事例●❷kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html〉〈参照2021-06-21〉による)213214退院に向けての支援 疼痛コントロールが安定し,Cさんは,レスキュー薬の使用や,痛みが強いときの医師・看護師への相談など,自信をもって行うようになり,笑顔も増えてきた。そのため,退院に向けての支援を行うこととなった。 Cさんは,「入院前に家ではオキシコンチン ®を7時と19時に内服していたけど,朝食の準備などで飲み忘れることも多かったんです。いまもカロナール ®を毎食後に内服しているけど,夕食時間の19時から朝食の8時まで時間があいて,痛みが出てしまいます」と話した。また,前かがみの姿勢が疼痛増強につながるため,「家で布団から1人で起き上がったり,掃除や洗濯ができるのかしら。ガーデニングはもうできないのかしら」と心配していた。 そこで,退院後の日常生活を円滑に送り,希望をもって治療に取り組めるよう,理学療法士や作業療法士とともに支援することとなった。 Cさんは,夜間に睡眠がとれるようになり,疼痛コントロールを自信をもって行えるようになってきたため,2つ目の共同目標である「退院してから自宅で日常生活を送れるようになること」に取り組むこととなった。 ●内服時間の調整 自宅での療養生活は,入院時と違って,日常生活を送りながら自分で服薬時間の管理を行っていかなければならない。無理なスケジュールでは,服薬アドヒアランスの低下につながり,適切な疼痛コントロールがむずかしくなる。退院後の患者の生活スタイルに合わせて,無理のない服薬計画を患者とともに検討し,家族にも協力を得ることが重要である。 Cさんは,鎮痛薬の服用時間を不安に感じていたため,家事がひと段落して飲み忘れしにくく,かつ朝7~8時に鎮痛薬の血中濃度が下がらないよう,オキシコンチン ®を10時・22時に服用し,カロナール ®を6時・14時・22時に服用するよう,変更した。 ●起き上がり方の工夫 前かがみの姿勢は,肋骨に負担がかかり疼痛増強の原因となる。この疼痛は,CさんのADLを著しく阻害していた。病院ではギャッチアップすることで緩和できるが,自宅のベッドは電動ではない。そこで,理学療法士の協力を得て,仰臥位から座位になるのではなく,まずは右側臥位となり,片手で痛い部分を抑え,もう片手で身体を支えながらゆっくり起き上がるという方法を指導し,練習を行った。 ●社会資源についての情報提供 Cさんは自宅では和室に布団を敷いて寝起きしていた。看護師は,介護保険を申請すれば,電動ベッドや手すりの借用もできることを情報提供した。 ●家事の工夫と分担 Cさんは「家事をすべて自分でやりたいのに,実際A.がん治療の概要107108門家,分子遺伝学やがんゲノム医療の専門家,看護師,薬剤師,臨床検査技師,遺伝カウンセラー,バイオインフォマティクス(遺伝情報解析)の専門家など,さまざまな分野の専門家で構成される。この検討会において,検出された遺伝子変異の生物学的意義づけや,遺伝子変異に標的可能な薬剤の有無,患者に適切な治療薬や臨床試験(●▶312ページ)の情報が確認され,レポートが作成される。 ●検査内容の説明 検査が行われてから1~2か月後,主治医より,患者・家族に対して,エキスパートパネルで作成されたレポートに基づいて検査結果や治療についての説明が行われる。検査前の説明と同じく,看護師やがんゲノム医療コーディネーターが同席することも多い。効果が期待できる治療薬がある場合には,臨床試験などを含めてその治療薬の使用が検討され,実際に治療が行えるか最終決定がされる 1, 2)。適切な治療薬や臨床試験がない場合には,緩和医療など,ほかの治療への移行が検討される。 遺伝子パネル検査は,がん細胞内に存在する遺伝子異常の発見と治療薬の検索が目的だが,がん細胞内に存在する遺伝子を網羅的に調べるため,がんと関連のない遺伝子異常や,生殖細胞系列の遺伝子変異が偶発的に発見(二次的所見)される可能性がある。そのため,検査前には主治医以外にがん診療にかかわる看護師やがんゲノム医療コーディネーターが同席し,患者側の検査への理解の確認を行う必要がある。パネル検査で二次的所見が得られた場合には,遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医への紹介が必要となる場合がある。解析データ解析データ がんゲノム医療で得られた臨床情報や遺伝子パネル検査の結果データは,国立がん研究センターに設置されているがんゲノム情報管理センターCenter for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics(C-CAT)に集約される。臨床情報のデータベースが作成され,研究機関や企業での開発・研究などで活用されることにより,未来のがんゲノム医療の発展にいかされるシステムとなっている。