2023年版_系統看護学講座_全70巻
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A保健師助産師看護師法❸ただし1948(昭和23)年の保健師助産師看護師法制定以前の旧制度の助産婦は看40護師の業務を行うことはできない。保健婦は旧制度の時代から看護婦の業務を行定され,産婆の免許制度が確立し,同年9月には産婆名簿登録規則と産婆試うことが認められ,厚生労験規則が定められた。その後1910(明治43)年に,内務大臣の指定した学働大臣の免許に切りかえたあとでも同じである。  校・講習所を卒業した者は,無試験で産婆名簿に登録できるよう改正された。❹助産師・看護師・歯科衛このため制定された私立産婆学校産婆講習所指定規則(内務省令)によると,生士・診療放射線技師・歯科技工士・臨床検査技師・高等小学校卒業または高等女学校2年以上の課程を修業した者が入学し,修理学療法士・作業療法士・業年限は2年以上であった。視能訓練士・臨床工学技士・義肢装具士・言語聴覚 1942(昭和17)年には国民医療法が制定され(8ページ),そのなかの保健士・救急救命士が該当する。婦・助産婦・看護婦に関する規定で,産婆規則は1947(昭和22)年5月に同法の委任命令とされ,名称も助産婦規則と改められた。◆看護婦規則 日本において看護が一般に認識されるのは,明治維新の際における上野の彰義隊傷病兵の救護である。その後,西南の役,日清・日露の戦争などを通じて看護は著しい進歩・発達をみるようになった。 看護婦の教育は,1885(明治18)年に高木兼かね寛ひろが有志共立東京病院看護婦教育所を設けて2年課程で養成を開始したのをはじめとする。その後,次々に看護教育機関が設置されるようになった。 このような実態に対し,東京府をはじめ各県ではそれぞれ取締規則を設けて資格・業務などを規制していたが,しだいに看護婦が増加するに伴い,1915(大正4)年6月には看護婦規則(内務省令)が制定されて,全国的な制度が確立した。看護婦規則の概要は表2■5に示すとおり。 看護婦規則の制定に伴い1915(大正4)年8月に,私立看護婦学校講習所指定標準ノ件(内務省訓令)が制定され,入学資格・修業年限などが定められた。これによると,入学資格は高等小学校卒業または高等女学校2年以上の課程を修業した者であり,修業年限は2年以上であった。 昭和になり戦争遂行のために多数の看護婦が必要となったので,看護婦になるための年齢が1941(昭和16)年には17歳に,さらに1944(昭和19)年には16歳に引き下げられた。 この看護婦規則も,1947(昭和22)年5月に,前述の国民医療法の委任命令に改められている。第2章看護法第2章看護法⒏守秘義務に反した保健師・看護師・准看護師(助産師は刑法第134条により同じ内容で規表2■5 看護婦規則の概要1)看護婦とは,公衆の需もとめに応じて,傷病者または褥じょく婦ふ看1目的2定義8研修2030表2■4 保健師助産師看護師法において規定されている罰則罰則2年以下の懲役または50万円以下の罰金(両方を科す場合あり)1年以下の懲役または50万円以下の罰金違反の内容⒏無免許で保健師・助産師・看護師・准看護師の業務を行った者。⒏虚偽または不正の事実で免許を受けた者。⒏同時に名称独占にも違反すると,罰金は100万円以下と重くなる。⒏保健師助産師看護師試験委員や試験事務担当者,准看護師指定試験機関の役職員や試験委員であって故意または重大な過失で事前に試験問題をもらし,または故意に不正な採点をした者。⒏准看護師指定試験機関の役職員などで守秘義務に反した者。⒏同じく都道府県知事の停止命令に反した者。⒏業務停止期間中に業務を行った者。⒏保健師に対する主治医の指示,保健師に対する保健所長の指示,保健師・助産師・看護6月以下の懲役または50万円以下の罰金(両方を科す場合あり)6月以下の懲役または10万円以下の罰金50万円以下の罰金師・准看護師に禁止された行為,助産師の異常妊産婦などの処置禁止の各規定に反した者。定されている)。⒏命令に反して保健師等再教育研修などを受けなかった者。⒏業務従事届を出さなかった者,みずから行わなかったのに出生証明書などを交付した,異常死産児の届出をしなかった,助産録の記載・保存をしなかった助産師。⒏名称独占に違反し看護師等でないのに名称を使用した者。⒏特定行為の指定研修機関で虚偽の報告をした者。⒏准看護師指定試験機関の帳簿に虚偽の記載などをし,虚偽の報告をし,または試験事務を休止したりしたなどの者。21A.保健師助産師看護師法31 看護職にとって最も重要な法律である保健師助産師看護師法と看護師等の人材確保の促進に関する法律について解説する。看護の重要性に鑑み,看護法として章を独立させている。看護法も含めた医事法全体の解説については,第3章の冒頭を見られたい。 