医学界新聞

2020.03.09



Medical Library 書評・新刊案内


がん診療レジデントマニュアル 第8版

国立がん研究センター内科レジデント 編

《評者》南 博信(神戸大大学院教授・腫瘍・血液内科学)

重要な知見が要領よくまとまった現場で役立つマニュアル

 『がん診療レジデントマニュアル』が改訂され第8版が出版された。初版が世に出されたのが1997年だから22年にもわたって利用されていることになる。本マニュアルは疫学・診断から治療までを要領よく網羅しコンパクトサイズにまとめているため,白衣のポケットに入れてベッドサイドで知識を確認するために便利に活用できる。国立がん研究センターの若手内科医が書いているので,治療,それも薬物療法が中心にまとめられている。がん薬物療法に携わっている内科医がよく利用しているのも理解できる。

 目を通してもらうとわかるが,本マニュアルの薬物療法の記載には全て根拠論文が示されている。患者さんは一人として同じ人はいないのだから,マニュアルだけでは実際の治療はできない。必ず根拠論文を当たって,その治療をどのような患者さんのどのような状況でどのように使うべきか,その効果の大きさと副作用の程度からどのくらいの有用性が期待できるのかを把握してから治療に当たる必要がある。今は病棟や外来でも簡単にインターネットにアクセスできる時代である。この根拠論文は必ず役に立つはずである。逆に言えば,必ず根拠論文を当たってから治療に臨まねばならない。治療の根拠論文にすぐたどり着けるという意味でも,本マニュアルは非常に便利な一冊である。

 日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医試験会場では,試験開始前やあるいは休憩時間にこの『がん診療レジデントマニュアル』で知識の整理をしている受験生がほとんどと言ってよいくらいに多い。それだけ信頼されている。このマニュアルで試験勉強をしている人もいると聞く。しかし,本マニュアルは日常がん診療に当たって素早く知識を確認するために使用することを念頭に書かれている。したがって,がん薬物療法の基本的な考え方,原理・原則を学ぶためには書かれていない。あくまでも知識の整理・確認のためのマニュアルであり教科書ではない。試験前に知識を確認するのはよいが,腫瘍内科学の本質は本マニュアルでは学習できない。『DeVita』や日本臨床腫瘍学会などが出している教科書で腫瘍内科学の本質をきちんと学んでから,本マニュアルで知識を整理してほしい。

 本マニュアルはほぼ3年ごとに改訂され常に新しい治療を取り入れている。しかし,がん薬物療法は進歩が目覚ましく,毎年治療体系が変わっている。実際に,本マニュアルが出版された後の半年でも治療体系が変わったがんもある。本マニュアルに頼るだけでなく,がん治療に携わる者は常に新しい情報を把握する努力が必要である。

 とはいえ,本マニュアルでは重要な知見が要領よくまとめられており,がん診療の現場で必ず役に立つはずである。私も常に白衣のポケットに入れている。本マニュアルが有効に活用され,がん薬物治療の向上に貢献することを願ってやまない。

B6変型・頁584 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03915-4


「おしりの病気」アトラス[Web動画付]
見逃してはならない直腸肛門部疾患

稲次 直樹 著

《評者》清水 誠治(大阪鉄道病院消化器内科統括副院長)

直腸肛門領域のエンサイクロペディア(百科事典)として永く読み継がれる一冊

 稲次直樹先生は1970年のご卒業である。私の一回りより上の大先輩であり,既に50年のキャリアを重ねておられる。しかし直接お目にかかった印象は,とにかく若々しくエネルギッシュである。情熱を持続させることの難しさを痛感する昨今であるが,かくも永きにわたり第一線で大腸肛門病の診療に携わってこられたことにまずは敬意を表したい。外科医である稲次先生と私の接点は主に大阪で開催されている「大腸疾患研究会」であるが,これまでに実にいろいろなことを教えていただいた。その稲次先生が多くの協力者や共同研究者とともにワンチームとして咲かせた大輪の花が『「おしりの病気」アトラス[Web動画付]――見逃してはならない直腸肛門部疾患』である。

 本書の第一印象は,見た目に何とも美しい。表紙の赤とクリーム色で塗り分けられた「おしり」のデザインはシンプルでいて洒脱である。大判の本を手に取ってみると,程よい重さと滑らかな手触りで非常に心地よい。扉を開くと1ページ4~5枚大迫力の「おしり」の画像が黒を背景に26ページにわたって押し寄せる。ソフトなタイトルとは裏腹に中身が極めてハードであることを予感させる。続く本編のI編「直腸肛門部診療の基本」には必要な基礎的知識が全て盛り込まれているが,手間暇かけたシェーマがふんだんに用いられている。II編「直腸肛門部疾患アトラス」は本書の核心部分であり,多くの疾患の画像が提示されるとともに,凝縮した解説が加えられている。それにしても何と掲載された画像の多いことか! 帯紙には“画像・イラスト約1,250点”と記載されている。疑り深い私が実際に数えてみたところ,実に写真が1,025点,イラスト(シェーマ)195点,加えて盛りだくさんの表やチャートが40点以上と宣伝文句に偽りはなかった。画像の多い本は一般に字が大きく文字数が少ないものであるが,さにあらず。相対的に小さい文字がびっしりと並び,内容が濃いことこの上ない。巻末のIII編「内科医・内視鏡医が知りたかったQ&A集」や付録「おしり問診票」も気が利いている。外科医が内科医の視点を持つことは難しいと思うが,それができているところがただ者でない。まさに痒いところに手が届く気配り満載である。所々に埋め込まれたQRコードにスマホをかざすと,「おしり」のアイコンが現れ「鑑別診断トレーニング(略して“尻トレ”)」や診察・手術の多数の動画が閲覧できる。

