系統看護学講座
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サンプルページ疾病のなりたちと回復の促進 ❸ 薬理学5A.薬物治療と看護受ける必要がある。なお,安全性や使用実績などで一定の条件を満たした医療用医薬品については,処方せんなしでも薬局で購入できるように転用(スイッチOTC〔over the counter〕化)されたものもある。2要指導医薬品  処方せんがなくても薬局などで入手できる医薬品(OTC医薬品)であるが,薬剤師の対面による情報提供および,薬学的知見に基づく指導が義務づけられている。スイッチOTC化から一定時間を経過していないものや,劇薬(●▶★★ページ)などがある。3一般用医薬品  OTC医薬品のうち,要指導医薬品以外のものである。一般用医薬品は,安全性の観点からさらに第1類~第3類に分類され,それぞれ販売時のルールや情報提供の必要性が定められている。 ●医薬部外品  厚生労働省が許可した効果・効能に有効な成分が,一定の濃度で配合されているもの。治療というよりは予防や衛生を目的につくられたものであり,薬剤師などでなくても販売することができる。 ●その他  「医薬品医療機器等法」では,そのほかに化粧品や,医療機器,再生医療等製品についても規定がなされている。 2 薬物の使用目的 現代の医療において,薬物治療は,治療法の大きな柱の1つであり,疾患や症状,治療目的によってさまざまな役割をもっている(●▶図12)。1原因療法薬  病気の原因を取り除く薬物である。たとえば,感染症の原因である病原菌に対する抗菌薬や,インフルエンザなどのウイルス感染症に対する抗ウイルス薬などである(●▶★★ページ)。しかし,本態性高血圧や糖尿病などのように,さまざまな素因が重なっておこる病気に対しては,薬物による原因療法は困難である。2対症療法薬  病気の症状を緩和させる効果をもつ薬物である。原因を除去するわけではないため,ほかの方法による根治や自然寛解にいたるまで,薬物を服用しつづけなければならない。たとえば,一般的な感冒薬(かぜ薬)は,その原因であるウイルスを取り除く薬物ではなく,咳・鼻水・発熱・頭痛などの症状を緩和するために使用される。また,降圧薬は血圧を下げる効症状原因薬物症状原因薬物症状原因薬物症状薬物抑制抑制予防補充ホルモン等の不足疾患・症状の原因を薬物によって除去あるいは抑制する。根治が期待できる。症状を薬物によって抑制する。原因は除去しないため,根治は期待できない。ホルモン等の生体物質の不足によりおこる症状を,物質の補充により緩和する。疾患の原因となりうる事象を薬物であらかじめ除去・抑制することで,疾患を予防する。a. 原因療法薬b. 対症療法薬c. 補充療法薬d. 予防薬●▶図12 薬物治療の種類7A.薬物治療と看護 ◆誤薬の防止 医薬品に関するミスは,医療事故のなかで最も多い 1)。処方せんや看護記録,伝票などは読みやすい字で簡潔に書き,疑問や不明な点があれば必ず確認するようにする。また,患者の誤認を防ぐため,薬物投与時にはとくに注●▶図1-3 薬物治療における看護師・医師・薬剤師の連携治療の説明・治療の実施誤薬防止,治療効果の確認,有害作用の発見・予防,服薬の指導,治療の説明病状・副作用・治療内容などの相談服薬指導薬についての疑問副作用情報・投薬の工夫病状・治療効果・有害作用発現などの患者情報薬剤師治療・処置に関する指示処方せんの交付医師患者・家族治療の選択・同意処方内容への疑義照会病状・治療効果・有害作用発現などの患者情報看護師 1 ) 日本医療機能評価機構:医療事故情報収集等事業による.〈https://www.med-safe.jp/mpsearch/SearchReport.action〉〈閲覧2021-03-31〉。 最適使用推進ガイドラインとは,新規作用機序を有する革新的な医薬品について科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から,厚生労働省によって添付文書のほかに策定されるガイドラインである。対象となる医薬品を使用できる医療機関や投与が適切と考えられる患者の要件,投与する際の留意事項などが記載されている。近年,医療費が増加しており,薬剤の適正使用は医療全体の課題となっている。そのため,看護師も必要に応じて病棟の薬剤師と協働し,その推進に努める意識をもつことが大切である。最適使用推進ガイドラインplus導入として薬物療法の概説や薬物に関するチーム医療について解説しています。3A.薬が作用するしくみ(薬力学) ◆受容体の種類 薬物の受容体は,①イオンチャネル内蔵型受容体,②Gタンパク質共役型受容体,③キナーゼ連結受容体,④核内受容体,に分けられる(●▶図2-2)。 ●イオンチャネル内蔵型受容体  リガンド結合部位とイオンチャネル部位からなる構造をもつ受容体である(●▶図2-2-a)。