2023年版_系統看護学講座_全70巻
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■腸管に寄生する吸虫 横川吸虫Metagonimus yokogawaiは人間ドックで最も多く虫卵が検出される寄生虫でもある。アユ・シラウオの生食により感染し,腹痛・下痢などの症状がみられることがあるが,軽微である。 A 寄生虫学総論 1 寄生虫の分類 1 原虫Protozoa 真菌を除く単細胞真核生物を原生生物といい,このうち動物としての特徴をもつものを原虫(原生動物)という。大きさはおおよそ5~50 μ mであり,肉眼では見えない。 3 条虫類 1 日本海裂頭条虫Dibothriocephalus nihonkaiensis 成虫が腸管に寄生する裂頭条虫目の条虫である。魚類を生食する習慣のあるわが国では,アニサキスや横川吸虫とともに多くみられる寄生虫である。 ●感染経路・生活環 プレロセルコイドが寄生している第2中間宿主のサクラマス・カラフトマス・シロサケなどの刺身,寿司などを食べることによって感染する。頭節が小腸上部の絨毛に固着して成長し,成虫は10 m程度にまで達することがある(図付︲8)。 ●症状 虫体の大きさの割に症状は軽く,腹部不快感,下痢,食欲不振を自覚する程度である。排便時,虫体の一部が排泄されてはじめて気づくことも多い。 ●診断・検査 排出された虫体の一部,もしくは糞便中の虫卵を検鏡によ第11章 病原細菌と細菌感染症 2 レンサ球菌Streptococcus属 2 寄生虫の生殖,成長・発育と生活環S. pyogenes(化膿レンサ球菌)S. agalactiaeS. pneumoniae(肺炎球菌)S. mitisS. sanguinisS. mutans*ランスフィールドによる分類。NOTENOTE❶ラムゼイハントRamsay Hunt症候群 顔面神経管という頭蓋骨でできた管の内部にある膝神経節に潜伏していたウイルスが活性化することにより発症すると考えられている。顔面神経麻痺が永続する可能性が高いため,早急な治療が必要となる。198図11-2 レンサ球菌表11-1 ヒトに病原性を示すレンサ球菌属(一部のみをあげた)316付章 寄生虫と衛生動物263ウ球菌(VRSA)も分離されている。 ●感染経路 黄色ブドウ球菌による医療関連感染は手指や医療器具を介する接触感染が多く,医療従事者はMRSAの感染予防にとくに注意しなければならない。 直径約1 μ mのグラム陽性球菌で,細胞分裂の際,分裂面が同じ方向に入り,すぐ離れないために,連れん鎖さ状に配列する(図11︲2)。ヒトや動物の口腔や咽頭に常在する。血液寒天培地で培養すると,コロニーの周囲に溶血環かん❶を生じる。不完全な溶血でできる緑色の溶血環をα溶血,完全に溶血して透明な溶血環をβ溶血という。この性質から,レンサ球菌属は溶血性レンサ球菌(略して溶連菌)とよばれることも多い。β溶血を示すものには化か膿のうレンサ球菌Streptococcus pyogenesとストレプトコッカス︲アガラクティエS. agalactiaeがあり,いずれも病原性が強い。 レンサ球菌属にはそのほかに,肺炎をおこす肺炎球菌S. pneumoniae,口腔内に常在し齲う歯し(むし歯)の原因となるミュータンス菌S. mutans,抜歯のあとに心内膜炎をおこすストレプトコッカス︲ミチスS. mitis,ストレプトコッカス︲サンギニスS. sanguinisなど,100菌種以上が所属する(表11︲1)。 ある生物が別の生物に取りつき,そこから栄養をとるなど,持続して一方的になんらかの利益を得る状態を寄生parasitismという。利益を得る側の生物を寄生体parasite,与える側の生物を宿主hostという。寄生体には細菌や真菌も含めてさまざまな生物が存在するが,このうち動物としての特徴をもつ寄生体を寄生虫❶という。 寄生虫には,宿主の体内に寄生する内部寄生虫endoparasiteと,ダニ・ノミ・シラミなどのように宿主の体表に寄生する外部寄生虫ectoparasiteがある。一般に「寄生虫」というと内部寄生虫をさすことが多いので,本書では内部寄生虫を単に「寄生虫」と記載している。 寄生虫は以下に述べるように,単細胞の原虫protozoaと多細胞の蠕虫hel-minthsとに大きく分けられる。 なお,蠕ぜん虫ちゅうの成虫はふつう肉眼で見えるサイズなので「微生物」には含まれないが,本書では蠕虫も原虫とともに学習する。