2023年版_系統看護学講座_全70巻
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823 A 訪問看護師が行う医療行為における 第9章 医療安全対策の国内外の潮流第9章 医療安全対策の国内外の潮流図9-4 医薬品医療機器総合機構によるPMDA医療安全情報の例図8-1 胃瘻カテーテルの種類 4 日本看護協会の取り組み 1 在宅経管栄養の事故防止12 ●ガイドラインの策定 横浜市立大学附属病院の手術患者取り違え事故が発生した1999年,日本看護協会はリスクマネジメント委員会を設置し,いち早く『組織で取り組む医療事故防止─看護管理者のためのリスクマネジメントガイドライン』を取りまとめた。また,その後も看護職がかかわる医療事故が頻発したことから,発生後の看護管理者の対応について支援するために2002年『医療事故発生時の対応─看護管理者のためのリスクマネジメントガイドライン』を策定した。また,公式Webサイトに「医療安全に関する情報」を掲載するとともに,医療安全に関する相談も受け付けている。 ●看護職賠償責任保険制度 2001年,医療事故の当事者として看護職が民事責任の損害賠償責任を問われたときのために,日本看護協会の会員向けの看護職賠償責任保険制度を創設した。掛け金は,スケールメリットを活かして低額に抑えられている。 保険以外の加入者へのサポート体制も充実している。「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室では,看護業務上生じた医療安全に関することへの相談対応・支援のほかに,医療事故発生時の相談対応・支援として,法的権利,メンタルヘルスサポートについても助言を受けることができる。また,民事のみならず刑事や行政上の責任に関する事案についても相談できる。 ●医療安全管理者養成研修 2002年に医療法施行規則の改正で,病院や有床診療所に医療安全管理体制が義務づけられたことから,多くの病院で医療安全管理の実務的担当者として看護師長クラスの看護師が任命された。そこで,同年から医療安全管理業務を遂行するための基本的知識と実践能力の習体外腹壁胃壁胃内a.バンパー-ボタン型d.バンパー-チューブ型A.訪問看護師が行う医療行為における事故防止 e.バルーン-チューブ型(独立行政法人医薬品医療機器総合機構:PMDA医療安全情報.No.61,2022(https:⊘⊘www.pmda.go.jp⊘files⊘000245542.pdf)(参照2022︲07︲01)による)1) 医薬品医療機器総合機構:経鼻栄養チューブ取扱い時の注意について.医療安全情報 No. 42,2014.2) 日本医療機能評価機構:提言 経鼻栄養チューブ挿入の安全性確保について.患者安全ジャーナル13:39︲41,2006.医療機関❶報告(事故発生の届出)❷院内調査必要な情報の提供・支援❸報告❸説明(調査結果)遺族遺族 ❺依頼❼報告(調査結果) ❺依頼❹収集した情報の 整理・分析❻調査第三者機関(医療事故調査・支援センター)再発の防止に関する普及啓発等※第三者機関への調査の申請は,院内調査の結果が得られる前に行われる場合もある。全医療機関共通の調査の流れ第三者機関調査の流れ図9-2 医療事故調査制度における調査制度のしくみ第8章 地域における在宅療養者の安全事故発生(病院・診療所・助産所)注1:支援団体については,実務上厚生労働省に登録し,院内調査の支援を行うとともに,   委託を受けて第三者機関の業務の一部を行う。注2:第三者機関への調査依頼は,院内調査の結果が得られる前に行われる場合もある。(厚生労働省:第39回社会保障審議会医療部会,配布資料2︲5.2015をもとに作成)1) 一般社団法人日本医療安全調査機構:医療事故調査・支援センター2020年報.2021︲03(https:⊘⊘www.medsafe.or.jp⊘uploads⊘uploads⊘files⊘nenpou_r2_all.pdf)1) 医薬品医療機器総合機構:胃瘻チューブ取扱い時のリスク.医療安全情報 No. 43.2014.2) 日本医療安全調査機構:在宅における胃瘻カテーテル交換のリスク.医療安全情報 No. 3.2013.必要な支援支援団体必要に応じてb. バルーン-ボタン型NOTE❶スカイブルー法 カテーテル交換前にインジゴカルミン(胃内視鏡検査で使用される無害で安全な青色の色素剤)をカテーテルからあらかじめ胃内に注入しておき,交換後の新しいカテーテルからこの着色水を回収することで,胃内挿入を確認する方法。看護の統合と実践 ❷ 医療安全事故防止保するために,原則外部の専門家を交えて行うことが求められている。専門家の派遣等については,支援団体(医療事故調査等支援団体)に支援を求めることができる。