第2章 暮らしを支える看護技術 1 地域・在宅看護実践とは◆その人の「暮らしにくさ」に着目する A 暮らしの場で看護をするための心構え 1 チームで支えるという意識をもつ 2 地域・在宅看護実践に欠かせない要素暮らしている人への看護どういうもの?せんB.地域・在宅看護過程の展開方法表1―2 療養者の居住地域の情報収集項目1.居住地域の統計基本情報面積,人口(人口密度),平均年齢,世帯数・高齢者世帯数,高齢者数・高齢化率2.地形・交通事情土地の高低差,坂・傾斜,道路環境(道幅,歩道の有無),交通量,公共交通機関3.療養生活に必要な店舗・施設スーパーマーケット,ドラッグストア,コンビニエンスストア,ホームセンターなどの生活用品の販売店,介護用品・福祉用具の販売店,それぞれの店の品ぞろえ,配達サービスの有無,市役所や出張所,銀行,郵便局4.生活にうるおいを与える場所・イベント人との交流の場,公民館,観光スポット,公園,散歩によいルート,娯楽施設,祭りなどのイベント,それぞれの場所のバリアフリー環境やトイレの有無5.医療保健福祉施設病院(診療科,病床数),診療所(訪問診療の可否),保健所・保健センター,地域包括支援センター,相談支援事業所,訪問看護ステーション,訪問介護事業所,訪問入浴介護事業所,通所介護・通所リハビリ(デイサービス・デイケア)事業所,短期入所生活・療養介護(ショートステイ)施設,居宅介護支援事業所,配食サービス,老人福祉センター* 小児の場合は,障害児相談支援事業所,児童発達支援・医療型児童発達支援事業所,放課後デイサービスなどが加わる。6.療養者が利用可能な社会資源や制度担当部局・相談窓口地域包括支援センター・相談支援事業所・保健所・市区町村の担当部局,暮らしやまちの保居住地域の自治体の制度健室など相談窓口身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳などの保持者へのサービス,難病対策,各種手当,おむつの支給やバス・タクシーの助成,非常用電源の購入費用補助事業等の地域独自事業,避難行動要支援者名簿など買い物や受診などの同行サービスをしてくれる有償ボランティアなどの民間団体,高齢者見まもりボランティア,NPO法人,社会福祉協議会,民生委員など居住地域の互助7.地域のハザードマップ情報など災害発生の想定区域,災害時の避難経路や方法,避難所・福祉避難所の場所(電源を使用する医療機器を使用している場合),電力会社の患者登録が可能地域か否か,使用している医療機器供給会社の近隣支店の連絡先(2)同居している家族や,家族介護者,キーパーソンとなっている家族(3)保健医療福祉関係者(主治医・家庭医,看護師,保健所や市町村の保健師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,栄養士,歯科衛生士など),介護保険制度によって福祉サービスを利用している人であれば介護支援専門員(ケアマネジャー),ホームヘルパー,デイサービスやデイケアなどのスタッフなどNOTENOTE252えつづけるという態度でのぞむ。決して,きめることをせいたり,きめられないことをせめたりはしない。人生において先の見えないことは多いのである。 これまで地域・在宅看護実践では,意思決定を支える看護が重要であることを述べてきた。ここでは,地域・在宅看護実践にあたって欠かせない2つの要素について説明する。 1つめは,看護師が自分ひとりでがんばろうとせず,つねに多職種チームで支えるという意識をもつことである。地域・在宅看護実践では,病院のような単一組織での実践ばかりでないため,それぞれ所属も背景も違う専門職が連携・協働することになる。対象者の暮らしは,看護師だけで支えきれるものではないことを知ろう。●法的な制限 まず,他職種と連携・協働するにあたっては,それぞれの職種の「できること」「できないこと」の法的な範囲を知ることが欠かせない(第5章B,342ページ)。たとえば,看護師は処方箋を発行できない,看護師は手術を行えない,看護師は死亡診断ができない,介護職に医行為を指示できないなど,「医師法」と「保健師助産師看護師法」に定められている医行為(医療行為ともいう)の制限を知ることは,業務がシステム化されていない地域・在宅場面においてはとくに重要である❶。このように,1つの職種ができることは限られているのである。●訪問という業務形態に伴う制限 また,暮らしの場を訪問する場面では,看護師がすべてを引き受けることができないと知ることが重要である。