2023年版_系統看護学講座_全70巻
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2 心臓の構造と機能 1 心室と心房 心臓は,胸郭の縦じゅう隔かく❷の中央部に存在し,血液を全身の諸臓器に送るポンプの機能を果たしている。心房中隔・房室中隔・心室中隔によって,右心房・右心室・左心房・左心室の4つの空間(腔)に分けられる(図6■2)。全身に血液を送るポンプとしての機能はおもに左心室が担っている。 B 血圧調節と末梢循環のしくみと病態生理 1 血圧と血圧調整a 血圧 血圧とは,心臓から送り出された血液が動脈を押し広げるときの圧力のことである。第6章 循環のしくみと病態生理283例9図6■14 右心不全と左心不全の病態生理 A 心臓のポンプ機能と病態生理 1 循環器系のはたらき❶夜間は臥位になる時間が長いため。臥位では心臓の負担が減るため。尿量が増える。心不全が悪化すると夜間も乏尿になっていく。NOTE❶老廃物には二酸化炭素や尿素,アンモニアなどがある。NOTE❷縦隔 胸腔の中央部で,左右の肺にはさまれた部分をいう。❸右心系と左心系は心房中隔・心室中隔によって隔て表6■1 安定狭心症と不安定狭心症られる。おもな特徴NOTE・ 心筋の酸素需要が増えることによる虚血・ 発作の誘因・持続時間が予測可能・ 治療薬の有効性が予測可能・ 安静時の狭心症状がみられる・ 症状の頻度の増加,重症度の増悪・ 放置した場合,心筋梗塞に移行することがあるNOTENOTE❶三尖弁は前尖,後尖,および中隔尖の3個の弁尖から構成される。一方,僧帽弁は前尖,後尖の2個の弁尖からなる。 循環器系は,心臓と血管からなり,血液が循環する血液循環と,リンパがリンパ管・リンパ節を経て静脈に流れ込むリンパ循環に分類される(図6■1)。血液循環とその役割 血液循環は,血液によって物質を運搬するシステムである。その役割は,酸素や栄養を全身の組織・細胞に供給し,組織・細胞で生成された老廃物❶を,それらを処理する器官に運ぶことである。 血液循環には体循環と肺循環がある(図6■1)。体循環は,酸素を多く含む動脈血を全身に運び,毛細血管を経て,二酸化炭素を多く含む静脈血を心臓へ集める循環である。肺循環は,静脈血を肺に運び,ガス交換によって動脈血にかえて心臓へ戻す循環である。心臓と血管に流れている血液の総量を,循環血液量という。リンパとその役割 血液の液性成分の一部は,動脈性毛細血管から血管外へ滲しん出しゅつする。それが組織の細胞間隙に入り,組織の新陳代謝産物が加わったものが組織液(間質液)である。この組織液を通じて細胞は生命活動を営んでいる。 組織液の多くは静脈性毛細血管から静脈に回収されるが,一部は毛細リンパ管に入り,リンパ循環を経て静脈に入る。このリンパ管を流れる液をリンパ(リンパ液)lymphという。リンパはタンパク質とリンパ球(3章★ページ)に富む無色の液体である。リンパ循環は,組織中の余分な水分を回収して血液に戻す役割や,脂肪を運搬する役割ももつ(図6■1,8章★ページ)。右心系・左心系とその役割 右心房と右心室を合わせて右心系とよび,左心房と左心室を合わせて左心系とよぶ。右心系には静脈血,左心系には動脈血が流れている❸(図6■2■a)。 右心系は,上大静脈・下大静脈から流入する静脈血を,肺動脈へ送り出し,左心系は,肺静脈から流入する動脈血を大動脈へ送り出す役割を果たす。は30歳以上では多くの人にみとめられるようになる。加齢によって増加するが,その頻度が少ない場合は病的意義が少なく,治療を要しない。一方,病的な不整脈として頻脈性不整脈や徐脈性不整脈,期外収縮などがある。 ◆頻脈性不整脈・徐脈性不整脈 頻脈性不整脈は,心拍数が正常よりも多い状態で,期外収縮および1分間に心拍数が100回以上となる病態である。 頻脈性不整脈には上室性頻拍と心室性頻拍がある。上室性頻拍は心房または房室接合部までの異常によっておこり,1分間に180~200回以上心臓が鼓動する状態である。心室性頻拍は心室が原因となるもので,心室頻拍や心室細さい動どう(★ページ)などがある。場合によっては急激にショック状態や死にいたることもある,致死性の不整脈である。 頻脈では心拍数が増加し,1回の心拍出量が低下するために血圧が低下する。このため動どう悸きやめまいが症状としてあらわれる。 徐脈性不整脈は,1分間に心拍が60回以下になった病態である。血液の拍出量が減ることで,めまい・失神などの脳虚血症状がみられ,長期間持続する場合は全身劵怠感などの心不全症状があらわれる。第6章 循環のしくみと病態生理安定狭心症不安定狭心症動脈硬化によるプラーク(アテローム性プラーク)の破綻により,冠状動脈が狭窄・閉塞すると,閉塞部位の先にある心筋が虚血に陥る。心筋梗塞では梗塞が継続することにより,灌流域の心筋が壊死してしまう。