保健師助産師看護師法は,制定以来70年以上が経過し,27回の改正が行われている。ほかの法律が改正された影響で改正されたものや行政改革の一環で全省庁一律に改正されたものもあるが,看護の発展などのために本質的な改正が行われたものも多い。 本法の目的は,保健師・助産師・看護師の資質を向上し,それにより医療・公衆衛生の普及向上をはかることである。 1948(昭和23)年7月30日に保健婦助産婦看護婦法❶の名称で公布され,学校の指定などは医師法などと同時に同年10月27日から,看護婦に関する部分は1950(昭和25)年9月1日から,その他は1951(昭和26)年9月1日から段階的に施行された。●看護 看護とは,一般的には傷病者に手当てをしたり世話をしたりすることであり,幅広い概念である。さまざまな定義については,先人の書物や人々の考えをもとに学修していただきたいが,筆者は,人間の自然治癒力を引き出し,生きる希望と力をつくり,生涯にわたり尊厳をもって輝く人生を送れるように支援することであると考える。保健師助産師看護師法第5条では,傷病者もしくは褥婦に対する療養上の世話または診療の補助❷という行為概念が書かれている。それは看護師のみが行える業務独占の行為を書いたのであり,看護の定義ではない。看護の定義は,保健師助産師看護師法には出てこない。この法律は衛生取締法,つまり無資格者が危険な行為をするのを取締まる法律であり,書いていることは各資格の定義だからである。裏返せば,看護師などの免許は法律で規定しなければならないほど重要だということである。看護の定義は法律とは別の次元のものであり,年々発展する看護学を社会に適用したものである。 保健師・助産師・看護師・准看護師の法律上の定義は次のとおりである。 助産師でなければ,助産または妊婦・褥婦・新生児の保健指導を業とすることはできない。これを助産師の業務独占❶という。しかし,助産師の業務は医業の一部であることから,医師はその業務の一部として助産師の業務を行うことができる(保健師助産師看護師法第30条,273ページ)。 内診行為のように助産師しか行えない行為は,たとえ看護師が診療の補助としてでも行うことはできない。また,助産師も名称独占であり,助産師でなければ助産師またはこれにまぎらわしい名称を用いてはならない。 看護師でなければ,傷病者または褥婦に対する療養上の世話,または診療の補助を行うことを業とすることはできない。これを看護師の業務独占という(保健師助産師看護師法第31条,273ページ)。また,名称独占であり,看護師でなければ看護師またはこれにまぎらわしい名称を用いてはならない❷。 准看護師でなければ,医師・歯科医師または看護師の指示を受けて傷病者または褥婦に対する療養上の世話,または診療の補助を行うことを業とすることはできない。これを准看護師の業務独占という(保健師助産師看護師法第32条,273ページ)。また,名称独占であることは看護師と同じである。 保健師・助産師・看護師の本来の業務に加え,母体保護法による受胎調節の実地指導も業として行える(第15条,131ページ)。 看護師・准看護師の業務独占には次のような例外がある。●医師・歯科医師医師は医業の,歯科医師は歯科医業の範囲内で看護師の業務を行うことができる(保健師助産師看護師法第31条,273ページ)。●保健師・助産師保健師・助産師は看護師の免許をもたなくとも看護師の業務を行うことができる(保健師助産師看護師法第31条第2項,273ページ)。看護師の免許をもたないが保健師・助産師の免許をもつ場合とは,看護師国家試験に合格したが看護師免許を申請しない者が考えられる❸。なお,看護師の免許をもたない助産師などが看護師の業務を行うことはできるが,看護師と称することはできない。看護師国家試験に合格しないで2007(平成19)年3月以前に保健師・助産師の国家試験にだけ合格し,その免許を受けた者も看護師の業務を行うことができる。 以上を含め,看護師の業務独占の例外を表2■2に示す。外国医師等が行う臨床修練に係る医師法第17条等の特例等に関する法律(昭和62年法律第29号) この法律により,医療に関する知識・技能の修得を目的として来日した外国看護師・助産師等13職種❹が,必要な知識・技能を有するなどの一定の 保健師助産師看護師法は1948(昭和23)年7月に当初の名称は保健婦助産婦看護婦法として制定された。これは戦前からの制度を一部改革した保健婦助産婦看護婦令(昭和22年政令第24号)の内容を引き継いでいるが,これによって現在の新しい看護制度の基礎が確立された。それまでの産婆規則・看護婦規則・保健婦規則の独立した法令によっていた制度が,看護教育を基礎に保健師教育・助産師教育を行うことになったのである。◆産婆規則 保健師・助産師・看護師のうち,明治時代に最初に制度化されたのは産婆つまり助産師である。