系統看護学講座
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サンプルページ 臨床放射線医学82第4章 MRI向に倒れ横方向の磁化(横磁化)を生じる。90°,すなわち真横に倒れるようなラジオ波は90°パルス,180°,すなわち正反対方向まで倒れるようなラジオ波は180°パルスとよばれる。横磁化が発生することにより電流が生じ,外部におかれたアンテナに信号として受信可能となる(▲図4-5-③)。 緩和▲ ラジオ波を切ったあと,磁化はもとの安定状態に向かって,位相は再びバラバラになるとともに,静磁場の方向(縦磁化方向)に戻ろうとする。この過程が緩和relaxationとよばれ,縦磁化方向が縦緩和(T1),横磁化方向が横緩和(T2)となる。これらの緩和速度は,身体の各臓器や組織により異なるが,これらの違いが信号強度の差となる(▲図4-5-④)。こうして各領域から出された信号に位置情報を与えることによりMRI画像ができあがる(▲図4-6)。3MRIの撮像法(パルスシークエンス) T1強調像・T2強調像▲ MRIで用いられるさまざまな撮像法はパルスシークエンス(シークエンス)とよばれ,一般的には,各組織間での縦緩和(T1)の速度による信号強度の差SNSNSN③同じ周波数のラジオ波を与えると,原子核がこのエネルギーを吸収し励起状態となる(共鳴現象)。このときプロトンの磁化は,回転数と方向がそろう(位相の一致)とともに,横方向に倒れ横磁化を生じる。緩和速度の差信号強度の差④ラジオ波を切ると,磁化はもとの安定状態に向かって,位相はバラバラとなり縦磁化方向に戻ろうとする。この過程が緩和とよばれる。緩和速度は,身体の各臓器や組織により異なるが,これらの違いが信号強度の差となる。①プロトンの回転軸はさまざまな方向に向いており,まとまった信号としてとらえられない。②静磁場の中に入ると,バラバラな各プロトンの回転軸が静磁場の方向にそろって並び,縦磁化が生じる。さらに静磁場の方向を軸として,コマのような回転運動(歳差運動)を行う。プロトン回転軸電流の発生横磁化ラジオ波(90°パルス)位相の一致縦磁化歳差運動▼図4-5 MRIの基本的原理83B.MRI画像のなりたちを画像にしたT1強調像T1-weighted image(T1WI),横緩和(T2)の速度による信号強度の差を画像にしたT2強調像(T2WI)が基本となる。得られた画像からT1およびT2強調像を判別するには,水(脳脊髄液や腸液など)が低信号(黒い)を示すのがT1強調像,高信号(白い)を示すのがT2強調像と理解するとよい(▲図4-7)。 なお,後述のMRI造影剤(ガドリニウム製剤)は,縦緩和に影響を与えるこ各領域から出された信号に位置情報を与えることにより,MRI画像ができあがる。*傾斜磁場:撮像範囲,スライスの厚さを決定するために使用する。モニター傾斜磁場*コイル位置情報コンピュータ受信コイルラジオ波ラジオ波照射コイル磁石▼図4-6 MRI装置の概略(模式図)▼図4-7 T1およびT2強調像(眼窩横断面)T1強調像(a)では,脳脊髄液(*)や眼球(硝子体)(→)の水は低信号を示し黒く表示されるが,T2強調像(b)ではこれらの組織は非常に高信号に(白く)描出される。眼窩内や皮下の脂肪組織はT1およびT2強調像ともに高信号を示す(→)。a.T1強調像**b.T2強調像206第8章 放射線治療総論施設)で行われており,限局性前立腺がん,頭頸部がん(口腔・咽頭の扁平上皮がんを除く),根治手術が困難な骨軟部腫瘍(陽子線治療ではこれに加えて小児がん)が保険収載されている。2小線源治療 放射性核種をステレンスなどのカプセルに封入した密封小線源を腫瘍組織内に刺入したり(組織内照射),腫瘍近接部分に密着させたり(モールド照射),体腔内に挿入して(腔内照射),そこから放出されるγ線を病巣に照射する方法を小線源治療という。小線源治療は,線源近傍に高線量を集中でき,また腫瘍や臓器の動きにも追従できるという長所をもつ。