リガンド(または薬物)の結合によってチャネルが開閉し,イオンの流入,脱分極 ❶を経て効果を発現する。通常,この反応はミリ秒単位でおこり,シナプスの速い活動調節などに関係している。膜電位の変化によって開口する膜電位依存性イオンチャネルと区別するために,リガンド依存性イオンチャネルともよばれる(●▶★★ページ)。NOTE❶神経や心筋などの興奮性細胞では,通常,細胞内の電気的環境がマイナスで,細胞外では逆の状態(分極状態)にある。脱分極とは,チャネルの開口に伴う陽イオンの流入などによって,細胞内の電気的環境がマイナスからプラスに変化することをいう。受容体効果器(例:心収縮力と心拍数の増加)細胞レベルの反応リガンド(例:アドレナリン)①リガンドの結合②受容体の変化③効果器への情報伝達④さまざまな細胞内反応組織・器官レベルの反応●▶図21 受容体を介した情報伝達と薬物の効果薬物(リガンド)を投与すると,リガンド→受容体→効果器と情報が伝達されることでさまざまな細胞内反応がおこり,組織・器官レベルの反応にいたる。c.キナーゼ連結受容体d.核内受容体リガンドが受容体に結合すると,キナーゼがほかのタンパク質をリン酸化し,特定の遺伝子発現を介して効果を発現する。脂溶性の高いリガンドが細胞膜を通過して核内の受容体に結合する。受容体は遺伝子発現の調整を介して効果を発現する。リガンドが受容体に結合すると,Gタンパク質を介してほかのタンパク質へ信号が伝わる。伝達先はイオンチャネルのほかに膜酵素があり,膜酵素はセカンドメッセンジャーなどを介して効果を発現する。リガンドが受容体に結合すると,チャネルが開きイオンが細胞内に流入して脱分極がおこる。その後いくつかの段階を経て効果が発現する。b.Gタンパク質共役型受容体a.イオンチャネル内蔵型受容体細胞外細胞膜イオン核キナーゼGタンパク質脱分極効果の発現脱分極セカンドメッセンジャー 効果の発現遺伝子発現遺伝子発現効果の発現効果の発現リガンド受容体チャネル酵素細胞内Ca2+遊離タンパク質のリン酸化タンパク質リン酸化GG●▶図22 受容体の種類と特徴26第3章 抗感染症薬 ウイルスが感染しているが症状がない状態を不顕性感染,症状がある状態を顕性感染という。ヒト免疫不全ウイルスなど,感染後,長期間にわたって無症状のものもある(遅発感染)。また,水痘-帯状疱疹ウイルスなどは,初回感染後,増殖せずに宿主細胞に残りつづける(潜伏感染)。 2 抗ウイルス薬の作用機序 ウイルスは,自己の遺伝子を宿主の代謝機能を利用して複製し,増殖する。そのため,ウイルスと宿主細胞の増殖機構を完全に分けることはむずかしく,ウイルスに選択毒性をもつ薬物の開発は困難であった。しかし,医学および科学技術の進歩に伴って,近年はさまざまな抗ウイルス薬が開発され,使用されている。 抗ウイルス薬のおもな作用機序を以下に示す(●▶図314)。 ●宿主への吸着・侵入や脱殻の阻害  ウイルスが宿主細胞に吸着し,ウイルス遺伝子を宿主細胞内に放出する(脱殻)までのプロセスを阻害する。たとえば,アマンタジンはインフルエンザウイルスの脱殻ではたらくタンパク質ウイルスの遊離宿主細胞ウイルス遺伝子(RNAまたはDNA)ウイルス前駆体タンパク質ウイルスDNA宿主DNAへの組み込みウイルスRNA逆転写酵素またはDNAポリメラーゼプロテアーゼウイルスmRNAウイルスの侵入と脱殻 プロテアーゼ阻害ウイルス遊離阻害吸着・侵入・脱殻阻害核酸分解酵素を誘導DNAポリメラーゼ阻害(DNAウイルス)2)逆転写酵素阻害(RNAウイルス)1) インターフェロンmRNA合成阻害 バロキサビル マルボ  キシル アシクロビル ガンシクロビル ホスカルネットナト  リウム水和物HIV感染症 ジドブジンHIV感染症 インジナビル硫酸塩 リトナビルA型・B型インフルエンザ ザナミビル水和物 オセルタミビルリン酸塩A型インフルエンザ アマンタジン塩酸塩B型肝炎 抗HBs人免疫グロブリン転写核●▶図314 ウイルスの増殖のしくみと抗ウイルス薬の作用点1)RNAウイルスはDNAを合成するために,RNAを鋳型にしてDNAを合成する酵素(逆転写酵素)を用いる。2)DNAウイルスは,鎖を伸長させる酵素(DNAポリメラーゼ)を用いる。薬力学と薬物動態学について、看護師が必要なポイントを簡潔に説明しています。5A.降圧薬の平滑筋細胞への流入がかかわる。ニフェジピン(アダラート)やジルチアゼム塩酸塩(ヘルベッサー)などは,カルシウムイオンの流入にはたらくチャネルを阻害することにより,血管を拡張して血圧を低下させる。腎障害のある患者にも使いやすいなど,禁忌のケースが少ないことから,使用頻度が高い。2直接作用型  ヒドララジン塩酸塩(アプレゾリン)は,細動脈の血管平滑筋に直接作用して,血管を拡張させて血圧を下げる。 有害作用  代償反応として頻拍やナトリウム・水の貯留をおこすため,利尿薬やβ遮断薬と併用することもあるが,臨床での使用頻度は減っている。 