B チーム医療と看護師の役割 A 手術を受ける患者の状況■砕さい石せき位(截せっ石せき位) 切せっ石せき位ともいう。泌尿器の手術,産婦人科の手術,直腸の手術などの際に用いられる。恥骨結合部が手術台の端に来るまで身体 1 手術を受ける患者とその家族の心理 2 医療環境の変遷と看護業務の変化NOTE❶コーピング行動 ストレスを回避・緩和・処理しようとする個人の能動的な対処行動。IC:インフォームドコンセントa. 仰臥位c. 腹臥位 図8-4 手術体位3213 周術期perioperative periodは周手術期ともいわれ,手術前・中・後の全期間を含む言葉である。次章から手術各期の看護を詳しく学んでいくが,本章ではこれに先だち,周術期の全過程を通した看護師の役割と安全管理などについて概説する。■仰臥位 最も基本的な体位である。胸部・腹部・鼠そ径けい部・下肢などの手術後の指導・教育が外来看護の大きな役割となってきている。 ●チーム医療 周術期には,そのときどきの治療目的に応じて医療・看護が提供される場所がかわり,多くの職種や部門が介在する(図6︲1)。この周術期の全過程を通じて,医療・看護は,患者にとって一貫性があり,効率のよいものでなければならない。すなわち,それぞれの患者の最終目的に向かって,各段階での医療者の役割と患者の到達目標を明確にし,一貫性と連続性を維持しながら,医療チームとしての機能を発揮することが求められる。 そのためには,患者にも周術期全体の進行を了解してもらい,その過程が患者の意思と力でのりきれるようにチーム全体として支えるかかわりが必要となる。たとえば,入院時に医師,看護師,患者間で,手術を中心とした退院までのクリニカルパス(治療計画;図6︲2)を共有することは,患者のコーピングcoping行動❶を促すうえでも重要な意義をもつ。 また,どのような手術であろうとも,医療チームのはたらきかけは,周術期ばかりでなく退院後も,患者の生活の質(QOL)を高めるようなものでなければならない。そのために,看護師は患者の全経過を総合的に理解したうえで,医療チームにおける調整役としての機能を果たさなければならない。 ●看護師の役割 手術という非日常的なできごとを体験する患者に対して,看護師は手術侵襲が生体に及ぼす影響と手術後の修復経過やさまざまな治療上の処置,およびそれら一連の流れとメカニズムを理解したうえで,科学的診断・検査手術前の訓練手術の決定手術前の検査・オリエンテーション手術のIC(患者・家族)麻酔のIC(患者・家族)入院前外来外来医師・看護師検査技師医療連携室12第8章 手術中患者の看護(4)麻酔が実施されていなくても,手術の間,耐えられる体位であること。病棟医師・看護師(5)患者にとって安楽な姿勢であること,また患者の身体に無理な力が加わ検査技師薬剤師・栄養士 ●体位変換時の注意 手術台は幅が狭く,また可動部位には関節が組み込まれていて凹凸がある。一方,患者は緊張と不安によって注意力が散漫となっている。このような手術台・患者双方の状態から,手術時は転落などの危険性が高い。意識のある患者の場合でも,手術台上での体位変換は,医療者が介助しながら,ていねいに行う必要がある。 また,全身麻酔の場合は,体位変換は複数の医療者でゆっくりと行う。麻酔科医が,気道を含めて頭頸部を支え,そのほかの医療者が患者の体幹および上下肢を支える。頭部の固定が不十分であると,気管チューブの事故抜管の危険性がある。上下肢や各関節部は,患者の関節可動域を考え,可動範囲内で動かし固定する。上下肢には,末梢血管の静脈経路や観血的動脈圧測定用の経路などの重要な医療処置用のチューブ類が施されているため,抜去がおきないように注意する。 麻酔後は末梢血管が拡張して循環血液量が減少し,心臓のはたらきも抑制されているため,体位の変化に伴う重力の変化が血圧に大きく影響する。体位変換の前後は,血圧の変動に注意を要する。 ●手術後の観察 手術が終了したら,体位固定のために圧迫が加わっていたと思われる部位を中心に局所を観察し,さらに全体を観察する。また,患者の覚醒とともに,四肢の動きの異常や,手術創部以外の痛みや発赤などがないかを確認する。もし徴候があれば,必要な処置を行い,継続的に観察がなされるように病棟に申し送る。 ◆基本的な体位と体位の固定 行われる手術に応じて,一定の体位が選択される(図8︲4)。体位によっては特定の部位に圧迫がかり,手術によっては長時間同一体位になる場合がある。手術体位は,循環器系に影響を与える危険性があり,また肺・胸部を圧迫して呼吸を抑制することもある。体位によるこれらの障害はできるだけ少なくし,あるいは防止すると同時に,手術の目的が達成できるように介助する。図6-1 周術期の経過とチーム医療らず,関節の過伸展・過屈曲が避けられること。多種多様な手術で,ほとんどこの体位が用いられる。 患者をあおむけに寝かせ,頭部にはスポンジ枕を使用して,ベッドの正中に固定する。上肢は支持手台にのせて90°未満の角度に外転させ,前腕は回内回外中間位に固定する。過度に外転させると腕神経叢そう麻痺を,過度に回外させると尺骨神経麻痺を引きおこす危険性がある。下肢は,大腿下部または下腿上部をベッドに固定する。