2 手術後の看護 1 アセスメント ほかの全身麻酔による手術を受ける患者と同様に,術後出血,呼吸器合併症,深部静脈血栓症,創部感染といった術後合併症を予防し,早期発見するためのアセスメントを行う。乳房の手術では患側上肢の機能障害やリンパ浮腫が発生する可能性がある。肩関節の可動域や上肢の周径の測定など,障害の程度の把握や浮腫の早期発見のためのアセスメントを行う。 また,ボディイメージの変容に対するアセスメントが重要である。乳房温存術の場合は乳房が変形し,乳房切除術の場合は乳房を喪失する。乳房再建術により,乳房を取り戻すことはできるが,もとどおりの乳房ではない。たしかに,身体変化により患者のボディイメージは変容する。しかし,その感じ方,受けとめかたは,患者一人ひとりによって異なる。たとえば,乳房は女性の象徴であると認識している患者にとって,乳房の変形や喪失は女性らしさを損なうものとして強い衝撃をもたらし,受け入れに時間を要するだろう。他方,乳房は女性らしさにとって大切なものだと思わない患者にとって,ボディイメージは変容するが,それによって自分らしさを損なうことはないと認識するだろう。このように患者が乳房に対してどのような価値観をいだき,それが自分の価値・自分らしさにどのように影響しているかをアセスメントする。肺動脈弁三尖弁大動脈弁第1章 肺および胸部る。 ボディイメージの変容に対するアセスメントおよび支援は,創の初見時が有用である。■事前説明 手術直後の乳房の術創は,皮下出血や腫脹があり,外見がきれいな状態でないため,患者がショックを受ける可能性が高い。そのため,実際に創を見る前に,一定期間をかけて徐々にもとの皮膚の状態になることや,創が一筋の線のようになることを十分に説明し,心構えを促す。■創部の初見時の援助 鏡を用いて創部を一緒に確認する。初見の間は患者の表情やしぐさ,視線に気を配る。終了後は感想や想いを聞き,患者がボディイメージの変容をどのようにとらえ,感じているのかをアセスメント変化の把握,心筋虚血・心筋梗塞の診断,不整脈の診断(心房細動,房室ブロック,期外収縮)などを行う。術直後の患者では,一部の誘導を継続的にモニター表示して集中管理に役だてる。■心臓超音波検査(心エコー)ultrasound cardiography(UCG) 経胸壁心エコーと経食道心エコーがある。経胸壁心エコーは,体表に探触子(プローブ)をあてて心臓を中心とした画像を確認する。心房・心室の大きさ,心室壁の厚さ・動き,心室の駆出率,弁の狭窄・閉鎖不全,下大静脈の径,上行大動脈近位部の径,心囊液・胸水の貯留,心臓腫瘍・心腔内血栓の有無などを含む,多くの情報を得ることができる。 経食道心エコーは食道内に探触子を挿入するので,やや簡便性に欠けるが,画像が鮮明なので,弁の観察などではより詳細な情報を得ることができる。現在の心臓手術において,術中の経食道心エコーは欠かすことができない重要なツールである。■コンピュータ断層撮影computed tomography(CT) 心臓の手術に際しては,上行大動脈径,大動脈石灰化の有無,肺病変の有無などの検索を術前患側上肢のリンパ浮腫の予防・症状改善のための看護 リンパ浮腫は,乳がんの手術や放射線治療によって患側上肢に生じる機能障害の1つである。腋窩リンパ節郭清やセンチネルリンパ節生検によるリンパ路の切断や,放射線照射によるリンパ管の瘢痕化や繊維化が原因となり,患肢のリンパ液の流れがとどこおることによっておこる。 障害されたリンパ路を補うように側副リンパ路が発達すれば浮腫は発症しⅡ.肺・胸部疾患患者の看護59後尖中隔尖前尖右冠状動脈肺動脈弁右肺静脈大動脈弁冠状静脈洞三尖弁乳頭筋右心室図2―A―4 心内構造64手術翌日から行う運動各 5~10 回×1 日 2 セット(無理のない範囲で行う)①深呼吸:手をおなかの上におき,息を鼻からゆっくりと吸ってロからゆっくりとはく。②指の運動:グー・チョキ・パーをする。1 本ずつ指を折り曲げる。③手首の運動:手首を上下に上げたり,下げたりする。④手を返す運動:手のひらをゆっくりと返したり,戻したりする。⑤肘の運動:腕をわきにつけ,肘をゆっくりと曲げ,その後しっかりとのばす。⑥首の運動:首を左右にゆっくりと動かす。