たとえば生活面においても,1日に複数回,それも日々違う時間にニーズがある排泄介助のすべてを看護師が引き受けることはできず,家族や訪問介護員(ホームヘルパー)との連携・協働は欠かせない。 また,現在の医療は,疾病のメカニズムの解明が進み,治療の選択肢が増え,人々の暮らしの価値観も多様化したため,個別性がとても高まってきている。また,それぞれの職種の専門分化も進んでいる。それだけに,単一の職種の能力や機能だけで効果的な支援を行うのは限界があり,多職種が協力し合ってそれぞれの能力と役割を最大限に発揮する必要がある。◆チームで支えるとはどのようなことか50第2章 暮らしを支える看護技術 地域・在宅の現場では多くの場合,それぞれの職種は別々の機関に所属しており,お互いがよりよいパートナーシップを築き,対象者をチームとして支えることが重要である。これまで連携・協働と併記してきたが,それぞれ本章の目標 ■「暮らしの場」で看護を行う前に押さえておくべき心構え,対象者やその家族との対話・コミュニケーションについて理解する。 ■「暮らしの場」で看護を行うために必要な家族を支える援助について理解する。 ■「暮らしの場」で看護を行うために必要な安全対策と事故防止の知識について理解する。 ■対象者の希望する暮らしを支えるさまざまな地域・在宅看護技術について学ぶ。 地域・在宅看護は,対象となる人の暮らしの場を意識して行うため,実践にあたってとくに心にとめておくべきことがらがいくつかある。 地域・在宅看護実践は,病気や障害,加齢などに関連した「暮らしにくさ」を体験している人々,これから体験するかもしれない人々を対象にする。これらの人々は,自分で自分の生き方を選択し,それがうまくいくように「なんとかしていく力」をもっている。このことを前提にしてかかわるのが,地域・在宅看護実践の1つの特徴である。地域・在宅看護における看護師の役割は,その人がこれまでの経験などから自身の「なんとかしてきた力」に気づき,今後の「なんとかしよう」と挑戦することを支持し,応援していくことである。 人が「暮らしにくさ」を体験しているということは,それを暮らしやすくかえるというニーズをもっている状態と言いかえることができる。つまり,地域・在宅看護実践においては,「暮らし方を見直す」ことに挑戦していく人々を看護する視点が重要である。◆暮らしをかえる意思決定を支える 暮らしをかえることは,「なにかを決める」ことから始まる。つまり,未来の暮らし方に対してなんらかの意思決定をしていくところに,看護師としてかかわることになる。身近な例をあげてみよう。たとえば2型糖尿病と診断された人が「運動や食事のあり方を見直さないと腎臓がわるくなって,透析になりますよ」と言われたらどうだろうか。たぶんその後は毎回の食事の内容が気になり,通勤だけでは1日3,000歩程度にしかならない万歩計を見ては,ため息をつくかもしれない。こうした人の,「電車から自転車通勤にかえる」「ランチを外食から野菜が多く入った弁当にかえる」などという,27◆看護師だけでは支えられない◆情報収集における注意点情報収集における特徴●時間的な制約がある 初回面接は時間を十分にとって行うことが望ましいが,ある程度の期間にわたって時間と場所を共有する医療施設での看護と異なり,地域・在宅看護の場面ではむずかしいことも多い。たとえば訪問看護の場合は,1回の訪問看護提供時間は通常30~90分くらいである。その短時間のなかで,情報を収集し,同時にアセスメントを行い,必要な看護をこの序章では,高齢者が介護を要する状況になった場面を例に,暮らしている人を暮らしのなかで看護するとは,どういうことかを物語形式で紹介する。登場するのは『地域・在宅看護論[1]地域・在宅看護の基盤』の序章にも登場した斎田家の人々であり,そのエピソードから5年ほど前のできごとである。病院における看護皆さんが実習で訪れる病院は,非日常的な空間であり,そこでの規則やルールに従って,時間やふるまいを管理することが多く,患者が自分らしく暮らすことは容易ではない。看護師にとって病院は自分たちのテリトリー(ホーム)であるの対して,患者にとって病院はアウェイな場になることもあり,病院というシステムのなかで,自分の考えを医療者に向け,ざっくばらんに話せる患者は多くないことに気づくのは重要なことである。しかしながら病院は,外来で地域の暮らしとつながっており,病棟も退院というプロセスを通して地域での暮らしにつながっている。