固定帯の位置が膝関節周囲になると,腓骨神経麻痺をおこす可能性がある。 長時間の手術や,高齢者,るい痩そうの顕著な患者などの手術では,末梢の循環障害から褥瘡をおこす危険性があるため,除圧用スポンジやパッドなどを■側臥位 胸部・腎臓などの手術で用いられる体位である。患者の身体を横向きにし,両上肢は肩幅よりやや広めに挙上し,支持手台に肘関節を軽く屈曲させて固定する。頭部には枕を入れて脊柱とともに水平に保ち,下側への圧迫による上肢の循環不全や腕神経叢麻痺を避けるために,腋窩に枕を入れる。下側の下肢は股関節で60~80°,膝関節で90°くらいに屈曲させる。上側の下肢は,ほぼまっすぐにのばすようにし,膝関節間には枕を入れて水平になるようにして,膝関節のやや上部を固定する。腰部は挙上しない。 手術部位によっては,支持板や特殊な体位固定具などを用いることがある。手術中に体位がくずれないように固定はしっかりと行い,手術中にも継続的に観察する。また下側の大転子や膝関節外側,外果部などには除圧用スポンジなどを挿入して圧迫を避ける。■腹臥位 脊椎・後頭部・殿部などの手術で用いられる体位である。患者をうつぶせにし,局所麻酔時は胸部の下に枕を入れ,上肢は患者のらくな体位にする。全身麻酔時には,頭部は横向きにするか,あるいは腹臥位用頭部枕を使用して下向きにする。その際,眼球・耳介・鼻・口・頸部へ圧迫がかからないようにし,また気管チューブが屈曲しないよう注意する。 胸部に枕を挿入するが,両肩と前腸骨棘で体幹が支えられるような腹臥位用の体幹固定器具を用いて,前胸部と横隔膜の動きを確保し,呼吸運動が妨げられないようにする。 上肢は体幹に密着するようにして固定するか,外側に出して肘関節を90°屈曲させ,前腕を回内させて支持手台に固定する。両下肢は,股関節部の過度の屈曲や圧迫による大腿静脈の還流障害をおこさないように注意し,膝関節部で屈曲させて挙上し,下腿下に枕を入れて固定帯で固定する。第6章 周術期看護の概論 手術を受けようとする患者は,手術の種類・目的や術式によってそれぞれ異なる期待と不安をいだき,手術にのぞむ姿勢も異なる。 ●患者の心に浮かぶさまざまな思い たとえば,診断のための小さな手術を受ける場合は,病気が悪性か良性か,治癒可能かどうかという不安がまず前面にたつ。また悪性腫しゅ瘍ようの手術や臓器の摘出手術を受ける場合には,治療に対する期待をいだく一方で,予後への不安,臓器摘出による機能の低下や障害の不安が伴っている。形態の変化が避けられない手術を受ける患者は,シンボルの喪失感,自己概念・身体像の変化,生活様式の変更などの不安をいだいている。また,臓器移植手術を受ける患者は,拒絶反応への不安をはじめ,生命倫理上の疑問や臓器提供者に対する精神的負い目を感じているであろう。さらに,これらの心理状態は手術が緊急のものか,計画的に行われるかによっても大きくかわってくる。 ●家族の心理 一方,患者の家族は,近親者が受ける苦痛,手術の結果と予後はもちろん,患者の不在,費用などについてなど,いくたの不安をかかえている。 近年,保険医療行政によって病院の機能分化が推進されている。これに伴って,とくに手術を中心とした急性期医療に要する在院日数の短縮が進められており,こうした医療を担う病院は負担を背負わせられ,あるいは対応を余儀なくされている。すなわち,手術前後の入院期間が短くなっている状況に対応して,手術前のオリエンテーションや訓練,手術後のリハビリテー初校ションや生活指導を短期間で効率よく行わなければならなくなっている。しかも,在院期間の短縮が術後の回復に不利とならないよう,これらを回復過程に効果的につなげなければならない。そのために,チームとしての緊密な取り組みをはじめ,外来や地域の病院,家庭などとの連携と役割分担も重要になっている。 短期在院手術,日帰り手術などの推進に伴って,これまで病棟の看護が担っていた周術期看護の多くの部分を,外来の看護が担うようになった。これによって外来の看護の業務は高密度化し,手術前のオリエンテーションやB.チーム医療と看護師の役割手術直前の処置重症集中治療ケア回復への治療・ケア手術後のリハビリテーション退院への指導・準備転院への準備手術後の経過追跡手術後のIC検査回復に向けての治療手術手術直後の観察・ケア術前術中術直後術後回復期退院後生活調整期社会復帰期外来病棟手術室回復室ICU病棟手術室看護師執刀医師麻酔科医理学療法士病棟医師・看護師薬剤師・栄養士ソーシャルワーカー医療連携室在宅療養相談訪問看護師外来医師・看護師回復室看護師ICU医師・看護師麻酔科医使用して予防する。膝関節は軽度に屈曲させ,さらに股関節も軽く屈曲させて圧迫・伸展を予防する。B.手術室における看護の展開b. 側臥位d. 砕石位(載石位)サンプルページ 臨床外科看護総論113初校普段はあまり触れることのできない、手術室のなかの看護について知ることができます。周術期の患者の状態、看護の流れについて学べます。病院内だけでなく、地域・在宅への移行も見据えた看護を学べます。
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