18第6章 循環のしくみと病態生理図6■13 心不全とそのリスクの進展ステージ(厚生労働省,2017より一部改変)ステージCからステージDにかけての時期が慢性心不全にあたり,急性心不全や慢性心不全の増悪を繰り返すうちに,薬物治療などを行っても症状が十分な改善を示さない状態(治療抵抗性)になっていく。A.心臓のポンプ機能と病態生理図6■6 刺激伝導系とその異常B.血圧調節と末梢循環のしくみと病態生理A.心臓のポンプ機能と病態生理19図6■1 循環器系とリンパ系の模式図心臓から末梢に向かう血管が動脈,末梢から心臓に戻る血管が静脈である。体循環は心臓→動脈→全身の各器官→静脈→心臓という経路をたどり,酸素・栄養の供給と老廃物の回収が行われる。肺循環ではガス交換が行われる。毛細血管から滲出した組織液の一部は,リンパ循環を経て静脈に戻る。安定した状態の労作性狭心症動脈硬化巣の破綻による急激な狭窄(図6■5)図6■5 不安定狭心症と心筋梗塞plusサンプルページ疾病のなりたちと回復の促進 ❷ 病態生理学心臓の弁とその役割 心臓にある弁のうち,左心房と左心室の間にあるのが僧そう帽ぼう弁(左房室弁),右心房と右心室の間にあるのが三さん尖せん弁(右房室弁)で,これらを房室弁とよぶ❶。左心室と大動脈の間には大動脈弁があり,右心室と肺動脈の間には肺動脈弁がある(図6■2■a)。 大動脈弁および肺動脈弁はおのおの半月形の3弁からなり,弁が完全に閉じられるようになっている。これらの弁のはたらきにより,血液は一方向に流れ,逆流することはない。起座呼吸 2 左心不全 左心系の機能は,肺から流入した動脈血を大動脈に送り出すことである。心筋梗塞・心筋症・弁膜症などの心疾患,あるいは貧血・高血圧・持続性不整脈などが原因で,血液を左心系が十分に拍出することができなくなると,その手前にある肺がうっ血してしまう。この病態が左心不全である(図6■14■b)。 肺うっ血のために呼吸が障害され,労作時の息切れがあらわれる。初期には,日中の尿量は減少する一方で,夜間の尿量が増加する❶。さらに悪化すると安静時の息切れ,夜間の呼吸困難,起座呼吸,血痰が出現する。 2 冠循環 心臓はたえ間なく拍動している。心筋に酸素や栄養を十分に供給するには多くの血液が必要であり,これを担っているのが冠かん循環である(図6■3)。 冠状動脈(冠動脈)は,心臓に動脈血を供給するための血管である。大動脈の基部に大動脈洞(バルサルバ洞)があり,左右の冠状動脈がつながっている(図6■3)。左冠状動脈は,前ぜん下か行こう枝し(前ぜん室しつ間かん枝し)と回かい旋せん枝しの2つに分岐し, 3 両心機能の低下 両心不全とは,右心室・左心室の両心室で心不全がおこる状態である。左心不全の状態が持続すると,肺うっ血に伴って肺高血圧となる。これが右心室への負荷となり,右心不全も併発して結果的に両心不全にいたる。 1 収縮期血圧と拡張期血圧 血圧は心臓の拍動に合わせて変動しており,そのうち最も高い血圧を収縮期血圧(最高血圧),最も低い血圧を拡張期血圧(最低血圧)とよぶ。収縮期血圧は,心臓が収縮し血液を全身の血管に送り出すときの圧力であり,拡張期血圧は心臓が拡張するときの圧力である。 収縮期に心臓から送りだされた血液は,そのすべてがすぐに末梢血管に到達するわけではなく,大動脈壁が伸展してかなりの部分が貯留される(表6■3)。この貯留された血液が,拡張期に大動脈から末梢血管に送られる。この大動脈壁による圧力が拡張期血圧となる。 2 血圧を決める因子 血圧は,心臓が拍出する血液の量(心拍出量)と末梢血管の状態(末梢血管抵抗)によって決まる(図6■15)。心拍出量や末梢血管抵抗が大きくなれば血圧は上昇し,小さくなれば血圧は下降する。 2 刺激伝導系の異常 ◆洞房結節の異常 心臓の洞房結節は,心臓の右心房付近にあり,心拍のペースメーカの役目を果たしている(図6■6■a)。洞房結節が正常に機能するとき,心臓は1分間に60~80回拍動する。 徐脈性不整脈のなかには,洞房結節の自動能が低下し,規則的で遅い脈となる洞性徐脈や,一時的に洞房結節から電気信号が発生しなくなる洞停止が 起座呼吸とは,仰臥位など,身体を横にすると生じ,身体を起こして座位などにすると軽くなる呼吸困難の徴候である。座位・立位では重力によって腹部や下肢のある。静脈系へ分布している血液が,臥位では肺循環に再分布することで,右心系への静 洞不全症候群sick sinus syndrome(SSS)は,洞房結節の機能障害のために脈還流が増加する。これにより,肺うっ血による呼吸困難感が強くなるためにおこ著しい洞性徐脈,洞停止,または洞性頻脈をおこした病態である。洞性頻脈る。とは,規則的な洞調律であるものの,正常範囲をこえて脈が早くなることで81正常生理が破綻して症状があらわれるまでの過程をしっかり解説します。

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