2023年版_系統看護学講座_全70巻
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A 臨床疫学──医療における合理的判断第6章 医療を見つめ直す新しい視点●▶図6-8 PDCAサイクル140155DoCheck改善のための対策を講じるcolumn 医療施設の機能を客観的に評価するために,同じ基準で測定した施設のデータを公表し,比較を可能にする取り組みがある。これに用いられる指標は臨床指標(クリニカルインディケーター)とよばれ,その医療施設のパフォーマンスや質をあらわすものとされている。 具体的な指標としては,院内感染発生率,褥瘡発生率,退院患者の死亡率,標準的治療の施行率などがあり,最近では指標を公表する病院が増えている。Plan計画をたてるActionC.医療の管理と評価計画を実行する実行状況や結果を点検・評価するサンプルページ  総合医療論 2 医学雑誌と臨床情報 上述のように20世紀の医学は,定期的な専門学会の開催と専門雑誌の発行を軸に,学問として大きく進歩した。基礎医学の研究活動が活発になるとともに基礎的な実験医学の論文が多く生みだされ,医学情報の量は飛躍的に増大した。 人は意思決定をどのように行っているのであろうか。多くの場合は,個人の経験に照らし合わせたり,ほかの人に聞いたり,最近であればインターネットで検索するだろう。それでもわからないときは勘に頼るのかもしれない。医療の現場でもつねに意思決定がなされているが,そこでは経験や社会的価値観だけでなく,科学的合理性が求められている。 1 医学情報の共有と医学の発達 1 医学の発達と医学会 医療の場面では,経験ゆたかな臨床家の勘がなににもまして尊重されてきた。医学の知識が経験の積み重ねである以上,どういった症状があればどのような結果が予測されるかは,長年にわたって多くの患者をみてきた熟達の臨床家の知恵にまさるものはないように思える。 しかし20世紀のはじめまでは,欧米においても,一部の外科的処置を除いて,今日の水準から見て明らかに有効性がみとめられるような治療法はほとんどなかった。また,経験ある臨床家の英知も,すぐに有効な治療法に結びついたわけではなかった。 結果のよしあしよりも,伝統的な技法を踏襲することが医師の権威とカリスマ性を高め,最新の科学を取り入れたと称する治療法が熱狂的に迎えられたかと思うとすぐさま忘れ去られ,イカサマ師との区別もむずかしいといった状態であった。 このような因習的な医療の実態を変革するうえで大きな役割を果たしたのが,医師の定期的な会合における臨床情報の交換であった。このような集会は,科学精神の高揚と自然科学的な治療法の発達とともに活発となった。そこでは,症例報告を通じて各地の医師が自分たちの経験を紹介しあい,やがて学術論文として各地の医学会雑誌に掲載され,有用な医学情報として多くの臨床医たちが利用した。 そして,このような情報の交換を通じて,適切な医療が行われたか否かを科学的な目で評価するという考え方が広まっていった。すなわち,臨床文献を通じて,直接自分が体験しなくても,ほかの多くの臨床家の貴重な体験を自分の診療にいかすことができるようになったのである。PDCAサイクルとよぶ(●▶図6-8)。 医療技術の進歩は,必ずしも実際の診療面でよいことばかりをもたらしたわけではない。そのうえ,今日のように医療技術がますます高度化し,高価な診断機器類を購入するために多額の投資が必要となってくると,経済的な問題もその比重を増してくる。 そこで,公平な第三者の立場から新しい技術のもたらす影響を,技術的・経済的・社会的な角度から解析し,技術の有用性を総合的に評価する技術評価technology assessment(テクノロジーアセスメント)の手法が医療に取り入れられるようになってきた。 とくに現代は,社会の各分野で専門分化が進行すると同時に専門家への信頼が揺らぎつつある時代でもある。このような時代にこそ,技術評価を通じて技術に関する社会的合意の確立を目ざすこと,すなわち専門家と一般の人々の間で,理性的な対話がなりたつような社会的コミュニケーションの場をもつことが不可欠である。そこでは,知識や情報の占有に伴って,専門職と一般の人々との間に力関係ないしは上下関係が生まれがちである。このことをつねに意識し,一般の人々との情報の共有を心がける専門職の態度が必要とされる。臨床指標 4 医療における技術評価139学習が深まるcolumnやNOTE、図表を多数掲載しています。

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