子宮頸がんには腔内照射,前立腺がんや口腔咽頭がんには組織内照射(▲図8-21,22),口腔がんや皮膚がんなどの表在性病変にはモールド照射が行われている。 小線源治療は,使用する小線源の強さによって低線量率小線源治療と高線量率小線源治療に分けられる。 低線量率小線源治療▲ 低線量率の小線源としては,現在,イリジウム192(192Ir),金198(198Au),ヨウ素125(125I)が用いられている。セシウム137(137Cs)は以前には大変よく用いられていたが,現在は供給されていない。小線源の形状は,その用途により,針状,管状,ワイヤー状,粒子状がある。舌がんなどの口腔咽頭がんには,192Ir,198Au,137Cs(以前)が用いられ,前立腺がんには125Iが用いられている。NOTEホウ素中性子捕捉療法boron neutron capture therapy(BNCT)ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は,ホウ素と熱中性子との核反応で生じるα粒子と7Li粒子を用いてがん細胞を破壊する放射線治療である(▲図)。がん細胞に特異的に集積するホウ素化合物をあらかじめ投与して,腫瘍にホウ素が集まったときに熱中性子線を照射する。正常組織にはホウ素はあまり集まらず,また発生するα粒子と7Li粒子は組織内での飛程が約10~14μmで,がん細胞1個の直径に相当する距離であるため隣接する正常組織に与える影響は小さい。他方,α粒子と7Li粒子の生物学的効果はX線やγ線と比べて2~3倍高く,放射線抵抗性がんにも効果を発揮する。実質治療期間は1日である。従来,中性子は原子炉でつくられていたが,最近になって加速器でつくることに成功し,装置を病院内に設置できるようになった。2019年9月現在,わが国では京都大学,南東北BNCT研究センター,大阪医科大学(関西BNCT共同医療センター)など数施設で悪性脳腫瘍,難治性頭頸部がん,悪性黒色腫などを対象として治験が行われている。熱中性子ホウ素熱中性子線正常細胞がん細胞α粒子163keV/μm210keV/μm7Li原子核9~10μm4~5μmホウ素と中性子との核反応a. 核反応によるがん細胞の破壊b. ▼図 ホウ素中性子捕捉療法の原理カラーのイラストで検査の原理・しくみもわかりやすく解説。コラムも充実しました。119D.超音波診断 肝細胞がん▲ 肝細胞がんは,肉眼的には,結節型・塊状型・びまん型の3型に分けられている。それぞれの型で超音波所見は異なるが,典型的な肝細胞がんの所見は,一般に低エコーレベルで(脂肪変性を伴うときは高エコーレベル),腫瘍内部にさまざまなエコーの小結節がランダムに配列したモザイクパターンがみとめられるのが特徴である(▲図5-26)。また,腫瘍の辺縁に低エコー帯(halo)をみとめ,ハンプサインhump signとよばれる腫瘤による肝臓表面の膨隆を示す。門脈右肝静脈S7S8S6S5S4S2S6S7S5S4S3S2S1S3a.肝臓の正常超音波像c.探触子のあて方(右肋弓下走査)b.8区域分類(クイノーCouinaudの分類)▼図5-23 肝臓の正常超音波像肝臓の内部エコーはびまん性に上昇し,深部減衰がみとめられる。高度な脂肪肝である。▼図5-24 脂肪肝の超音波像肝臓に境界明瞭な円形の無エコー腫瘤がみとめられる。▼図5-25 肝囊胞の超音波像113C.超音波検査の実際2超音波検査を受ける患者の看護 検査前▲ 検査前の準備は,超音波検査を実施する部位により異なる。正確な検査結果を得るために,検査前準備を確実に行うことが必要である。認知機能の低下がある患者には,そのつど説明を行い,家族や介護者の協力を得て安全で正確な検査が実施できるようにする。 甲状腺・乳腺・心臓・頸動脈・下肢動静脈の検査の場合には食事制限,飲水制限,排尿制限はない。肝臓・胆囊・膵臓・脾臓・腎臓などの腹部の検査の場合には,排尿制限はないが,食事制限,飲水制限がある。検査が午前中の場合には朝食を絶食とする。