産婆は江戸時代から1つの職業であったが,その要件は現代とはまったく異なった。明治新政府は発足早々の1868(明治元)年12月に太だ政じょう官かん布告を発して,■産婆は人命にも拘わる重要な職業であるから,売薬の世話や堕だ胎たいなどを行ってはならない。■とその自覚を促している。1874(明治7)年には文部省が医制(7ページ)を発布し,産婆の免状は,40歳以上で婦人・小児の解剖生理と病理の大意に通じ,平産10人,難産2人を取り扱ったという産科医の実験証書をもつ者に与えることとされた。しかし医制の規定は実施されず,実際の取締りは各地方の取締規則にゆだねられた。 1899(明治32)年7月に統一的な法規として勅ちょく令れい❶により産婆規則❷が制基準に適合しているときは,厚生労働大臣の許可により,臨床修練のため厚生労働大臣の指定する病院において1年をこえない範囲で,臨床修練指導者の指導監督のもとに看護または助産の業を行うことができる。これらの者は臨床修練外国看護師等とよばれる。 保健師・助産師・看護師・准看護師は,免許を受けたあとも,臨床研修その他の研修❶を受けるよう努めなければならない。必ず受けなければならないものではなく,努力をするものである。一般的に努力義務❷といわれる。臨床研修 特定行為は診療の補助に含まれる行為である。特定行為の内容は,保健師助産師看護師法第37条の2第2項第1号に規定する特定行為及び同項第4号に規定する特定行為研修に関する省令で定められている(表2■3)。特定行為を手順書により行う看護師は,厚生労働大臣が指定する研修機関において特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない。保健師・助特定行為研修A.保健師助産師看護師法39A.保健師助産師看護師法表2■2 看護師の業務独占の例外内容職種看護師の業務を行うことができる。保健師看護師の業務を行うことができる。内診は助産師の業務独占である。助産師医業の範囲内で看護師の業務を行うことができる。医師歯科医業の範囲内で看護師の業務を行うことができる。歯科医師歯科衛生士歯科診療の補助を行うことができる。歯石の除去・フッ素の塗布は歯科衛生士の業務独占である。診療放射線技師診療の補助として,政令で定める画像診断装置を用いた検査,造影剤の血管内投与,下部消化管検査に関しカテーテル挿入などを行うことを業とすることができる。X線の照射などは診療放射線技師の業務独占である。診療の補助として,採血(医師の具体的な指示を受けて行うものに限る)やインフルエンザ検査のための鼻腔拭い液等による検体の採取など,および生理学的検査を行うことを業とすることができる。診療の補助として,理学療法を行うことを業とすることができる。診療の補助として,作業療法を行うことを業とすることができる。診療の補助として,両眼視機能の回復のための矯正訓練とこれに必要な検査および眼科にかかる検査を行うことを業とすることができる。診療の補助として,嚥下訓練,人工内耳の調整,その他厚生労働省令で定める行為を行うことを業とすることができる。診療の補助として,生命維持管理装置の操作を行うことを業とすることができる。診療の補助として,義肢および装具の装着部位の採型ならびに義肢および装具の身体への適合を行うことを業とすることができる。診療の補助として,救急車の中などで救急救命処置を行うことを業とすることができる。診療の補助として,喀痰の吸引等を行うことを業とすることができる。臨床検査技師理学療法士作業療法士視能訓練士言語聴覚士臨床工学技士義肢装具士救急救命士介護福祉士第2章看護法4)看護婦は主治医の指示を受けた場合のほかは,治療器械を使用し,または薬品を授与したり指示をしたりしてはならない。しかし臨時救急の手当ては差しつかえない。護の業務をなす女子をいう。2)看護婦になろうとする者は,18歳以上で,看護婦試験に合格するかまたは地方長官の指定した学校・講習所を卒業し,地方長官の看護婦免許を受けなければならない。3)看護婦試験は地方長官が行う。試験科目は,人体の構造および主要器官の機能,看護方法,衛生および伝染病大意,消毒方法,包帯術および治療器械取扱法大意,救急処置であり,1年以上看護の学術を修業した者でなければ試験を受けることができない。5)地方長官は,上記②の看護婦となる資格のない者に対しても当分の間,履歴審査により看護の業務を免許し准看護婦免状を下付することができる(この准看護婦の免状を受けた者は,名称は同じでも保健婦助産婦看護婦法による准看護婦とはまったく別のものである)。30万円以下の罰金❶見出しで法律名のあとに付している( )内の■昭和23年法律第203号■は,昭和23年に203番目に公布されたという意味である。 ❷この部分は保健師助産師看護師法第5条の原文では,■傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助■と表記されている。本書では■じよく婦■については■褥婦■として記載する。       ❶帝国憲法時代の法規の形式で,現在の政令に相当する。          ❷産婆規則の内容     ①20歳以上の女子で,産婆試験に合格し,地方長官(道府県知事)の管理する産婆名簿に登録された者でなければ産婆の営業はできない。           ②産婆試験は地方長官が行う。受験資格は1年以上産婆の学術を修業した者。❶業           業のことを業務という場合がある。       ❷新生児         母子保健法では,出生後28日を経過しない乳児をいう。(128ページ)    ❶免許を受けた者でなければ,その業務を行うことはできない。業務制限という場合もある。      ❷愛玩動物看護師法による愛玩動物看護師も名称独占である(104ページ)。  ❶再免許のときなどの保健師等再教育研修・准看護師再教育研修は趣旨が異なるので,この研修には含まれない。         ❷努力義務        法文中に出てくる用語ではないが,行政実務ではこのようにいうことが一般的である。■しなければならない■と強制することができないときに■するように努めなければならない■と求める法律上の表現をさすものである。厳密には義務ではない。        (昭和23年法律第203号)助産師の業務独占と名称独占看護師の業務独占と名称独占准看護師の業務独占と名称独占本来の業務のほかに行える業務業務独占の例外◆保健師 保健師とは,厚生労働大臣の免許を受けて,保健師の名称を用いて,保健指導に従事することを業ぎょうとする者をいう。 保健指導とは,一般的に健康を保つ目的に向かって教え導くことである。各種の法律に規定があり,法制度ごとに内容が多少異なる。 業❶とは,公衆に対して反復継続の意思をもって一定の行為を行うことである。反復継続の意思があれば,その行為を1回行っただけでも業となる。しかし,たまたま数回の行為があっても,その間に反復継続の意思がなければ業ではない。また,業を行うことで報酬を受ける場合が多いが,報酬を受けたかどうか,受ける意思があったかどうかは業の要件とは関係がない。なお,■業とする者■というのは■業とすることができる者■の意味であって,実際に業務を行っていない者も含まれる。保健師の場合は,■名称を用いて■という要件があることに注意してほしい。◆助産師 助産師とは,厚生労働大臣の免許を受けて,助産または妊婦・褥婦もしくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。 助産とは分ぶん娩べんの介助を行うことで,妊婦に分娩徴候があらわれてから後あと産ざんが終了して完全に分娩が終わるまでの間に行う一連の分娩の介助行為をいう。妊婦とは受胎後分娩開始までの期間における女子をいい,褥婦とは,産褥すなわち分娩が終わって母体が正常に戻るまでの期間(ふつう6週間)における女子をいい,新生児❷とは新産児と同じ意味で,出生後およそ1か月の間の子どもをいう。近年,助産と看護業務との違いを明確にするために,子宮口の開大の状態などの内診は,助産師にしかできないとの確認の解釈通知が2度にわたり厚生労働省から出されている。なお,助産所については医療法で規定している。◆看護師 看護師とは,厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者もしくは褥婦に対する療養上の世話または診療の補助を行うことを業とする者をいう。 療養上の世話とは,療養中の患者または褥婦に対して,その症状に応じて行う医学的知識と技術を必要とする世話をいい,診療の補助とは,医師または歯科医師が患者を診断し,治療する際に行う補助行為をいう。診療者の補助ではないことに注意されたい。 なお,1915(大正4)年に制定された看護婦規則では,傷病者または褥婦看護業務という用語であったが,1947(昭和22)年制定の保健婦助産婦看護婦令において現行の表現となり,そのまま法律に引き継がれた。◆准看護師う。保健師または類似の名称を用いなければ,保健師でなくとも保健指導を 准看護師とは,都道府県知事の免許を受けて,医師・歯科医師または看護業とすることができる。医師・歯科医師・養護教諭などがその例である。助産師・看護師ももちろん保健指導を行うことができる。12沿革サンプルページ健康支援と社会保障制度 ❹ 看護関係法令93サンプルページは、第54版(2022年発行)のものです。保健師助産師看護師法などの看護師にとって重要な法律はとくに詳しく解説。重要な事項については表を用いてわかりやすく記載。

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