系統看護学講座
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サンプルページ基礎看護学 ❹ 臨床看護総論2第3章 主要な症状を示す対象者への看護 A 呼吸に関連する症状を示す対象者への 看護 1 呼吸機能障害に関連する症状のメカニズム 1 呼吸機能のメカニズム 生命は栄養の代謝によって生じるエネルギーを利用して維持されている。呼吸のおもな機能は,栄養の代謝に不可欠な酸素を外界から取り入れ,代謝によって生じる体内に過剰となった二酸化炭素を排出することにある。これをガス交換とよび,生命維持に不可欠な機能の1つである。 ガス交換には,おもに呼吸器官によって行われる外呼吸と,全身の細胞組織とその組織に流れる血液との間で行われる内呼吸とがある。外呼吸におけるガス交換に影響を及ぼす機能として,換気・拡散・肺循環があげられる。 ●換気  換気は,気道を介しての肺胞と外界との空気の出入りである。これは,①気道の状態(気道から肺胞への空気のスムーズな通過)や,②換気運動(胸郭の動き,呼吸筋の強さ,肺内圧,肺自体の弾性)によって影響を受ける。 ●拡散  気体の成分は,分圧の高い部位から低い部位へ移動,つまり拡散する。肺胞では,肺胞膜を介しての血中(肺胞毛細血管)への酸素の取り込みと,肺胞腔への二酸化炭素の排出が行われる。この拡散は,①拡散面積(直接に接している肺胞と毛細血管の広さ)と,②拡散距離(肺胞から血管までの距離,つまり肺胞上皮細胞や基底膜,毛細血管内皮細胞の厚さの合計)に影響を受ける。体内で発生した二酸化炭素の90%は,重炭酸イオン(炭酸水素イオン,HCO 3 -)として血漿または赤血球にとけている。肺に運ばれたHCO 3 -は,肺胞内に拡散し,体外に呼出される。 ●肺循環  肺胞の毛細血管は周囲を肺胞で囲まれているため,肺胞内圧が上昇すると血管の虚脱がおこり,肺循環に影響を及ぼす。また,肺気腫のように,肺容量が増大することにより肺胞内圧が上昇し,肺胞毛細血管内腔が狭窄して血液の流れが停滞する場合もある。 2 呼吸機能障害に関連する代表的な症状と発症の メカニズム(●▶図3-1) 呼吸機能障害は大きく,閉塞性換気障害と拘束性換気障害に分けられる。閉塞性換気障害 空気の気道通過が障害された状態であり,代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患chronic obstructive pulmonary disease(COPD)があげられる。COPDは,粘膜が終末細気管支を閉塞し,気道壁が虚脱するために空気が肺胞にとらえ71F.認知や知覚に関連する症状を示す対象者への看護 2 言語的コミュニケーション障害がある人への援助言語の理解力・表現力に応じたコミュニケーションの工夫 言語機能の障害がある人とコミュニケーションする際は,対象者の正面から視線を合わせ,単語や短い文でゆっくりと明瞭に話しかける。理解が可能であれば紙に書いて示したり,絵や写真,実物を見せたり,ジェスチャーなどの非言語的コミュニケーションを活用する。 言葉の理解はできるが,発語が困難な運動性失語や構音障害の人とのコミュニケーションは,静かな場所で緊張せず十分な時間をかけて話せるよう環境に配慮する。その人の表情や状況から話の意味を推測し,対象者の伝えたいことを理解しようとする姿勢が重要になる。b 感覚機能障害に関連するニーズ充足に向けた看護援助 感覚機能の障害は生命の危険に直結する障害ではないが,日常生活において種々の不自由さや苦痛を伴い,危険を察知し回避する能力も低下する。ま味覚障害1.主観的情報1) 味覚障害に関連した自覚症状味がしない,変な味がする,砂をかむような感じ2.