2023年版_系統看護学講座_全70巻
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A 呼吸に関連する症状を示す対象者への ◆機能と目的 吸引器は,痰や膿,血液,その他の体液などを吸い出して除去する目的で使用される(●▶図15)。看護師のケアとしては,鼻腔・口腔内の痰を吸引するときによく用いられるが,それ以外にも手術中の血液の吸引や,誤嚥リスクの高い患者の口腔ケアなどと幅広く使われている。また,胸腔ドレーンなどA.呼吸に関連する症状を示す対象者への看護真皮●▶図4�27 治癒過程268118第3章 主要な症状を示す対象者への看護第4章 治療・処置を受ける対象者への看護皮脂膜角層毛幹表皮顆粒層有棘層基底層皮下組織皮脂腺毛根神経終末皮下脂肪エクリン汗腺アポクリン汗腺●▶図4�26 皮膚の構造毛球毛乳頭フィブリンからなる凝血塊滲出液マクロファージ線維芽細胞血管内皮細胞血小板好中球コラーゲン細菌細菌壊死組織壊死組織新生血管新生血管a.止血期b.炎症期c.増殖期的・化学的刺激や病原微生物から身体をまもっている。角化細胞と脂質からなる角層や,皮脂腺から分泌される皮脂と水分がまざり合った皮脂膜によって水分を保持し,さらに,病原微生物の侵入や繁殖を防いでいる。創傷によって保護機能が失われると,患者の安全と安楽がおびやかされる。 ◆創傷の治癒過程 創傷の治癒過程には再生と瘢痕形成がある。 再生とは,表皮,または真皮の浅層までの浅い創傷でおこる治癒過程のことである。表皮および毛包,皮脂腺といった組織が再生され,損傷を受ける前と同じようにもとどおりになり,瘢痕(傷跡)は残らない。 瘢痕形成とは,真皮の浅層より深い創傷でおこる治癒過程である。肉芽組織により損傷部が補われ,表皮は再生するが真皮は再生せず,瘢痕が形成される。瘢痕が形成される過程は,止血期,炎症期,増殖期,成熟期に分けられる(●▶図4-27)。 ●止血期  損傷によって出血すると,血小板やフィブリンが流出する。血小板が集まって血栓をつくり,フィブリンが血小板の血栓全体をおおいかためて止血する。 ●炎症期  止血後,好中球やマクロファージが細菌や壊死組織を分解・貪食し,創を清浄化する。また,マクロファージは線維芽細胞や血管内皮細胞の活性化にかかわり,治癒過程を進める。炎症期が長引く要因として,感染119閉塞性換気障害・気道内閉塞・狭窄による気流抵抗 肺気腫,気管支炎,喘息など ①気道壁:気道平滑筋の収縮・け  いれん(タバコなどの刺激や喘  息など)。 気道壁の炎症・浮腫(気管支炎や喘 息など) ②気道拡張の低下:肺気腫など肺  実質の破壊による気道拡張力減  弱,腫瘍や気管支周囲の浮腫な  どによる外部からの圧迫 ③気道内閉塞(異物や分泌物など)空気の気道通過障害アセスメント・呼吸音(副雑音・喘鳴)・咳,喀痰肺循環心疾患などによる血流障害・毛細血管血流障害換気量と毛細血管血流量の比率(換気─血流比)の不均等分布・シャント〔肺動静脈瘻など〕肺胞領域を通過せず動脈系に血液が直接流入B.医療機器の実際c.セントラルモニター331●▶図14 生体情報モニター(写真提供:フクダ電子株式会社)そくわん●▶図3-1 呼吸のメカニズムとガス交換障害をもたらす要因d.成熟期〈例〉・やせている人だな。咳をしている。・ベッドに座っている。・手を口のところにあてている。・ベッドのまわりはなにもない。解釈この場面の患者の状態(気になったこと)を推論し,援助の理由づけをしよう。なお,行動の目的は,Zさんのバイタルサインの測定をすることである。[分析的推論]・ Zさんの一般状態を把握すると,既往歴に高血圧があり,薬を内服している情報がある。そのため,いま,血圧測定をする必要がある。また,午後から化学療法が開始されるので,事前のデータを得ておく必要がある。正しい測定を行うために,ベッドに臥床してもらおう。咳をしているので,呼吸数の測定と呼吸音の聴取をしよう。[直観的推論]・ 咳をしていて苦しそう。眉間にしわがよっていて,つらそうだな。[説話的推論]・ 夜間眠れていなかったようだし,咳も出ていてつらそうだ。バイタルサインの測定は必要だけれど,まだ,Zさんとの信頼関係もできていないところで不慣れな自分がバイタルサインの測定をしてだいじょうぶだろうか。でも,Zさんとの信頼関係づくりにもよい機会だから,Zさんに声をかけながらやってみよう。 看護学生Cは,最初にZさんにあいさつし,バイタルサインを測定する目的を簡単に伝えるとともに,測定が不慣れなことをありのままに伝えた。すると,Zさんは,「みんなはじめてのことはこわいよね。気にしないではかっていいよ」と言ってくれたので,ベッド上に仰臥位になってもらい呼吸・体温・脈拍・血圧・意識レベルを測定し,呼吸状態を観察した。