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第3388号 2020年9月21日


【寄稿】

心身二元論からの脱却を図る
「とらわれ」から考えるリエゾン的身体症状症

宮内 倫也(精神科医)


“身体症状症”の背景には何がある?

 2013年,精神疾患の診断基準がDSM-5に改訂されました。この寄稿では“身体表現性障害”から“身体症状症とその関連症群”への変更に着目します。変更点はいくつかありますが,身体表現性障害は「身体疾患ではないこと」が条件だった一方,身体症状症ではそれが外れたことが大きなポイントである点は疑いようがありません。これは,身体疾患であってもその症状に対する認知・行動・感情面でのマイナス変化が大きく「とらわれ」が生じているのであれば,身体症状症と診断されることを意味しています。

 この変更は,他の変更点も含めて「精神疾患の過剰診断を生む」と批判されることもありますが,筆者は好意的に受け止めています。従来の身体表現性障害は心身二元論を体現したものであり,「身体疾患か,精神疾患か」の判断を医療者にも患者さんにも迫るものでした。もちろん,その疾患の経過や治療において特異的な部分があるため,精神症状を来たす身体疾患の鑑別は重要です。しかしながら「身体疾患なら身体の治療をすれば万事解決」と言えるほど単純ではありません。例えば慢性疼痛には病態メカニズム,社会・生活,認知的要因,感情的要因などのさまざまな因子が絡み合っており(図11),種々の身体症状にまで拡張できるでしょう。

図1 慢性疼痛に関する多様な因子(文献1より作成)

 一方,DSM-5の定義する身体症状症は心身二元論からの脱却を図る重要な布石になっており,リエゾン的であると表現できます。精神科医は内科医や外科医と協力すべきであり,同時に内科医や外科医もまた精神科医と協力すべきです。心不全か肺炎かで揉める某科 vs. 某科に代表される,“うちじゃない症候群”に陥ることなく,科の垣根を越えてより良い治療を提供することが求められます。

薬剤はあくまでサポート役,まずは説明から始める

 心身二元論に基づく身体表現性障害は,患者さんにも大きな損失になり得ます。患者さんは「メンタルが原因だから」「医学的に異常はないから」と言われ続けて精神科に紹介されることが多くあります。そのような対応によって「医療者はわかってくれない」と悩みさらに孤立し,症状の悪化につながることも多いのです。ここで大事なのは患者さんの腑に落ちる説明です。それは医療者側から見た正しい説明ではなく,患者さんと共有できる説明です。正しさによる“暴力”を振るうのはご法度であり,治療者として理解ある態度が望まれます。

 身体症状症を診るに当たっては,病態について患者さんに「なるほど!」と思ってもらう必要があります。例えば,臓器の障害をつくり(構造)とはたらき(機能)に分け,そのはたらきを担う神経が緊張状態になっていると考えます。患者さんはつくりの障害の有無にかかわらず,神経の緊張によりはたらきの障害が大きくなっていると考えられます(つくりに障害がなく,はたらきに障害があるものが,従来の身体表現性障害と言えます)。そしてそのはたらきの障害に対する認知・行動・感情面でのマイナス変化がさらにはたらきの障害を強め,「とらわれ」を生みます(図2)。そのため治療目標は「とらわれ」から脱却して症状に揺さぶられない生活を得ることであり,その手段は臓器に張り巡らされている神経の緊張をほぐすこと(こころにゆとりをもたらすこと)となります。

図2 「とらわれ」が患者さんの苦しみとなる

 その上で,治療者ははたらきと神経の緊張などに着目した説明,そして丁寧な診察による手当てを施します。なお薬剤については効果が限定的と言わざるを得ません2)。確かに驚くほど効くことも経験しますが,患者さんの多くは副作用に敏感であることも事実です。そして患者さんは「私は精神科の患者じゃない」と思っており,さらに精神科医が説明不足なまま向精神薬を処方すると「やっぱり医者は私の症状を精神的なものと考えているんだ!」と考えてしまいかねません。薬剤はあくまでもサポートとして存在すべきです。治療者側で症状を少し軽くし,患者さんが症状との距離を取りやすくできるようにするためのちょっとした後押し,という控えめな戦略であるべきでしょう。

身体疾患と精神疾患を区別しているものとは

 精神疾患は,もっともらしい身体因が発見されれば精神疾患ではなくなってきた歴史があります。代表例が進行麻痺,そして,てんかんでしょう。てんかんは三大精神病の1つとも言われていたのですが,身体的な基盤が明確になったことで精神疾患から外れ,身体疾患へと位置づけられました。他にも,以前は胃腸神経症と呼ばれていたものが,過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアという,精神疾患らしさの抜けた名称を与えられ,かつ一定の効果をもたらす治療薬も出現したことで,診療に当たる科は増えました。「身体疾患か精神疾患か」という切り分けは,実に不明確なものでもあります。

 そのため,今は精神疾患と呼ばれているものも,この先もその地位が保障されているとは言えません。この点からも,“身体症状症”が登場したことは理に適っていると言えるのではないでしょうか。「精神科医は,身体疾患であろうとなかろうと,患者さんの症状への『とらわれ』をほどく役目を担うべきなのだ」という強いメッセージが,そこにはあります。

参考文献
1)Lancet. 2011[PMID:21704872]
2)Cochrane Database Syst Rev. 2014[PMID:25379990]


みやうち・ともや氏
2009年新潟大卒。名大病院で初期研修を行い,11年より同病院精神科に入局。現在は田舎の精神科病院でひっそりと過ごしている。大学院にも在籍していたが鳴かず飛ばずで17年に満期退学(泣く泣く)。著書に『精神科臨床Q&A forビギナーズ』(医学書院)がある。「DSM-5を活用するために,親本もしっかり読みましょう」。