から,保健事業の企画立案のプロセスを学べるようにまとめた。紙上で保健事業の企画立案についての演習ができるように,演習の課題を設け,その解答例・解説を具体的に示している。読者は担当保健師になったつもりで,演習課題についての自分の考えを整理し,対応を考えながら,解答例・解説を読んでほしい。事例2008(平成20)年度より特定健康診査(以下,「特定健診」と表記)・特定保健指導が導入された。A市(人口10万人)でもメタボ対策が進められているが,A市における特定健診の対象者である40〜74歳の国民健康保険加入者は16,700人で,その受診率は37.5%にとどまっている(全国平均35.4%)。また,特定健診で抽出されたメタボ該当者・予備群に対する特定保健指導実施率も,A市は25.1%とのび悩んでいた(全国平均24.4%)。さらに2014(平成26)年度の特定健診の集計結果から,A市のメタボ該当者・予備群の割合が31.5%と,全国平均の27.1%より高いことが判明した。A市では,これまでも健診受診率や特定保健指導実施率の向上をめざして取り組んできたが,劇的な改善はむずかしいと担当者らは感じている。特定健診を未受診の6割の市民や保健指導を受けない大多数の市民の存在を考えると,特定健診・特定保健指導だけではメタボ該当者・予備群を減らすことはできないと思われた。そこで,A市健康増進課としてメタボ対策を見直すことになった。1 ニーズとは,めざす姿と現実のギャップ(図6-1)1 ニーズとは,めざす姿と現実のギャップ ニーズとは,めざす姿と現実のギャップ近年は,課題やニーズを「めざす姿」と現状とのギャップとしてとらえ近年は,課題やニーズをる考え方が普及してきた。この考え方は,めざす健康状態や地域における考え方が普及してきた。この考え方は,めざす健康状態や地域における住民の暮らしと現状との隔たりが大きいほど,「課題が大きい」あるいる住民の暮らしと現状との隔たりが大きいほど,とする。生活習慣病対策でいえば,「めざす姿」は生活は「ニーズが多い」とする。生活習慣病対策でいえば,習慣病で亡くなったり,要介護状態になったりすることをゼロにすると習慣病で亡くなったり,要介護状態になったりすることをゼロにするといった「めざす姿」を設定する。それだけでなく,「糖尿病の患者も食事を楽しめる」といった「めざす姿」を描くことも大切である。2 目的設定型アプローチ 目的設定型アプローチ「めざす姿」は専門職だけで描くものではなく,住民とともに描くことが重要である。こうした手法は「目的設定型アプローチ」とよばれる。目的設定型アプローチの代表的なものには,地域づくり型保健活動■+,プリシード-プロシードモデル ■+,PCM手法 ■+,などがあり,これらは地域保健の現場で広く活用されている。目的設定型アプローチでは,住民と一緒に「めざす姿」を描き,それを実現するための条件を検討したうえで,実際にその「めざす姿」やその条件が地域でどうなっているかを調査する。その結果,「めざす姿」や条件が達成されていなければ,「そこにニーズがある」あるいは,「それが課題である」ということになるのである。「めざす姿」は事業のゴールであり,目的にほかならない。目的設定型アプローチではこの目的をみんなで考えるところから始めるために,目的の共有化が図られやすいという利点を有している。一方,課題解決型アプローチ ■+では,専門家主導で抽出された課題に対して,それがどう解決されたらいいかという議論のなかで目的の共有化が図られる。しかし,課題解決型アプローチの場合,解決手段の検討が先行するために,目的についての議論がおざなりになりがちである (図6-2)。いずれの計画策定手法を用いる場合においても,現状の課題やニーズを明確にする際に既存のデータを分析する作業が必要である。 1 人口動態統計と標準化死亡比人口動態統計 ■+により,性別・年齢階級別・疾病分類別の死亡数を把握することができる。把握した死亡数と自治体の性別・年齢階級別の人口から疾病ごとの標準化死亡比(SMR:standardized mortality ratio)を算出することにより,当該の自治体ではどのような疾病で死亡する人が全国平均と比較して多いのかを判断できる。どのような取り組みにおいても,その目的を明確にしておくことが重要である。多くの関係者と一緒に取り組む場合,取り組みの目的が共有できていなければ,スムーズな連携は期待できない。A市が取り組もうとしているメタボ対策のめざすものを具体的に記述してみよう。メタボ該当者や予備群になるのを未然に防ぐことを目的とする。A市が実施する特定健診の対象者は,40〜74歳の国民健康保険(以下,A市が実施する特定健診の対象者は,40〜74歳の国民健康保険(以下,「国保」)の加入者であり,この人たちは全市民の約1/6でしかなく,さ)の加入者であり,この人たちは全市民の約1/6でしかなく,さらに特定健診の受診者は全市民の6.3%でしかない。そこで,健康増進らに特定健診の受診者は全市民の6.3%でしかない。そこで,健康増進課として取り組むメタボ対策の対象は,加入している医療保険の種別や課として取り組むメタボ対策の対象は,加入している医療保険の種別や年齢,特定健診の受診の有無を問わず,すべての市民とした ■+。年齢,特定健診の受診の有無を問わず,すべての市民とした ■■+■+。特定健診・特定保健指導は,メタボ該当者やその予備群となった人の特定健診・特定保健指導は,メタボ該当者やその予備群となった人の生活習慣を改善することにより,正常化を図る「二次予防」のアプローチ生活習慣を改善することにより,正常化を図る「二次予防」のアプローチである。事例紹介でも明記したように,A市の担当者は特定健診・保である。事例紹介でも明記したように,A市の担当者は特定健診・保健指導だけではメタボの有病率を下げることが困難であると考え,市民健指導だけではメタボの有病率を下げることが困難であると考え,市民がメタボになるのを未然に防ぐ「一次予防」を目的とした。がメタボになるのを未然に防ぐ「一次予防」を目的とした。どのような健康政策を立案する場合でも,ターゲットを明確にすることは不可欠なプロセスである。とくに,投入できる予算やマンパワーが限られるなかで,最大限の効果を出すためには,ターゲットをしぼり込むことは重要である。A市のメタボ対策において,ターゲットになる対象集団の選定のた演習Ⓐ:メタボリックシンドローム対策の企画・立案 演 習 1 対策の目的を確認しよう解答例 メタボ対策の目的加入している医療保険の種別や特定健診受診の有無を問わず,市民が解説 より具体的にメタボ対策の目的を確認するメタボ対策の目的といえば,メタボの住民を減らすことであり,議論は不要と思われる。しかし,そこに落とし穴がある。事業を企画する際に,より具体的にその目的を確認することが重要である。まず,「住民」とは誰なのかを明らかにする。次に,「減らす」とは,メタボになるのを未然に防ぐ(一次予防)のか,メタボの人の生活習慣を改善して正常化を未然に防ぐ(一次予防)のか,メタボの人の生活習慣を改善して正常化を図る(二次予防)のか,を明確にする必要がある。図る(二次予防)のか,を明確にする必要がある。6章 保健医療福祉の計画と評価 保健医療福祉の計画と評価6章 保健医療福祉の計画と評価11
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