47●▶図3-18 がんゲノム医療の提供体制(2021年4月1日時点)(厚生労働省:がん診療連携拠点病院等〈https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/●▶図3-19 がんゲノム検査の流れ 進行がんや再発がんのために,余命が限られた状況におかれている患者は,人生の最終段階における医療やケアの選択を迫られる。治癒や再発予防を目ざした治療法の選択とは異なり,限りある予後に直面し,患者や家族は死への恐怖や喪失への脅威を体験する。 わが国では,高齢多死社会の進行に伴って,在宅や施設における療養や看取りの需要が増大していることから,地域包括ケアシステムの構築が進められ,当事者の尊厳をまもり,人生の最終段階を有意義に送るためのケアの重要性が検討されるようになった。 このような背景のもと,厚生労働省において,「人生の最終段階における医療の普及・啓発に関する検討会」が設置された。この検討会により,人生の最終段階の医療・ケアについて,本人が,家族らや医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス,つまりアドバンス-ケア-プランニングadvance care planning(ACP)の概念を盛り込んだ『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』が策定された 1)。本ガイドラインでは,人生の最終段階にある人の尊厳がまもられ,自分らしく最期まで生き,よりよい最期を迎えるための最善の医療・ケアの指針が示されている。 たとえば,がんの終末期では,がんの進行による耐えがたい苦痛に対して鎮静が行われることがあるが,一方で,鎮静には意識の低下や生命の危険を伴う場合があり,倫理的課題が生じることがある。そのため,このような状況に陥る前に,苦痛を緩和する医療やケアにはどのような方法があるのか,その方法にはどのようなリスクがあるか,また苦痛を緩和するためにこれまで続けてきた医療・ケアを変更・中止するかどうかといったことについて,十分に説明を受け,医療者や家族と対話しながら,患者本人が意思を表明できることが重要となる。看護師はこの過程を医療・ケアチームとして支えていく必要がある。 人生の最終段階における医療・ケアを提供するにあたって,医療・ケアチームは,本人の意思を尊重するため,本人のこれまでの人生観や価値観,どのような生き方を望むかを含め,できる限り把握しておかなければならない。話し合いにより本人の意思が確認できたとしても,その意思は状況や時間の経過のなかで変化しうるものであり,変化した意思を伝えられない状態になる可能性もありうる。したがって,話し合いは,本人だけではなく,家族などの信頼できる者と一緒に,繰り返し行うことが重要である。1)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018年3月改訂(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf)(参照2021-04-16).B.がん患者の苦痛のマネジメントる希望も失っていた。 Cさんが今後の療養生活を希望をもって前向きに進められるよう,精神面の支援と,社会的な支援を行う必要性が考えられた。・ 副作用の便秘は,緩下薬でコントロールが可能である。・ オキシコドン塩酸塩のような強オピオイド薬には有効限界 ❷がないため,副作用を考慮しながら,痛みの強さに応じて増やしていくことが可能である。 Cさんの入院中に,このような疼痛緩和のための看護が実践された。薬物療法についての再指導後のCさん 入院3日目,薬物療法についての再指導を受けたCさんは,前かがみの姿勢や入浴などで突出痛が発生する可能性があるときには,オキノーム ®散を事前に内服するように行動が変化した。 また,オピオイド薬についての正しい知識を得たCさんは,「鎮痛薬はなるべく使わないように,痛みや副作用をがまんしたほうがよいと思っていました。これからはがまんせずに使いたい」と話し,医師に相談して19時のオキシコンチン ®を増量することとなった。翌日の入院4日目には,「久しぶりにぐっすり眠れました」と話した(●▶211ページ,図4-7)。がんゲノム医療中核拠点病院がんゲノム医療中核拠点病院(12施設)・人材育成・治験・先進医療・連携病院の症例を含めたエキスパートパネルを開 催するがんゲノム医療拠点病院(33施設)・自施設でエキスパートパネルを開催するがんゲノム医療拠点病院がんゲノム医療連携病院(180施設)・中核拠点病院・拠点病院と連携してエキスパート パネルを開催するがんゲノム医療連携病院がんの組織がんの組織血液血液がん組織と血液の両方がん組織と血液の両方またはどちらかが必要またはどちらかが必要検体の送付検体の送付遺伝子の解析遺伝子の解析①担当医よりがん遺伝子パネル検査の説明②がん遺伝子パネル検査の実施薬剤薬剤治験・臨床試験治験・臨床試験担当医,病理医,遺伝医療の専門家,がんゲノム医療の専門家,バイオインフォマティクスの専門家など③エキスパートパネルによる検討保険適用外の治療法が保険適用外の治療法が検討されることもある検討されることもある④適切な治療法の検討⑤担当医から結果の説明担当医より,患者やその家族に対して,遺伝子パネル検査について説明を行い,同意を得る。