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第3390号 2020年10月5日


【視点】

疾患の本質的所見を見抜く皮膚病理診断力の高め方

安齋 眞一(日本医科大学武蔵小杉病院皮膚科・皮膚病理診断室 教授)


 皮膚病理検体から疾患名を特定し,適切な診断を下すためにはトレーニングが欠かせません。皮膚病理診断力を磨くにはまず,正常皮膚の所見を知る,日常よくみる疾患の典型的病理組織像を理解する,といった最低限の「常識」を持つことが必要です。その基礎知識を覚えてもらう取り組みが,日本皮膚科学会総会で毎年開催されている教育講演「実践! 皮膚病理道場」です。講演の内容は書籍化されており1, 2),実際にバーチャルスライドを見ながら自習ができるWeb付録も付いています。さらに,より専門的な知識を得られるよう日本皮膚病理組織学会では,「皮膚病理道場あどばんすと」(年2回開催)と皮膚病理診断講習会を開催しています(同学会ウェブサイト)。

 皮膚病理診断力を高めるには,教科書を使った学習ももちろん重要です。ただし一般的な教科書は,「この疾患にはこの所見がある」と書かれていることが多いため,初学者は記載された所見が鑑別の際に全て必要だと思い込みがちです。すると,例えば上皮内の有棘細胞癌であるBowen病の診断で,集塊細胞(clumping cell),異常角化細胞(dyskeratotic cell),異型核分裂像の3つの所見全てが確認できないと,果たしてBowen病と診断してよいか迷ってしまいます。Bowen病でしばしば見られるこれらの所見は,実は診断に必須ではありません。病理診断に本当に必要な所見は何かを理解する必要があるのです。

 皮膚病理診断の「常識」を手に入れた後,さらに次のステップ,つまり自分で標本を見て診断をできるようになるための方策は,とにかく「多くの症例を見ること」。これに尽きます。しかも,質の良い経験豊富なナビゲーターと共に,という条件が付きます。そのような環境を得にくいのが本邦の実情です。通常,大学の医局では多くても年2000例程度の検体しか見られないでしょう。年に数百例の検体を見て教科書片手に四苦八苦していた私は2001年から約3年間,札幌皮膚病理研究所(現・札幌皮膚病理診断科)で本邦最高峰のナビゲーターと言っても過言ではない木村鉄宣先生の下,数万例の標本を見る機会を得ました。この経験から私の皮膚病理診断力は,グッと向上したと実感しています。

 当院の診断室では現在,年間5万件弱,週当たり1000件程度の検体報告書を2人で作成しており,1か月でおよそ4000件程度の新規検体を見られます。また,今まで診断した約15万件の検体のバーチャルスライドと病理検査依頼書,病理検査報告書がそろっていますので,いつでも勉強できます。さらに,膨大な数の標本も集中的に見られます(現在,有棘細胞癌約1000例,基底細胞癌約2000例,悪性黒色腫約250例,乾癬約600例,扁平苔癬約150例あり)。また,バーチャルスライドを見ながら診断演習をすることも可能です。

 今後,全国各地にこのような施設が増えれば,より効率的に皮膚病理診断力を磨けるようになるでしょう。皮膚病理診断力を高めたい若手医師にはぜひ,学会の提供するコンテンツを活用し,良きナビゲーターの傍らで多くの症例を見ることで研鑽を積んでほしいと思います。

参考文献
1)日本皮膚科学会.実践! 皮膚病理道場 バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍[Web付録付]医学書院;2015.
2)日本皮膚科学会.実践! 皮膚病理道場2 バーチャルスライドでみる炎症性/非新生物性皮膚疾患[Web付録付].医学書院;2018.


あんさい・しんいち氏
1983年山形大医学部卒。2011年日医大武蔵小杉病院皮膚科部長,15年同大医学部皮膚科学教授。日本皮膚病理組織学会理事長を務める。著書に『皮膚付属器腫瘍アトラス』『皮膚病理診断リファレンス』(いずれも医学書院)など。