Zさんは,ベッド上で仰臥位になったときに,やや喘鳴が聞かれ,苦しそうな表情をした。換気換気拘束性換気障害・呼吸筋の動きの低下 呼吸筋やそれらへの神経支配を傷害する疾患(重症筋無力症, 筋ジストロフィーなど) ①吸息:横隔膜,補助筋(斜角筋,胸鎖乳突筋,鼻翼部の筋,  頭頸部の筋)の動きの低下 ②呼息:腹壁を構成する筋群(腹直筋,内外腹斜筋,腹横筋),  内肋間筋の動きの低下・胸壁の弾性の低下 気胸,胸壁の病変(側彎症,神経筋疾患)・肺の弾性の低下 肺水腫,肺線維症 ①肺胞表面をおおう液体に起因する表面張力の低下 ②肺の構造タンパク質(コラーゲン,エラスチン)からなる弾  性線維組織の低下非効果的な呼吸運動換気障害アセスメント・胸郭の動き・呼吸筋の動き換気拡散・肺胞低酸素 〔低酸素をもたらす疾患や低酸素環境〕 肺胞と毛細血管の酸素の分圧差が減少し,酸 素の移動がゆるやか・肺胞-毛細血管膜(関門)の肥厚・面積減少 〔肺水腫,肺気腫〕 肺胞と毛細血管の間の膜の肥厚,肺胞の面積 の減少により,単位時間に拡散する酸素量が 減少し,PaO2低下・激しい運動 激しい運動により肺血流量が増加し,赤血球 の毛細血管通過時間が1/3に短縮し,十分な 分散が困難肺胞低換気ガス交換障害・低酸素血症・高炭酸ガス血症アセスメント・呼吸困難・チアノーゼ・ばち指309C.臨床判断モデルを取り入れた実践展開a.ベッドサイドモニターb.テレメーター送信機うえで設定する必要がある。病院内では,同一チャンネルの混信がおこらないように,機器の導入時点から厳密なチャンネル管理が行われる。 ●アラーム  生体情報モニターには,心拍数異常や脈拍の異常,SpO 2低下などを知らせるアラームが備えられている。アラームは患者の異常を医療者へ伝えるための重要な機能であるため,医師の指示どおり正しく設定されているかを厳正に確認する。また,ベッドサイドモニター側の電波不良やバッテリー低下,電極コードの外れなどを知らせるアラームもあり,機器や環境も含めて設定を行う。サンプルページ基礎看護学 ❹ 臨床看護総論看護 1 呼吸機能障害に関連する症状のメカニズム 1 呼吸機能のメカニズム 生命は,栄養の代謝によって生じるエネルギーを利用して維持されている。呼吸のおもな機能は,栄養の代謝に不可欠な酸素(O 2)を外界から取り入れ,代謝によって生じた過剰な二酸化炭素を排出することにある。これをガス交換とよび,生命維持に不可欠な機能の1つである。 ガス交換には,おもに呼吸器によって行われる外呼吸と,全身の細胞とその周囲に流れる血液との間で行われる内呼吸とがある。外呼吸におけるガス交換には,換気・拡散・肺循環が影響を及ぼす。 ●換気  換気は,気道を介しての肺胞と外界との空気の出入りである。これは,①気道の状態(気道から肺胞への空気のスムーズな通過)や,②換気運動(胸郭の動き,呼吸筋の強さ,肺内圧,肺自体の弾性)によって影響を受ける。 ●拡散  気体の成分は,分圧の高い部位から低い部位へ移動,つまり拡散する。肺胞では,肺胞膜を介しての肺胞の毛細血管を流れる血中への酸素の取り込みと,肺胞への二酸化炭素の排出が行われる。この拡散は,次に影響を受ける。(1)拡散面積:直接に接している肺胞と毛細血管の広さ(2)拡散距離:肺胞から血管までの距離,つまり肺胞上皮細胞や基底膜,毛拘束性換気障害閉塞性換気障害細血管内皮細胞の厚さの合計 体内で発生した二酸化炭素の90%は,重炭酸イオン(炭酸水素イオン,HCO 3 -)として血漿または赤血球中にとけている。肺に運ばれたHCO 3 -は,肺胞内に拡散し,体外に呼出される。 ●肺循環  肺胞の毛細血管は周囲を肺胞で囲まれているため,肺胞内圧が上昇すると血管の虚脱がおこり,肺循環に影響を及ぼす。また,肺気腫のように,肺容量が増大すると肺胞内圧が上昇し,肺胞の毛細血管の内腔が狭窄し,血液の流れが停滞する。 2 呼吸機能障害に関連する代表的な症状と発症の  呼吸機能障害は大きく,拘束性換気障害と閉塞性換気障害に分けられる(●▶図3-1)。 肺の拡張が妨げられ非効果的な呼吸運動となっている状態である。この障害がみられるのは,肺自体は正常だが,①呼吸筋の動きが低下したり,②胸壁の弾性低下による胸郭運動が制限されたり,③肺自体の弾性が低下するような疾患である。 空気の気道通過が障害された状態であり,代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患chronic obstructive pulmonary disease(COPD)があげられる。COPDは,メカニズム 2 医療の補助を行う医療機器 1 吸引器15イメージがつかみにくい内容は図や写真で具体的に示しました。

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