C1看護過程の定義と意義B.コミュニケーションの技法と実際B1良好なコミュニケーションの前提1自分をよく知ること2自分のなかに引き出しをたくさんもつ2916148■事例①川本さんのこれまでの経過 川本久信さんは,69歳の男性であり,妻と2人暮らしである。歩くだけでも呼吸が苦しくなり,入院して治療を受けていた。症状は改善したが,肺からの酸素の取り込みが十分ではなく,退院後は在宅酸素療法を導入することとなった。②退院に向けて不安そうな様子をみせる川本さんの妻 退院が近づいたある日,妻は看護師に「病院だと看護師さんがいるから安心だけど,家では2人だけで大丈夫かしら。」と言葉をもらした。看護師は,妻のもつ不安に気づき,話を聞くことにした。 看護師が「どんなことがご心配ですか。」と問いかけると,妻は「なにって聞かれると,具体的にはわからなくて……。」と答えた。③看護師からの退院後の生活についての説明 看護師が,「ご自宅で酸素療法をする姿をイメージするのはむずかしいですよね。酸素療法をするうえで,入浴や着がえ,料理,外出する際の注意点をのちほど説明いたしますね。」と説明すると,川本さんの妻は,「そうしていただけるとたすかります。自宅で困ったことがあったら,どうすればよいですか。」と話した。 看護師は,「ご自宅では,2人だけになるので心配ですよね。退院後は,ケアマネジャーや訪問看護師,医師,酸素療法の機器の業者が川本さんを支えていきますので,ご安心ください。困ったときにはどこに連絡すればよいかもお伝えいたします。」と答え,近々,退院後の生活について,全員集まって話をするために,都合のよい日をたずねることにした。・体位は,臥位,座位,立位に区分でき,臥位は仰臥位,側臥位,30度側臥位,腹臥位などに,座位は椅座位,長座位,半座位(ファウラー位),端座位などに分けられる。・肢位は,頭部,胸部と腹部からなる体幹,手足(四肢)の身体各部位の相対的な位置関係をあらわす。・姿勢や動作において,重心を低く,支持基底面を広く保ち,重心線と床面との交点が支持基底面の中心に近いほど安定性が高まる。・看護師は,人にとってよい姿勢・よい動作を理解し,患者の活動目的に応じた援助をするとともに,看護師自身がよい姿勢・よい動作で援助を行うことも忘れてはならない。ab ab ab 81びょう病C.看護過程第1章 患者の心理の理解とコミュニケーションの技術B.姿勢と動作 たとえば,色の名前を「赤」しか知らなければ,青色や黄色は,赤以外の色としてしか受けとることができない。しかし,赤・青・黄・緑・紫という色とその名前を知っていれば,青色を見れば「青」だとわかる。そして,「黄」と言われれば黄色を思い浮かべることができ,相手とイメージを共有することもできる。 これと同じように,看護の場面でも,相手とイメージを共有することが重要である。看護の対象者は年代・性別・職業・知識・趣味などがさまざまであり,よいコミュニケーションの仕方は一律ではない。自分のなかに引き出しをたくさんもっていれば,患者が伝えようとするメッセージをしっかりと受けとめることができるようになる。したがって,ものごとに幅広く興味をもつことが大切である。芸術や音楽,スポーツ,文学,歴史などの教養を身 看護師は,患者にかかわる情報を得て,その全体を理解し,必要な援助を考えて,実施する。このときに看護過程という,実践のための科学的な方法を用いる。 准看護師は,看護過程の展開を単独で行うことは少ないが,看護師と共同で展開する機会は多い。したがって,看護過程の定義と意義について学習し,そして看護師が行う思考過程をともにたどり,必要な看護を実施できるように十分に学んでほしい。 看護過程とは,患者の健康状態や生活環境に関する情報を得て,アセスメントし,援助する内容(看護問題または看護診断)を明らかにし,計画の立案,実施,評価を行うという構成要素からなる一連の過程である。すなわち問題解決的思考の一つである。日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会(1995年)は,次のように定義している。 さらに,日本看護協会による看護業務基準(2016年)には,「看護を必要とする人を継続的に観察し,状態を査定し,適切に対処する」とあり,看護実践の方法として看護過程の展開の必要性を示している2)。 看護過程を展開することには表3―20のような意義がある。