なお,この支援団体は,報告対象の医療事故か否かの判断や医療事故調査の手法,調査報告書の作成に関する相談・助言,院内事故調査委員会の設置・運営など,必要な支援を医療機関に提供する。支援団体として,医師会や看護協会などの職能団体,病院団体,病院事業者および学術団体などの医療関係団体が厚生労働大臣により定められている。 医療事故調査・支援センターは上記以外に,医療事故調査の知識・技能に関する研修,医療事故調査に関する情報提供や医療事故の再発防止の提言を行っている。 ◆医療事故調査制度の発足後の動向 医療事故調査制度の発足から2021年末までの6年3か月間で医療事故調査・支援センターに報告された医療事故件数は1,931件(平均約30件⊘月)であった1)。2021年に報告された317件における「起因した医療」の分類別では,手術(分娩を含む)が137件と全体の約4割を占めていた。次いで多かっ 厚生労働省は,高齢者が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域,住み慣れた自身の住まいで,自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現を目ざしている。地域包括ケアシステムがうまく機能するか否かについては,療養者と家族および医療・介護の多職種の連携がカギであり,その中心的役割を担うのはまぎれもなく看護師である。なかでも訪問看護師は,在宅医療を担う医師のパートナーであり,医療と介護のつなぎ役であり,多職種連携の要でもある。本章では,訪問看護師の役割から在宅療養者の安全を考える。 訪問看護師が行う医療行為は,病院の看護師が行うそれと同じでも,リスクの面から大きな違いがある。在宅での医療行為は,実施後に継続的な観察ができないことに加え,近くに医師がいないことにより,事故やトラブルがおきた際の発見と対応が遅れることを意味する。したがって,医療行為と療養者双方のリスクを見きわめ,より慎重に行うことが求められる。ここでは,訪問看護師が行う医療行為における事故やトラブルとその防止について取り上げる。 在宅で胃瘻による経管栄養を行っている療養者は少なくない。胃瘻カテーテルは定期的な交換が必要であり,交換は愛護的に行うが,それでも瘻孔の損傷を避けられない場合がある。そこで,事故防止の観点としては,交換後にカテーテルが確実に胃内に入っているかの確認が重要となる。交換時にカテーテルを腹腔内に誤挿入し,それに気づかないまま栄養剤の注入を行ったために,汎発性腹膜炎をおこした事例が報告されている1,2)。 ●胃瘻カテーテルの交換 胃瘻カテーテルは,内部ストッパーの形状とカテーテルの長さにより4種類に分けられる(図8︲1)。バンパー型に比べてバルーン型は交換が容易であり,看護師は主治医からバルーン︲チューブ型の胃瘻カテーテルの交換をまかされることがある。交換時には,腹腔内誤挿入のリスクを認識して実施しなければならない。 カテーテルが胃に入っていることの確認方法には,直接確認方法と間接確認法がある。直接確認方法では経胃瘻カテーテル内視鏡でカテーテルの先端やストッパーを確認する。看護師が実施可能かつ信頼性の高い間接確認法として,スカイブルー法❶がある。胃内容物の吸引や送気音の聴取による確認よりも確実な方法であり,日本医療安全調査機構はこの確認方法を推奨している。 ●経鼻胃管の交換 経鼻胃管交換時の重大事故は,胃管が気管内に誤挿入されたことを知らずに,栄養剤を注入した事故である。多くが死亡事故となる。高齢者や全身状態が低下している人は,咳反射が乏しいため,気管に胃管が入っても咳が出ず,誤挿入がわかりにくい。したがって,胃瘻カテーテルと同様に,胃管が確実に胃内に入っていることの確認が重要になる。最も信頼のおける方法は,胃液などの胃内容物の吸引であるが,さらに念を入れて,吸引した液体のpHが5.5以下1)の酸性(pH試験紙では5以下)であることを確認する。 簡便な方法として,挿入後に胃管に空気を送り込み,腹部の気泡音を聴取することが行われるが,これだけでは確実な確認方法とはいえない。多くの気管誤挿入事例は,確認を気泡音の聴取のみに頼っていておきている。気管に誤挿入されていたケースでも,痰の多いときや,胃管の先が肺を突き破って胸腔内にまで出たときに気泡音様の音が聴取できたという報告2)があるからである。現在では,胃内容物の吸引に加えて,pHの測定や気泡音の聴取と,複数の方法で確認することが求められている。69初校サンプルページ初校初校初校間違いを誘発しやすい状況とその対策など、新人看護師に求められる具体的知識も網羅。在宅における療養者の事故防止についても,事故報告をもとに注意すべきポイントを解説。

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