 本書は稲次先生にして成し得た畢生(ひっせい)の大作であり,この領域におけるエンサイクロペディア(百科事典)として永く読み継がれると確信する。加えて,ここまでやるかと思わせる仕掛けが随所に施されており,担当の編集者魂が垣間見える一冊でもある。一押し。

A4・頁256 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03955-0


外科系医師のための臨床研究
手術を評価するアウトカム

本多 通孝 著

《評者》篠原 信雄(北大大学院教授・腎泌尿器外科学)

何をもって手術の成功とするのか? 外科医必読の書

 本多通孝先生は,胃癌や食道癌術後患者の後遺症やQOLの評価尺度を開発したことで世界的に知られる外科医である。2003年に日大医学部を卒業後,京大Master of Clinical Research(MCR)コースを修了し,現在は福島県立医大低侵襲腫瘍制御学講座教授として,精力的に消化器外科手術を行いながら,多くの研究成果を報告している。

 前作『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』に引き続き,今回の『外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム』では臨床研究における「アウトカム」設計の奥深さについてさまざまな角度から論じられている。「『…先生,手術は成功ですか?』こんな質問にどう答えますか!?」というこの本の帯の質問の意味は深い。「何をもって手術の成功とするか」というのは,「何を手術のアウトカムとするか」という質問に置き換えることができるだろう。手術自体がトラブルなく終了すれば成功なのか,術後に十分な機能回復を得られることが成功なのか,それとも術後生存期間が長いことが成功なのであろうか。

 本書の概要は,第1章では,臨床研究の真のエンドポイントをどのように設定するべきかについて詳説している。特に「エンドポイントの真贋(本物と偽物)当てクイズ」は臨床研究を行う上で非常に重要で示唆に富む内容である。第2章では手術を評価するための患者報告型アウトカム(PRO)について新たな尺度開発の理論や手順が深く解説されている。他書ではなかなか勉強できない内容が著者の経験を交えて非常にわかりやすく書かれており,世の中にはこのような研究があるということを知る意味でも一読の価値がある。第3章では,術者の手術手技そのものを定量化する既存尺度とともに,新たな評価基準のコンセンサス形成を行う手法としてデルファイ法が紹介されている。第4章では,「手術を評価するQOL研究」と題され,奥が深く議論の尽きないQOL研究の問題点や実施上の注意点について,わかりやすく解説されている。

 外科医がなぜ臨床研究をする必要があるのか? その問いに対する著者の答えは,「臨床研究には,外科医のプロフェッショナリズムを高めてくれるヒントがたくさんある」ということである。臨床研究を設計する過程では,「外科医が目指す手術とは何か」,「患者が期待する手術とは何か」といった根本的な問いに対する,答え(アウトカム)を深めていく必要がある。本書は,外科手術を評価する臨床研究に取り組もうとする外科医にとって必読の書である。

A5・頁276 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03932-1


内科医に役立つ!
誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活用術

上田 剛士 著

《評者》清田 雅智(飯塚病院総合診療科)

救急医や研修医が尿検査を学ぶバイブル

 今日ほとんどの大病院では中央検査室が標準的に整備され,医師自ら検体検査を行うことはほぼ皆無になっている。検体検査の中では採血を行うことが主流で,多くの疾患は血液検査から分析され診断されていくことが多い。検尿という地味な検査は,腎臓内科医や泌尿器科医を除くとこだわりを持ってオーダーをすることは少ないのではないか。しかし,採血と異なり検査の侵襲は少ないメリットがあり,深く診ていくと意外な気付きもあり,今日でも有用な武器であることには違いない。

 内科医として日常臨床でよく使用するのは,「第9章 尿路感染の起因菌は何か?」における尿中白血球,亜硝酸塩,pHの判断であろう。腎臓の大家Burton D. Roseも他書にて尿のpHの尿路感染での重要性を指摘しているが,きちんとした解釈がここに書かれている。また,「第17章 低ナトリウム血症をみたら尿をみろ」というのは確かにその通りで,ナトリウムに加えて尿酸を解釈することが重要であり,これを血液検査だけで診断するというのはあり得ない話だろう。低ナトリウムの解釈は学生時代にはあまり教わらず,研修医になり臨床現場で学ぶものの一つであり,ここに書かれている内容を読めば,マニュアルの背景がわかることだろう。同様に「第18章 低カリウム血症をみたら尿をみろ」も重要で,低カリウム血症の解釈では尿中Kの排泄を評価するために,K/Cr,TTKG,FEKなどの難解な解釈をHalperinの文献も用いて明確に論じている。