看護過程の展開でもっとも意義のあることは,患者個々人に合った個別的な看護実践を可能にすることである。これこそが,専門職としての看護職が目ざすべきことである。したがって,看護を実践するにあたり,看護過程を理解しておくことは重要な意義があるといえる。 ただし,看護過程には限界もある。たとえば,看護の対象である人間の多面性や複雑さをとらえきれない,看護過程を整理・記述することに時間がかかる,共通した表現を用いることが困難である,などがあげられる。そのた■自分の強さと弱さを知るとう 患者は闘の過程で,気弱になったり,自暴自棄になったりする。看護師はコミュニケーションを通して,揺れ動く患者の心を支え,患者自身がその弱さを受け入れられるように励まし,勇気づけていく役割を担っている。 患者の発するメッセージを受けとめるための第一歩は,看護師自身が,自分をよく知ることである。人は誰でも,自分のなかに強さと弱さとをあわせもっている。自分の強さも弱さもよく知り,それを受け入れることが,患者の弱さを受け入れ,強さを認めていく柔軟性につながる。■自分と向き合う 自分をよく知るためには,自分自身としっかりと向き合うことが必要である。自分に向き合う最もよい機会は,他者との関係でつまずいたときである。 表面的な人間関係では,他者とぶつかりあうことは少なく,そのような機会はおとずれにくい。他者を恐れずに,勇気をもって真正面から深くかかわるときに,自分と相手の考え方の違いや,受け入れてもらえない自分,受け入れられない相手と向き合うことになる。そのような機会を通して,自分とはどのような存在なのかを考え,他者と折り合いをつける方法を体験しながら学んでいくことが,自分を知り,自分を育てていくことにつながる。③次の図のうち,より安定するのはどちらか。■〔 〕22〔 〕内の正しい語に丸をつけなさい。①身体を安定させるには,重心の位置は〔高い・低い〕ほうがよい。また,支持基底面の面積が〔広い・せまい〕ほうがよい。②患者を仰臥位から側臥位に動かすときは,患者の膝を〔のばす・立てる〕と小さな力で向きをかえることができる。コミュニケーションの技法と実際看護過程看護過程の定義看護過程の定義 『看護過程』とは,看護を実践するものが独自の知識体系・経験にもとづいて,対象の必要に的確に応えるために,看護により解決できる問題を効果的に取り上げ,かつ解決していくために,系統的・組織的に行う活動である1)。看護過程の看護過程の展開の意義展開の意義看護過程の活用看護過程の活用における留意点における留意点1)日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会:看護学学術用語.p.50,日本看護科学学会第4期学術用語検討委員会,1995.2)日本看護協会編:看護に活かす基準・指針・ガイドライン集2018.p.5,日本看護協会出版会,2018.かかわりのかかわりのポイントポイント 看護師は,コミュニケーションを通じて,患者・家族のもつ不安の内容を明らかにし,具体的な対応策を提供することで,安心して退院に向かえるように支援している。かかわりのポイントを見てみよう。 ①患者・家族がもつ退院後の不安を傾聴し,不安の内容を具体的にしていく 看護師は,不安を訴える妻に,「どんなことがご心配ですか。」と問いかけ,心にかかえている不安を,まずは表現できるようにはたらきかけた。漠然とした不安の解決はむずかしいため,不安を表出してもらったうえで,不安の原因を一つひとつ一緒に考え,具体的にしていく(33ページ)。 ②患者・家族が,退院後の生活をイメージできるように説明する 看護師は,酸素療法を行いながらの川本さんの退院後の生活が,どのようなものになるのかを説明している。退院後にこれまでと生活が大きく変化する場合,患者や家族は退院後の生活をイメージすることがむずかしい。そこで,退院後の具体的なイメージがもてるような説明が大切である(34ページ)。11次の問いに答えなさい。①次の図の体位の名称を答えなさい。■〔a. b. 〕②次の図のうち,よい姿勢はどちらか。■〔 〕19コミュニケーション看護過程患者の心理を踏まえたコミュニケーションのコツを示しました看護過程がどのような流れで展開されているかについて、准看護師が知っておくべきことをまとめました治療・ケアの流れをもとにした10事例を掲載各節末の「復習問題」を拡充しています
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