飲水は,検査の2~3時間前までに制限する場合や少量であれば許可する場合がある。乳製品やジュースなどの摂取は,胆囊が収縮し正確な検査結果が得られない可能性があるため禁止とする。また,膀胱・腟・子宮・卵巣・精巣などの検査は膀胱内に尿がたまっているほうが見やすいため,可能な範囲で排尿を制限し,膀胱内に尿をためる。 造影剤を使用する場合には,事前に造影剤の副作用の有無について問診しておく。 検査中▲ 検査は肌を露出し,プローブを密着させて行う。そのため,不必要な露出を避け,検査部位以外はバスタオルなどでおおい羞しゅう恥ち心の軽減に努める。とくに産婦人科での経腟超音波検査は羞恥心を伴うため,バスタオルやカーテンでプライバシーの保護を十分に行う。 また,プローブと肌の密着度を上げるために,検査部位の皮膚表面にゼリーをつけて検査する。事前にゼリーをつけることを説明する。 心臓など検査部位によっては体位変換が必要になるため,必要時には体位変換の介助を行い,患者が安楽であるようにかつ検査がスムーズに進むようにする。 造影剤を使用している場合には,急性(即時性)副作用の症状として蕁じん麻ま疹しん,瘙そう痒よう感,吐きけ・軽度の嘔吐などがあらわれていないか注意する。 検査後▲ 検査が終了したら,肌に付着したゼリーをきれいにふきとる。ふき残しがあると不快感の原因になる。検査のために露出した部位を衣服でおおい,身だしなみを整える介助をする。 検査結果は,病気の診断や治療方針の決定などに用いられるため,医師からの説明の際には看護師も同席し,患者の理解度や反応を確認する。 看護師の行う超音波検査▲ 超音波検査は,非侵襲的で手軽に実施できることにより,ベッドサイドでも頻繁に行われる。助産師による超音波検査として胎児観察や分娩時の活用は周知であるが,看護師による超音波検査も活用範囲が広がっている。 看護師による超音波検査としては,残尿測定,褥じょく瘡そう部の深度アセスメントが以前から行われている。それに加え,最近では血液透析におけるバスキュラーアクセス管理でも活用されている。バスキュラーアクセス管理では,もと放射線医学における看護の理解が深まります。各検査の正常像、代表的疾患の画像を豊富に掲載。214第9章 放射線治療と看護B放射線治療における看護師の役割 看護師の役割は,有害反応などに伴う苦痛を予防・軽減しながら患者が治療を完遂できるよう支援することである。放射線治療は,治療目的を達成するために必要な放射線量を分割して照射するため,治療の「完遂」が重要なポイントになる。 前述のように,患者がかかえる苦痛は身体面だけに限られない全人的なものであり(▲図9-2),身近な家族がかかえる負担も大きい。そのような患者や家族を支援するためには,看護師自身も放射線治療の基本的な知識を習得し,個々の治療計画や流れを理解したうえで,時宜を得たケアを提供する必要がある。 また放射線治療は外来で実施されることも多いため,患者や家族のセルフケア能力を高め,主体的に必要な対処を行ってもらえるようかかわる必要がある。1チーム医療としての看護 職種間の連携▲ 放射線治療にはさまざまな職種がかかわる。具体的には,主治医,放射線治療医,放射線治療専門放射線技師,医学物理士,歯科医,栄養士,そして看護師などである(▲図9-3)。患者や家族がチーム医療の中心になれるように,看護師がこれらの専門家とかかわることが重要である。そのために看護師は,多職種間のコミュニケーションを促進するためのカンファレンスの運営や,有効▼図9-2 放射線治療を受ける患者の全人的苦痛社会的苦痛社会・家族における役割遂行の困難経済的負担 など全人的苦痛(total pain)全人的苦痛(total pain)心理的苦痛疾患・治療に対する不安被曝への恐怖焦燥・葛藤・抑うつ などスピリチュアルペイン死への恐怖自責や後悔 など身体的苦痛放射線治療や併用療法に伴う有害反応疼痛,倦怠感や粘膜炎・皮膚炎 など133別巻

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