看護師やがんゲノム医療コーディネーター ❶が同席することもある。 ●検査の実施 検査の同意が得られたあと,がんゲノム医療中核拠点病院にて次世代シークエンサーを用いて遺伝子パネル検査が実施される。遺伝子パネル検査は,がん細胞が十分含まれる組織(多くの場合,これまでの手術や生検によって得られた検体)を用いて実施される。 ●エキスパートパネル 解析結果は,がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院で開催されるエキスパートパネル(専門家会議)で検討される。エキスパートパネルは,担当医や病理医,臨床腫瘍医,遺伝医学の専第4章 がん患者の看護事例●❸NOTE❶オピオイド薬 オピオイド鎮痛薬は,■痛の神経伝達を遮断することによって,鎮痛や鎮静作用などを示す薬物の総称である。モルヒネやオキシコドン,コデインなどの医療用麻薬の多くはオピオイドに分類される(●▶101ページ)。❷有効限界 投与量を増やしても鎮痛効果が得られなくなることを有効限界という(●▶102ページ)。おもに弱オピオイド薬でみられ,強オピオイド薬の多くにはみとめられない。第3章 がんの治療NOTE がんゲノム医療コーディネーター❶ がんゲノム医療に関する必要な情報を,遺伝子パネル検査前後に,患者とその家族に伝え,心理面でのサポートや治療法選択の意思決定の支援を行う。看護師・薬剤師・臨床検査技師などの医療従事者が,厚生労働省の研修を受けることで養成される。1)国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター:「がん遺伝子パネル検査」を検討する方にご理解いただきたいこと.(https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/library/document/)(参照2021-06-14).2)日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会:次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス,第2.1版.2020-05-15(https://www.jsmo.or.jp/about/doc/20200310.pdf)(参照2021-06-14).E.倫理的課題と対応サンプルページ がん看護学 2 Cさんの苦痛緩和のためのケアの実践 これまで行ったアセスメントをふまえ,まずはCさんの身体的苦痛を最大限取り除くために以下の看護を実践することとなった。 疼痛緩和はおもに薬物療法によるところが多い。適切な薬物療法を継続し,疼痛をコントロールするための支援を行う必要がある。 ●■痛スケールの共有 NRSなどの疼痛スケールの結果をCさんと共有することで,Cさん自身が疼痛のパターンや薬物の効果について視覚的に理解し,認識することができるようになった。患者が自分自身の苦痛を認識することは,治療継続の動機づけとなり,またセルフマネジメント能力の向上にもつながる。 ●レスキュー薬の使い方の指導 オキシコンチン ®は持続型の鎮痛薬であり,即効性はない。突出痛が発生する際には,レスキュー薬であるオキノーム ®散を早めに内服することで,痛みの増強を抑制できることを説明した。 ●オピオイド薬についての正しい情報提供 Cさんは,オピオイド薬 ❶について,誤った理解をしていた。そこで看護師は,次の説明を行った。・ オピオイド薬のおもな副作用は,悪心・嘔吐,眠け,便秘であるが,悪心・嘔吐と眠けは,投与初期と増量時に出現することが多く,数日以内に治まっていく。 3 Cさんが自宅で日常生活を送れるようになるための支援二次的所見への対応データの集積と研究 3 がんゲノム医療における課題と看護の役割 がんゲノム医療の実施において,看護師の担う役割は多岐にわたる。看護師は,患者や家族を支援する役割を担っているため,がんゲノム医療に関する基本的知識や用いられる検査・治療について,最新の知識を獲得する努力を続けなければならない。 がんパネル検査は通常,標準治療のない,あるいは標準治療を終える見込みの患者が受ける。遺伝子パネル検査への期待は大きいが,あとの治療の選 3 アドバンス-ケア-プランニングと倫理119第3期がん対策推進基本計画に基づき、内容を刷新。最新のがんゲノム医療について,看護師の役割とともに解説します豊富な事例で、 患者の臨床経過と看護師の役割をイメ ージできます。
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