 評者は雑誌『総合診療』の連載に,極力目を通すように意識しているので,著者の上田剛士先生の連載「I LOVE Urinalysis」は毎月リアルタイムで読んでいた。毎回きちんと文献的にも裏打ちされた内容で,知らなかった内容も複数あり,サブタイトル通り「シンプルだけどディープな尿検査の世界」が本当によく表現されていた。今回これが単行本になったことは大変ありがたいことである。

 尿の試験紙の特性を生かして,尿以外の検体に応用することは,若干マニアックで,実際には使わないような話に見えるかもしれない。昔,研修医の頃に夜間の救急外来にて吐血疑いで運ばれてきた患者さんがいた。消化器内科に緊急内視鏡を依頼すべきかどうかは当時ハードルが高かった。患者さんの吐物が本当に出血であるといってよいのかと悩んだ時,同僚が尿試験紙で確認をして出血だと診断していたことを思い出す。個人的には,尿の検体用の検査を他の検体に対して行って本当によいのかという疑問を持っていたが,第19章から第25章は,こういった疑問にきちんと根拠に当たり,どこまで検証されているかを述べている。これを読むと,尿という枠組みではなく,その検査特性を理解することの重要性が理解される。

 この本は,救急の医師や研修医が,尿の検査について勉強をするバイブルと言ってよいと私は思っている。

B5・頁176 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03954-3


新・栄養塾

大村 健二,濵田 康弘 著

《評者》西岡 心大(長崎リハビリテーション病院人材開発部副部長/栄養管理室長)

栄養サポートの専門職として高いレベルをめざす人の必携書

 本書は2010年に発刊され多くのファンを生んだ『栄養塾――症例で学ぶクリニカルパール』の著者である大村健二先生が,その発展版として濵田康弘先生と共に執筆された名著である。大村先生は外科医,濵田先生は内科医で,かつ栄養サポートの第一人者であり,評者も先生方の講演や著書から多くを学ばせていただいた。

 本書は「I.栄養管理に必要な基礎知識」「II.臨床栄養 実践編」「III.臨床栄養 病態編」「IV.栄養管理のスキルアップ」の4章から構成されている。「栄養塾」の名の通り,両先生から直接講義を聴いているかのような気分になる筆致である。教科書的な記載にとどまらず,随所に先生方の実体験から得られたTipsがちりばめられている。

 「I.栄養管理に必要な基礎知識」では消化器の解剖生理やマクロ・ミクロ栄養素の機能・消化・吸収・代謝,侵襲や飢餓時の栄養代謝など,栄養管理を行う上でまず身につけておきたい知識が網羅されている。特に「水・電解質」や「TCAサイクル,ミトコンドリアと酸化的リン酸化」の項などはお2人のご専門に基づく“こだわり”の項と見受けられ,詳細かつわかりやすくまとめられている。

 「II.臨床栄養 実践編」「III.臨床栄養 病態編」はそれぞれ栄養サポートの基礎知識と病態別のアプローチを扱っている。いずれも優れた内容であるのはもちろんだが,特にお薦めしたいのは「周術期」「上部消化管手術の退院後」の項である。優れた外科医である大村先生の豊富な臨床経験に基づく記載は臨床現場で即座に役立つことに違いない。また腎臓内科医である濵田先生が担当された「腎疾患」の項では,Protein-energy wastingの診断基準や欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)による血液透析患者への栄養療法アルゴリズムなど,レベルアップをめざす栄養専門職なら必ず知っておきたい知識が余すところなく網羅されている。

 さらに「IV.栄養管理のスキルアップ」の章では,特殊病態栄養剤の組成,電解質異常,Refeeding症候群などのトピックについてより深く掘り下げた内容が記載されている。例えば,栄養療法を行う上で最も避けなければならない致死的合併症であるRefeeding症候群についてはその歴史や代謝変動の機序にも触れられ,まさに塾で講義を受けている気にさせられる。

 本書を特にお薦めしたいのは栄養サポートに関わる医師や研修医,さらには栄養サポートの専門職として高いレベルに到達したい管理栄養士,看護師,薬剤師,セラピスト,歯科衛生士などのコメディカルである。日ごろから繰り返し通読することによって,「なぜこのような栄養管理が必要なのか」を理解した上で適切な栄養サポートを実践することができる。ひとりで読むだけでなく,栄養部門や栄養サポートチームで1冊は備えておき,勉強会の資料として活用することも薦めたい。栄養管理の実践力の向上に大いに寄与するだろう。

B5・頁288 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04135-5

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