2 レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAAS) 抑制薬 RAAS抑制薬とは,レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系のはたらきを抑制することによって血圧を下げる薬物である(●▶図95)。 その他の作用  RAAS抑制薬には,糸球体の輸出細動脈を拡張し,糸球体内圧を下げて腎臓を保護する作用がある。そのため糖尿病によって腎機能に障害をきたす糖尿病腎症に対して効果がある。1アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)  アンギオテンシン変換酵素angiotensin converting enzyme(ACE,別名キニナーゼⅡ)は,①血管収縮作用のあるペプチド(アンギオテンシンⅡ)の産生および,②血管拡張作用のあるペプチド(ブラジキニン)の分解,という作用をもつ。カプトプリル(カプトリル)などのACE阻害薬は,この酵素を阻害することによってアンギオテンシンⅡの産生とブラジキニンの分解を抑制し,その結果,血管が拡張して血圧を下げる。 有害作用  ブラジキニンは気道の感覚神経を刺激する作用をもつため,その蓄積によって空咳をおこし,服薬のアドヒアランスが低下することがある。2アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)  アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬angiotensinⅡ receptor blocker(ARB)は,アンギオテンシンⅡの受容体平滑筋細胞血管(断面)平滑筋細胞内腔内膜中膜外膜Ca2+カルシウム濃度上昇阻害カルシウム拮抗薬収縮ヒドララジン塩酸塩●▶図94 血管拡張薬による降圧阻害アンギオテンシノーゲンアンギオテンシンⅠアンギオテンシンⅡアンギオテンシンⅡ受容体血圧上昇空咳分解ARBACE阻害薬ACEレニン阻害薬ブラジキニンレニン●▶図95 RAAS抑制薬による降圧27F.脂質異常症治療薬1HMG-CoA還元酵素阻害薬  スタチン類とよばれる薬物で,プラバスタチンナトリウム(メバロチン)などがある。肝臓や小腸でのコレステロール生合成酵素(HMG-CoA還元酵素 ❶)を阻害する作用をもつ。コレステロール生合成が低下すると不足分を血中から補充しようとするため,結果的に強力に血中コレステロールを低下させる。 有害作用  有害作用は比較的少ないが,まれに横紋筋融解症 ❷をおこす。2フィブラート類  ベザフィブラート(ベザトールSR)などは,コレステロールの生合成およびトリグリセリドの産生をともに阻止し,さらにHDLコレステロールを上昇させる。 有害作用  横紋筋融解症・腎障害・胆石・無顆粒球症に注意する。 禁忌  腎機能低下患者に対してスタチン類と併用すると,横紋筋融解症をおこしやすくなるため注意が必要である。また,ワルファリンカリウムや経口糖尿病治療薬の作用を増強するため,これらの薬物とはなるべく併用しないほうがよい。3陰イオン交換樹脂  コレスチラミン(クエストラン)がある。腸管で吸収されず,胆汁酸と結合して排泄されるため,腸肝循環によるコレステロールの肝臓への再吸収を抑制する作用をもつ。結果的に,肝臓では胆汁酸を補うために血中コレステロールを消費することになる。 有害作用  1日8~16 gと服薬量が多く,味・においがよくないため,服薬率は低くなりがちである。また,有害作用として便秘をおこすことがある。4エゼチミブ(ゼチーア)  小腸でのコレステロール吸収を担う輸送体(小NOTE❶ヒドロキシメチルグルタリル補酵素還元酵素A 3-hydroxy-3-methylglutaryl-Coenzyme A還元酵素の略称である。この酵素は,コレステロールの生体内合成に不可欠かつ,律速段階であるメバロン酸の合成を触媒する。❷骨格筋の壊死によって筋肉の細胞成分が血液中へ流れ出す病態である。自覚症状として四肢の脱力(全身倦怠感),腫脹,しびれ,筋肉痛,筋力低下などがみられる。食事小腸血管末梢組織(脂肪組織)(トリグリセリド)遊離脂肪酸コレステロールPCSK9肝臓胆汁酸:LDL受容体CM :カイロミクロンCMR:カイロミクロンレムナントCMCMRVLDLLDLHDL分解プロブコールトリグリセリド合成コレステロール合成フィブラート類PCSK9阻害薬エゼチミブフィブラート類陰イオン交換樹脂スタチン類促進阻害●▶図914 脂質異常症治療薬の作用点各分野の薬物について、主作用・副作用・作用機序などをビジュアルに解説。83専門基礎分野

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