客観的情報1)視診口腔内の乾燥,発赤,発疹,潰瘍,痛みの有無2)検査血液検査(血清亜鉛),電気味覚検査,濾紙ディスク検査など3) 味覚機能に影響を及ぼす疾患・薬剤口内炎,舌炎,舌苔,歯肉炎,扁桃腺炎など口腔疾患感冒,中耳炎,亜鉛欠乏,顔面神経麻痺,聴神経腫瘍,肝不全,シェーグレン症候群,脳血管疾患,多発性硬化症,うつ病,頭頸部への放射線治療,抗がん剤など4)口腔衛生歯みがきの方法・回数,歯科治療の状況,義歯の不適合5) 日常生活行動への影響食事摂取状況(食事量,内容,好みの変化),体重減少など体性感覚障害1.主観的情報1) 体性感覚障害に関連した自覚症状手足の感覚が鈍い(感覚鈍麻),しびれ,少し触れただけで痛い,手足が異常に熱い/冷たい2.客観的情報1)検査血液検査,表在感覚機能検査,パッチテスト,皮膚生検,X線検査,CT,MRI,脊髄造影など2) 体性感覚機能に影響を及ぼす疾患・薬剤接触性皮膚炎,アトピー性皮膚炎,強皮症,熱傷・凍傷,放射性皮膚炎,褥瘡などの皮膚疾患糖尿病,末梢神経障害,脊髄神経障害,脳血管疾患,多発性硬化症,抗がん剤など3)随伴症状運動麻痺,頭痛,不眠,集中力低下など4) 日常生活行動への影響しびれなどによる巧緻動作の低下,転倒やけがをしやすいなど●▶表3-23 (続き)イメージがつかみにくい内容は図で具体的に示しました。3A.呼吸に関連する症状を示す対象者への看護られて気腔が拡張した状態であり,肺実質病変(肺気腫),細気管支および気管支病変がみとめられる。拘束性換気障害 肺の拡張が妨げられ非効果的な呼吸運動となっている状態である。この障害がみられるのは,肺自体は正常だが,①呼吸筋の動きが低下したり,②胸壁の弾性低下による胸郭運動が制限されたり,③肺自体の弾性が低下するような疾患である。 このように呼吸運動の状態を示す呼吸筋の動きや胸郭の形状や動き,空気換気換気呼吸筋やそれらへの神経支配を傷害する疾患(重症筋無力症,筋ジストロフィーなど)①吸気:横隔膜,補助筋(斜角筋,胸鎖乳突筋,鼻翼部鼻筋,頭頸部筋)の動きの低下②呼気:腹壁を構成する筋群(腹直筋,内外腹斜筋,腹横筋),内肋間筋の動きの低下・呼吸筋の動きの低下気胸,胸壁の病変(側彎症,神経筋疾患)・胸壁の弾性の低下肺水腫,肺線維症①肺胞表面をおおう液体に起因する表面張力の低下②肺の構造タンパク質(コラーゲン/エラスチン)=弾性線維組織の低下・肺の弾性の低下〔低酸素をもたらす疾患や低酸素環境〕肺胞と毛細血管の酸素の分圧差が減少し,酸素の移動がゆるやか・肺胞低酸素〔肺水腫,肺気腫〕肺胞-毛細血管関門の肥厚・面積の減少により,単位時間に拡散する酸素量が減少し,PaO2低下・肺胞-毛細血管膜(関門)の肥厚・面積減少激しい運動により肺血流量が増加し,赤血球の毛細血管通過時間が約1/3に短縮し,十分な分散が困難・激しい運動閉塞性換気障害喘息,気管支炎,肺気腫など①気道壁:気道平滑筋の収縮・痙攣(タバコなどの刺激や喘息など)。気道壁の炎症・浮腫(気管支炎や喘息など)②気道拡張の低下:肺気腫など肺実質の破壊による気道拡張力減弱。腫瘍や気管支周囲の浮腫などによる外部からの圧迫③気管内腔-気道内閉塞(異物や分泌物など)・気道内閉塞・狭窄による気流抵抗アセスメント・胸郭の動き・呼吸筋の動きアセスメント・呼吸音(副雑音・喘鳴)・咳・喀痰ガス交換障害・低酸素血症・高炭酸ガス血症アセスメント・呼吸困難・チアノーゼ・ばち指換気量と毛細血管血流量の比率(換気-血流比)の不均等分布・毛細血管血流障害心臓疾患などによる血流障害〔肺動静脈瘻など〕肺胞領域を通過せず動脈系に血液が直接流入・シャント肺循環非効果的な呼吸運動空気の気道通過障害換気障害拘束性換気障害換気拡散肺胞低換気●▶図3-1 呼吸のメカニズムとガス交換障害をもたらす要因15専門分野

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