2023年版_系統看護学講座_全70巻
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B 症状マネジメント2社会的支持NOTE104事例 荒木さんは47歳,男性。健康診断でメタボリックシンドロームの診断を受け,特定保健指導を受けている。あるとき,保健師との面接で次のように話した。「このところ付き合いが重なって食べ過ぎてしまった。他者からすすめられるとついつい食べ物に手がいってしまう。あれだけ今回こそは人にすすめられても食べないと決めていたのに。意思の弱さに自分でも情けなくなる。でもこんな日も食事日誌には食べた料理をメモしてあります。なにか役にたてばと思って……。」 ここで着目すべきは,「食べ物に手が出てしまった」意思の弱さではなく,「つらいけれど食べ過ぎた事実を認めること」かもしれない。失敗をメモにとることはつらいことではあるが,事実を認めるという自身の誠実さに気づくことができれば,次の機会には他者の好意に感謝しつつも,食べることを控える決意や自信につながるだろう。1人ではなかなか自身の潜在する強みに気づくことはむずかしい。看護師は行動変容に取り組んでいる人の経験に関心をもち,できないことばかりに目を向けるのではなく,誠実に事実を見つめることができたという自身の強みを見いだせるよう支援する必要がある。 ●症状とQOL 人は生まれてから亡くなるまでに,さまざまな症状を体験する。腹痛や頭痛,歯痛などに悩まされたことのない人はいないだろう。多くの症状は,家庭で養よう生じょうすることでおさまるか,あるいは医療機関を受診して治療を受けることで改善するが,命にかかわる病のために苦痛に苛さいなまれることもある。 いずれにしても,症状は,それを体験している人の生活になんらかの影響をもたらす(表3—3)。痛みが続くときには,食欲がなくなり,仕事や人間関係にも支障をきたすことがある。がんによる耐えがたい痛みを体験している人は,死への不安や恐怖から,生きる意欲や意味を見いだせない状況におかれるかもしれない。このような症状をコントロールすること,すなわち症状マネジメントは,患者のQOLを高めるうえで非常に重要である。A.生活のなかで健康行動を生み,はぐくむ援助維持ステージ維持ステージ効果的なストレスマネジメント行動を6か月以上継続している人実行ステージ実行ステージ効果的なストレスマネジメント行動を開始して6か月以内の人熟考ステージ準備ステージ具体的な行動には移っていないけれど,まもなく(1か月以内に)ストレスマネジメント行動を始めてみようと思っている人現在,効果的なストレスマネジメント行動をおこしていないが,6か月以内に行動をおこす意思がある人準備ステージ前熟考ステージ熟考ステージ前熟考ステージ図3■3 トランスセオレティカルモデルの行動変容ステージ準備ステージpreparation,実行ステージaction,維持ステージmaintenanceという5段階の行動変容ステージを経て進んでいく(図3—3)。あるステージから次のステージへ,円滑に移行するよう用いられる方略を変容プロセスという(表3—2)。変容プロセスでは,行動変容をおこすうえで意思決定のバランスがはたらいている。人は行動を変容することの利得とコストを考え,そのバランスが利得に傾けば行動変容につながりやすいという考えである。さらに,変容プロセスには,自己効力感(セルフエフィカシー;256ページ)が関与している。TTMでは,主として,行動変容に対する自信と誘惑という2つの自己効力感の構成要素に着目している。すなわち人は,ステージの移行に際して,「自分は不健康行動やハイリスクな行動に逆戻りすることなしに,状況に対処できる」という自信と,「ストレスフルな状況のなかで,不健康行動やハイリスクな行動にかかわる衝動に駆られる」という誘惑とのはざまで揺れ動く。 看護アプローチにあたっては,これら4つの概念の関係性を把握してのぞむ必要がある(図3—4)。 ◆トランスセオレティカルモデルによる行動変容を促進 まずは,対象となる人の行動変容ステージを把握する。そのうえで,意図的に次のステージに移行できるよう変容プロセスを促進する。あわせて,各ステージにおいて,意思決定のバランスおよび自己効力感を把握し,その人にとって利得がコストを上まわり,自己効力感が最大限に高まるようにかかわる。215ストレスの多い事件■対象となる人の行動変容ステージの把握 行動変容に対する対象者の気持ちや考えをよく聞き,5段階ある行動変容ステージのうち,どのステー(Aguilera, D. C. 著,小松源助・荒川義子訳:危機介入の理論と実際.p.25,川島書店,1997による,一部改変)■ショック性危機 ショック性危機は,文字どおりショックなできごとが突然襲いかかることで生じる❶。予期せぬがんの告知や,事故,災害への遭遇などで生じやすい。看護で広く普及しているフィンクのモデル(218ページ,表6—4)は,これに相当する。1960年代に精神科医のフィンクFink, S. L. は,100名をこす脊髄損傷患者の継続的な観察と愛する人を失った人々に関する文献検討より,突然絶望的な状況に陥った人々がそこから立ち直り,再び人生や生活に適応していくまでのプロセスを,4局面からなるモデルであらわした。したがって,発達危機や,消耗性危機と思われる人々の経過をこのモデルで分析することは適切ではない。 ●アセスメントのためのモデルの活用 危機モデルに限らず,さまざまな看護モデルは,ケアの対象となる人々の深い理解や,看護現場でおこる特徴的なできごとの理解をたすけるために開発されている。もちろん,誰もがモデルと同様の経過をたどるわけではなく,モデルを活用する際にも事例の個別性から目をそらすことのないよう注意したい。6 か月以内に効果的なストレスマネジメント行動をおこす意思のない人( Prochaska, J. O. and DiClemente, C. C.:Stages and processes of self—change of smoking:Toward an integrative model of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3):390—395, 1983より作成)第3章 成人への看護アプローチの基本993つのバランス保持要因図6■3 アギュララとメズイックのモデルそれに加えて適切な社会的支持それに加えて適切な対処機制そしてあるいはそしてあるいは対処機制がないその結果問題の解決その結果❶ここでいうショックは,予期しない事態に接したときに生じる心の動揺をさす。急性の循環機能障害については220ページで解説している。B.急性期にある人の看護人間の有機体均衡状態不均衡状態不均衡状態均衡回復への切実なニードできごとのAB12312313バランス保持要因が存在しているバランス保持要因の1つあるいはそれ以上が欠けている知覚危機回避できごとに関する現実的な知覚できごとについてのゆがんだ知覚対処機制適切な社会的支持がない問題が解決されない均衡の回復不均衡が継続する危機回避危機均衡の回復サンプルページ成人看護学 ❶ 成人看護学総論する看護アプローチ21豊富な事例とイラストで難解な概念もわかりやすく解説。国試を見すえた統計データを掲載。毎年更新しています。

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