医学界新聞

インタビュー 小倉 裕司

2020.11.30

 

小倉 裕司氏に聞く

大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター 准教授/
日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会 委員長(日本救急医学会)


――J-SSCG2020は敗血症診療の発展に寄与すると期待されます。

小倉 ガイドラインは一般に,「三流を二流にするけれども,一流を二流にしてしまう」との意見があります。そこで今回の改訂では,既存のエビデンスの整理だけでなく,一般診療で役に立つと同時に最先端の治療も見据えた新しい形のガイドライン作りに挑戦しました。臨床で重要とされる疑問に全て答えると初めに決めたため,118ものCQが挙がりました。エビデンスが不十分なものにはエキスパートコンセンサスの形で専門家の意見をまとめています。

――2016年から4年振りの改訂となった今回,重視した点は何ですか。

小倉 本邦の一般診療の現場で使いやすく,世界でも通用する内容をめざしたことです。J-SSCG改訂に向けて,私たちは次の目標を掲げました。①一般診療の現場で広く用いられるガイドラインをめざす,②SSCGにない斬新な内容も積極的に取り入れ,国際的に意義のあるガイドラインをめざす,③時間的な要素などを取り入れ診療フローなど見せ方を工夫する,④若手医師の積極的な参加で次世代育成を進める,⑤作成に参加したメンバー一人ひとりが心から喜べる活動にする――の5点です。

――国際標準のSSCGと一線を画した,日本版独自の項目もあります。

小倉 今回新たに,患者・家族を中心としたPatient-and Family-Centered CareやSepsis Treatment Systemを加えました。患者家族のケアも臨床課題の中で取り上げ,社会や病院システムにおいて敗血症をどう取り扱うかを示した点にも意義があります。本邦の診療現場に合った臨床疑問に対し,推奨を整理して打ち出しました。国内はもちろん,海外からも注目される充実した内容となっています。

――改訂作業には多職種や若手も多く参加しています。正式版発行後の展望は。

小倉 作成メンバーが全員医師だった2016年の改訂と異なり,多職種と患者経験者の参画で討議のバランスが取れ,考察内容の深みも増しました。例えば,PICSを防ぐ介入には理学療法士の意見が,Patient-and Family-Centered Careについては看護師や患者経験者の視点が生きています。救命救急,集中治療は多職種が共通認識を持ってチームで臨むもの。多職種の貢献は非常に大きかったです。

若手の参画と人材育成は,2016年改訂時に委員長を務めた西田修先生(藤田医大,日本集中治療医学会理事長)から引き継いだテーマです。ガイドライン策定の工程は個々の成長や学会の垣根を越えた人的ネットワーク構築の機会となります。議論を契機に新たに生まれた臨床研究の結果が,本邦発のエビデンスとして次の改訂で反映され,日本の救急・集中治療領域がさらに発展することを期待しています。

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