術後2日目から行う運動各 5~10 回×1 日 2 セット①腕の引き上げ運動:棒を持ち,肘をのばしたまま頭のほうへ 90 度まであげる。②腕を後ろにのばす運動:からだの後ろで両手に棒を持ち,ゆっくりと後方に上げていく。③腕を背中につけて動かす運動:からだの後ろで棒を持ち,棒を背中につけながら上に上げていく。④羽ばたき運動:両手を頭の後ろで組み,肘を開いたり,閉じたりする。ドレーン抜去後から行う運動①腕の引き上げ運動:棒を持ち,肘をのばしたまま頭のほうへ 180 度まで上げる。②腕を上に上げる運動:壁に背中をつけて,両手に棒を持ち,肘をのばしたまま上に上げる。③腕を横から上に上げる運動:両手に棒を持ち,肘をの④どの程度腕が上がるか,毎日確認する。・両手でバンザイをする。・両手を横から頭の上のほうへ上げる。ばしたまま,手術側へ横から上げていく。図1―C―4 乳房の手術後のリハビリテーション(例) .心臓・脈管系の疾患後交連僧帽弁後尖前交連僧帽弁前尖無冠尖左冠尖右冠尖回旋枝左前下行枝左尖右尖前尖右方前方心臓の横断面(頭側から見た図)大動脈僧帽弁前尖僧帽弁後尖左心房左肺静脈僧帽弁腱索乳頭筋左心室内腔乳頭筋弁下組織bam0200_01章/初++.indd 59bam0200_05章/初.indd 142022/07/08 8:39:45bam0200_02章/初++.indd 5bam0200_01章/初++.indd 642022/05/26 9:19:502022/06/23 9:26:172022/07/08 8:39:47NOTE❶腎移植後に生じる副甲状腺機能亢進症 腎移植後の一部の患者で生じる三次性副甲状腺機能亢進症は,治療している病院が限られているため,本章では省略する。5サンプルページ 臨床外科看護各論 2 看護目標(1)手術後の合併症を予防し,手術の侵襲から回復できる。(2)乳房の喪失・変形を受け入れ,創部を適切に管理することができる。(3)安全・安楽に周手術期を乗りこえ,順調にもとの生活に戻ることができ 3 看護の実際◆ボディイメージの変容に対する看護状腺がんや良性甲状腺結節などがある。また,結節から甲状腺ホルモンの過剰分泌をおこす機能性甲状腺結節という疾患もある。このうち,外科的治療の対象となるものは,大半が甲状腺がんで,良性甲状腺結節,バセドウ病と続く。●外科の対象となる副甲状腺疾患 外科的治療の対象となる副甲状腺疾患には,原発性副甲状腺機能亢進症と二次性副甲状腺機能亢進症とがある❶。原発性副甲状腺機能亢進症は,血清カルシウム値の測定が容易に行われるよ14第5章 頭部および頸部の疾患機能性疾患バセドウ病橋本病亜急性甲状腺炎化膿性甲状腺炎無痛性甲状腺炎図5―B―1 甲状腺疾患の分類plus気管切開術 呼吸困難時の気道確保の方法は,気管挿管と外科的気道確保がある。外科的気道確保は,輪状甲状膜穿刺・切開,経皮的気管切開,気管切開がある。ここでは,一般的な気管切開について解説する。 体位は仰臥位として,肩甲骨の下に肩枕を入れ,頸部を進展させる(図)。この体位をとることにより,気管が皮膚に近い位置に移動してくるため,手術が行いやすくなる。 頸部を局所麻酔した後に,輪状軟骨の1~2 cm下方に3~5 cmの横切開を行う。前頸筋群を正中で剝離し,甲状腺を確認する。甲状腺は正中で結紮離断す甲状軟骨結節性疾患機能性甲状腺結節甲状腺がん右肺動脈良性甲状腺結節右心房卵円窩るか,上下によけて気管前壁を露出する。 気管内腔を確認するため,4%リドカイン塩酸塩を入れた注射器で穿刺し,空気を吸引する。気管と確認できたら,そのままリドカイン塩酸塩を注入し,気管内腔を麻酔する。この操作により咳嗽反射を軽減できる。気管を切開し,気管壁と皮膚とを縫合し,カニューレを気管内腔に挿入する。カニューレが気管内腔に入っていることを,呼吸気の有無などで確認する。 カニューレは頸皮に固定ひもで固定するほかに,頸皮に直接縫合することで,事故抜去を防ぐ必要がある。輪状軟骨肩枕の挿入による頸部の伸展肩枕115豊富な写真と精緻なイラストで手術の実際をわかりやすく解説。発展的な知識はコラムに掲載。アセスメントから看護の実際までていねいに記述しています。
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