暮らしている人が一時病院を利用して,そして暮らしに戻っていくのだということを念頭におき,病院に勤務する看護師も患者の暮らしぶりを理解しながら,看護計画を「患者とともに立案する」姿勢が求められる。暮らしのなかでの看護看護は病院の中だけではなく,人々が暮らしている家や施設,あるいは地域のなかでも展開される。人々の暮らしの現実や暮らし方は多様であり,それらはその人や家族が長い歩みのなかで築いてきたものである。そのなかで看護師は,患者らにとってのホームである暮らしの場におもむき,「迎えられる側」あるいは「対等の相談相手」として,対象者や家族らとパートナーシップを築き,相手の暮らし方を最大限に尊重しながら,看護する。その人の希望がかなえられるよう,ほかの医療職や福祉職・介護職,ボランティア,企業や学校,近所の人々などと連携・協働しながら,医療保険や介護保険のしくみのもとで看護し,ときには自由な発想と工夫で看護を創造する。 2 室内の物理的環境のアセスメント 対象者の住居は,木造一戸建て,賃貸アパート,高層マンションなどとさまざまであり,ますます多様化する傾向にある。それぞれの個別性を理解し,光や空気,温度や湿度などの物理的環境を整える❶。たとえば木造家屋は温度管理がむずかしく,冬場にトイレや風呂場などが寒くなる傾向がある。高層マンションは大きな窓から太陽光が差し込む構造が多く,室温が予想以上に高くなることがある。それぞれの住居の個別性に応じて,対象者が快適に過ごせる環境かどうかアセスメントする。 3 生活機能と環境のアセスメント◆生活機能の自立を目ざすアセスメント序章 地域・在宅看護の実践88第2章 暮らしを支える看護技術図2―9 身体機能の低下や障害と長年付き合ってきた人の工夫の例左はふとんの横に椅子を置いて立ち上がりの際に利用している。右は伝い歩きの様子。家具などで身体を支えながら移動し,日常生活を送っている。 家の周囲は,対象者の移動を具体的にイメージしながら観察する。たとえば「風の強い日はビル風になりそう」「横断歩道が長い」「信号の切りかわりが早い」など,生活の視点で観察していく。そして,対象者の機能障害,運動能力,判断能力などがアセスメントできたら,「マンションから道路を挟んで向こう側にあるスーパーに行くときは,風が強い日を避け,横断歩道を渡る際に中央分離帯で一度休憩する必要がある」などと,具体的にアセスメントしていく。 家の玄関からの外への出入りについては,対象者の住居のタイプを考えながら実際の移動をイメージして,共同住宅のエントランス部分,廊下,玄関などについて,段差の有無,段差の高さ,階段の有無や段差の高さ,スロープの有無,エレベーターの有無,廊下の広さなどについて観察する。❶物理的環境の調整 当然ながら,対象者や家族が快適と感じる環境や習慣を尊重する。ただし高齢者は,温度を感じにくく,体温調節機能が低いため,熱中症対策などが必要である。温度や湿度などの住環境については第1章B節の30ページで説明している。 地域・在宅看護の目的は,対象者や家族が暮らしの場で,疾患や障害などの問題をかかえながらも自分たちにとってのゆたかな暮らしが送れるよう,❶医行為(医療行為) 医行為(医療行為)は,医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,または危害を及ぼすおそれのある行為をいう。 医行為には,医師でしか行えない絶対的医行為と,医師以外の者も行える相対的医行為があり,看護師は,「保健師助産師看護師法」第5条に規定される「診療の補助」として医師の指示のもとに相対的医行為を業として行うことができる。また,第37条の規定に基づき,緊急時の応急処置などを行うことができる。サンプルページ地域�在宅看護論 ❷ 地域�在宅看護の実践click授業のヒント19って, 教授用資料のご案内地域看護学+在宅看護論ではない、地域・在宅看護論としての体系的な中身になっています「在宅看護論」から「地域・在宅看護論」になったことで実践のなにがかわるのかがわかります。暮らしを支える看護技術では、基礎看護技術との連携をはかっています。新カリキュラムで初めて登場した「地域・在宅看護論」。「在宅看護論とどう違う?」「どんな授業展開にすべき?」「実習・看護過程はどうなる?」など、先生方のさまざまなお悩みの解決に役だつ資料をご用意しました。新カリキュラムと本書の関係、授業計画例、各章の学習目標や補足資料、演習の記入例など、内容はもりだくさん。ぜひご活用ください。
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