系統看護学講座
19/152

サンプルページ地域・在宅看護論 ❶ 地域・在宅看護の基盤67序章 地域のなかでの暮らしと健康・看護 近ごろ母は,父と相談して介護がらくにできる自宅まで建ててしまった。おかげで,祖母は今,要介護5,車いす生活をしているが,生活動線にストレスなく暮らしている。祖母は,入院や施設入所は「いやだわねえ」といつも言っていたし,「経管栄養をしてまで生きていたくない」とも言っていた。その希望を叶えるために,不自由なく過ごすことのできる住居環境を整えたのだ。「介護って大変でしょう」と知り合いには言われるが,自分としてはさほど大変とは思っていない。いつも祖母に笑顔をもらっていて,これくらいかわいらしく年取りたいなと思うくらい,優しい気持ちで祖母を見ることができている。以前,車いすに座った祖母をひとりにして母と買い物に出かけたことがあった。1時間ほどして帰宅すると,祖母は床に寝そべっていて,便臭がしていた。私はあわてて引き起こそうとしたが,その時の母は落ち着いて祖母の視野に入るところに行って「痛いところある?」「ゆっくり座ってみようか」「大丈夫だからね」などと声をかけた。すると祖母は「ちょっとね」と言って照れ笑いのような表情をした。現在祖母は,介護保険サービスを利用しながら生活している。介護支援専門員(ケアマネジャー)の佐藤さんには,祖母が動けなくなった8年前からお世話になっている。腰椎圧迫骨折が疑われたときの自宅療養をどうしたらよいか。行きたくないと言っていたデイケアに行ってもらうにはどうしたらよいか,夜間の尿失禁を防ぐにはどうしたらよいか,本人の意思を尊重するとはどういうことかなど,ADLの低下と認知症の進展に関連して暮らし方を変更することについて,各局面でアドバイスをくれた。佐藤さんは,看護師資格をもつケアマネジャーであり,母(祖母?)の病状や大切に思っていること,同居家族が介護に対して考えていることなどをよく理解して,斎田家全体にとって良い方法を一緒に考えてくれた。私の母も忙しい人だから,小さいころは祖母にたくさん遊んでもらった。祖母は,母を育てるときに,「死なないでよ」と口癖のように言いつづけ,ひたすら心配しながら多忙な家事もこなさなければならなかったそうだ。その祖母も85歳になり,認知機能も,食事や着替えなどの日常生活動作(ADL)も低下し,できることがほぼなくなっている。そうであっても祖母は暮らしていて,おもしろいことを言っては人を笑わせることができるし,感謝の言葉を発することもできる。ときどきは会話がつながることもあるし,おいしい食事は勢いよく食べ,まずいものは「おいしくないわね」と言ったりする。昔,祖母の父の博太郎を介護していたときの話を,繰り返し生き生きと話してくれたりもする。最初は祖母が認知症とは家族以外の人には言いたくなかったが,「いろいろな人に知ってもらうことが大事」と母から教わり,このごろはクラスメイトにも祖母のことを話している。母はなぜ,すぐに引き起こさなかったのだろうか。ひろ子は若いころ,どのような生活を送ってきたのだろうか。また,どんな人柄だったのだろうか。介護がらくにできる住環境とはどのようなものか考えてみよう。住環境以外にも,介護を予見して先に準備しておけることはあるだろうか。ADL低下や認知症の進展で,生活にどのような困ったことが生じるだろうか。「本人の意思を尊重する」とは,どういうことだろうか。また,その方法としてどんなことが考えられるだろうか。認知症高齢者はさまざまなことを他人にやってもらうことで暮らしが成り立っている。しかし,「なにもできない人」なのだろうか。認知症の祖母のことをいろいろな人に知ってもらうことが大事とまさ子が言ったのは,なぜだろうか。照れ笑いをしたひろ子の気持ちは,どのようなものだっただろうか。認知症の人との暮らし暮らしの中での介護への準備さまざまな介護サービスと暮らしB高齢者のいる暮らしあなたの身近な高齢者に,次のようなことを聞いてみよう。 子どものころの暮らしぶりについて/年をとってきて,暮らしにくいと感じていることやそれらに対する対処方法/この先,誰とどのように暮らしていきたいと考えているのか祈り:「祈り」は暮らしに欠かせない要素である。平穏な暮らしをおびやかすリスクは数かぎりない。避けがたい理不尽なできごともある。日本人は無宗教者が多いといわれているが,初詣,先祖の墓参り,お祭りなど祈りに関連した行事は日常的に営まれている。「死なないでよ」の口癖も,日常の中の祈りといえるだろう。祈りの仕方もさまざまであるが,特別なことではなく,日常の暮らしの中に祈る思いが言葉となって出てくることがたくさんある。•祖母は自分でできることは少なくなってしまったけれど,おもしろくて,はっきりした性格は昔とかわらず,祖母らしい。