また,外部寄生虫のうち重要なものについては,本章最後の「D. 衛生動物」で学習する。 生物が自己と同じ種類の新しい個体を生ずることを生殖という。寄生虫の生殖方法には,雌雄の生殖細胞が合体して次世代をつくる有性生殖と,一個体が2つ以上の個体に分裂して次世代をつくる無性生殖とがある。 新たに誕生した寄生虫の個体が成長,発育して,生殖により次の世代を生ずるようになるまでの生活を生活環(または生活史)という。寄生虫には,生活環のなかで形態を変化させるものが多い。原虫の一部には,運動能・増殖■肝臓の胆道系に寄生する吸虫 肝吸虫Clonorchis sinensisはコイ科の淡水魚(コイ・フナ)の生食で感染する。多数の固体が寄生すると,肝臓で慢性の炎症をきたし肝硬変へといたることがある。 肝蛭Fasciola hepatica(または巨大肝蛭F. gigantica)は成虫が数cmにもなる大きな吸虫で,水生植物(ミョウガ・セリ・クレソン)やウシの腸管・肝臓の生食で感染する。本来の終宿主はウシ・ヒツジ・シカである。幼虫が肝臓を貪食しながら胆道系まで移動するので,激しい症状が出る。産直前の妊婦への初感染によって,新生児が重症水痘を発症した場合の致命率は,30%にものぼる。 水痘は感染症法の五類感染症である(小児科定点把握疾患,ただし入院例は全例)。また,学校保健安全法により,すべての水疱が痂皮化するまでは出席停止となる。■帯状疱疹 回帰発症では帯状疱疹がおこり,患者の多くは50歳以上の中高年者である。ウイルスが再活性化した神経の支配領域に片側性に水疱をつくり激痛を伴う。治癒後もしばしば帯状疱疹後神経痛postherpetic neuralgia(PHN)が残り,疼痛の治療を必要とすることがある。片側性の顔面神経麻痺・難聴・耳介湿疹を症状とするラムゼイハント症候群❶をおこすこともある。回帰発症は,通常一生に一度であり,返復する場合には免疫不全を疑う。 免疫不全などの易感染性宿主にVZVが初感染すると致命的な重症水痘となり,回帰発症でも全身に症状が出現する汎発性帯状疱疹(播種性帯状疱疹)となることがある。 ●検査 ①VZV特異的抗体を用いた染色法やイムノクロマト法(迅速診断キットあり)による水疱内容物のVZV抗原の検出,②水疱内容物や血液単核球中のウイルスDNAの検出(PCR法),③培養細胞を用いたウイルス分離,などの方法が用いられている。 ●治療・予防 アシクロビル,バラシクロビル,ファムシクロビル,ビダラビン,アメナメビル(帯状疱疹に限定)が治療に用いられる。弱毒生ワクチンが定期接種されており,患者との接触後72時間以内の接種でも発症予防効果がある。免疫不全者の発症予防には免疫グロブリン製剤が用いられる。50歳以上の帯状疱疹の予防に,弱毒生ワクチンもしくはgpEサブユニットワクチンが任意接種される。A.DNAウイルスb.帯状疱疹(写真提供:緒方克己博士)C.蠕虫331a.グラム染色像b.走査電子顕微鏡像由来ヒトウシ・ヒトヒトヒトヒトヒト感染症化膿性炎症,全身性疾患新生児髄膜炎・ウシ乳房炎上気道炎・肺炎心内膜炎心内膜炎齲歯菌名a.水痘図12-4 水痘と帯状疱疹溶血型ββ ●診断・検査 住血吸虫寄生部位に応じて,糞便または尿の虫卵検査を行ααう。α ●治療・予防 治療はプラジカンテルが第1選択薬である。予防は,住血-吸虫分布地域では淡水との接触を避ける。抗原型*AB-KH-図付-8 日本海裂頭条虫この個体は,全長4 m程である。(写真提供:清水少一博士)❶虫 この場合の「虫」は昆虫だけではなく,獣・鳥・魚・貝以外の小動物全般をさす言葉である。NOTE❶溶血環 赤血球を加えた固型培地上で,赤血球膜を破壊する毒素(溶血毒)を出す細菌を培養すると,コロニー周囲の赤血球がこわされて形成される,透明または緑色の環。サンプルページ疾病のなりたちと回復の促進 ❹ 微生物学 2 蠕虫Helminth 蠕虫とは,多細胞の真核生物のうち,くねくねとした運動(蠕動)を行うひも状の小動物の総称である。この名称自体は分類学的に特定のグループをさすものではない。一般的に「寄生虫」という言葉でイメージされるのは,この蠕虫類である。 3 その他の吸虫類85さらに、微生物と人のかかわりについて学んでいきます。本書ではまず「いきもの」としての微生物について学びます。今回から付章として寄生虫学を掲載します。

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