•曽祖父の介護をしていたころの話をよくしてくれるのは,祖母にとって大変だったけれど充実した日々だったということなのかもしれない。•祖母が転倒してしまったとき,私は驚いて動揺してしまったけれど,祖母のあの表情を見たら,母の対応が正解だったのだと思う。•家で誰か介護が必要となった場合,どうしたらよいかわからないことが出てきた。そんなときに,相談できる人や利用できるサービスがあることがわかった。•認知症でも,祖母は「自分で決めたい気持ち」があるように思える。私たちは,それをどのようにくみとって,祖母の暮らしの手だすけをすることができるだろうか。•祖母が元気なときから,年をとったらどのような暮らしをしたいと考えているのかを繰り返し話し合い,家族で一緒に考えてこられたから,今の生活ができているのかもしれない。•もし介護をしやすい今の自宅でなかったら,祖母も私たちも,もっと大変だったと思う。人々の地域における暮らしや健康課題、医療・看護との接点について、事例を通して具体的にイメージできる工夫をしています。23第2章 暮らしの基盤としての地域の理解 演習2 地域を理解する学校の所在する地域に暮らす人々の健康生活を支援するために必要な地域のデータを考えて,どのようにデータを収集するか,収集計画を立案しよう。※ データの収集方法は,パソコン検索,フィールドワーク,インタビューなどさまざまある。考えてみよう。必要なデータなど情報収集方法グループ内での役割分担ワーク3ワークシート1自分の暮らす地域,学校の所在する地域を理解しよう。発表を聞いて,「暮らしと健康」をまもる目的で地域を理解するためにどんなデータが必要か,みんなで考えてみよう。ワーク2【事前課題】 自分の暮らす地域の特徴を列記してみよう。また,どのような点からそう考えたか,理由・根拠も示そう。・地域名:・地域の特徴・そのように考えた理由・根拠(イラストや写真も活用しよう)ワーク1グループで発表し合おう。1 演習2 地域を理解する ●学習目標1自分の住む地域の特徴を理解する。2学校の所在する「地域」に,目をむけて,地域の特徴を理解する。3健康障害が生じても,安心して地域で,暮らし続けるための課題を考える。 ●学習の進め方ワークシート1自分の暮らす地域,学校の所在する地域を理解しよう。① 事前課題としてワーク1に自分の住む地域の特徴とそう考えた理由・根拠(写真やイラストでもよい)を記載し,その地域を他者に紹介できるようにする。② 数人のグループでワーク1をもとに,それぞれ自分の住む地域について発表する。③ ワーク2で,②の発表を聞いて,「暮らしと健康」をまもる目的で地域を理解するにはどのようなデータが必要かを,グループで考える。④ ワーク3で,③の成果をもとに,グループで,学校の所在する地域に住む人々の健康と暮らしを支援するために必要な地域のデータをあげて,具体的にデータ収集の方法や担当を決める。次回授業時までに,実際にデータを収集する。ワークシート2 健康障害をもっても安心して暮らせる地域にしていくために,地域の実状を知り課題を考えよう。上記④で収集したデータをもとに,次のグループワークを行う。① ワーク1で,収集したデータのなかから地域の社会資源(徒歩で30分程度の範囲)を地域資源マップにする。② ワーク2で,収集したデータのなかで,ワーク1に記述しきれなかった地域の特徴を整理する。③ ワーク3 ワーク1とワーク2をもとに地域の健康課題を考える。④ ワーク1からワーク3をもとにワーク4に取り組み,「健康障害のある対象が地域で暮らしつづけるための課題」を明確にする。⑤ ④の成果を中心に発表し,その後意見交換,まとめを行う。地域・在宅看護では,人々ができるだけ健康的に暮らせるように,また健康障害があっても地域で暮らし続けられるように支援する。そのためには地域の理解が不可欠だ。まずは自分の暮らす地域を知ろう。演習2地域を理解する45第2章 暮らしの基盤としての地域の理解 演習2 地域を理解するワークシート2 健康障害をもっても安心して暮らせる地域にしていくために,地域の実情を知り課題を考えよう。ワークシート1を経て情報収集したデータのなかから,まず地域で暮らしつづけるために必要な社会資源などを地域資源マップにしてみよう。ワーク1情報収集したデータのなかで,ワーク1に記述しきれなかった地域の特徴を示すデータを整理しておこう。ワーク2ワーク1とワーク2をもとに,地域の健康課題を整理してみよう。ワーク3健康障害のある対象が地域で暮らしつづけるための課題を考えよう。ワーク4実習にご活用いただける「演習」を掲載しています。17専門分野

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る